せんじょうの騙し合い Party Game








  6.人質救出作戦 −シングルス編 
First Part− <は>

 試合は、千石が予想したとおりの展開となった。
 「ゲーム跡部! 3−3!」
 審判のコールに、会場中からため息が広がった。ため息にも似た、喘ぎが。
 あちらこちらで「もうダメ」といった声が聞こえる。緊迫した試合は、観客にすら呼吸の暇を奪う。
 中心にて、呼吸どころか瞬きすらロクに出来ていない2人は、まだ折り返し地点であるにも拘らず全身汗だくだった。極度の集中があっさり体力を奪う。これ以上このペースで続けると危険かもしれない。
 わかった上で、
 「次のてめぇのゲーム・・・ブレイクしてやるぜ・・・・・・」
 「せいぜいあがいてみろよ・・・・・・」





 「ええい何をやっている!! さっさと勝て!!」
 「いや、ありゃ苦しいだろ。跡部クンマジで強ええし」
 (それに、ホントに踏みつけられて育つ派みてえだしな)
 予想外の苦戦に歯軋りをする桜吹雪に目を向ける事もなく、リョーガは下で行われている試合を食い入るように見つめていた。かつて、初めて佐伯のテニスを見せられた時のように。
 佐伯に変わりはない。『本気の佐伯』はあの時のままだ。違うのは対戦相手―――跡部の方だ。決して逆境に屈しない。どんなにこっぴどくやられても、這い上がり立ち上がる。必殺技は全て返され、本来の彼の持ち味はことごとく殺されている。普通なら絶望を覚えるだろう。だが跡部はその状況を楽しんでいる。どうやって出し抜いてやろうか。思いついては攻略され、それでも懲りずにまた別の事を試す。受ける佐伯も楽しそうだ。そういう相手を望んでいたのだろう。力を見せ付けられ、怯えずなおも立ち向かってくる相手を。
 見つめ、
 小さく小さく苦笑する。
 (やべえな。俺、跡部クンに嫉妬してる)
 それはずっと自分が望んでいたスタンス。このように観客として見るのではなく、同じコートに立ち、真っ直ぐに向き合いたかった。
 これは自分が選んだ結果。佐伯が自分のものになるのと交換で出してきた条件を呑んだ結果だ。



 ―――『明日の試合で、跡部の相手をさせてくれ』




 呑んだからこそ佐伯は自分のものとなり、そして自分ではなく跡部と戦う。
 そんな条件を出してきた理由はわかる。囮となり注目を集める事で、他の者をより安全に逃がすつもりだろう。実際このように桜吹雪は試合を熱心に観戦している。
 わかってはいるが・・・・・・







・     ・     ・     ・     ・









 「では、まず切原・真田。お前が会場へ行き3人に脱出したと伝えて来い」
 「ういっス!」
 「うむ。了解した」
 「残りの者は他の人質を助けに行く。急ぐぞ!」
 『オー!』
 やはり司令塔がいると動きやすい。手塚の指揮で、6人は2人と4人に分かれた。





 まず2人の方。幸い逃げた事はまだ伝わっていない。そして本当に千石の説明通り、船内は混乱に包まれていた。
 バーのようなところを、通り抜けがてら話し声に耳を傾ける。
 「今どっちが勝ってる?」
 「スコアの上じゃ互角。どっちとも言えないな。ただし臨時に入ったヤツが点とって追いかけてる感じだ」
 「え〜ウソ〜! アタシ逆に賭けちゃった!!」
 「心配すんな俺もだ。今後どうなるかだな。もう2人とも相当疲れてる。どっちかが崩れたらそれで一気にカタがつく」
 「お願い〜! 崩れて臨時の人〜!!」
 2人で目を見交わす。時計を見れば、佐伯が抜けて
30分経っていた。
 「マジで互角なんスか佐伯さん・・・」
 「全く驚きだな。だが―――」
 「わかってるっスよ真田副部長。こんなトコでのんびり話聞くんだったら会場行って直接見ろって事っスね!」
 「確かに今やるべき事としては間違ってはいないが・・・・・・根本で何かを間違っていないか赤也・・・」
 「急がないと試合見逃しちまうっスよ真田副部長〜!」
 「・・・・・・手塚、なぜこういう人分けにした・・・?」





 一方4人の方。英二の話を元にすると、捕らわれの人々は控え室に今だいるかもう労働に駆り出されたか、あるいはその他の場所にいるか。『その他』の範囲は広すぎるためまず可能性の高そうなどちらかに向かう事にした。
 「あのコックが脅してたんだからいんのは厨房か?」
 「どうやろなあ。もう昼終わっとるやん。あんま人数いらんとちゃう?」
 「そうだね。もしまだ人手がいるんなら一応正式バイト員だったサエくんが他の場所にいるワケないもんね。仕事サボったらバイト費下げられるし」
 「うわ。問答無用で説得力が・・・!!」
 「ならば控え室から見てみるか」
 見てみて・・・・・・
 「・・・・・・いきなりいるし」
 「話早くて助かるわ・・・」
 「う〜ん。さすがにこれは予想外〜・・・・・・」
 恐ろしいまでのご都合主義的展開に肩をコケさせる3人を他所に、普段からシリアスど真ん中の手塚は今回もまたカッコよく決めてみせた。
 「お前ら・・・!!」
 「お前たちを助けに来た。時間がないため詳しい話は後に行うが、早く荷物をまとめついて来い」
 「た、助かった・・・!!」
 「ありがとな、お前ら・・・・・・!!」
 感極まる彼らは省略し、こうして彼らは無事人質救出を―――
 「こらー!! お前ら何出てきてる!?」
 ―――終えなかった。
 本当に緊急の事態に必要なのは冷静な司令塔ではない。行動を起こすきっかけとなる扇動者だ。
 「見つかった!!」
 「散・開!!」
 今回もかかる千石の極めてわかりやすい解説に、英二がノリだけでばっ! と広げた手。それだけあれば十分だった。
 『わああああああ!!!!!!』
 こちらもノリのいい元人質らの叫びが広がる。追っ手(+手塚と忍足)がついていけずにひるんだ隙に、2人を切り捨て8人は蜘蛛の子を散らすように逃げたのだった。



―――6に