せんじょうの騙し合い Party Game








  3.高級な味 庶民の味 〜アンタ出ない筈じゃなかったのか・・・〜

 さてその後は何事もなく夜になって(とはいっても数時間しか経過していないのだが)。
 ホールに呼ばれた一同。どうやらそこで夕食会らしい。
 誘導されるまま、長テーブルに座る。向かい側には相手チームが同じく腰掛けていた。
 互いに簡単な自己紹介。最低限の情報として名前だけはわかったところで、
 ―――料理が運ばれてきた。
 内容はフランス料理のフルコース。だがあからさまに食べ慣れていないこちらに合わせてだろうか、料理は全てまとめて出てきた。
 目の前に立ち上る湯気に、
 まず跡部・不二・千石が、見た目にわからない程度に表情を変えた。
 もちろん気付かないその他6名。出てきた豪華な料理に喜びながらナイフとフォークを駆使し、食べ物を解体―――もとい切り分けていく。こういう様に料理一式が出てきた場合、大体最初に口にする物は2つに分かれるだろう。一番豪華なメイン料理か、あるいはまずは口慣らしに主食か。飲み物は最初からあり喉を潤す必要がない以上は、大抵どちらかとなるだろう。
 メインの肉料理、そして主食となったライスを口に運び、
 全員の顔がわかりやすく変化した。
 確認し、3人が両手を動かす。全員手を出した皿はどちらでもなく副菜その1である魚料理。
 最も洋食具の扱いに慣れている跡部が最初に切り終わり、他の者と同じように口に運んだ。
 ゆっくり咀嚼し、
 「―――庶民の味だな」
 「何だよ庶民のどこが悪りーんだよ!!」
 「どーせ高級料理ばっか食べてるアンタにゃ安っぽく映るんでしょーけど俺らにとってはそれでも高級なんスよ!?」
 「止めろ菊丸!」
 「止めんか赤也!」
 がたがた立ち上がる英二と切原に、諌める手塚と真田。やっている事は逆だがその実言いたいことはどちらも同じだ。即ち、



 ―――この料理はマズい、と。



 だからこそ批判に対して過剰に反応する。初歩の心理学だ。期待に対して現実のランクがあまりに低ければ、そのランクそのものを上げるしかない。だからこそ『「豪華客船」は期待するな』と事前に念を押しておいたのだが、それでもこれだけの設備にいかにもな高級料理。さぞかし味の方も楽しみにしていたのだろう。
 わかっていたからこそ、
 跡部はため息をついた。
 「何怒ってやがる? 俺は『庶民の味だ』っつっただけでそれが悪りいなんぞ一言も言ってねえぞ?
  マジい『高級料理』に比べりゃ美味い『庶民の味』の方が好きだ、俺はそう言っただけだ。
  生憎と、かかった値段だけでありがたがる『美食家[グルメ]』じゃあねえんでな、俺は」
 6人の動きがぴたりと止まった。
 全員の視線がその料理へと集まる。
 今の跡部の言い分、まとめれば『この料理は食べ慣れた跡部ですら褒めるほど美味い』という事だ。
 ごくり、と誰かの喉が鳴る。それが合図となったか、全員の手がそれへと伸ばされた。
 魚のホイル焼き。開いてみればほんわかと温かい湯気と、それだけで唾液の分泌を促す香りが全員の顔へと直撃した。
 おずおずフォークを入れる。もちろん中心にでんとある魚に。適度に蒸されたそれは、ナイフの助けなしでも簡単にほぐれた。
 じっと見つめ、口に運び・・・
 「美味え!! マジ美味え!!」
 「これめちゃめちゃ最高!!」
 「ふむ。一見仏料理のようで俺たちに合わせて作られているな」
 「隠し味のしょうゆとみりんが実によく味を引き立たせている」
 「俺コレ好きかも」
 「なんや。ええ料理人おるんやないか」
 「確かに『高級料理』っていった感じじゃないけど」
 「これなら十分おっけーっしょ」
 『この皿おかわり!!』
 一斉に差し出され、桜吹雪がきょとんとしてから豪快に笑った。
 「そうですか! いや気に入ってくれて結構! ウチのコックも喜びますよ!!」







・     ・     ・     ・     ・








 「たわいのないものだなあんなガキども。レトルト食品をあそこまでありがたがるとは」
 「あ、いえオーナー。あれは・・・」
 「ん? どうした?」
 「・・・・・・いえ。何でもありません」
 「ふん。まあいいさ。
  何にしろ、単純なガキどもだって事は証明されたな。せいぜい明日まで楽しんでろよ『豪華客船での旅』を」







