せんじょうの騙し合い 〜Party Game〜
7.賭けの代償 −シングルス編 Latter Part− <tri>
「ゲーム4−1! 桜吹雪チームリード! チェンジコート!」
「どうリョーガ? 俺強くなったモンでしょ」
「やってくれんじゃねえかチビ助。ちったあ強くなったって認めてやるよ! だが―――まだまだだぜ。俺に勝つのは」
「その鼻、すぐに明かしてあげるよ」
「ハッ! 上等!」
「何だか楽しそうだね、2人とも。見てるとこっちまでわくわくしてくるよ」
「元々兄弟の遊びから発展してんだ。いろいろ絡んでむやみにややこしくなっちまってるが、これが本来の形なんだろ。
何にしろ、
―――勝負はこっからだな」
・ ・ ・ ・ ・
楽しそうな下の雰囲気は、もちろん上にまで伝わっていた。
「すっげーすっげー! おチビもおチビのお兄さんも!」
「うわ〜! 俺もやりてー!!」
「うむ。確かにあいつ等とは戦ってみたいものだな」
「せやけどどっち勝つんやろうな」
「わからん。スコアの上では越前の兄の方が有利だが、越前は土壇場からでも逆転をする奴だ。最後までどちらに転ぶかはわからないだろうな。それに―――」
「どっちに転んでも変わりはなし?」
「そうだ。大事なのは勝敗ではない。どのような試合を行う事が出来たか。それで自分は満足できたか。それが何より大事だ」
「手塚が言うとなんっか重みあんね〜」
「つまり、結果として跡部に負けたんも経過が良かったから構わない、っちゅー事か?」
「まあそうだな。もちろん次は俺が勝つが」
「・・・さりげに悔しかったんスね、跡部さんに負けた事」
「たるんどるぞ手塚!」
盛り上がる一同を横目に、一言だけ加わりその後沈黙を保っている千石。彼は、自分の言った密かな皮肉を心の中で繰り返していた。
(どっちに転んでも変わりはなし・・・・・・俺たちの運命はね)
この勝負が終われば間違いなく殺されるだろう。自分たちは。
日本で賭け事はご法度だ。しかもそれにプラスして桜吹雪はどれだけの違法行為を犯した? 脅迫、詐欺、強制労働に銃器所持。調べればさらにいろいろ出てくるだろう。
従業員及び客は決して口を割るまい。何らかの形で同じ罪を背負っているのだから。
割るのならば自分たちだ。口止めの脅しに屈しないのはずっと証明している。他はともかく跡部財閥総帥息子相手に『口止め料』など払えるワケはない。となれば後は口を封じる事だ。殺して海に沈め、事故と言い張れば万事解決だ。悲しいかな男子中学生。実際はどうあれ、世間一般からの認識としては豪華客船にはしゃいでハメを外したとでも思われるだろう。十分な証拠がなければ『事故』で片付けられる。1人でも生き残って直接あった事を訴えなければ。
―――『念のため言っておくけど、自分だけ助かるからってケンカ吹っかけるのは止めてね。まさか見捨てたりはしないでしょう? 「仲間」なら』
来る前の不二の言葉が蘇る。どこまで本気で言ったのだろう。そして―――誰までを指して『仲間』というのだろう。
自分たち9人+佐伯を指すのならば簡単だ。首謀者である桜吹雪を押さえればいい。桜吹雪を人質に取れば従業員らも手は出せない。『従業員』の中には当然船長も含まれる筈だ。船そのものを乗っ取られれば客らもどうする事も出来ないだろう。そうして警察に連絡し、引き渡す。桜吹雪は逮捕され、自分たちは無事戻れるというわけだ。が・・・・・・
―――『やっぱアイツっておチビの兄貴だよ! すっげー似てる!! だからぜってー味方になってくれるって思うんだ!』
『仲間』にリョーガを加えたならば、この計画は根底から見直す必要がある。桜吹雪が逮捕されたならば、リョーガもまたある程度の罪には問われるだろう。・・・まあ少年という事で刑も随分違うものになるだろうが。
リョーガは他の雇われ従業員とは違う。ずっと桜吹雪と組んで活動し続けている。千石ですらそれをつき止めたのだから、警察もすぐに探り当てるだろう。第一桜吹雪がリョーガを庇う理由はない。
(となると・・・)
リョーガの立場からすれば桜吹雪は逮捕させたくないだろう。自分たちが反乱を起こせばまずリョーガが立ち塞がると考えた方が良さそうだ。
(切り札、か・・・・・・)
彼の妨害を封じる手段。彼を一時的にも『味方』につける手がないわけではない。現に先ほどそれの使い方を間違えた桜吹雪は危うくリョーガを失うところだった。
問題は・・・・・・
(サエくんをどう使うか、だね)
人質に取る案はもちろん不可。というか佐伯を人質に取れる者などこのメンバーにはいない。全員逆にやられて病院送りだろう。
