夜明け、嵐の訪れ 〜Opened Eyes






1.ニアミス


 「と、いうわけでいよいよ次は準々決勝、千城学園との対戦だ」
 部長・加瀬の言葉通り、本日は都大会の第一日目。前大会の成果より第一シードだった風輪中学は、初っ端2回戦パス、3〜5回戦はさくっと相手校を下し、現在準々決勝へと順調に駒を進めていた。
 「これで勝てば問答無用で関東進出。敗者復活戦[コンソレーション]なんつーめんどくせえ事やりたくなかったらしっかり気ぃ入れていけよ」
 『はい!』
 頷く一同を軽く見回し、さらに続ける。
 「で、オーダーの発表だが、知っての通り千城学園はとにかくダブルスが強い。となるとこっちもそれ相応の対策を練る必要がある」
 理由としてさして不自然ではないイイワケ。さらっと吐かれた詭弁に、内情[ホンネ]を知る瀬堂も三村も特に何も反応しなかった。
 わざわざそれを確認するわけでもあるまいに、今度は全員をゆっくりと(わざわざ)見回す加瀬。
 もう一度手に持ったクリップボード、それに挟まれた登録票を見下ろし、
 「まずダブルス2。氷室と日向。
Hコンビで行って来い」
 「だからその呼び方止めろよ!!」
 「この間『何のコンビなんだ?』って突っ込まれたぞ!?」
 『
Hコンビ』の2人―――氷室と日向が息もぴったり突っ込んだ。現在3年にして幼少の頃よりの腐れ縁の2人、おかげでむやみやたらに同調性[シンパシー]の芽生えた、というか同化した彼らは風輪中学では珍しいダブルス専門員である。・・・・・・本人らは今だ容認していないが。
 妥当な選択に(本人ら以外)頷く一同。一部(本人ら)の反発は無視して発表は次へと進んだ。
 「次。ダブルス1。豪と、それと瀬堂」
 『はあ!?』
 「で、シングルス3。烈」
 「え・・・?」
 「んでもってシングルス2は俺。1が三村。以上」
 「ちょ、ちょっとタイム!!」
 「加瀬!! お前本気か!?」
 一気に言われたオーダー。いつもと違う組み合わせに、周りから反発の声が上がる。
 それに面倒くさげに―――妙にドスのある声で加瀬が答えた。
 「ああ? 俺が本気かだと? 俺は常に本気に決まってんだろ? それとも何か? てめーら俺の決めた事に反対しようってのか?」
 『い、いえ別に・・・・・・』
 乾いた笑いで視線を逸らす一同。懸命な判断にうんうんと鷹揚に頷く加瀬。部活として何か決定的に間違った感のあるその様に、全く以って堪える様子のない瀬堂がいつも通りの笑顔で手を上げた。
 「質問。何で僕がダブルス?」
 答えはとっくに知っているのだが、それでもあえて尋ねる。誰かが尋ねなければならない。そして説明しなければならない。今も予想外のポジションを与えられ、きょとんとする今回の主役の役割を。
 「お前はよく知ってんだろ? くどいが千城はダブルスが強い」
 「まあよく知ってるね。実際戦って負けたし」
 「氷室・日向の
Hコンビ除いてダブルスが出来るのは星馬兄弟のみ。でもって単純に烈とお前のプレイパターンは大体同じ。
  さて、2人を比較してみる。誰が見たところでお前の方が実力は高い。なら瀬堂、お前がダブルスに回んのは当然だな。
W2敗でシングルスに行くのはさすがに精神的に負担が大きい。
  ―――てなワケだ。それでいいな? 烈」
 「・・・はい」
 一瞬の躊躇ののち、烈が無表情で頷いた。加瀬の言い分は正しい。確かに瀬堂と比べれば自分は下。そして―――
 ―――『実力』さえあれば豪とのダブルスに何も支障はない。
 チームワークなどいらないのだ。このダブルスは。豪の動きを予測し、常に先回りしたフォローを出来るだけの洞察力と判断力、つまりは1対3のハンディキャップマッチを制するだけの『実力』さえあれば。
 なまじそれだけの『実力』を兼ね備えてしまった烈の生み出した皮肉。少なくともアメリカにいた頃―――中学入学以前はこうではなかった。ちゃんとお互いがお互いの事を考え、フォローし合っていたはずだ(いや、その程度の差は大きいが)。
 変わってしまった。恐らく自分のせいで。
 心の全く繋がり合っていないペアに、『チームワーク』などあるわけがない。
 陰鬱に思う。実力差でそれすらも外されて、その先で回ってきたのがシングルス3。瀬堂の抜けた代わりという事だろうが、どうせなら補欠にして欲しかった。
 よりにもよってシングルス3。かつてあいつと競い合ったその座[ポジション]。
 俯く烈を見下ろし、
 瀬堂が加瀬の耳元にそっと囁きかけた。
 「負けた方がいいかな? 僕たち」
 「どっちでもいーんじゃねえのか? 勝ち負け関係なしで燃えるだろ。アイツとの対戦なら」
 「そうだね」
 くつくつと笑う瀬堂。負けた方がいいと判断すれば指示を仰ぐまでもなく平然と負けて見せただろう。この男は。
 烈以上にタチの悪い人間―――楽しみのためならその他はどうでも良し。決して本気で何事もやろうとしない友人に、加瀬はあえてどちらとも答えなかった。
 (どっちにするか。それはそれで見物か・・・・・・)
 
