静から動へ Crush


<前編>







 何の工夫もない出だしだがさらに次の日。3連休最終日となったこの日は、昨日とは逆に千城は休み、風輪は部活ありだった。
 「じゃ、久しぶりやしこの辺ぶらついとるわ」
 「変わってるようで変わってない、でも変わってないようで変わってる、そんな街並みを見て歩くのも楽しいと思うよ」
 「どっちやん? って突っ込む前にな、
  ―――誰やねんお前」
 「・・・・・・。たまには僕もシリアス決めてみようと思ったんだけど・・・・・・?」
 「は〜。さよったか〜。てっきりまたなんかヘンなモン憑かせたんか思たわ」
 「いつだよ前回憑かせたの・・・・・・」
 「ま、ええわ。お前も居残りさせられんよう頑張りや」
 「あはは。君じゃないんだからさせられないよv」
 「さよか? せやったら期待せんと待っとるわ」
 「はははv 任せてvv」
 やはり昨日とは逆にちょっぴり頬を引きつらせて答える烈。今日は2人ともテニスバッグ持ちだった。終わってからどこかそこらへんで打ち合おうという約束だった。
 「じゃ、また後で」
 「ま、せいぜい頑張り」
 適当な挨拶で別れる2人。ここまではおおむね昨日と同じだった。違う点は―――
 「―――あれ? 不来君も来たんだ?」
 「瀬堂先輩?」
 「先輩、お早ようございます」
 「おはよう。不来君。烈君」
 「ちなみに不来はどぉぉぉぉぉぉしても練習に参加したいと僕に泣いて縋り付くもので―――」
 「ちゃうわ! 勝手に捏造すんなや!! 
10秒前の別れはどこいったんや!!」
 「そうなんだ不来君。そんなにウチの部が懐かしくて・・・・・・」
 「ちゃいます!! このアホのボケ台詞真面目に受け取らんで下さい!!」
 「うんわかったよ。特別許可出すようにちゃんと加瀬には言って含めておくからね」
 「だからちゃう―――って先輩、『言い含める』んとちゃうんですか?」
 「え? 言って、含めるんでしょ? 大丈夫大丈夫v 加瀬も僕の言う事だったら聞くよ」
 『言って、含める』。
 なぜだろう? 無理矢理脅迫して自分の内側に引き込みます宣言をされたような気がするのは。しかも『聞いてくれる』ではなく『聞く』。彼の中で既にそれは決定事項のようだ。
 恐らく自分の知る限り最も逆らってもムダな人を前に、
 「・・・・・・・・・・・・よろしゅうお願いします」
 不来はあっさり懐柔されることにした。







・        ・        ・        ・        ・








 1人の朝2日目。この日、豪はいつもより遥かに早く部活に来ていた。いや、烈がいつも起こしにきてくれる時間を考えるとそう早くもないか。とりあえず起きた事にして兄を先に行かせた後再び寝、携帯で起こされ駆け込む遅刻寸前に比べれば早いというだけで。
 不来の家で、兄が何をしていたのかはもちろん知らない。ただ、
 独りの家は味気なくて。もしかしたら兄は先に来て練習しているかもしれないと、そう思った。
 ノブを捻る。部室のドアは、もう開いていた。
 (もー誰か来てんのか。三村先輩辺りか?)
 生真面目さを買われ現在かぎ当番となっている彼ならば学校正門が開くと同時に来ていてもおかしくはないか。
 「おはよ―――」
 言いかけた目の前、細く開いた扉の向こうで、
 ―――会話が聞こえた。





 「うあ、烈めっちゃ跡ついとるで。肩んとこ」
 「嘘!?」
 「ホンマホンマ。赤なっとる」
 「うわサイアク・・・。どーすんだよコレ・・・・・・」
 「どーする・・・って、俺のせいかいな」
 「きっぱりとお前のせいだよ。全く・・・・・・!」
 「そらすまんかったなあ。ついうっかり。気いつかんかったわ」
 「は〜。他にはないよな・・・・・・。
  みんなに見られたらどうやってイイワケさせるつもりだよ」
 「素直に言うたらいいやん」
 「やだよそんな恥ずかしい事。
  にしても―――
  ―――今日動き鈍かったらお前のせいだからな、不来」
 「はいはい。姫はご機嫌麗しゅうあらへんなあ」
 「誰のせいだと思ってんだ!!」