『友情』にでも訴えてみるのもいいかもしれない。情に厚い佐伯ならばなびかれてくれるだろう。佐伯とはそもそも敵対していないのだから。だが、
(それだとサエくんが俺達の方に『寝返った』事になるし・・・・・・)
越前兄弟はよく似ている。英二の言葉が、今では恐ろしいまでに皮肉に聞こえる。
確かに2人はよく似ている。独占欲が強く、好きな相手に少しでも邪魔が入ればすぐ怒り出す。跡部と一緒にいただけで一体リョーマに何度睨まれた事か。先程のリョーガの行為もこれだ。一見佐伯を助けるヒーロー的偉業だったが、実情は単に佐伯に桜吹雪が纏わりついていたのが気に食わなかったのだろう。
(・・・・・・なんていう風にしか取れないから『冷めてる』ってみんなに言われるんだけどね)
は〜っとため息をつく。もう少し現実を見ようよみんな・・・。
閑話休題。
佐伯が自分たちの元へ来たのならば、ややこしいのが跡部の存在だ。ボイラー室にばかりいたおかげでほとんど見逃したが、先程の試合をそれでもラストだけは見た。本気で戦い合う2人と―――それを実に機嫌悪そうに見下ろすリョーガを。その表情はまさしく跡部に後ろから抱きついた時にリョーマが見せるものと同じ。つくづく越前兄弟は以下略。
自分たちの元へ来るイコール跡部の元へ戻るだ。実際もちろんそんな事はないのだが、早とちりキングたるリョーマによく似た兄ならばこの程度の考えを起こしたところで不思議ではない。そして、それによりヤケを起こしたところで。
(俺も何っ度! リョーマくんに誤解されて殺されかけたか!)
8割方誤解される事をやっている自分の責任なのだが、まあその辺りを追及するのは今度にするとして。
(だとしたら・・・・・・)
方法が、ない事もないではない。つまりない―――というのは冗談として。
桜吹雪の味方にも自分たちの味方にもなれそうにない佐伯。ならば誰の味方にもならなければいい。そしてリョーガを佐伯の味方にすればいい。佐伯の味方として罪の1つや2つは笑って償ってもらおう。それで佐伯が助かるのだ(強調)。リョーガにとっても実に安いものだろう。
(問題があるとしたら・・・・・・そう巧くいくか、だね)
方法はある。佐伯を周りから孤立させ、リョーガだけを味方にする方法。英二の言い分ではないが、佐伯とリョーガを自由に操るカードを、多分自分だけが持っている。
ただし―――
(失敗すれば間違いなく殺されるだろうね。サエくんも、リョーガくんも)
後ろ手に縛られ拳銃を突きつけられと、まさに殺される一歩手前の自分たちに比べ、佐伯とリョーガが自由な理由。桜吹雪から見れば、2人はまだかろうじて『味方』だからだ。さて、そんな2人が一番の裏切り者だったと知れば桜吹雪はどうするか。わざわざ考えるまでもあるまい。
(あんま、分の悪い賭けすんの好きじゃないんだけどね)
『ラッキー』なのは厳密には正確なのではない。自分は勝てる賭けしかやらないからだ。
なのに―――よりによって自分たちの命を賭けたこの局面で、成功が保証されていない賭けをやろうとしている。正気の沙汰ではない。だが、
千石は祈った。生まれて初めて真剣に。
(ラッキーの女神様。ど〜〜〜かお願いですから俺のラッキーがここで尽きませんよーに!!)
・・・まあ祈り方に多少の問題はあるようだが。
神からの返事は来たのか否か。とりあえず覚悟を決め―――よくよく考えてみれば成功失敗に関わらずまず殺されるのは自分だった。佐伯とリョーガの手により―――、
千石は佐伯を見た。にっこりと笑って。
「ねえサエくん、君リョーガくんとどこまでいった?」
「え・・・?」
佐伯が振り向く。試合を見ていた他のメンバーもこちらを見てきた。
「まったまた〜♪ とぼけないでよv 君リョーガくんとデキてるんでしょ?」
わざとらしい大声に、桜吹雪と、そして下で試合をしていたリョーガが反応を示してきた。
(かかった・・・!)
これから引き寄せ、たるませ、翻弄し、いいタイミングで引き上げる。自分は魚相手の釣りなどした事はないが、多分こんな感じなのだろう。一瞬一瞬が真剣勝負。少し油断しただけで獲物はするりと逃げていく。逃してはいけない。地獄へと落としては。
「俺と、アイツが・・・? なんでそんな―――」
表情を硬くし、それでも平然と返そうとする佐伯を遮り続ける。
「あっれ〜? 違うの? でも君たち・・・・・・
――――――元々知り合いだったよねえ?」
「何!?」
『ええっ!?』
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