Hコンビには悪いがW2は間違いなく負ける。Hコンビが弱いわけではない。向こうが強すぎるのだ。
 (2敗で追い込んでも良し。1勝してノせても良し。どっちにしろ関係ナシで面白くなりそうだしな)
 限界以上の[ハイ]コンディション。烈のそれを見るのは何ヶ月ぶりか。
 (まあ、こいつはともかくあいつが8ヶ月間だらだらしてたってわきゃねーだろうし、さ〜って、どうなるか、と・・・・・・)
 「んじゃ、反対ねーんならこれで登録してくっから、次は千城のオーダーがわかったらもっかい集合。それまでは自由」
 『ういーっす』








・        ・        ・        ・        ・








 自由時間で体をほぐそうとしていた烈・豪、そして瀬堂。
 練習用に解放されたコートの端で各自バッグを開く。ラケット、ボール(は学校から持ってきた備品)、タオル。さらに―――
 「―――あれ?」
 「どーした? 烈兄貴」
 「ペットボトルが・・・・・・・・・・・・」
 バッグを漁る。どこを見ても常備している保冷袋入りのペットボトルがない。
 「あれ? でも飲物ならちゃんと部のほうで用意してるよ?」
 「・・・は、知ってますけど―――」
 やはり不審に思って覗き込んできた瀬堂に、烈は曖昧に返した。
 返しつつ、思い出す。
 (そういえば、朝思ったより暑くって・・・・・・)
 確か今まで持っていた
350mlでは小さいかと思い、中身を500mlに移し変えて・・・・・・
 ―――バッグに入れる前に豪に呼ばれて、そのまま台所に忘れてきた。
 (・・・・・・。まいったなあ・・・・・・)
 確かに部でスポーツドリンクと水は用意されており、別になくても困るものではない。というよりわざわざ持ってきている者などほとんどいない。自分か、几帳面な三村兄弟か、あるいは・・・・・・
 「―――すみません。何か買って来ます。2人で練習しててください」
 「うん、わかった」
 「え? 別にいらねーんじゃねーのか?」
 烈の言葉にあっさり頷く瀬堂。首を傾げる豪。
 言うだけ言ってさっさと走っていってしまった烈の代わりに、瀬堂が肩を竦めて答えた。
 「『いつもどおり』っていうのはそれだけで落ち着く条件になるから」
 「はあ・・・・・・」
 実のところ本質―――そもそも烈はなんでペットボトルを持ってるのかという事をすっぽ抜いた、答えになっていない答え。だがとりあえずそれで豪は納得したらしい。
 「じゃあ、練習しようか。今日はよろしくね。豪君」
 「あ、こっちこそ」








