せんじょうの騙し合い Party Game








  7.賭けの代償 −シングルス編 
Latter Part− <octa

 「どーするんスかこれから!?」
 「とりあえず船内にいる人間は救命ボートに乗せよう」
 「でもここ、めっちゃ海のど真ん中とちゃう?」
 「ここに残るよりは生存確率が上がる」
 「生存確率って・・・・・・」
 「あ、ちょっと待って。
  サエくん?」
 「はいはい」
 ずしゅっ!
 ようやっと縄を解いてもらった千石。1階コートに身を乗り出し、
 「慎重派の君が何の用意もせず単体でこんな怪しいトコ乗り込んでくるワケないっしょ。
  ―――跡部く〜ん!!」
 千石の呼びかけに、携帯を片手に何か話していた跡部が手を上げた。上げ、適当に振る。とりあえず動けという合図らしい。
 「救命ボートで全員海出ろ!! 周りで海上警備隊が待ってる! 適当に引き上げてもらえ!!」
 「海上―――って警察!? よく動かせたね!!」
 「馬鹿にしてんのかてめぇは。俺が何もせずのこのこここに来たとでも思ってんのか? 桜吹雪のやってる事片っ端っから集めて来る前に警察に叩きつけといた。それに―――」
 薄く笑う。ポロシャツの襟を軽くまくり。
 「てめぇらの働きも大したもんだ。助かったぜ。ありがとよ」
 「む・・・?」
 「それって・・・・・・」
 「お前らのユニフォームに超小型マイク仕込んどいた。ここでお前らが見聞きした事は全部警察に流れてるぜ」
 「ええ!?」
 「それ盗聴じゃないっスか!!」
 「いいじゃねえか。おかげで警察どもも重い腰上げてくれたしよ」
 「・・・・・・んじゃいちおう万々歳ってことで―――」
 「ふざけんなよガキどもが!!」
 気絶したものと思われていた桜吹雪が根性で復活してくる。跡部を指差し、
 「残念だったな! 警察など私の言いなりだ!! いくらでも圧力をかけて揉み消してくれるわ!!」
 豪快に切られる啖呵。むしろ担架かいずれは。
 無視して携帯で2・3やり取りし、跡部はようやっと戻ってきた。
 「あんま跡部家[ウチ]頼りにすんのも好きじゃねえが・・・・・・
  親父経由でてめぇの『知り合い』に話つけといたぜ。今の座が惜しいなら桜吹雪は切り捨てろ、ってな。やっぱ大物は頭がいいぜ。全員二つ返事で了承した。
  終わりだな。桜吹雪」
 「くっ・・・!!」
 「まあ『金の切れ目が縁の切れ目』たあ言うが・・・・・・まさしくその典型例だったな。てめぇも人望ねえなあ」
 「憶えてろよクソガキども!!」
 敗者らしく負け犬の遠吠えなど披露し、桜吹雪は脱兎の如く元気に走り去った。
 「あっ!!」
 「ほっとけ」
 「で、でも・・・」
 「どーせ周りは海。その周りは警察軍団。逃げられねえよ。
  それより避難誘導が先だ。パニくったまま逃げたんじゃ怪我どころじゃ済まねえぞ!」
 『オー!!』
 たとえ他校であろうとさすが部長。部員を盛り上げ落ち着かせる事に慣れた跡部の適切な指示に、全員は混乱と責任追及を放って動き出した。






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 人がいなくなり、静かになったコート。
 「じゃあ僕たちも―――」
 「あ、ああ・・・・・・」
 誘導に加わろうと跡部の腕を引っ張る不二。しかしながら跡部はその場を動かなかった。
 動かないまま、コートを見つめる。後1ポイント以上のところで中断させられてしまった試合を。
 ぽん。
 「佐伯・・・・・・」
 後ろから肩を叩かれる。振り向けばいつの間に下りてきたかいつもどおりの佐伯がいて。
 「ここはいいから行って来いよ。客とかはまだしも海上警備隊はお前が指揮しないと何やっていいのかまずわからない」
 「だが・・・」
 「それとも―――
  ――――――ずっと見ててやらないといけないほど越前信用出来ないか?」
 それがダメ押しだった。跡部は不二を引き連れ会場を後にしようとし、
 出入り口で振り向いた。
 にっと笑う。
 「イカサマすんなよ審判!」






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 大規模な爆発はあの2回だけだったが、まだあちこちで続いている。その上このオンボロ船はそれだけでも致命傷を食らっているらしい。かなりヤバめな揺れが起こり、煽られた波がさらに船を揺さぶる。
 そんな中、残った3人はさも平然とした様子でそれぞれの定位置についた。
 臨時審判の佐伯が、提案する。
 「このままのカウントでいくか、0−0から改めて始めるか、それとも―――」
 『一球勝負[ワンポイントマッチ]』
 さすが兄弟。考える事は同じらしい。
 佐伯も面白そうに笑い、
 合図を出した。
 「ワンポイントマッチ! リョーマサーブ!!」






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 揺れる船。各箇所で破壊音が続く。客席も一部壊れ、破損部分から何度も波がコートへと入り込んでいた。その中で―――
 「うおおおおおおお!!!!!」
 「らあああああああ!!!!!」
 2人は、今だに勝負をやめていなかった。
 勝負は、今だに決着がついていなかった。
 必死に追いながら、佐伯は生唾を飲んで渇きを癒した。心臓がどくどく高鳴る。体中が振るえ、息すらままならない状態だ。
 リョーガが言っていた。自分の試合を見て心の底から惚れ込んだと。
 今ならわかるような気がする。確かに今、自分は彼を狂おしいほど愛しく感じている。彼のテニスを・・・・・・彼自身を。
 ひときわ大きな波が来た。飲み込まれ、目の前が塞がる。見逃したくないのに。全てをこの目に収めていたいというのに。
 藻掻き、水から顔を出す。煙が立ち上がり暗雲となる中で、なぜか一瞬だけ青い空が見えたような気がした。
 「勝負は・・・!!」
 はっ、と気が付き、コートを見渡す。ぐちゃぐちゃになったコートに、仰向けに倒れているリョーガと、四つん這いになっているリョーマ。
 2人の荒い息が広がる。見逃してしまった。勝負はどうなったのだろう。
 荒い息を無理矢理殺し、
 声を出したのはリョーガだった。





 「負けたぜ・・・。強くなったな、チビ助・・・・・・」





 もう一度見回す。ボールは―――あった。リョーガの頭脇に。
 「アンタも、まだまだだね・・・・・・、リョーガ・・・・・・」
 「ハハッ・・・。言ってろ・・・・・・」
 2人の言葉を聞き、
 佐伯は審判としての最後の務めを果たした。





 「ポイントアンドマッチ! ウォンバイ、越前リョーマ!!」



―――nona