テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





最終回―――1


 「景吾・・・・・・」
 「跡部クン!!」
 佐伯とリョーガの声が上がる。
 信長からもらった短刀を突きつけ、それ以上に鋭い眼差しで佐伯を睨みつける跡部。
 「近付くなよ佐伯。
  今まで数多の人の命を奪ってきた信長が、自分の命奪うためだけに用意した刀だぜ? さぞかし切れ味は抜群だろーな。
  試してみるか? てめぇの体で」
 「待てよ跡部クン!」
 「そうとね。特等席用意するからあと1分ほど待ちんしゃい」
 「待つか! つーかどこだよ特等席!?」
 「言ってくれればそこに合わせて移動するぞ!?」
 「あ・の・なあ! てめぇ今俺たちが何やろうとしてんのかわかってんのか佐伯!!
  見物料も席代も特等席割高料金も取んのは禁止だ!!」
 「ちっ・・・。見抜かれた」
 「残念じゃのう。そんな代金があれば行き倒れはしちょらん」
 「何!? タダ見か!? ならお前を先に―――!!」
 「じゃから見物料の替わりに面白いモン見せちゃる」
 「へえ? どんな?」
 「ちょっと待っちょれ。
  秘儀・瞬間へん―――」
 「それはもういい」
 ごげっ!!
 素敵にワケのわからなくなった現場。
 天海を蹴り倒した跡部が改めて短刀を構え、
 「景吾、この俺に勝てると思ってるのか?」
 「無理―――かもな。
  生憎と俺は、負ける気持ちで勝負を挑むのが大嫌いでな。結果は予想しねえ主義なんだよ」
 「本当に、やるのか?」
 最終確認。
 本当にやる―――本当に、命を投げ出しても構わない覚悟か。
 問われ、
 跡部はためらわずに頷いた。
 「ああ」
 「そうか・・・・・・」
 佐伯が、下ろしていた短刀を上げた。
 逆手に構える。これが『殺し屋・佐伯』としての本来の構え方か。
 最後に、哀しそうな声で呟いた。
 「残念だよ景吾。出来るなら、こんな事にはなりたくなかった」
 「そうだな」
 短く切る。結局のところ、どう言い繕ったところでこれからやる事が変わるワケでもない。なら言葉など重ねるだけ無駄だろう。
 「おいちょっと待てよお前ら2人!!
  何でお前らが争うんだよ!! 俺が死ねばいいだけなんだろ!?」
 「黙ってろリョーガ!!」
 「景吾がどかないなら、一緒に殺すしかないさ」
 「不思議な選択じゃのう。お前が止めるっちゅー案はないんか?」
 「残念ながら、ね。
  お前は殺さないといけないんだよ、リョーガ」
 「だから!! だったら俺だけ殺せばいーじゃねえか!!」
 「そう思うならお前の手で景吾をどけろ」
 冷たく―――いや。何の感情も込めず淡々と言い放たれ、
 リョーガは跡部へと向き直った。
 少し自分より低い彼に合わせ腰を屈め、目を覗き込み、
 笑う。
 「な? 跡部クン。
  もういいから。今まで本当にありがとな。もう大丈夫だから。だから―――」
 「嫌だ嫌だぜってー嫌だ!!」
 掴まれた肩の内側で、跡部が首を振って駄々を捏ね出した。まるで小さな子どものようだ。普段なら絶対しないだろうというのに。
 「なあ、わかってくれよ。
  俺は自業自得だけどさ、君は巻き込まれただけだし死ぬ理由なんてどこにもねーだろ?」
 「お前だって死ぬ理由なんてねーじゃねえか!!」
 「だから俺は―――」
 「お前だけ殺されるんなら俺も一緒に―――!!」
 「いい加減頭冷やせ!!」
 バン!!
 胸に手を当て何かを言いかけた跡部の頬を、リョーガの平手打ちが襲った。
 普段散々殴られ蹴られしている割に、知り合いにはまず手を上げないリョーガ。初めて殴られ、跡部が呆然として止まった。
 喋っている最中だったため口内を切ったのだろう。開く口から溢れ流れる血は一切見ず、
 リョーガは跡部の襟を掴み一喝した。
 「俺はもう死ぬって決めたんだよ!! 勝手にでしゃばって邪魔してんじゃねえ!! 迷惑だ!!」
 これが、彼なりの愛情の示し方。
 大丈夫。これは自分が選んだ道。
 だから、





 ・・・・・・見殺しにする己を、決して後ろめたく思わないで。





・     ・     ・     ・     ・






 「今まで、ありがとうな。跡部クン」
 微笑まれる。嬉しそうに。
 なぜ死ぬのに嬉しそうなの?
 見開いた跡部の目から、
 涙が零れた。
 「俺は、それでも・・・・・・」
 「ん?」
 ぎゅっと、目を閉じる。
 リョーガの目を見ては言えない。これはただの自分のワガママだから。
 それでも、止められなかった。
 たとえ彼の気持ちを裏切る事になろうとも。
 「それでも・・・俺は・・・・・・」
 息を吐く。
 息を吸う。
 肺を固め、
 吐く。










 「それでも俺は!! 誰も死なせたくねーんだよ!!!
  みんなで一緒に帰りてえんだよ!!!」










 跡部の思いに応えるように、
 ピコーン・・・、ピコーン・・・・・・。
 機械音が、鳴り響き始めた。



―――最終回 2

2006.1.2930