せんじょうの騙し合い 〜Party Game〜
1.招かれて欺かれて
「この度、手塚君含め我がJr.選抜メンバーが豪華客船に招かれる事となった。持ち主は桜吹雪彦麿さんと言い、大のテニスファンだそうだ。アメリカでお前たちの試合を見て、ぜひ自分の船でも見せてもらいたいと頼んできた。お前たちにはそこでテニスのエキシビジョンマッチをしてもらいたいそうだ」
「ウソウソ!? 豪華客船!?」
「や〜りぃっ!」
「ラッキ〜♪」
「お前たち、静まらんか!」
「あっはっは。無理だって真田」
「せやなあ。こないなったらもー収まらせんのは無理やろ」
「では、誘いは受けるかね」
「はい。ありがたく受けさせていただきます」
代表して手塚が頷く。正確にはJr.選抜メンバーではないのだが、なぜか自分も一緒に話を聞いてくれと言われていたのだ。
「よろしい。なお我々は直接呼ばれていないため行く事は出来ない。手塚君、君がその間彼らのリーダーとして動いてくれ」
「わかりました」
つまりはそういう理由だという。やはり先ほど頷いたのは正解だったようだ。
「では、ぜひ楽しんでくれ」
『はい!』
元気よく返事をする一同の後ろで、
唯一話に加わらなかった跡部が薄く笑っていたのに気付いた者は・・・・・・
・ ・ ・ ・ ・
「豪華客船だって〜!!」
「うっわー! 俺初めてっスよンなの!!」
「乗ってるのはみんな金持ちばっかで、でもって可愛い子・・・ってかきれ〜なお姉さんもいっぱいいんだろ〜なあ・・・・・・」
「みんなはしゃいでるなあ。そういえば越前、君は?」
「は? 俺が?」
「君は豪華客船初めて?」
「・・・いえ。アメリカで乗った事あるっス」
「へえ。いいね」
「・・・・・・乗った事ないんスか? 不二先輩」
「え? お前だって跡べーと一緒に、とか・・・・・・」
「ないよ? ね、跡部」
話題を振られ、
ようやく興味なさげに壁に凭れていた跡部が反応を見せた。
身を起こし、組んでいた腕を片方だけ外し。
「俺はそういう成金趣味的金の見せびらし方はしねえんでな。頼まれたんなら考えてやらねえでもねえが、自分からはぜってーやんねえ」
「頼まないワケ不二!?」
「もったいない!!」
「・・・だって別に、移動なら飛行機とかの方が早いし、設備が豪華っていったって船上っていう事を考えたら地上より規模は小さくなるでしょ?」
「船ってそれだけで価値あんじゃん!!」
「船の価値を追求すんならわざわざ地上と似たようなモン作るそっちの方が外道だろーよ。船ん中でプールとかワケわかんねえよ。素直に海で泳げよ」
『確かに・・・・・・』
なぜかあっさり納得する一同。がっくり項垂れ、
「それに最初に言っといてやるけどな、
―――お前ら二つ返事で受けたからには後で泣き言洩らすんじゃねえぞ」
『え・・・・・・?』
「あのなあ・・・。
どこの世界に見も知らない他人ただテニスさせるために招く馬鹿がいんだ? まさかお前ら、タダで飲み食い遊んで終わり、なんてンな甘っちょろい事考えてんじゃねえだろーなあ。
言っといてやるが、俺の知る限り桜吹雪彦麿なんつー富豪はいねえ」
「じゃあ・・・」
その先に続ける言葉も浮かばないまま何となく口を開いた誰かを遮り、跡部は視線を動かした。一方向へ。
「どうやら・・・
―――正体はてめぇが知ってるみてえだなあ、千石」
「え・・・?」
指摘に、他の者の視線もまた動く。
全員に注目され、
「俺が? なんで?」
「反応が早すぎた。突拍子もねえ話にいきなり食いつくほど甘くはねえだろ『食わせ者』なら」
「あっちゃ〜。一応不自然に見えないように装ったつもりなんだけどね」
「俺様の目が誤魔化せるとでも思ってたか? ああ?」
追い詰められ、ようやく千石は白状する気になったらしい。まいったまいったと両手を挙げ、
えへv と笑った。
「最初に言っとくけど・・・
―――怒んないでね、手塚くんも真田くんも」
「俺たちがか?」
「また何故だ?」
「ま、まあまあ手塚も真田も」
「ここでそれ問い詰めてたら話進まんやん。一応聞いとこや。な?」
「む・・・・・・」
不二と忍足の説得に、2人も納得したか黙り込む。ほっと胸を撫で下ろし、千石が説明を始めた。
「俺・・・まあ見た目どおりだろうけど儲け話って大好きなんだよね」
「本気で見た目どおりっスね」
「ひっどいな〜越前くん。あ、けどもちろんマズいのはやってないよ? 俺ってば真面目さんだからvv」
「てめぇのタワゴトはどーでもいい。さっさと進めろ」
「軽く流してくれてありがとう跡部くん。実は手塚くんと真田くんの視線が痛くてたまらないから付け加えたんだけどね。
でも実際はやんなくっても人がやってんの覗きにいったり話聞いたりすんのは好きだったりするんだよね。でもって最近じゃネットでもけっこーヤバめのモンあったりするんだけど・・・・・・」
千石のへらへら調子が変わった。すっと目を細めて。
「『桜吹雪彦麿』っていったら、最近のし上がってきたヤツとして有名だよ。まだ『富豪』じゃないけどそのうちなるってね。『大のテニスファン』なんてついたらもう間違いない」
「で? 誰なんスかそれ?」
問う切原に、
元の明るい笑みで肩を竦めてみせる。
