せんじょうの騙し合い 〜Party Game〜
7.賭けの代償 −シングルス編 Latter Part− <hepta>
(やった・・・! これで俺たちの勝ち・・・!!)
ぬか喜びした千石は、
次の佐伯の行動により、思いっきり盛大にコケるハメとなった。
「越前リョーガ!!」
柵から身を乗り出し、怒鳴る佐伯。サーブを打とうとボールを投げた越前弟の方が、てっきり自分が怒られるのかとびくっとした。打ちそこなったボールが頭にぽてっと当たる。
必然的に当人の方も動きを止める事となった。
リョーガを指差し、
佐伯はこう続けた。
「お前俺がお前らの賭けの話知らないとでも思ってんのか!? 勝った方が跡部貰うだと!?
ざけんな!! 二股かけられて俺が大人しく引き下がるとでも思ってんのか!? お前勝ちやがったら即刻別れるからな!!」
この土壇場での最強不条理攻撃に、実際コケたのは賭けをした2名と賭けられた1名、それに話を聞いていた多くの人だった。
その中で、コケなかったのはもちろんこの男。
「な、ふ、ふざけるな!!」
顔を真っ赤にして、桜吹雪が佐伯を後ろから引っ張った。まだ持っていた包丁を突きつける。
マッチポイントまでいっての負け命令。ここで最後の砦であるリョーガまで負ければ自分は終わりだ。
「リョーガ!! 絶対に勝て!! 貴様が負けたらこの男の命がどうなっても知らんぞ!!」
「勝ったら絶倫だ!! 二度と俺の前に現れるな!!」
盛り上がる当事者ら。完全に冷め切る周り。
(な、な〜るほどお〜・・・・・・)
ようやくコレのカラクリを悟る。佐伯はここで一気に勝負をつけるつもりだ。桜吹雪の事。そして―――リョーガの事。
勝ったら別れる。負けたら殺される。リョーガに与えられた選択肢は3つ。さて彼はどれを選ぶか・・・・・・。
(にしてもサエくん・・・・・・。
・・・・・・君が一番恥ずかしいよ見てて・・・・・・)
―――とても本人には言えないが。
「お前苦しいんだろ!? ずっと水の底にいるって思い込むから!
だから助けて欲しいんだろ!? 水面まで引っ張り上げて欲しいんだろ!?
助けてやるよ!! 引っ張り上げてやるよ!! でも忘れんな!! 上がるのはお前なんだ!! お前が決めなきゃどうしようもないんだよ!!
だから逃げるなリョーガ!!」
「――――――――――――っ!!!???」
・ ・ ・ ・ ・
「―――もういいの?」
「ああ、いいぜ」
佐伯に別れを告げられた時と同じやり取り。頷く兄に、首を傾げつつリョーマはサーブを放った。ボールを追いかける兄は、笑っていた。にやりといった、意地の悪い、でもって楽しそうな笑顔。一番よく見る兄の顔。・・・・・・人をからかう時のあの笑み!
サーブをロブで返す。宙を漂うボール。出来た空白の時間に、リョーガは佐伯を見上げた。
勝ったら別れる。負けたら殺される。ならば自分が選ぶのは1つ。
―――『テニスはな、でっけえ夢見せてくれんだ。
お前らも見つけろよ、でっけえ夢をな。リョーガ、リョーマ』
小さい頃から何度も聞かされ続けた父親の言葉。リョーマも憶えていたらしい。先ほど言われた。
父親も弟も、さぞかし大きな夢を見つけるだろう。
(悪りいな親父。俺の夢、めちゃくちゃちっちぇえモンになりそうだ)
それでも・・・
(それでもな、
――――――俺にとってはぜってー掴み取りてえでっけえ夢なんだ!!)
