せんじょうの騙し合い 〜Party Game〜
5.2日目午前中 −ダブルス編− <γ>
急いで部屋に戻る英二・・・1人。千石は先ほど放した猫の回収を、と消えてしまった。
「まさか跡べーに怒られんの俺だけに押し付けたんじゃねーだろーなあ・・・」
今の成り行きを話せば必然的に触れざるを得なくなる。すっ飛ばして会話の内容だけ言ってもいいが、その前後も多分訊かれるだろう。なぜ行ったかと―――何もなく戻って来れたか。嘘はそこまで苦手ではないが(苦手ちっくに見せているそれこそが嘘だ)、相手は眼力を得意とするあの跡部。どこまで誤魔化しが通用するか。
「いっそ千石に全部押し付けるってのも・・・」
無断で連れ出したのは千石だ。これはこれで問題はない。ないが・・・
「やっぱ助けられた以上責任押し付けちまったら悪いよなあ・・・・・・」
―――一昔前のヤクザではないが、これでも英二は仁義にうるさく人情に厚い。だからこそ自分の仲間をあっさり捨てる桜吹雪が嫌いなのだ。
と・・・
前からのんびり歩いてきた男に、英二は珍しくまともに顔色を変えた。当面一番の『敵』に。
「越前リョーガ・・・・・・」
「よっ、菊丸クン。試合勝利おめでとさん。おかげでこっちのオーナーかんかんだぜ? 大損したってな」
笑顔で手を上げるリョーガ。こちらが盗み見していた事に気付いているのかいないのか、その様子には全く何の気負いも警戒もなかった。
英二も合わせ、普通に話す。
「あ、そう。ま、俺たち強いからね」
「確かにな」
笑いながらすれ違う。すれ違おうとして・・・
ダン―――!!
「ぐっ・・・!!」
英二は襟を捕まれ、壁に思い切り押し付けられた。
(やっぱ、コイツマジで強ええ・・・!!)
こちらは警戒していたのだ。何かされたら即座に対処出来るように。警戒の強さでは先程の千石相手の比ではない。なのに何も出来なかった。
呻く英二の耳元に、リョーガが鋭く囁く。
「シングルスの3人に伝えとけ。次出るヤツはマジでヤバい。ぜってー油断すんなって」
「え・・・・・・?」
囁くだけ囁き、あっさり解放された。何事もなかったかのように通り過ぎようとするリョーガに、英二は詳しく聞こうと手を伸ばした。
振り向くリョーガ。最初と同じ笑顔で、手に持っていたものを投げてくる。
オレンジをキャッチした英二に、いたずらっ子のような笑みを見せた。
「乱暴しちまったお詫び。ストレス溜まってる時にビタミンCはいいらしいぜ?」
「あ、あ・・・」
千石を上回るワケのわからなさを抱えたまま、英二はとりあえずもらったオレンジを齧ってみた。リョーガの真似で、皮ごと。
「うわ苦ッ!!」
「ははっ。そりゃそうだろ。マーマレードでもその苦さ売りにしてんだから」
「お前それ先に言えよ〜!!」
「何にも言わずに食ったのお前だろ?」
「やっぱお前おチビの兄貴だよな〜・・・・・・」
「そりゃどーも」
わざわざ弟の口調で言ってくる。今度こそ去ろうとするリョーガに、英二もようやく急いで戻ろうとしていた事を思い出した。
戻りかけ―――ぴたりと止まる。去り行くリョーガに、大きく手を振った。
「サンキュー!」
「どーいたしまして」
軽く手を振り返してくるリョーガ。走り去りながら、英二は力強い笑みを浮かべた。
(やっぱアイツいいヤツじゃん!!)