・        ・        ・        ・        ・








 再び招集の声がかかったのはそれからほとんど間もなくのことだった。ようやく2人が準備運動を始めたところだから、別れてせいぜい5分か。
 「あ、兄貴が・・・・・・」
 「まあいいんじゃない? 荷物がなければすぐに気付くよ」
 そうして戻った2人。他の人もまだそれほど離れていなかったか、おおむね全員が既に揃っていた。
 「―――で、千城のオーダー発表だが・・・・・・烈は?」
 「兄貴なら―――」
 「今飲み物買ってきてるよ。もう暫く戻らないと思う」
 豪を遮って告げられた瀬堂の報告に―――なぜか加瀬がにんまりと笑った。
 「そーかそーか。そいつは丁度良かった」
 「タイミング計ったんじゃないの?」
 「ンなわけねーだろうが。あいつが飲み物買いに行くなんて俺が知ってるワケねーだろ?」
 「そういえばそうだっけ」
 と、続けられる謎の会話。他の人には完全意味不明なのだが、毎度の如く全く気になされずに進められた。
 「まあそれはともかく千城のオーダーだ。大体予想通り。
W2が火川・水科ペア、W1が風見・光坂ペア」
 「逆になったのか?」
 加瀬の発表に三村が目を細めた。去年の新人戦、ダブルスにて優勝したのは今回
W2の火川・水科ペア。だからこそ2人はW1に回るかと予想されていたのだが・・・・・・。
 「みたいだな。まあどっちもレベルは大して変わらねえし、必ずしも実力順ってワケでもねえ。それ言うんなら俺らの方が既におかしい」
 「俺達、というよりお前がな」
 風輪中学にて1番強いのはもちろん加瀬である。でありながら彼は余程の事がない限りシングルス1には回らない。なぜか。
 「いーじゃねーか。
S1つったら暇だし。出番全っ然回って来ねーだろ?」
 「おかげでお前の代わりに俺が『暇』なんだけどな」
 「まあまあそう言うなって。だが、
  知らなかったとはいえこっちからしてみりゃかなり上手いオーダーだな。
  ―――大丈夫か? 瀬堂」
 