・     ・     ・     ・     ・








 「いや〜食った食ったvv」
 「いきなりレトルト出された時はマジでぶち切れようかと思ったけど、ちゃんと作れんじゃんvv」
 「前こういう船乗った時は何か高級すぎてイマイチ食えなかったんスけど、今回はよかったっスね」
 「馴染みやすい味だったな」
 「一応気を回してくれたのか」
 「ま、料理に関しては評価アップっちゅートコやな」
 「・・・・・・そりゃそうだろ。正真正銘『ただの庶民』が作ったんだからな」
 『え・・・・・・?』
 最後尾にいた跡部の呟きに、全員が足を止め振り向いた。
 肩を竦め、
 「トイレ行ってくるわ」
 「あ、僕も」
 「じゃあ俺も行ってこよ〜っと」





 3人でトイレに入る。扉を閉めるなり、不二が囁いた。
 「マズい事になったね」
 「料理はウマかったけどね」
 「茶化してんじゃねえ」
 跡部の冷たい突っ込みに、千石はやれやれと肩を竦め。
 「まさか来てるとはね」
 「『越前リョーガ』だけで十分厄介だと思ってたけど」
 「ったくアイツはどこまで災厄振りまきゃ気が済むってんだ・・・」
 「多分跡部くんに『まいった』って言わせるまでだろうね」
 「冗談じゃねえ。誰がンな野郎に白旗振ってやるかってんだ」
 「何にしろ・・・・・・警戒度は一気に引き上げた方が良さそうだね」
 「元々油断する気もなかったがな。
  まあ・・・」
 跡部が笑った。先ほどリョーガがいなくなった後見せたものと同じ笑みで。
 剥がれかけていた大理石ちっくな壁紙を一気に剥がし、
 「『豪華客船での旅』はそろそろ飽きてきたところだ。せいぜい楽しませてもらおうか。次のイベントじゃ」







・     ・     ・     ・     ・








 越前リョーガは何をするでもなくただ待っていた。人気のない廊下で、壁に身をもたれかからせ、オレンジを弄びながらただただ静かに。
 目の前から、一人のコックが足早に近付いてきた。見慣れない―――が見慣れない事に関してはここにいる全員がそうである―――銀髪のコック。
 近付き、横並びになる。視線すら向けられない。
 精悍な横顔を見下ろす。綺麗な顔は跡部と同じだが、跡部が持つ気高さの代わりに彼からは冷たさが滲み取れた。
 唇に指を当て、薄く笑う。こういうのも好みだ。
 通り過ぎる後姿に、
 声をかける。





 「千葉の古豪、六角中3年テニス部エースの佐伯虎次郎がンなところで何やってやがる?」





 ぴたりと足が止まった。
 振り向かれる。前髪がさらりと揺れた。
 濃紺の両目を見据え壁から身を起こすリョーガに、振り向いたコック―――佐伯は笑いかけた。冷たさを消した、いつもの爽やかな笑みで。
 「わざわざ俺の事まで調べたのか? ご苦労な事だな」
 「そりゃ、たとえ選手には選ばれなくってもその候補には挙がったヤツだしな。調べて当然だろ」
 「じゃあさっそく訂正。俺は『エース』じゃない。『1年』じゃないからな」
 「そう解釈するか? 普通『トップの実力』って考えねえ?」
 「俺は考えない」
 「謙遜は別にいいけどな」
 弄んでいたオレンジを軽く投げる。受け取り、佐伯は律儀にエプロンで拭いてから齧ってきた。
 その間に、リョーガが開いていた距離を詰めた。
 「美味いじゃん、コレ」
 「将来有望なコックに褒めていただけるとは光栄なモンだ。にしても―――」
 ぴたりと止まり、
 「―――おかげで何人か気付いたみたいだぜ、お前の事」
 「別にいいさ。わかりやすいようにわざわざ魚でやってやったんだから。まあ、気付かれなかったら『ば〜かば〜か』とか笑い飛ばしてやれたけどな」
 「お前もつくづくわかんねえな。最初の話題に戻るけど、マジで何しに来たんだ? よりによって敵側に回るなんてよ。アイツらに恨まれんぜ?」
 茶化す。なぜかそれを聞いても佐伯は笑っているだけだったが。
 「割のいいバイトがあったんでな。応募したら受かった。ただそれだけだ」
 「本気でそれだけならさっさとアイツらンとこ行って来いよ。でもって言えばいいじゃねえか。『船員も全員敵に回るから気をつけろ』ってな」
 「それが狙いか? 知り合いが脅せば信憑性は上がるモンな。ただし生憎だけど、俺を味方だと思ってるヤツなんてあの中に1人もいないぜ?」
 「そこまでは考えてなかったな。単純に『仲間』は心配じゃねえのかって意味だったんだが・・・・・・」
 リョーガがにやりと笑った。
 「今のは意外な発言だったな。どうだ? だったら俺らの『味方』になんねえか? 代わりにアイツらに好きなだけちょっかい出せるぜ?」
 「いいぜ? 別に」
 「は・・・?」
 実にあっさりした返事。さすがにあっけに取られるリョーガに、
 佐伯はわかりやすく繰り返した。
 「別にいいぜ? お前らの味方になってやって」
 「ってちょっと待てよ。そこはせめて数秒は悩むモンじゃねえのか?」
 「『時は金なり』って言うだろ? それに渋ったところで返事は2つに1つだしな」
 「マジでいいのか? アイツら裏切る事になんだぜ?」
 「どこが? 元々対戦校のライバル同士だ。その中でいくら友情が芽生えようが特に今回に関しては関係ないだろ? アイツらが自分で選んだ結果だ。『偶然』居合わせた俺がどう動こうと裏切りにも信頼にも繋がらない」
 「なるほどなあ」
 理論整然とした切捨て発言を受け、リョーガが実に楽しそうに笑った。
 「なら、
  ―――ついでに俺のモンになんねえ?」
 笑いながら、顔を寄せる。オレンジの汁の滴る唇に舌を寄せても特に反抗はされず。
 代わりにこんな事を訊かれた。




