6.リストカット―――千歳と金太郎に遭遇


 基本に立ち返り我が家に戻ってきた。自殺といえばコレ。手首をすっぱりイっちゃって水に浸せば死体も綺麗!
 さっそくカミソリ購入。風呂場に入って水を溜め・・・・・・
 「・・・・・・あれ?」
 水が出てこない。
 「そんな・・・。水道料金はちゃんと払ってるし、断水はまだ始まってないはずよねえ・・・?」
 さらにきゅいきゅい蛇口を回してみる。外れるまで回したが、やはり水は1滴も―――いや、蛇口部分にちょっと残ってた分しか出てこなかった。
 仕方ないので首を捻ってみる。と―――
 どごぉん!!
 『おんどれらあ!! 俺舐めるんもええ加減にせえよ!!』
 『うわあああああ!!!』
 「?」
 静かな住宅街に相応しくない轟音とガラの悪いやりとり。組のモン同士のケンカかしらと風呂の窓を開けこっそり見ると、外にいたのはまだ小学生くらいの子だった。その子が、大型バイクを持ち上げ振り回してそれこそ組のモンらしき男らに襲い掛かっている。
 再び轟音。持ち上げられたバイクを見ると、ただでさえボロボロだったそれはより一層ボロボロさを増している。先ほどからそれで殴りつけていたらしい。視界端っこのほうでは、ぷしゅ〜と水しぶきが上がっていた。どうやら水道管まで壊したようだ。
 (ああ、それで水が・・・・・・)
 「まあまあ金ちゃん、そのくらいにするばいよ」
 「せやけどよお千歳! アイツら俺ん事馬鹿にするんやで!? 俺ん事小学生言いおって、しかも『貧乏なガキから金巻き上げるほど俺たちは外道じゃねえ』言うんやで!?
  酷いわあ! 俺立派に中学生やで!? 金かてちゃんと持っとるで!?」
 (そこでいいのかしら怒るポイント・・・・・・)
 そんな疑問を他所に、新たに現れた(視界に入ってきた)背の高い少年が、小学生改め中学生の子の頭を優しく撫でた。子どももバイクを捨てぴょんぴょん跳ねて強調する。
 そこへ―――
 「下手に出てりゃつけ上がりやがって!! 舐めんなガキがあ!!」
 語彙が少ないらしい被害者・・・元は加害者だったらしい・・・が、鉄パイプを手に子どもの方へと走っていった。
 背を向けている子ども。このままでは危ない!!
 叫んで注意を促そうかと思ったが、私がそれをやるより早く鉄パイプが振り下ろされた。振り下ろされ―――
 パシ―――!!
 『なっ・・・!?』
 あらゆる方向からの驚きの声。なんと背の高い方の少年千歳さんが片手で受け止めてしまった!
 千歳さんは金ちゃんとやらに向けていた柔らかい笑みから一転、
 「金ちゃんに手ぇ上げおったら、俺が許さんとよ」
 『は、はい!!
  申し訳ありませんでした!!』
 (凄い・・・!!)
 凄んでもいない。ただ冷たい表情で言っただけ。それで、相手を全員退かせてしまった。
 「ハッ! アイツら捨て台詞も残さんと尻尾巻いて逃げて行きおったわ! 一昨日来ぃよ!!」
 べー!と舌を出す金ちゃん。まるでこれでは何もせず口だけ達者なお子様だが、破壊され尽くしたバイクと道路を見てそう思える者はいないだろう。
 くるりと千歳さんに振り向き、
 「千歳のおかげで助かったわ。ありがとな、千歳」
 「良かったばいね。怪我せんで」
 そんな感じで、外は外で問題が片付いた。
 そして中は・・・・・・





 「修理終わるまで、3日断水・・・・・・?」
 1時間後役所から流された放送に、私はカミソリを手に横へと倒れていった。



―――7.睡眠薬