 (兄貴が、不来と・・・・・・?)
 呆然と考え、開けかけていた扉を、閉めようとして―――





 「でも烈君、本当にどうしたのその痣。すごく痛そうなんだけど」
 「あ、先輩『痣』言うたらあきません―――!!」
 「聞いてくれます瀬堂先輩!?」
 「結局言うんかい・・・・・・」
 「よくよく考えずとも僕に落ち度はないし」
 「いやお前やろ、原因は」
 「それで?」
 「昨日一緒のベッドに寝てたんですけど、不来がすっごい寝相悪くって蹴落としたんですよ!? おかげで肩打ってこの痣なんですけど!」
 「お前がそもそも俺の布団まで取りおったんが原因やろが!! しかも警告に何回も引っ張ったやろが!! 全部無視しおって!!」
 「だったらお前が布団取ってくればよかっただろ!! そんな実力行使に出ずに!!」
 「何が悲しゅうてベッド入れたった挙句布団とられて俺が敗北宣言せなあかんねん!! 寒いんやったらお前が取りにいけばよかったやあらへんか!!」
 「なんでせっかくぬくぬく暖まれたところでまた違う布団で寝なきゃならないんだよ!! お前客が来たらそっち優先させるくらいの礼儀わきまえろよ!!」
 「お前のどこが『客』やねん!! めちゃめちゃ入り浸っとるくせに!!」
 「何を―――!!??」
 「何やと―――!!??」
 互いに着替え中。裸の上半身を惜しげもなくさらし取っ組み合う2人。烈の肩と横腹に件の痣が、さらに不来の全身にミミズ腫れと抓られたらしき内出血が目立つが、とりあえず元気な2人からは全く『動き鈍かったら』などという心配は伺えなかった。
 「相変わらず元気だなあ・・・・・・」
 着替える手を全く休めずそれでも微笑ましげに見守る瀬堂へ、
  「「で、どう思います!!??」」
 ぴったりと2人が声をハモらせ尋ねた。
 「う〜ん・・・。僕にはなんとも―――
  ああそうだ。じゃあそこで倒れてる豪君にでも聞いてみたら?」
  「「ん?」」
 (ようやく着替えの手を止めた)瀬堂に指差されるままに入り口へ目をやる。確かにそこには豪が倒れていた。
 「どうした? 豪」
 「いや、別に・・・・・・」
 「朝から自分えろうオモろい事しとるなあ」
 「したくてしたんじゃねえけどな・・・・・・」
 いろいろと予想を裏切る展開に打ち付けた鼻を擦りつつボヤく豪。今までの心配はなんだったのだろう・・・・・・?
 などという、絶対に当人には伝わっていない思いを抱える豪を、当人以外はわりと冷ややかに眺めていた。もちろん表には出さず。
 弟の乱入(?)であっさり話題に興味を無くした烈は、いそいそとポロシャツを着込みジャージを羽織った。
 「これ、で大体見えないかな?」
 開襟の襟元だけでは心もとないが、ジャージで固定しておけば大丈夫かと鏡で確認するため部室端の洗面台へと向かう。向かおうとして―――
 「せやけど痛そうやなあ、烈。可哀想になあ」
 「誰のせいだよだから・・・・・・」
 不来が呟きつつ襟元から手を差し入れてきた。肩の痣を優しく包む。温かい手の気持ち良さに、烈がほんやりとする。と、
 「せやったらお詫びの印に。気の持ちようなんちゅー言葉あるけど怪我やら病気やらっちゅーのは正しくその典型やろ。こないに酷そうな痣見とったら治るもんも治らんわ。少しでも見た目もよく―――」
 「キスマークはいらん!!」
 「ごぐっ・・・!!」
 顔を近づけてきた不来に何をやるのか察し、無防備なみぞおちに膝蹴りを叩き込む。倒れる不来は無視して、烈はジャージのファスナーを上げつつ部室を出て行った。
 「は〜。めっちゃ凶暴やなあ。お前の兄貴」
 「烈兄貴だしな」
 改めてジャージに着替えつつ(なお千城のものではなく私服)、話し掛ける不来に―――
 豪は手をどけ、ただそれだけを答えた。







