テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
最終回―――2
「へ・・・・・・・・・・・・?」
間抜けな空間が広がる。
戦国時代にはまず聞こえないであろう機械音。発信源を辿っていけば―――リョーガの懐だった。
「何だ?」
取り出す。音を上げ続ける計算機を。
見て、
「ヒストローム値が・・・、下がってる・・・・・・?」
『は・・・・・・?』
間抜けな空間に、さらに3人の間抜けな声が加わった。
「そんなわけないだろ?」
「いや嘘じゃねえって。見てみろよ」
「0.9・・・。0.8・・・。
―――マジで下がってやがる」
「壊したか・・・」
「何でそーなる!?」
やれやれとため息をつく佐伯。怒鳴りつけるリョーガ。
そして跡部は・・・
「土民Aか!!」
「『土民A』ぇ?」
「いやちゃんと名前がある以上『土民名称未定』はマジいじゃねえか・・・」
「そっか・・・。『名も無き土民』もダメか・・・・・・。あるもんな」
議論は完全に間違った方に発展していったが、つまりは先程利三を殺した土民を指したいらしい。
「アレが?」
「つまりアレ―――利三の首が、本当に光秀として扱われちまったんじゃねえのか? 誰も間違いに気付かねえで」
「ンな馬鹿な・・・」
「敵軍の大将の顔なんて大抵誰も覚えてねえモンだろ? 実際信長だって誰もわかってな―――いや。本能寺の変の時ぁ寝そべってるお前だって誰も気付かなかったじゃねえか」
「最初に訂正されたモンがいろいろ気になんだがよ・・・。
他はともかく秀吉はさすがにわかるだろーよ。俺の首取ったとなりゃ、アイツが確認すんだろ」
「確かになあ。特に損傷―――はいろいろしてたけど、判別がつかないほどでもないし、この短距離なら完全に腐り落ちる事もないだろうし」
「ぐ・・・・・・」
リョーガにプラスして佐伯の論理溢れる説明。確かに、真夏ならまだしもこの季節ならそこまで激しく傷みはしないか・・・。
詰まる跡部だったが・・・・・・
・・・・・・実は真実は、彼の想像を覆す・・・・・・とてつもなくしょうもないものだった。
・ ・ ・ ・ ・
こちら秀吉軍。小栗栖で光秀の首を討ち取ったというので、秀吉はその確認をしようと思った。周りには、降伏した光秀軍が心配げに見守っている。
「・・・で、光秀の首は?」
僅かな違いながら、そう問う秀吉の口調は心なしか硬めだった。
出来れば見たくない・・・・・・そんな彼の気持ちを、
「はい、こちらでございます」
―――もちろん理解するはずもなく、仕留めた土民Aはあっさり袋から首を取り出した。
見て・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違うじゃん」
呟く秀吉の周りで光秀軍も歓喜の声を上げる。
そして―――
「ああっ! 光秀様がぁ!!」
「なんと無様な―――あいや哀れな姿に変わり果て!!」
「ざまあみろ―――じゃなくてお労しや!!」
「ちょっと待って。
―――何みんなして前の言葉取り消してるワケ?」
「いやいやそんな事はございません!! アレは誰が何と言おうと我らが大将明智光秀様です!!」
「・・・つまり誰かは何か言うの?」
『みつひでさま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!』
「・・・・・・棒読みだし」
ダメ出しを入れ、
秀吉は痛そうに頭を抱えため息をついた。ちょっぴり安堵の篭ったため息を。
逆の手をぱたぱた振り、判決を下す。
「もういいよ。光秀って事で」
「やった〜〜〜!!」
「・・・・・・・・・・・・。何でアンタが最初に喜ぶんだよ土民A」
「もちろん敵軍の大将を討ち取ったとなればそれ相応の褒美が」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――そういえばそうだったね」
・ ・ ・ ・ ・
跡部の必死な説得―――短刀を振り回し喚いてる最中、手が滑って吹っ飛んだ。それこそ真剣白羽取りが出来なければ跡部がリョーガを殺していただろう―――により2人も納得し。
「けど。仮にそうだとしても、
・・・・・・余計歴史変えてないか?」
「だなあ。んじゃ今度斎藤利三が死ぬ時ぁどーすんだ? って感じだよな?」
「むう・・・・・・」
今度は跡部も唸るしかなかった。
黙る彼の代わりに、
違う者が正解を出す。
《大丈夫っしょ。何のために光秀と利三が一緒に首晒されるのさ?》