W1の風見・光坂ペア.やはり去年の新人戦にて加瀬と瀬堂が負けた相手だ。それだけに瀬堂に余計なプレッシャーがかかる恐れがある。
 「ああ。大丈夫だよ。今回はパートナーが傍若無人じゃないからね」
 一応声をかけた加瀬に、瀬堂がくすりと笑った。それを見て、やはり加瀬が違う意味で口を吊り上げる。引きつらせる、とも言うが。
 「以上、ダブルスはこんなもんだ。説明はいちいちいらねえだろ? お互いよく知ってる相手だし。
  で、次シングルス。シングルス3が―――」
 と、加瀬が言葉を切った。目を走らせ、今回の作戦の共謀者2名に無言で合図をやる。『予想通り』の合図。
 一息ついて、続ける。
 「2・3年はよく知ってるヤツだ。不来裕也。あいつがシングルス3で烈と当たる」
 『ええええええええ!!!???
 途端に上がる大絶叫。訳の分からない豪の隣で、同じく1年ながらやはり驚きを露にしている部員が震える声でうわ言のように呟いていた。
 「不来・・・って、あの・・・? え? でも、まさか・・・・・・」
 「どーしたんだよ?」
 肩を叩く豪に反応して、その部員―――余談だがこの間のランキング戦前に烈の事をボロクソに言ってたヤツの1人―――が、むしろ驚かない豪にさらに驚きを増大させた。
 「って星馬! なんでお前驚かねーんだよ!? ・・・・・・って、そーいやお前去年アメリカいたんだっけ」
 1人で驚き1人で納得する友人。その様にムカっときた豪が口を開こうとする。が―――
 相手の続きの方が早かった。
 「不来裕也ってのはな、去年秋に行なわれた新人戦で都内トップになった人だよ。まだそん時1年だったっつーのに先輩らに圧勝。しかも決勝まで全っ部相手に3ゲームも取らせなかったってんだからすげーよ。俺あの人見て本格的にテニスやりてえ、って決心したんだぜ」
 「ふーん・・・・・・」
 マジで見惚れる・・・などと続けるそいつは放って置いて、周りを見回す。それだけでここまで騒ぎになるものか?
 「でも・・・・・・」
 そんな疑問を持っていた豪の隣で、浮かれていた友人がいきなり神妙な様子になった。
 「不来って、確かウチの中学にいたはずなんだよな。だから俺ここ来たってのに・・・・・・」
 「ふ〜ん・・・・・・」
 2度目の生返事。周りもそういう意味での驚きか。にしては少々大げさなような・・・・・・。
 そう思う豪の勘は当たりだった。2・3年の驚きの焦点は別のところにある。
 「不来って、あの不来だよな!?」
 「え!? イギリス行ってたんじゃねーのか!?」
 「なんで千城に!?」
 口々に喚く部員ら。肩を竦めた加瀬の代わりに三村が説明する。
 「不来はこの4月日本に戻ってきた。千城にしたのは―――まああそこは全寮制だし、預けておけば安心だからじゃないのか?」
 「って! そこはいいですけどてことはつまり先輩知ってたんスか!? 不来が千城にいるって!!」
 「ったりめーだろ?」
 「だったら! なんで
S3烈にしたんですか!! 確実に勝つんだったら加瀬先輩か瀬堂先輩がいったらよかったじゃないですか!!」
 と、集まる非難。確かに新人戦優勝とはいえ風輪中[ここ]では所詮
No.3。転校後8ヶ月経っていようが、そう簡単にNo.1とNo.2を上回るだけの実力を付けたとは考えにくい。
 なのにどう考えてもわざとそれを外した。烈をダブルスに入れたままにしてたとえ
W2敗しようが、ここで代わりに瀬堂を持ってきて勝ってしまえば残りは加瀬と三村。シングルスにそこまで強い要員のいない千城なら充分勝てたはずだ。
 よりによって関東がかかっている試合で、どう考えても正気の沙汰ではないこのオーダー。
 「これじゃ最悪ストレート負けですよ!!」
 天を仰いで嘆く部員ら。だが、
 「そっか?」
 それをわかっているのかいないのか、もの凄く普通の様子で加瀬が腕を組んだ。
 『そう(です)!!』
 周りにいた―――というかその場にいた2・3年全員の魂よりの叫び。なのだが。
 もちろんこの程度で堪える加瀬ではない。というかこの程度で堪えてくれる楽な部長ではない。
 「つまり、烈は不来にあっさり負ける、そう言いたいのか?」
 「当り前でしょう!?」
 「1回も勝った事ねえじゃねえか!!」
 それを聞き―――
 瀬堂と三村が同時に顔を背けた。瀬堂は口元を押さえて懸命に爆笑を堪え、さらに三村もクリップボードに目を落とす振りをして肩を震わせる。
 「そりゃ大層おもしれえ冗談だな。見ろ。そこで痙攣してるやつらがいるぞ」
 「冗談じゃなくて―――!!」
 「烈があっさり負ける? あの烈が? 意地とプライドが服着込んだあの烈が? よりによって不来相手に?
  そりゃねーだろ! いっくらなんでも!
  ンな事やるくれーなら全校生徒の見守る中全身素っ裸で氷浮かべたプールに飛び込んで1
kmくらい寒中水泳してくれんじゃねーのか?」
 そんな、よくわかるようなイマイチよく分からないような例えを持ち出され誰もが黙り込んだ。納得で来たわけではない。烈が今まで全敗しているのも変えようのない事実だ。
 だが、
 「いーじゃねえか。元
No.3と現No.3。どっちが勝つか楽しみってもんだ」
 以前、共謀者2名へと言ったのとほぼ同じ台詞。
 自信満々な加瀬の言葉に、反対していた者も頭を掻いてため息をついた。こうなった加瀬はもう止められない。しかも止められそうな輩は今回加瀬と同意見らしい。
 なんにしろもうオーダーは変更出来ない。
 「―――じゃあ負けたら部長の責任、ということでいいかな?」
 「てめ瀬堂! てめーだって賛成しただろうが!!」
 「でも最終決定をしたのはキミだから」
 いきなり話題に加わる瀬堂。またしてもひたすらに脱線していく会話に、部員らは付き合ってられるかとその場を後にしようとした。
 その背に―――さっそく戻ってこなかった烈に報告しようとしていた豪の背中に、声がかけられる。
 「ああ、このオーダー、烈にはまだ言うなよ! 余計なプレッシャーがかかる」
 まるでこちらの考えを読んだかのようなタイミングで投げかけられた注意。振り向く豪が見たものは―――再び大爆笑(?)する3人の姿だった。
 (・・・・・・何だ?)
 彼の勘はまだ何かある、と告げていた。告げてはいたが・・・・・・
 ―――あの3人にはどうも関わりにくい。特に3人まとまられると・・・・・・。
 普段人見知りはしない豪にしては珍しい考え。だが、人を完全になめてる感のあるあの3人相手にではそれも仕方のないことであろう。
 結局、その重大事項は当事者にのみ知らされないまま人込みへと拡散していったのだった。