・        ・        ・        ・        ・








 「と、いうわけで今日の練習は不来も参加することになった。
  と、いうわけで今日の練習はダブルス強化だ」
 加瀬部長の言葉に、
 「はあ?」
 豪は首を傾げた。
 『と、いうわけで』。
 前半の意味はわかった。今日千城は部活もなくヒマだから来たらしい。以上。
 (んじゃなんでそいつが来りゃダブルス強化になんだ・・・・・・?)
 一昨日の不来の試合はシングルス。話を聞いた限りでも不来はシングルスが強い筈だ。
 ふらふら揺れる頭に疑問符を掲げる豪に、瀬堂がくすりと笑って耳打ちした。
 「不来君は烈君とダブルス組むと強いんだよ。風輪[ウチ]はダブルス要員本当に少ないからね。仮に見つけても相手がいないんじゃ育たない」
 「は〜。そういうモンっスか」
 「そういうものだね。それに―――」
 瀬堂の笑みが若干変わる。剣呑に、それでいて実に楽しそうに。
 「曲がりなりにもダブルスの強豪・千城にいる以上それ相応に学んできた筈だよ。シングルスだから関係ないやなんていう性格じゃない。不来君は学べそうなものは片っ端っから吸収しようとする貪欲な性格だからね」
 「はあ・・・・・・」
 一応頷く豪。彼がこの言葉の意味を知るのは・・・・・・。







・        ・        ・        ・        ・








 「まずは氷室・日向のHコンビ対不来・烈の凹凸コンビ」
 「ちょい待って下さい。いつンなチーム名が・・・・・・?」
 「しかも『凸凹[でこぼこ]』じゃなくてあくまで『凹凸[おうとつ]』なんですか?」
 「チーム名は今決めた。凹凸なのはなんとなくだ。
  ―――じゃあいくぞ」
 「はあ・・・」
 「もう何でもええですわ・・・・・・」







・        ・        ・        ・        ・








 といった感じで試合が始まり―――
 「瀬堂先輩、訊きたいんスけど・・・・・・」
 「ん? 何? 豪君」
 「ほんっとーに、あの2人強いんスか?」
 「・・・・・・・・・・・・。
  強いんじゃないかな?」
 「なんなんスか今の間は」
 半眼で豪が突っ込む通り、というか瀬堂が答えるまでに
30秒を要した通り・・・・・・
 ドン―――!!
 「ゲーム
Hコンビ! 2−0!」
 「お前何やっとんねん!!」
 「それはこっちの台詞だ!!」
 「うっせーぞてめーら!! おら次いくぞ!!」
 点を取られる度―――いや、最早1球ごとに2人でこのように言い争っては審判の加瀬に怒られる。こんな調子で2ゲームが終わった。この調子では恐らく最初に尽きるのは加瀬含め3人の声帯だろう。
 それはともかく、
 「まあもう少し見ててごらん。いくら一昨日試合したとはいえ本格的にやるのは8ヶ月ぶり。最初は合わないものだよ」
 「そういう、モン・・・っスか?」
 「そういうものだね」







