せんじょうの騙し合い Party Game








  7.賭けの代償 −シングルス編 
Latter Part− <penta

 一人立ち直ったらしいリョーガを見下ろし、佐伯の機嫌はますます下降していった。
 (何だよアイツ!! あっさり立ち直りやがって!! やっぱ俺の事本気じゃなかった証拠だろーが!!)
 ・・・・・・どうやら佐伯の頭に『落ち込む』という観念は存在しないらしい。どこをどう見てもプライドは高そうだというリョーガの批評が正解だった事が証明された。
 「あの〜、サエくん・・・」
 「あ゙あ゙・・・!?」
 「いやそんな・・・。跡部くんばりのドス効かせて振り向かないで・・・・・・」
 聞こえたもう一人の怒りの元凶の声に、ぎっ!! と目線を向けた―――というか睨み付けた。
 「君にひとつだけ言っておきたいんだけどさ」
 「遺言なら伝える義理はないからな」
 「いきなり死決定!? とりあえず君に謝っておこうかな〜と」
 「今更良心を見せたところで情状酌量の余地はないな。死刑決定」
 「判決早ッ! そういうスピード勝負な裁判も確かに斬新でいいけどね」
 「そうか覚悟は決まったか。十三階段連れてくのもめんどくさいし、丁度目の前に海あるから今すぐ飛び込め」
 「無視して先いかせてもらうけどね。どうも君が勘違いしてるみたいだから訂正しておくよ」
 「そうやって難癖つけても判決は翻らないからな」
 「君に手紙送ったの俺。リョーガくん全然知らなかったよ? メンゴ☆」
 「自白なんてしたところで―――」
 そこで、佐伯が言葉を止めた。
 向き直り、改めて問う。
 「・・・・・・今なんて言った?」
 「だから、君に手紙送ったのリョーガくんじゃなくって俺。だからその前の日に教えたっしょ? 俺たちがここに招かれた事」
 「じゃああの写真は?」
 「公開されてた君の手配写真適当にプリントした。ていうか、その当時のリョーガくんが撮ってたら怖いっしょ。そんな頃からストーカー?
って感じで」
 「ついでにあのメッセージは?」
 「今語り合ってるでしょ? 写真の事」
 「そもそもなんでまた、そんな事・・・?」
 「ぜひとも君とリョーガくんが会ってるところを見てみたくってね。ただの興味本位。都合よく俺らも呼ばれたし、何かあっても何とかなるかなって思って」
 「・・・・・・・・・・・・。
  それを信じろと?」
 「いや別に。俺の言動に説得力が欠片もないのは俺が一番よくわかってるから。この話来た時も素直に喜んだのに、よりによって跡部くんに怪しまれちゃったよ。眼力空回り☆」
 「うっせえ!」
 下からの突っ込みは聞こえなかった事にするとして。
 「でもねサエくん、君は俺は信じられなくてもリョーガくんは信じられるんでしょ?」
 「・・・・・・以前ならな」
 「大丈夫。『以前』の話だから。
  俺はリョーガくんが無実だって―――君が言ってたみたいな計画を全く考えてなかったって裏付ける事を2つ知ってるよ? どう? 聞く? 聞いて損はないよ?」
 「損はない。得はあるのか? 俺にとってじゃなくてお前にとって
 自分が金につられて動くのならば、千石は自分の損得勘定で動く。負けない賭けをしないのと同じく、メリットのない事は絶対しない。ならばこれを話す事で千石にも何らかの得は起こるというわけだ。
 これ以上千石の手のひらで踊るのはご免被りたい。だが・・・・・・
 ・・・・・・それでも聞きたい。リョーガと過ごしたこの2日間は嘘だったのかそれとも本当だったのか。
 「得? あるよ?
  俺たちの命が助かる」
 「つまり?」
 「リョーガくんにはぜひとも俺たちに協力してもらいたい。協力して、桜吹雪を押さえといて欲しい。けど俺らが持ちかけたところでリョーガくんは聞かないだろうね」
 「俺にその役割をやらせようと?」
 「君の言う事ならリョーガくんも従うさ。なにせ愛は無敵だからねv」
 「くだらないな。第一俺はもうアイツに別れを告げた。今更俺の言う事なんて聞きはしないさ」
 「聞いてるじゃないか。聞いてるからさっさと試合終わらせるんでしょ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 言葉を失くした佐伯。泳いだ視線が、リョーガを見下ろした。千石は知らないだろうが、その眼差しは自分の試合前にリョーガに向けたものと同じだった。同じ―――愛しさを込めた眼差し。
 隙だらけとなった佐伯の体を、
 背後から桜吹雪が抱きすくめた。
 「どういうつもりかは知らんが、堂々と反乱の計画をされてはこちらも黙って見過ごすわけにもいくまい。潰させてもらおうか」
 喉元に押し当てられた包丁。今度は止めるべきナイトはいない。ナイトは下で弟と試合の最中だ。
 が、
 今度止めたのはナイトではなくピエロだった。どこにでも脈絡なく現れ、見た目と中身のギャップで周りに不条理の嵐を巻き起こす実質最強キャラは、笑みのままいきなり一石を投じた。
 「いいの?」
 「・・・・・・。何がだ?」
 「サエくん殺して。本格的にリョーガくんが敵に回るよ?」
 「あ、アイツはもう使いモンにならんからいい!! 次はコイツを―――!!」
 「そのサエくん殺しちゃったら意味ないんじゃん?」
 「ぐっ・・・・・・!!
  なら代わりに貴様を―――!!」
 「まあちょっと待ってよ。もっと建設的かつ効率のいい方法があるんだ。
  ―――賭けしない? 3人で」
 『は・・・・・・?』







・     ・     ・     ・     ・







 「厳密には選抜チームを代表して俺、サエくんは単独だからそのまんま、桜吹雪さんはこの船全体ってトコ?
  タイムリミットはこの試合が終わるまで。賭けるのはお金の代わりにそれぞれの命。あるいはそれに類似するもの。
  やる内容はちょっと変わった三すくみ。サエくんを説得できたら俺の勝ち。桜吹雪さんの手から逃れられたらサエくんの勝ち。どちらも起こらなかったら桜吹雪さんの勝ち」
 「意味がわからんのだが・・・・・・」
 「さっきから話になってるそのまんまさ。カギを握るのはリョーガくん。反乱を起こせば俺たちの勝ち。ただし起こすには火種になるサエくんをその気にさせないといけない。
  反乱が起こらなければ桜吹雪さんの勝ち。試合が終了したらサエくんは桜吹雪さんのものになるって言った。サエくんが入ればリョーガくんも戻ってくる。2人を手に入れて、改めて俺たち9人を殺せばいい。
  これからやるのは俺の説得だね。成功すれば俺たち、失敗すれば桜吹雪さんの勝ち、と。どう?」
 千石は、食わせ者らしく読めない笑みを浮かべ2人を見た。読めない笑みを、それでも読もうとする勢いでじっと見る2人。頭の中で、打算する。
 (受ければさっきの話の続きが聞ける、か・・・。ま、どっちにしろ俺には損はないな)
 「いいぜ?」
 (何にせよ試合が終わればコイツらは始末決定。ヘタに刺激して何かされるよりはこのままタワゴトでも聞いていた方がいいか。穏便に2人が手に入れば万々歳だ)
 「よかろう」
 「承りました。では―――」
 芝居じみた様子で千石が一礼する。まさしくピエロのようだ。ピエロのショータイム。
 「これより、賭けを始めさせて頂きます」



―――hexa