せんじょうの騙し合い Party Game








  5.2日目午前中 −ダブルス編− <
α

 「試合はダブルス3試合、シングルス3試合だ。エキシビジョンマッチであり、各試合の勝敗はそれ以上の意味は持たない。だが、
  ―――油断は禁物だ。全試合勝ちに行くぞ」
 『おー!!』



 「相手はガキとはいえ実力はそこそこにある。だからこそお前たちを集めてきたのだ。高校テニス界で名を馳せるお前たちをな。
  ―――負けたらどうなるか、もちろんわかっているんだろうな」
 『はい!!』








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 午前中はダブルス戦だった。
 1試合目。まずは不正は許せない真面目な2人―――手塚と真田が出た。2人ともそうそうダブルスはやらないが、少なくとも某俺様よりは協調性があるらしかった。
 あっさり勝ち、一同を波に乗せると同時に引き返せなくした。





 2試合目。
Jr.大会でも見せた英二と忍足のペア。2人ともダブルスは慣れている上相方は普段のパートナーとタイプがほぼ同じ。
 全く心配しなかった通り、実に何の問題も盛り上がりもなく勝利を収めた。





 3試合目。今回一番心配な試合はなんと切原と千石のペア。何が心配か、わざわざ言うまでもないだろう。シングルスプレイヤーのイメージが強いこの2人にダブルスが出来るのかなどと。実際オーダーを決めた手塚も、その様を見ていた周り一同も誰も考えていなかった。千石たっての希望でなければ、そしてそれを聞き跡部が賛成しなければ絶対通らなかった。跡部の賛成というとますます不安を煽るが、残念ながら彼の脅迫まがいの『説得』を跳ね除けられる度胸の持ち主は誰もいなかった。まあ、実際は千石の「だって・・・他に出来る人いないじゃん」という静かな突っ込みが決定打となったのだが(この残り5人の中で唯一ダブルスが出来るのは不二だが、相方に誰も選びようがないのではしょうがない。最早自主的に言った人にするしかないだろう)。
 見物者7人に捨て試合として扱われていたこの試合。実際『シングルスプレイヤー』の2人にダブルスは無理だった。だからこそやらなかった
 「まさしく、『食わせ者』の発想やな」
 「なんか、切原にすっげー同情したくなるかも」
 「大丈夫だよ英二。多分君らも似たように周りから見られてるから」
 「俺と大石はそんな事ないもん!!」
 『シングルス』として試合をした2人。正確には―――シングルスとして試合をさせられた切原。千石はサーブ以外ロクに球も打たず、たま〜に切原が逃したもののみ返していた。
 良く言えば切原を主体としたダブルス、悪く言えば・・・・・・切原を囮とした完全切捨て作戦。どちらにせよ、ダブルスど素人の切原と、その彼に始終挑発され1人しか見ていなかった相手ペアは全く気付かなかったようだ。千石の一人勝ちだった事に。
 「ゲームセット! ウォンバイ切原・千石ペア!」
 汗びっしょりでぜーはーやってる切原とは対照的に、涼しい顔で息ひとつ乱していない千石は審判のコールを受け観客に笑顔で手を振ったりしていた。
 「いや、お前何もしてないだろ・・・・・・」
 そんな突っ込みを一部の人にさせつつ。








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 「とりあえず、ダブルスは全勝か」
 「ま、いい傾向じゃねえの」
 選手控え室でなされる会話。波に乗り盛り上がる一同の頭には、最早『危険性』という言葉は完全に抜け落ちていた。ついでに、
 「ところで菊丸くんは?」
 「さあ?」
 「別にいいんじゃないっスか? いてもうるさいだけだし」
 「そりゃ言えてるぜ」
 「赤也! 仮にも菊丸はお前の先輩だぞ!?」
 「『仮にも』なんかい真田・・・・・・」
 「ふ〜ん」
 ・・・このメンツで最も盛り上がるだろう人がいなかった事もまた。





 選手控え室・・・・・・を抜け出し。
 英二はもうひとつの控え室へと向かっていた。桜吹雪チームの控え室へと。
 「おチビのお兄さんが黒幕? ンなワケないっしょ。俺が絶対お兄さんの無実証明してやるんだからな・・・!!」
 小声で気合を入れ、上を見上げる。この上に問題の控え室がある。
 左右を見渡す。周りに人影はない。確認し、
 「よ、っと」
 英二は上の通路の柵へと手をかけ、飛び上がった。





 器用に上へと上っていく英二を、陰から見る影がひとつ。
 「ふ〜ん」
 現れたその影は、軽く頷くとその場を離れていった。



―――5β