「ここまで来たらわかるでしょ? テニスで大もうけしちゃう人さ。正確にはしちゃうグループのオーナー」
「テニスで?」
「あのアメリカの監督みたいに?」
自分で育てたチームを勝たせ、それをスポンサーへ売りつける。『大選手を育てた監督』として名が売れ、ますますいい人材が入ってくるというダルマ方式を取ったあの監督。確かにあれならゆくゆくは大金持ちになれる・・・・・・かもしれない。
「いいや。もっと簡単確実かつ短期間でボロ儲けする方法さ」
「どんな?」
「あるでしょ? やるだけで簡単に儲けちゃうスポーツ。馬とかボートとか、最近じゃサッカーとか」
「賭博か」
「そう正解。どっかから調達してきた自分のチームと今回みたいに適当に選んだチーム戦わせて、1試合ごとに賭けていく。どうやら俺たち、今回の賭けの対象に選ばれたみたいだねえ」
「つまり八百長くらいは覚悟しとけっつー事だな。断れねえように船なんつー密閉空間用意したんだろーな。乗った瞬間から俺たち全員の命は相手に預けられる事になる」
「八百長!?」
「嫌っスよそんなの!!」
「んじゃ今から断るか? 豪華客船」
『ぐっ・・・!!』
詰まる英二と切原に変わり、リョーマが呟いた。
「気付いてたんならなんでアンタたち最初から反対しなかったんスか?」
見上げられ―――ただしその目に怒りはない。多分問いながらも答えはもうわかっているのだろう―――、千石と跡部は一瞬だけ目を見交わした。
「俺は元から興味あったからだけど? テニスでそんな事やっちゃってる人の顔はぜひ見てみたいからね。
ちなみに跡部くん、君の場合は?」
「決まってんだろ?
―――俺様にンなケンカふっかけてくるヤツは正面から潰してやるよ」
「決まり、やな」
苦笑する忍足。最初招かれた時同様、誰一人として反対する者はいなかった。
力強く頷く一同。その中で、
「だったらどちら役になるか、だな。わざと勝つか、それとも負けるか」
「多分『負ける』方だろうね」
口元に手を当て俯く手塚に、不二が即答した。
「アメリカで僕らの試合を見た。そう言って招くのがこのメンバーならもちろんJr.での試合だ。日本で行われていたとはいえ、あの試合はベイカー監督が事前にあれだけ宣伝した以上アメリカでも相当に有名になっただろうね。少なくとも賭博に参加するほどテニスに詳しい人たちの間では。
同時に僕らの実力は大体把握されたはずだ。相手によりきりだけど、多分僕らの方に賭ける人が多くなる。多ければ多いほどオッズが下がり、そのまま勝てば儲けは少なくなる」
「競馬とかでもあるっしょ。人気のない馬が大番狂わせ起こして史上最高額とか出しちゃう事」
「胴元として儲けを狙うなら『大番狂わせ』を起こす事だ。オッズが上がろうが賭けた人数が少なければ『余り』は全部胴元の懐に入る。僕らに賭けさせるだけ賭けさせて負けさせれば半端じゃない儲けになる」
「でも相手の方が有名だったりしたら? 例えばプロを雇うとか」
「ないさ。プロを雇えばそれだけでお金がかかる。しかもその場合はプロが僕らに負けるっていう展開になる。実際はどうあれ、いくらなんでもこれじゃ八百長だってバラしてるようなもんさ」
あえて強調したのに深い意味はない。ただこのメンツだと最低4人はそこらのプロに勝てる実力を持っているというだけの事だ。手塚・真田・跡部、そして・・・リョーマ。
「一番簡単なのは完全無名のチームと僕らを戦わせる事さ。必然的にまだ有名な僕らの方が賭け金は多くなる」
「それでわざと負けろ、と?」
「完全孤立した船上から無事脱出する方法が思いつけないならね。日本で賭博はそれだけでご法度だ。さらにちょっとの違法行為くらい平気でするだろうね。その状況なら証拠は消しやすいもの。
念のため言っておくけど、自分だけ助かるからってケンカ吹っかけるのは止めてね。まさか見捨てたりはしないでしょう? 『仲間』なら」
くつくつ笑いながら出て行く不二。一瞬だけ振り返り、誰に釘を刺したのかは明らかにしないまま。
次いで、跡部もまた出て行く。出て行きかけ・・・、
こちらは明らかに振り向いた。全員を見やり。
「ああ、そういやそいつ『富豪予定』だろ? だったら『豪華客船』もあんま期待すんなよ? ンなモン用意できる金があるたあ到底思えねえ」
『しまったああああああ!!!!!!』
頭を抱える一同に、ハ〜ッハッハッハと楽しそうに笑う。笑いながら出て行き・・・・・・
・ ・ ・ ・ ・
―――即座に笑みを消した。
「で、そいつに興味があるだと? てめぇがわざわざ?」
横目で見やる。いつの間にか隣を歩いていた千石を。
「興味あるさ。桜吹雪なんていうどうでもいいのもいるけどね」
読めない笑みで囁く千石。それ以上明かす気はないらしい。さっさと行ってしまった。
後姿を見送り、
「ま、せいぜいカードは大事にしまっとけよ。先の見える勝負ほどつまんねーモンもねえからな」
―――2へ
―――はい始まりましたアホなシリーズ。会話やら展開やらはかなり適当となりそうです。すみません。まだ一度しか観てないんですよ。それだけで全部は覚えられなかった何よりグラサン跡部のおかげで・・・・・・。
2005.2.2