・ ・ ・ ・ ・
英二の姿が完全に消えたところで、彼が押し付けられていた壁―――ではなく実は丁度扉だったところが開いた。中から出てきた少年は、去りかけていたようでただ英二を促し自分は去っていなかった相手、つまるところリョーガを見て苦笑いを浮かべた。
「で、そのお前曰くの『マジでヤバいヤツ』が俺?」
昼休憩中だからか仕事熱心だからかそれとも他に服がないからか、今だコック姿の佐伯にリョーガが笑ってぱたぱたと手を振る。
「他に誰がいんだよ? シングルスの2人は他のヤツに比べりゃちったあ上だが、跡部クンと不二クン相手じゃ問題外だ。俺の実力はわざわざ言うまでもなくチビ助はよく知ってる。何日か前もハンデたっぷりつけてやってボロクソに負かしたばっかだ。となりゃお前しかいねえだろ?」
「随分買い被ってくれんだな。俺のテニスなんて見た事ないだろ?」
「あるさ」
返され、佐伯はきょとんとした。もちろんここの船に乗ってからではない。乗ってから自分が握ったのはせいぜい包丁までだ。事前に会った記憶はない。同じ名字に似た顔の2人に会えば、リョーガとリョーマ、どちらかに会った際気付いていた筈だ。
後あるとすれば・・・
「そういや俺が選抜候補だった事も知ってたな。そん時のビデオでも観た?」
これの可能性は少ない。練習試合やら合宿やら含め他の公式戦でもだ。いっそ自慢するが、テニスを全く知らないど素人ならともかく少しでも齧った人間の中で、それらを観て自分を『強い』と判断する者はまず皆無。帝王や天才と比べれば実に平凡なプレイヤーと判断される。去年のJr.選抜に選ばれたのも、いつもの様子を見ていたオジイの強い押しがあったからだ。しかもそれですら亮の代理。他に選ばれた選手らは実に不思議がっていた。なんで自分なんかが選ばれるのか、と。
リョーガほどの実力の持ち主が、まさか他者の実力比較をまともに出来ないなんて事はないだろう。味方だから押し上げたわけでもない。となると・・・
「いつだったか小せえころ・・・・・・ああ、確か7・8年前だ。お前アメリカで試合した事あるだろ。元下っ端プロ相手の非公式戦」
「・・・・・・」
佐伯の顔から表情が抜け落ちた。それは幼馴染ですら知らない事。誰も知らない・・・・・・筈だった。
一族が世界中に散っている佐伯家。『家族再会』で外国に行く事は別に珍しくなかった。親の仕事の都合がついたら準備0で海外に渡り、仕事が入って準備0で戻る事も。そして・・・・・・準備0過ぎて置いていかれる事も。
当時7歳だった佐伯。小学校(つまりは氷帝幼稚舎)に上がったばかりの彼に、宿泊費及び帰りの交通費など用意できるワケはなかった。しかもタチの悪い事に親戚の住んでいるのは山奥の村。丁度抜け出て帰る前に街で一泊、といったところで置いていかれた。日本は遠いが親戚のいるところも遠い。まさかこんな情けなさ過ぎる理由でここまで迎えに来させるのも悪い。間違いなく主犯である母親に呪詛を飛ばしながら、何とか食いブチ稼ぎのバイトがないかと探していたところで・・・・・・
―――佐伯はソイツに会った。
テニスバッグというのはラケットの他にいろいろ入れられて便利だ。替えの衣服程度しかいらない小旅行なら、これ1つで十分事足りる。その男は大きなバッグをえっちらおっちらと担いでいる姿を見て声をかけてきたのだろう。
『君、テニスやるのかい?』
出し抜けに聞いてきた男に、佐伯は頷いてから理論整然と現在の状況を並べ立てた。身なりのいいおじさん。同情で金を貰うのは嫌だが、上手くいったらバイトの1つくらい紹介してくれるかもしれない。
そして男は、佐伯の希望通りの言葉を言ってくれた。
『なら、ひとつテニスの試合をしてくれないかな。今してくれる子を探してるんだ。もちろんやってくれたらお礼はするよ。
ああ、堅く考えなくていいよ。大会最初のちょっとしたパフォーマンスでね、君ぐらいの小さな子が頑張る姿はみんなを喜ばせるからね』
もちろん頷いた。挙句勝ったら礼は弾めとまでがめつく頼み込んだ。
笑ってOKを出された。どうせその程度はした金だ・・・・・・とはさすがに直接言われなかったが。
連れて行かれたところは、船ではないものの今回の会場によく似ていた。つまりは―――賭けテニスの会場に。