 「跡部の代理か?」





 リョーガの動きが止まった。
 「よく知ってんな」
 「昼間船上でまるで相手にされてなかったのは見てたからな」
 「ちなみに『そうだ』っつったら?」
 「断る。ついでに男女見境なく手を出すタラシだって言われた場合もな」
 「随分お高いプライドだな」
 「お前のためさ。俺もそういう目でしか見ないからな」
 「・・・・・・」
 先程の佐伯の代わりではないが、リョーガが数秒黙り込んだ。
 笑う。今までとは違う笑み―――苦笑して。
 「思いやり溢れてんだな。俺とは大違いだ」
 「お前も似たようなモンだろ? 随分弟可愛がってんじゃん」
 「世話のかかる弟だからな。面倒見てやんねーとな。
  ・・・ったく、早く自立しろっての」
 「したらしたで泣くクセにか?」
 「ははは。そうかもな」
 乾いた笑い。泣きそうな笑い。
 浮かべ、リョーガが佐伯を壁に押し付けた。
 「どっちでもねえ、っつったら?」
 「『俺の事を真に愛してくれるんなら証拠が欲しいなv』」
 「はあ? 何だその御伽噺でも出ねえ台詞は?」
 「断る」
 「冗談だって。怒んなよ。で?」
 閑話休題。
 問いてくるリョーガの眉間に指を突きつけ、佐伯は小声で囁いた。
 聞いて―――
 「―――は? ンな事でいいのか?」
 「安いモンだろ? あ、ただしバレないようにやってくれよ? アイツらに恩を売るのは嫌だからな」
 「・・・ったく。マジでお前って情に厚ちいんだな」
 「で? どうする?」
 訊き返される。答えなど決まっているというのに。
 ゆるく手をどけ、リョーガは改めて佐伯の唇についた雫を舐め取った。
 触れ合うほど近くで、囁き返す。
 「いいぜ、呑んでやる。代わりにお前は俺のモンだ。で、いいな?」
 「いいぜ?」



―――4前編








 ―――こういう事を考えているおかげで、この話の
CPが不明となりました(爆)。最初はリョガ→跡リョだったのに、なぜだかリョガ→リョマ&サエ→跡部でフラれたモン同士がくっついたちっく? 何だか結局弟取られた腹いせに跡部に絡んでいたようですリョーガお兄ちゃん。実際はどうかはともかく、こういう弟に構うお兄ちゃんは大好きです! そう! なんでここまでリョーガ好きになってたのかと思ったら、ワンピのエースに被るからだ!! 書いてて今よーやっと気付きました! やっべ。次の話はリョガリョですか!?
 さて話を戻して? 出て来ないと堅く誓った筈の人登場です。やっぱこの人いないとダメですね。そしてサエとリョーガ。すっげー裏で何かやってそうで怖いです。さってサエはリョーガに何をお願いしたんでしょうねえ。それは次回・・・・・・にはまだ出てこなさそうです。

2005.2.3