・ ・ ・ ・ ・
ロブを追いかける弟に、呼びかける。
「なあチビ助、オレンジの事憶えてるか?」
「はあ?」
間の抜けた返事。合わせ、返されたボールも間の抜けた感じのロブだった。
「そりゃ憶えてるでしょ。ウチに生えてたオレンジの木でしょ?」
懲りずにロブを打つ。
「そうそう。お前実ぃ取ろうとして木に登ってさ、けどいっつも俺に先越されてやんの」
「そんなのリョーガがいつも打ち落とすから―――」
打ちあがったボールを見ながら言い返すリョーマ。言葉が途中で止まった。
ボールの向こうに空が見える。雲ひとつない、真夏の真っ青な空。
ゆっくりとだが船は走っているからだろう。緩やかな風が頬を撫でた。周りが海なおかげで冷やされ気持ちいい。
それは、慣れない日本の蒸し暑い夏というよりアメリカのカラッとした夏を思い出させた。
記憶がフラッシュバックする。
―――『や〜いここまで来てみろよチビ助!』
オレンジを打ち落としたリョーガは、いつも先を越される自分を笑っていた。そう、今見せているのと同じ笑みで。
悔しくて。悔しくてたまらなくて。
だから自分も練習をした。テニスボールでオレンジを落とす事を。
そしてマスターした。喜び勇んで勝負を挑もうとした時―――
―――そこに既に兄はいなかった。
頂点に達したボールが落ちてくる。景色が空から一転、船の客席となった。
客席ステージ部に、知っている人と知らない人が入り混じっていた。二重に映る世界で、知っている人がなぜかみんなオレンジに見えた。
何も考えずオレンジを狙おうとして、とどまる。
(そうだ・・・。オレンジは狙っちゃいけないんだ・・・)
おかげで何度オレンジを潰してふっ飛ばし、母親に怒られ父親と兄に笑われた事か。
(狙うのはオレンジじゃなくって・・・・・・繋ぎ止めてる枝・・・・・・)
『枝』を探す。何が彼らを繋ぎ止めているんだろう。
繋ぎ止めているものが―――見えた。過去の映像が消える。
「ふ〜ん。なるほどね」
呟き、リョーマは照準を移動させた。チームメイトの頭から、彼らを拘束している従業員の頭へと。
ごっ!!
降る球に 決めるスマッシュ ホームラン
そんなワケでリョーマが上向きに放ったスマッシュは、オレンジや枝より大きく故に当てやすい従業員その1の頭へと見事ヒットした。
「がっ・・・!!」
のけぞるその人。呆気に取られる周り。その一瞬が、彼らにとっての命取りだった。
「このヤロ!!」
「食らえ!!」
両手を縛られたままの6人が、頭突き足蹴り体当たり踏みつけ等々暴行の限りを尽くし、従業員軍団をあっさり壊滅させた。
「き、貴様ら・・・!!」
桜吹雪の注意がそちらへと向く。注意と共に、包丁もそちらを向いた。佐伯を離れて。
リョーガがにやにや笑いながらユニフォームからボールを取り出した。
「そういや俺も食いたかったんだよな、その『オレンジ』」
どごっ!!
弟以上のコントロールの良さで放たれた球が、横を向いた桜吹雪のこめかみに当たる。
倒れる桜吹雪から抜け出した佐伯。包丁を奪いつつ、唯一まだ立っていたコックの顔面に蹴り込みを入れた。
「みんな! 大丈夫か!」
『佐伯!』
駆け寄り、包丁の一太刀で手を縛っていた縄を断ち切る。手前から、まずは英二。
「サンキュー♪」
次いで―――切原。
「え・・・?」
「どうもっス!」
真田。
「あの・・・」
「かたじけない」
手塚。
「ちょっと・・・・・・」
「済まない。恩に着る」
最後に、忍足。
「最後、って・・・・・・」
「すまんなあ。助かったわ」
「いや。礼は越前兄弟に言ってくれ」
「ってサエくん。何で俺無視して丸くおさめちゃってるワケ?」
今だ後ろ手に縛られたままの千石が抗議してくる。軽く聞き流し、
佐伯はにっこりと笑った。適当に近い端を包丁で差し、言う。
「そのまんまの方が溺れやすいだろ?」
「まだ死刑続行中!?」
「さっそくGo!」
「嫌だから!!」
ずどぉーーーん!!!!!!
「・・・・・・そんなに嫌なのか。爆発してみせるほどに」
「そら誰でも嫌やろ・・・・・・って―――」
『爆発う!?』
一同が慄きの声を上げる(当たり前だが)。
「ホラ」
なぜか1人冷静な佐伯が(今度は指で)指す先、煙突からは・・・
・・・・・・火柱とどす黒い煙が噴き上がっていた。
暫く全員でその様を見やり、
『――――――っあああああああ!!!!!!』
互いに指差し合い、2人の人間が大声を上げた。
「どうした? 菊丸。千石」
「さっきのアレだ!!」
「『アレ』?」
「ボイラー室で! 俺たちアイツらと遭遇して倒してきたんだよ!」
「そん時撃った銃弾が管に当たって穴開けてた!!」
「・・・・・・ちなみにその管の中身は?」
「さあ? 何か気体っぽかったんだけど。ガス漏れみたいな音したし」
「臭いもけっこーそれっぽかったよね」
「・・・・・・・・・・・・それで、お前たちその後どうしてきたんだ?」
「いやどーしようもないだろ」
「仕方ないから扉閉めて逃げてきた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐伯」
「何?」
「死刑にする時は菊丸も加えておいてくれ」
「全くだ。けしからん」
「2人いなくなると世の中平和になりそうっスね」
「ま、これも因果応報っちゅー事で」
「了解」
『ちょっと待ってえええええええええ!!!!!!???』
ばがぁーーーん!!!!!!
2人の叫びと2度目の爆発。
会場内は一気に騒がしくなった。
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