規模は今回の比ではない。派手にドレスアップした観客一同。顔を隠す仮面を外せば、さぞかし豪勢な顔ぶれとなるだろう。
自分に与えられた役割は実に簡単だった。オープニングパフォーマンス。本格的な賭けの始まる前の、文字通り見せ物になれというもの。対戦相手の、いかにも『強そう』な大人が出てくるより早く、佐伯は全てを悟っていた。強い大人に弄ばれる非力な子ども。さぞかし観客の嗜虐心を煽り立てるだろう。確かに『みんなを喜ばせる』わけだ。
どうせコレにもまた、別途に見物料を払っているのだろう。冷めた目で周りを見回す。『見た目いたいけな子ども』のカテゴリーに入ってしまった事に若干ムカつきを憶えるが、その他は別に何も思わない。金につられてのこのこ来たこちらもいい勝負だ。
見回し、薄く笑う。今日この場にいる相手とは、今日この場限りの付き合いだ。何を見たところで関係ないだろう。
1セットマッチの試合。結果は6−1で佐伯の勝利だった。もう少し詳細を見れば・・・
―――2ゲーム目以降は相手に1ポイントも取らせない、佐伯の完全ワンサイドゲームだった。
怯える観客と再起不可能の相手選手を見回し、佐伯はにっこりと笑ってみせた。よく周りから、テニスをしている時の自分はまるで獲物を捕らえるハンターのようだと言われるが、正真正銘自分のテニスは『狩り』だ。獲物をとことんいびり倒し、極限まで恐怖を与えた後殺す。周りからの怯えた眼差しはむしろ勲章だ。
佐伯が普段『平凡な実力』しか出さない理由。コレをやると周りの自分を見る目が大幅に変わるからだ。かつての切原のような、ボールをぶつけられる物理的恐怖ではない。佐伯が与えるのは、何をやっても無駄という精神的恐怖だ。逃れる事は出来ない。立ち向かう事もまた。傷ついた体は回復出来ても傷ついた心は回復しにくい。先ほどリョーガの言葉の中で、相手選手に『元』とついたのはそれからすぐ原因不明で引退したからだ。プロをだけでなく、その後テニスには一切関与しなくなったという。時期から見てこれが原因だと考えるのが普通だろう。別に同情はしないが。
最初の約束より多くの金を受け取り、ほくほく気分でその場から出てきた。『多くの金』は二度とここへ来るなという意味を込めてだろう。元々二度と来る気もなかったのだから構わない。
日本に帰ってきても、誰にもこの事は言わなかった。件の選手の引退も、普通に「へ〜」としか受け取らなかった。後は時が経ち、自分の記憶の中から風化し抹消される、ただそれを待つだけだった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・筈だった。
「まさか、アレを見てたヤツと会うとはね」
抜け落ちた表情を再び入れる。素での苦笑に、リョーガは目を細めた。
あえて触れず、肩を竦める。
「お前の次が俺の試合―――パフォーマンスだったからな。一応結果報告だけしとくと、お前よりは地味な感じで6−0で勝った。それが目に止まってスカウトされたんだよ、桜吹雪のおっさんにな」
「アイツもいたのか・・・」
「会う時ゃ要注意だな。多分憶えてんだろ。ありゃなかなか忘れられねえモンだったからな」
「お前もか?」
佐伯が素ではなく笑った。卑屈な笑い。
『マジでヤバいヤツ』―――この言い方が全てを物語っている。リョーガもまた、自分とは違う人間だ、と。
視線を逸らし無理矢理笑う佐伯。逸れたのをいい事に近付き、
リョーガは佐伯の目の前に立った。
頬に触れ、顔を持ち上げじっと見つめ、
「ああ。忘れなかったぜ。心の底から惚れ込んだお前の事はな」
「え・・・・・・?」
佐伯の目が上がり、ぴたりと合った。
愛の睦言のように、囁く。それが実際は何なのか、囁くリョーガ自身にもわからないまま。
「あん時の試合は忘れらんねえよ。今でも思い出すだけで震えが来る。一発で墜とされた」
「それは、ただ恐怖心で―――」
「かもな。だが襲われて生き残る確率3億分の1って言われる人食いザメをそれでも追い回すヤツらがいる。怖くはねえのか? そりゃ怖ええだろうな。いつ自分が3億分の299999999に入るかわかんねえ。ならなんで追う? 恐怖以上の魅力があるからじゃねえのか?