・        ・        ・        ・        ・








 さてそして暫し経ち・・・・・・・・・・・・瀬堂は次練習があるからと去ってしまった。
 ひとりぽつりと残される豪。ぼへーっと、試合だかケンカだかよくわからないものを眺め―――
 「―――ヒマそうだな、豪」
 「あ、三村先輩・・・・・・」
 「どうだ? この試合は面白くないか?」
 クリップボード片手に横に立つ三村に、豪は首を傾げ数秒悩み、
 「ヒマとか面白いとかいう以前に・・・・・・
  コレ、試合として成り立ってんっスか?」
 思っていた事を正直に告げた。
 「ん? つまり?」
 「なんか・・・、ボロクソに点取られて責任なすりつけあって、はっきりいってチームワーク最悪っスよね?」
 そう言い切る豪を、三村は軽く笑った。
 「ははっ。言うな。とりあえず烈の前で同じ事言ってみろ。即座に怒られるぞ」
 「でもホントじゃん」
 「そうかな?」
 「へ?」
 見上げてくる豪に、
 「まあ見てみろ」
 三村はコートを指差し、瀬堂と同じ事を言った。
 一応それに従い豪も見てみる。丁度3ゲーム目が終わるところだった。
 バン!!
 「ゲーム
Hコンビ! 0−3!」
 「せやから烈! 今のはお前の球やろ!?」
 「だったらお前動くなよ不来!! 紛らわしく動くからお前が取るのかと思っただろ!?」
 「俺が取れるか取れへんかちゃんと判断せい!! どこをどないしたら今の球届くんや!?」
 「なら素直に見送れ!! 微妙に頑張った挙句にあっさり諦めんな!!」
 審判・加瀬のコールに相も変わらず責任なすりつけをし合う2人。その様は最初と全く変わらず。
 「・・・・・・・・・・・・見たっスけど」
 「つまりそういうことだ」
 「はあ?」
 (本気でワケわかんねえよ、加瀬部長にしろ瀬堂先輩にしろ三村先輩にしろ・・・・・・)
 何が『と、いうわけ』で何が『そういうもの』で何が『そういうこと』なのか。
 意味不明会話に豪が苛立ってきたところで、
 ようやっと三村が答えを言った。
 「豪。今のどっちが悪いと思う?」
 「今の・・・ポイント、っスか?」
 「ああ。お前が言う通り『責任のなすりつけあい』をしているようだが、じゃあ本当に責任があるのはどちらだと思う?」
 言われ、先程のプレイを思い出す。前衛が不来、後衛が烈。向こうの球を、前衛の不来は取れずに見送り、そして後衛の烈もまた追いつかなかった。
 「両方、っスか?」
 「外れ。明らかに烈が悪い」
 「なんで?」
 「不来の言葉通りだ。アイツの守備範囲を見誤り、スタートが遅れた。最初からボールに向かっていれば追いついた」
 「でもそれって、その前にアイツだって動いたし―――」
 「動いたから? だからどうした? そりゃ動くだろ。オブジェじゃないんだから。
  動きに騙された烈の方に非がある」
 冷たいほどにきっぱりと切り捨てる三村に、豪が口をつぐんだ。
 黙る豪の代わりに、さらに三村が言葉を続ける。
 「が、同時に不来にも未遂ならが点を取られる原因はあった」
 「・・・つまり?」
 「烈が今の球を返していれば、次の球で点を取られていた。半端に不来が動いたおかげでフォーメーションが崩れ、オープンスペースが出来てしまっていた。不来がそれこそ『素直に見送り』配置についていたならば出来なかったスペースだ」
 「んじゃあ・・・・・・」
 「つまり2人とも言ってる事は正しいんだ。ただ
5050%の運の問題で烈の責任になっただけで」
 「やっぱ両方悪いんじゃないっスか」
 「見様によってはな。ただ『今この時』を見た不来にとっては烈が悪く、『ゲーム全般』を見た烈にとっては不来が悪い。そういう違いだ」
 「・・・・・・やっぱよくわかんないんっスけど」
 「別にいいさ、この辺りはわからなくても。
  でも・・・・・・」
 一瞬間を置き、豪をひたりと見つめる。
 「即座に文句を言っただろ? チームワークはむしろいい」
 「・・・・・・・・・・・・?」
 「相手に非があると思いながらそれを言わないならば、それは禍根となって残る。残った禍根は相手への不信感へと姿を変え、チームワークというものにひびを入れる。
  逆にその場であれだけ言えるというのは互いを信頼している証拠だ。信頼しているからこそその相手のミスに容赦はしない。そして烈と不来はああも言い争ってはいるが互いに互いを1人のテニスプレイヤーとして認めている。さらにお互いに違う考えの持ち主だという事も。だから互いの指摘に口答えしつつも従う。
  さっき瀬堂はお前に言っていただろう? 不来は学べそうなものは片っ端っから吸収しようとする貪欲な性格だと。烈も同じだ。互いにその貪欲さがあるから、互いが互いを見下し、互いに相手に勝とうと藻掻く。はっきり言って名目はダブルスを組んではいるが実質烈対不来の蹴落とし合いだ」
 「やっぱチームワーク最悪―――」
 「普通ならそうだな。だが、互いをライバルとして見るからこそ相手の動きをよく知っている。相手の力量をよく知っている。自分と相手の領域の差をよく知っている。昔懐かしのスポ根のノリをあの2人がいっているとも思えないが、ケンカしながら築く信頼もいいんじゃないか?」
 言われた言葉を反芻し―――
 「はあ・・・。俺にはよくわかんないっスね」
 頭をぽりぽり掻きそう結論付ける豪を、三村が冷めた目で見た。かつて豪と組んだ試合中、瀬堂が見せたのと同じ目で。
 豪が顔を上げる前に目線をコートへとずらす。
 「別にわかる必要もないだろ? 誰もがそうだってワケじゃないし、どころかこの方が異例だ。けどひとつ言うなら―――
  ―――曖昧な『チームワーク』とやらだけで言いたい事も言えない『パートナー』は2人とも必要としてない」
 「―――!?」
 言われ、豪が三村を振り仰いだ。目を見開き見やる。だが三村は試合をのんびり見るだけで。
 思い出す。瀬堂と組んだ対千城戦
W1。自分がほとんど球を取り、瀬堂はほとんど動かず。
 だが待て。本当に瀬堂は動かなかったのか? 本当に瀬堂の実力はあの程度か? 風輪で、加瀬に続き
No.2と呼ばれるあの瀬堂が? 兄・烈よりも明らかに強いあの瀬堂が?
 ―――『だったらお前動くなよ不来!! 紛らわしく動くからお前が取るのかと思っただろ!?』
 ―――『ごめん豪君。追いつくかと思って』
 頭に浮かぶは2人の言葉。考えてみれば意味は同じじゃないか。それに対して・・・・・・
 ―――『せやから烈! 今のはお前の球やろ!?』
 ―――『別にいいっスよ』
 自分だって、不来と同じように言いたかった。言いたかったのに・・・・・・飲み込んだ。なんでだ? 言っても無駄だと思ったからか?
 ならなぜ無駄だと思った?
 (俺は・・・・・・瀬堂先輩を・・・・・・烈兄貴を・・・・・・・・・・・・)
 「ゲーム凹凸コンビ! 3−1!」
 「おっし挽回開始や!」
 「足引っ張んなよ、不来!」
 「お前がや!」
 握り込んだラケットのグリップ先端を当てつつ飛ばし合うヤジ。だがのってきた2人の目の色は最初とは大幅に違う。先程の指摘もしっかり克服し、最初はめちゃくちゃだったフォーメーションも素人目にも上達し、今や
Hコンビにも互角なほどに喰らいついている。
 目線はコートへ向けつつ、しかし意識はどこを飛んでいるのか呆然としている豪へ、
 「なんだかんだ言って、用はただの負けず嫌いなんだよ。烈も。不来も。それに、瀬堂もな。だから―――自分を見下す『パートナー』はいらない」
 「――――――!!」



