せんじょうの騙し合い Party Game








  6.人質救出作戦 −シングルス編 
First Part− <い>

 大勢の客と大勢の敵の中、孤立無援のシングルスが始まった。
 1試合目は不二。準備を追えコートに向かう彼に、跡部が臨時指揮官として声をかける。
 「出来るだけ相手刺激してさっさと終わらせろ。あの野郎引きずり出してやる」
 「了解」







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 3人が抜けた控え室では、状況は何も変わらないまま緊迫感だけが上昇していっていた。閉じ込められた6人。今だ目を覚まさないコック。開け放たれた扉の外では同じく桜吹雪の手下何人か。それと・・・・・・唯一の出入り口を塞ぐ形で立つ、同じく手下の佐伯。
 「あーもー我慢出来ねえ!! 強行突破だ!!」
 最初に忍耐が切れたのは切原だった。先ほど突っ込みかけあっさり返り討ちに遭ったリベンジも含むのだろう。威勢良く扉に向かい―――
 「まあまあ落ち着きなって切原くん」
 「―――ぐげっ!!」
 再び、今度は千石に襟首を掴まれその場に留まった。
 「何で止めんだよ!」
 微気絶状態の切原に代わり、2番手候補だった英二がクレームを飛ばしてくる。ただし飛ばしたのは千石にではない。
 英二の腕を掴んで止めていた手塚が、視線を扉へと向ける。
 「状況をよく見ろ。俺達の方が明らかに不利だ」
 「サエくんがいるのは扉の外。しかも前にはあのでっぷり太ったコックさん。周りの壁でも壊さない限り、一斉に攻めようにも同時に行けんのはせいぜい2人。しかも踏み越えて体勢が不安定なところで攻撃が始まる」
 説明を引き継いだ千石が肩を竦めた。誰のせいかは不明として倒れた切原を見下ろし。
 「サエくんの『実力』は今見たっしょ? この条件で倒そうと思ったら、それこそ跡部くんが2人必要だ。この中で跡部くんと互角かそれより強いって自信持って言えるのは?」
 「お前は? 千石」
 「残念ながら俺は跡部くんとサエくんにとっては丁度いいサンドバッグ扱い。いっつも殴られ蹴られしてるよ。ね? サエくん」
 「サンドバッグか。じゃあ次は木刀で滅多打ちしてみるか」
 「さすがにサンドバッグでも壊れるからやめて・・・・・・」
 小さくなっていく千石(の声)を横目に、忍足が首を傾げた。
 「せやったらいっそさっき跡部がそのまんま佐伯に向かっとったらよかったんとちゃう? アイツやったらピンで佐伯と互角やろ? 扉から出とったんやったら今の条件はスルーしとるやん」
 「そういやめちゃめちゃやる気だったもんねえ跡べー」
 「無理だね。さっきサエくん、『誰か死ぬかも』って言ってたっしょ? 今外隠れて見えないけど、踏み込んでた人の何人かピストル持ってた。暴れて乱射なんてされたら誰が死ぬかわかんないよ? サエくん含めて」
 「へえ。俺まで心配してくれんだ。サンキュー」
 「そりゃ心配するっしょ。サエくんに何かあったら絶対『精神的ショックに対する慰謝料』とか何とかで死ぬまで払わさせられ続けるもん」
 「死んでも払うんだぞ『香典』v」
 「多分サエくんより俺たちの方が先死ぬと思う・・・・・・」
 それこそ寿命を縮める感じでため息を吐く。もちろん実際に縮まりはしないだろう。佐伯と会話をすればこの程度はいつもの事だ。これで縮まっていたら多分自分の命はあと2・3年といったところだ。
 ため息で話題を終わらせる千石に肩を竦め、佐伯は楽な姿勢のまま持っていたオレンジを齧った。先ほど切原を押さえ込んでいる際も離さなかったオレンジ。そりゃ片手であしらわれたりしたら切原もさぞかし怒るだろう。
 まるでふざけているようで、その実佇む佐伯に決して隙はない。攻められずにますます緊迫感を上げる一同の中で、
 「あれ? お前もオレンジ皮から食うのか? 苦くねえ? 俺もさっきやったけど食える代物じゃねえだろ?」
 先ほどオレンジ信仰者の手により酷い目に遭わされた英二が信じられないという目つきで見た。
 素朴な疑問なのか会話をし隙を作ろうというのか、英二の思惑は残念ながらわからなかったが。
 「サエくんいつも皮剥いてたよねえ? 変えたの?」
 続けた千石は純粋に『素朴な疑問』の方だった。佐伯はオレンジの皮はいつも剥き―――それで油汚れを落としていた。さすが『タダじゃまず転びもしない』と定評の佐伯だけある。・・・まあ皮ごと食えば一番無駄がないような気もするが。
 無視するかとも思えたが、
 ―――佐伯が爽やか好青年として人気なのはこの辺りも理由である。彼は近づいてきた人間を決して無下には扱わない。
 「ああ、最近ハマった」
 そんなこんなで答えてくれた。恐ろしくコメントに困る答えを。
 (深読みしちゃっていいのかな・・・? でもサエくんの事だから言葉通りの意味しかないかもしんないし・・・・・・)
 「・・・・・・・・・・・・。そ」
 悩んだ末、千石は一番無難そうな選択肢として全て聞かなかった事にした。





 そんなやり取りをする事
30分程度・・・・・・





 「―――おいバイト! 呼ばれてんぞ! コート行け!」
 部屋に飛び込んできた―――というのはあくまでイメージで、実際は部屋の手前で止まった足音。中からでは声しかわからないが、唯一見えている佐伯が声の方向を向いて自分を指差しているところからすると声をかけられたのは彼らしい。
 「俺が? 何で?」
 「2試合目やるヤツがいきなり腹痛とかで棄権しやがった! お前テニス出来んだろ!? とりあえず行って繋いで来い! さっきもボロクソに負けたってんでオーナーかんかんだ!!」
 「はいはい。んじゃ行きますか」
 肩を竦め場を離れようとする佐伯に、
 千石が笑って声をかけた。
 「2試合目っていったら、相手跡部くんだね、サエくん」
 「跡部か。なら前回のリベンジでも果たさせてもらうか」
 「ま、頑張ってね」



―――6ろ