お前のテニス見て心底思った。なんで相手が俺じゃねえのかって。強さそのものじゃねえ。お前より強ええヤツとならいつもやってた。
足りなかったんだろーな、俺も。自分が本気で戦える相手。大抵のヤツには楽勝で勝つかボロ負けするか。はっきり言ってテニスにそこまで興味は持ってなかった。
―――お前見て変わった。一気にテニスにのめり込んだ。朝晩1日中練習してた事もざらだ。
お前と戦いたかった。俺も追い詰められんのか、それとも逆に俺が追い詰めんのか。獲物か獣か。極限状態で戦ってみたかった」
「俺、と・・・・・・?」
無防備な姿。これが本来の佐伯―――『子どもの佐伯』なのだろう。相手を傷つける事を恐れ、牙と共に封印してしまった幼い心。壊れて消えるようぞんざいに扱い、それでありながら今だ残り続ける純粋な心。テニスがしたい。本気で戦いたい。ただそれだけなのだ。願いは。
自分もよく知るその想い。佐伯のプレイがそこまで特殊なワケではない。元来の実力が高すぎるのだ。普通にやるだけで相手を圧倒する。だからあえて追い詰めるプレイをするのだ。そういうプレイをするから相手が怯えるのだと、そう無意識のうちにイイワケ付けるために。
そして自分はだからこそ『裏』に回った。イイワケの内容を『八百長なんだから相手が怯えて当然』に変えて。
佐伯から離れる。面白がるようにくっくっくと笑えば、張り詰めていた空気は一瞬で霧散した。
「今回なんでこのチーム呼んだと思う? あ、選んだの俺なんだけどな」
「さあ・・・?」
ついていけずに瞬きする佐伯。今度は視線は向けず、リョーガは明後日の方向を向いた。どちらかというと一昨日以前―――昔の事か。
「『日本の適当に強そうなガキ選べ』。ンな事言われたってなあ。俺がそうそう知ってるワケねえし。
仕方ねえからとりあえずよく知ってるチビ助の周りから調べたんだよな。アイツの実力ならよく知ってるし、アイツ基準にして互角に張り合えそうなヤツ適当に集めりゃいいか、って事で。
―――試合のビデオ見てすっげーびっくりしたぜ。対戦校にお前がいた」
「ああ。関東準決勝か」
「お前とは一回会ったきりだしな。その顔その髪、しゃべってんのが英語とくりゃそもそもどこのヤツかもわかんなかった。名前なんて言われなかったしな」
「それに関しては賛成するよ。かなりいろんなトコの血が混じってるからな。地元にいて外国人扱いされんのはいつもの事だ」
「最初はお前の学校呼ぼうかと思った。けどやんのが八百長だからな。お前が一筋縄でいかねえ事はわかってたが、命かかってる状態じゃどうするか。さすがに自信なかったから止めた。手加減されたんじゃ面白くねえ」
「んじゃこのメンバーって・・・」
「ここ足がかりにしてお前に近付こうかと思ってた。無関係じゃねえだろ? 候補には上がってたんだからな。
―――まさかお前が直接乗り込んでくるとは思ってなかったけどな」
「けどよく気付いたな。俺が従業員に混ざってたって」
「昨日言っただろ? 何人かがお前の料理食って気付いたって。俺も同じ料理食べてな。いつものレトルト品じゃねえ事は一口でわかった。
『従業員』の顔なんぞ1人1人覚えちゃいねえからかなりの賭けだったが、もしかしたらビデオでチェックした誰かが潜り込んでるかと思ってな。いざって時に寝返られたら面倒だ。とりあえず誰が裏切りそうか確認しとこうかと厨房行ったんだよ。
厨房にいたお前見た時は笑いたくてたまんなかったぜ。よっぽどすぐ声かけようかと思った。ただし他のヤツの前でンな事バラしゃそれこそ試合なんぞ夢のまた夢になってただろーから1人になるまで待ってたんだけどな」
今の話が全部本当だという保障はどこにもない。それこそ、こんな風に親しげにする事でこちらの動き―――『裏切り』を封じているのかもしれない。それでも・・・
本当に嬉しそうに笑うリョーガに、佐伯もまた笑みを浮かべた。笑顔のまま2人が近付き、そして離れ。
「ファーストキスはレモン味なんてよく言うけど、お前とやるとずっとオレンジ味だな」
「つまり初めて?」
「いいや?