・        ・        ・        ・        ・








 さてそんな重要な事が話されているのと同時刻。
 「あったあった・・・・・・」
 と自販機に向かおうとする烈。しかし都大会だけあって参加人数が多く、さらに今日急に暑くなったためだろう。自販機の周りは人でごった返していた。その場で買ったものを飲む者。何も買ってはいないが恐らく人待ちをしている者。様々なジャージ、制服、あるいは私服。ここまでいろいろなものが集まる機会など普通そうそうないだろう。
 そんな、ちょっとした身近な異空間で―――
 「―――あれ?」
 ふと知った顔を見たような気がして、烈は軽く声を上げた。もちろん他校にだって知り合いはいる。強豪校として参加していれば、自然と他の、特に強豪校とは深い繋がりを持つようになるものだ。
 なのだが、なんとなくそれとは違うような気がする。
 気になって、もう一度見る。しかしちらりと見た人影はもう他のものと紛れて見えない。そこへ行こうにも回りの人を押しのけていたら時間がかかりすぎる。確証無しで声を張り上げるのも恥ずかしい。というか誰だかわからなかったのだから呼びかけようがない。
 「・・・・・・・・・・・・ま、いっか」
 結局そう結論づけて、烈は自販機に並ぶ列の最後尾に並んだ。どうせ同じ会場。また会えるかもしれないし、そうでなければそれはそれでいい。同じ中学テニス部なら合う機会などいくらでもあるだろう。
 そして――――――――――――








・        ・        ・        ・        ・








 自販機にてペットボトルを買い、部員らの待つ場所へと戻ってきた彼。
 「あら。おかえりなさい」
 「おう。遅なってもうたわ。めっちゃ混んどった」
 「ああ。今日暑いものね」
 出迎えるマネージャーに軽く手を上げ、なにやら集まっている部長らへと近付く。輪の中心にあるもの。恐らく対戦校のオーダーだろう。
 それを見ながら、部長らが呻いている。
 「瀬堂がダブルスだと・・・!?」
 「ならシングルス3は―――?」
 「これって確かあの星馬兄弟の兄貴のほうだろ? ほら。弟が瀬堂と組んで
W1だ」
 「2年じゃないか! どういうオーダーなんだ・・・!?」
 「まさか三村が情報見落とした・・・?」
 「まさか。あの三村がそんな事は―――」
 等々、静かにしかし騒がしい雰囲気を漂わせる(主に)先輩方の後ろからひょいと覗き見る。
 「どうなっとります?」
 「ああ。かなり大胆な―――というか無謀なオーダーだな。まあ加瀬っぽいっちゃあ加瀬っぽいが」
 「あっはっは。ボロクソに言うとりますなあ。
  で? 俺の相手誰になりました?」
 訊きながら、心の奥で笑いが止まらない。今の会話で証明された。
 このオーダーはめちゃくちゃではない。全てが一方向に固められている。即ち―――自分とあいつが当たるように。
 (さ〜っすが先輩方。完っ璧なオーダーですわ)
 向こうの用意した舞台で踊らされてる感じもするが、まああいつと試合が出来るのならその程度は構わない。
 「最近ダブルスで有名になってきた『星馬兄弟』っていんだろ? あの兄貴のほうだ」
 「へ〜。でもそれってダブルスで対策練ってたんとちゃいます?」
 「とりあえずダブルスはそのまま行くしかないだろ。で、
S3は―――
  ―――まあお前なら心配する事もないだろ? 頼んだぞ」
 「そらどうも。プレッシャーありがとさん」
 「よく言う」