 ―――『あんまりバカにしない方がいいよ。僕はともかく烈君は、さ』



 あの言葉の意味が、ようやくわかった。そして、悟る。
 ―――自分は烈をバカにし続けた、と。
 テニスが上手くて、ずっと自分が目標としていた兄。その兄が、ランキング戦にも出場しないで、単独ではレギュラーになれないで。自分がなる事で、特例としてレギュラー入りしていて。
 決してそうではなかったのに、いつの間にか自分は兄より強いと思っていた。
 兄より強くて。これから自分が兄をリードするのだと決心していて。
 だから・・・・・・負けたのが信じられなかった。
 それに対して、不来はどうなのだろう?
 聞いた話では、一昨日の試合で負けるまで全勝だったという。だが不来は烈を見下す事はしなかった。どころか、わざと挑発して本気を出させた上で、自分も全力で挑んだ。だから負けた時も本気で悔しがって―――そして、満足した。
 「ゲーム凹凸! 4−4!」
 いつの間にか同点にまで追い上げていたゲーム。ハイタッチを交わす2人は本当に楽しそうだ。自分とダブルスを組んだときも、この兄はこんな風に楽しそうに笑っていただろうか?
 俯く豪。歯を食いしばる彼の向こうでは、名目上『恋人』実質『友達』と笑い合う烈がいた・・・・・・。


―――『<ハマる>瞬間』後編












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 このシリーズタイトルの歌の歌詞を知っている方、また知らなくとも目次ページ下方の会話―――というか説明―――を読まれた方はわかるかもしれません。『Crush』。
 ―――そう、<僕だけが 瞳の中に
Crush>。歌詞の一部を引用させていただきました。あ〜。この歌ほんっと2人の出会いシーンにぴったりvv
 そしてなぜか前編。凄まじくくだらない理由(これの
Upから次の更新までの間表Topページに出る一言ぼやっきーより)にて無理矢理上げました。イイワケとしては、前編と後編でタイトルの意味が変わります。『Crush[ハマる]』。前編では豪がドツボにハマってます。出口を見つけたようで、実はむしろより深い方へ迷い込んでいます。抜けられると後編が続けられません(爆)。さあ頑張れ豪! ひたすら悪役になってくれ(最低)!! そして後編では誰が何に『ハマる』のか。もちろん今だ何にもハマってない人がです。
 後編にてついに序章ラスト! よ〜し頑張るぞ〜!!

2004.3.264.29