せんじょうの騙し合い Party Game








  7.賭けの代償 −シングルス編 
Latter Part− <nona

 「・・・・・・で」
 「見事にねーな。救命ボート」
 疲れている2人には悪いが、このまま船と運命を共にするよりはマシだろうと寝ようとしていたところを蹴り起こし、現在3人は船内を走り回っていた。
 「まあ、考えてみれば当然だよな。好きで残った3人のために残せるほど数に余裕もないだろ」
 『わかってんならさっさと言えよ!!』
 「お。さすが兄弟。突っ込みも息ぴったりだ☆」
 「・・・・・・もーいい」
 「・・・アンタなんでこんな人がいいワケ? リョーガ」
 「それは言うな・・・。俺もマジで疑問になってきた・・・・・・」
 無駄に走らさせられ無駄に突っ込ませ、余計に疲れた2人がついに果てた。果てて―――
 「そういや俺海で遊ぶ用に水上バイク持ってたんじゃねーか」
 「ナイスリョーガ!」
 「そういう事は早く思い出せ!!」
 「・・・・・・さすがにこっちは合わねーんだな」





 3人が来たのは物置らしきところだった。逃げる人々もさすがにコレに乗って逃げようとは思わなかったらしい。ちゃんと残っていた。
 「でもコレって一人乗りだよね?」
 「無理すりゃ3人いけんだろ。どっかで漂ってるボートにまで辿りつきゃいいんだし」
 「・・・・・・ああ、じゃあお前ら先行っててくれ」
 小さな水上バイクを前になかなかに壮大な計画を企てる2名に、佐伯は小さく手を上げた。
 「アンタ残んの?」
 「バイト費まだもらってなかった。せっかく働いたんだし、交通費込みでもらわないと」
 「文字通りの火事場泥棒かよ・・・・・・」
 「失礼だな。労働に対する正当な報酬を求めてるだけだろ?」
 「多分もらえるのアンタ1人だけだと思う」
 「じゃあみんなの分ももらっておくか」
 『それが泥棒!』
 またも炸裂するダブル突っ込み。上げた手を軽く振っていなす。
 「というワケだから。じゃ」
 「『じゃ』、って」
 「んじゃチビ助届けたら戻ってくるな」
 「いやいいよ。どうせボートまですぐだろ? その位なら泳ぐさ」
 「逞しいっスね・・・」
 「海なら散々慣れたからな」
 「じゃあ―――」
 バイクを動かし出すリョーガ。故障がない事を確認し、押していく。弟ともども外に出かけ、
 振り向いた。
 「ちゃんと来いよ?」
 「・・・・・・ああ」







・     ・     ・     ・     ・







 「来た! リョーガくんたちだ!!」
 船の割と近くを漂っていたボート。乗っていた選抜メンバーの中で、まずは最も視力がいい千石が気付いた。
 唸りを上げるモーター音。近付いてくるそれには確かに待っていた人たちが乗っていた。
 「うわっ!?」
 ずぁばっしゃあああん!!
 突如ドリフトをかける水上バイク。急激な遠心力に振り回され、後部座席(ないが)のリョーマがあっけなく放り出された。
 「おチビ!」
 「越前!」
 「・・・っぷはあ!!」
 心配して覗き込む一同のすぐ下から顔を出すリョーマ。予想以上に軽い体はやたらと吹っ飛び、おかげでボートに頭をしたたかに打ち付けた。
 痛そうにさするリョーマに、手が差し伸べられた。
 「無事だったか越前!」
 「・・・・・・今リョーガにやられたの抜きにしたらね」
 呻きながらも、手を取る。自分は大丈夫だと信じ、置いていってくれた恋人の手を。
 引っ張り上げられるリョーマに、不二が声をかけた。
 「越前君、サエは?」
 「あの人? 何か給料泥棒に残った」
 「・・・・・・まったサエくんは・・・・・・」
 「ていうか思ったんだけど・・・・・・アイツに来たバイト案内ってお前が出したんだよなあ千石?」
 「それでよく佐伯さん潜り込めたっスね」
 「ああ。まあ、元々その場限りで雇ったっぽい人多かったし・・・」
 「―――そういやアイツが昨日言ってたぜ。『正式なバイト員として来たのに怪しまれた。説明もなしに何やるのか訊かれたからとりあえず得意な料理って答えたら作らさせられた。食べられてそのまま合格になった。履歴書も面接もなくって楽だった』だとよ」
 リョーガの、絶対に嘘は言っていないであろう解説を聞き、佐伯をよく知る幼馴染はこうコメントした。
 「相変わらずめちゃくちゃだなあサエ」
 「う〜ん。さっすがサエくん」
 「つーかちったあ怪しめよお前ら全員・・・・・・」
 「つーワケで迎えに行くからチビ助よろしく!」
 「あれ? 来なくていいって佐伯さん言ってなかった?」
 きょとんとするリョーマに、
 「バーカ」
 「痛ッ!」
 リョーガは拾い上げた帽子(リョーマより軽いのだが、風圧を受けたせいかこちらはほとんど飛ばなかった)を投げつけた。丁度ツバがおでこに当たったらしい。ますます人災による被害が増えていく・・・。
 馬鹿にされぶつけられ。
 不機嫌となる弟に、さらなる試練が与えられた。
 「お前はそんなだからいつまでもお姫様なんだよ。いいか? 真のナイトってのは姫君のホントの願いを叶えてやるもんだ。それが出来て初めてにナイトになれるんだよ。わかったか? チ・ビ・す・け!」
 「チビチビうっさい!!」
 「ははははははは!! や〜いここまで来てみろよチビ助!」
 「うっわ腹立つ!!」



―――deca