 会話を終え、輪から離れて一人買って来たペットボトルを飲む。その背中を、軽く叩かれた。
 「―――ぶは!!」
 ―――軽くだろうがなんだろうがペットボトルを口につけて傾けている際そんな事をやられれば誰だってむせる。
 「何すんねん!!」
 「あはは。ごめんなさい」
 顔中に水を浴び、振り向き怒鳴る彼にマネージャーの少女が反省0で手を合わせた。
 「このアマ・・・・・・」
 怨念を飛ばし、しかし残念ながら飛ばすだけ無駄なので諦めて首に掛けていたタオルで顔を拭く。
 眼鏡も取って、そのまま拭いて再びかける彼に彼女が首を傾げた。
 「あら? 今日は水なの?」
 「2倍希釈のスポーツドリンクが理想なんやけどなあ、両方買うと高いわ」
 「なるほど。
  そういえばさっきから訊こうと思ってたんだけれど・・・・・・
  ペットボトル、持って来なかったの?」
 「持って来とったで。んでもってとっくに飲んでもうたわ。や〜っぱ
500にするべきやった・・・・・・」
 「まあ今日は暑いものね。
  そうそう。聞いたわよ。次の相手。
  ―――頑張ってね」
 「俺だけに言いよるん? あいつにも言わへんでええんか?」
 「いいわよ。あなたが頑張れば必然的に彼も『頑張る』でしょう?」
 「そらそやな。せやなかったら全員の前で6−0の恥かかしたる」
 吊りあがり気味の黒目を僅かに細め、犬歯を見せるように口を吊り上げ薄く笑う。
 食えない、しかし本当に楽しそうな笑顔に、彼女―――せなが再びぽんと肩を叩いて微笑んだ。
 もう一度、囁く。
 「頑張ってね。不来君」
 「当り前やろ?」


―――『目覚め』2











・        ・        ・        ・        ・        ・        ・        ・        ・

 はい。ようやっと2話―――その1です。水面下での接触。果たして何も知らない烈兄貴は今後どれだけ踊ってくれるのでしょう?
 今回まだスタートにてあまり語れないのですが(いや語らなくていいと思いますが普通)、一つ。最初の頃加瀬が烈の『限界以上の[ハイ]コンディション』と言ってましたが、これ、というかルビでふった『ハイ』には3つの意味があったりします。
 1つは普通に『高い』、つまりは『最高の』という意味での『ハイ』。当初はコレにしようと思ったんですが少し変えて。
 2つ目は酒やクスリで興奮した状態での『ハイ』。これが本文でもあった『(通常状態での)限界以上の』です。
 そして3つめ。燃え尽きての『灰[ハイ]』。
 さて、烈兄貴と対戦相手の某少年(笑)はどこまでいくのでしょう? どこまでいってもいいようにこんな言い回しになってたり。

2003.8.21




 しかし話は変わりますが人名がどんどん適当になってきました。
Hコンビはなんとなく。火は除いて残り水・風・光はかつてボツにしたオリジの主役4人です。なお火は―――現在Upされてるオリジのですね。なので少し変えたんですが。