―――ミルクとかちょっとついてると舐められてた。拭くより楽だったんだって、母親曰く」
「・・・すげートコからカウント始めたな。もーちょっと違う意味にしねえ?」
「千葉に越した最初の夏海で溺れてる人を発見した。呼吸停止状態だったからその場で人工呼吸を施したところ駆けつけたライフセイバーに誉められて勧誘された」
「・・・・・・確かに意味は違ったな」
「そんな感じで」
「他ねーのか!? 普通の意味でのキスはどーしたんだよお前?」
「つまり好きな相手同士でそれ自体を目的とするキス? ないけど?」
「・・・・・・・・・・・・そ、か」
それは果たして自分とのものを抜きにした場合なのか、それとも自分とのものも含めた結果か。
訊き返す気は起こらず、リョーガは話題を転換した。都合が悪くなるとすぐ誤魔化す―――昨日もそれで指摘を受けたか。
(また怒られそうだな、跡部クンに)
「そういやオーダー、お前の言うとおりになったぜ」
「そりゃそうだろうな。Jr.大会でしっかり証明されたからな。『アイツにダブルスは無謀だ』、って」
「んじゃ出番になったら呼ぶからな。それまで適当に見物でもしてろよ」
「ああ。サンキュー」
軽く礼を言う―――まあ交換条件だったのだからむしろ礼は言わなくていい位だ―――佐伯に手を振りかけ、
「お前なんで跡部クンにそこまで拘んだ? 別に誰でもいいんじゃねえのか? 相手」
「アイツだからいいのさ。本気でやれる」
「・・・・・・やんのか?」
リョーガのテンションが一気に落ちる。自分がずっと望んでいた事を自分以外相手にやるのだ。いい気分なわけはない。
雰囲気でむくれるリョーガを佐伯はにやにや笑って見やり、
「ヤキモチ?」
「違うって」
「そー拗ねんなよ。可愛いなあ」
「違うっつってんだろ」
「『本気』でやんのはこれで4回目だ。最初にやった相手が跡部だ。2回目ならショックも小さいだろ? それに跡部は踏みつけられて育つ派だ」
「よくわかってんだな、アイツの事」
「そりゃずっと一緒でよく見てるからな」
「へ〜・・・」
「やっぱヤキモチ?」
「違うに決まってんだろ!?
・・・ってちなみにもう1人って誰だ? 跡部クンにあの元プロに・・・」
「これはお前の知らない相手。今じゃなくって全国後だったら多分越前観察ビデオに映ってたと思うけどな。
ちなみにそいつはタイブレークまで粘ったよ。そこで俺が止めたから結局そいつの勝ちになったけどな」
「なら、
―――俺はラストまでやらせて勝つぜ?」
「どうぞご自由に。ま、とりあえずは弟に勝てよ?」
笑ってかけられる言葉。かけた当人としては、ちょっとひねくれ気味の応援のつもりだろう。
「そりゃもちろん―――」
かけられ、応えかけ。
リョーガが一瞬息を詰めた。
―――『俺が勝ったら、跡部さんもらうよ』
・・・負けた時どうするか決めていなかった。
(えっと・・・・・・)
こういう言い方をし、なおかつ跡部とも「強いヤツが好きだ」的会話を交わした以上、つまり勝った側が跡部をもらうという事になったのだろう。
(えっっっと〜・・・・・・・・・・・・)
どう答えればいいのだろう。跡部との間ではこの約束は破棄されたも同じだ。リョーマにはまあ・・・・・・散々笑ってやってから『譲って』やればいいだろう。プライドの高い2人がそれでよりを戻すのかは2人次第として、別れたのならそれも仕方ない。さてそれでは佐伯には?
(そりゃコイツは賭けの事なんて知らねえし、そもそも俺のモンっつっても俺が一方的に決めただけだしな。コイツが頷いたのも交換条件があってこそだろ? コイツから見りゃ俺はただ利用するための一時的な『仲間』だしこれが終わりゃまた別れるだけか。普通に返事したトコで別にいいんだろーが・・・・・・)
賭けの話がどこから佐伯の耳に入るかわからない。せっかくいい感じの雰囲気になってきたのだ。ここで頷けば二股肯定。自分は大事にしないクセにどこをどう見てもプライドは高そうな佐伯が知れば、即行破局だろう。
悩んだ末に、
リョーガはどちらとも取れなくもないと思えそうな気もする、そんな微妙な返事をした。
「―――まあ、チビ助にゃせいぜいあがいてもらうぜ」
「何だよそのはっきりしない返事と間は」
「よし! 頑張んぞ!」
―――5δへ