「あ・・・・・・」
かつてリョーガも言ったとおり、光秀の首は本能寺に晒される。家老にして共犯者であった利三のものと一緒に。
「まさか・・・・・・」
頬を引き攣らせる跡部に、
語り担当千石は、それはそれは明るく快活に言ってくれた。
《所詮歴史なんて捏造オンパレードだから》
「うあやられた・・・・・・」
「なるほどこれぞ『意外な展開』ってヤツだな・・・・・・」
「つーか、
―――捏造でいいんなら、そもそも俺らがここまで頑張る必要ってなかったんじゃねえ?」
《何言ってるのさ跡部くん》
驚きの声を上げ、
さらに言う。
《つまらないじゃないかそれじゃあ》
「ちょっと待てえ!! 俺らはてめぇのためのにぎやかしか!?」
《もちろん》
『・・・・・・・・・・・・』
即答だった。返す言葉を思いつけないほどの即答だった。
爽やかな風が駆け抜ける。おかげで間抜けな空気は一掃された。
自分たちの苦労を一瞬で無にされ、へたり込む3人。特に死まで覚悟したリョーガと、命を投げ出してもそれを食い止めようとした跡部のショックは半端ではなかった。
横倒しにまでなった彼らを見下ろし、1人事情を知らない天海が首を傾げた。
「何じゃ自分らいきなり果てて。
面白いやっちゃのう」
「あーいや・・・。
・・・・・・まあそれでいーや・・・・・・」
「えっととりあえず・・・・・・」
何とか身を起こし。
「佐伯。
これでもう、リョーガ殺す意味なくなっただろ? お前の仕事も終わりだ」
「あ、ああ・・・・・・」
こんな展開はさすがの佐伯でも予想していなかったようだ。首振り運動で頷き、
「―――良かったなリョーガ!! 俺もお前を殺したくはなかったんだよ!!」
「何なんだよその変わり身の速さは!!」
「? つまり初心を貫きやっぱり殺してくれ、と?」
「お前は初心から殺すつもりだったのか!?」
ぎゅっと握ってぶんぶん振りながら短刀を引き抜く佐伯の手を、リョーガが勢いよく振り払った。
全くへこたれず元気に立ち上がり、
「何はともあれこれで全て片付いた! さあみんなで帰ろう!!」
「いや確かに事態としては片付いたがよ・・・。
―――俺らの気持ちは全く片付いてねえように思うんだけどな」
「ああヤベえよ跡部クン・・・。俺初めてコイツに対して本気で殺意抱いたわ・・・」
「心配すんなよリョーガ・・・。俺もおんなじ気持ちだぜ。
歴史が戻りきる前に殺しゃ、どーせ戻るんだから何の問題もねーよな・・・?」
「さってんじゃ時間もねえし、さっそくそうすっか・・・・・・」
「ん? どうしたお前ら?
えらく可笑しい顔して」
『覚悟―――!!!』
どこまでもボケる佐伯に向かい、2人はそれぞれ持っていた武器を振り下ろし―――
どかばきどごげすごげぐしゃごど・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
「・・・なんで人生ってここまで不条理なんだろーな」
「なあ千石、歴史変えんなら俺らのパワーバランス変えてくれよ〜〜〜〜〜〜・・・」
《う〜ん・・・。
変わる見込みもあって変えても誰もおかしく感じないものなら変えられるけどねえ〜・・・》
つまり2人は佐伯より弱いと。誰がどう見てもそうだと。
実直主義者な木手と異なりオブラートに包み込んで包み込んで何重にもラッピングしてはみたが、跡部とリョーガはそれを一瞬で破り開いてしまったようだ。
完全に朽ち果てた2名を他所に、
佐伯は天海へと左手を伸ばした。天海も左手で握手に応じる。やはりそっくりさんは利き手も同じらしい。なお今の彼は変装を解き元の顔に戻っている(多分)。
「では、短い間ですがお騒がせ致しました。俺たちはこれで帰ります」
「いやいやこっちも世話んなったし、面白い見ものじゃったよ。
どこに帰るか知らんが、気をつけて帰りんしゃい。人生どこに落とし穴があるかはわからん」
「ええ、あなたも。
―――そういえば名前を伺っていませんでしたね。もしよろしければ、最後にお名前をお聞かせ下さいませんか?」
「天海じゃ。見たとおりの修行僧で、各地を巡り歩いちょる」
「ああそれで言葉遣いがおかしい―――」
がこっ!
言ってはいけない台詞を言おうとした佐伯を殴って止め、跡部が口を開いた。
「天海・・・ってそういや今更だが、アンタ天海僧正か? 天台宗の」
「身分はそう簡単には明かせん」
「修行僧が身分隠す理由がどこにある!?」
「何だよ跡部クン? 知り合いか?」
「知り合ってたら怖ええよ。俺はまだ14歳だ。つーか明らかに初対面じゃねえか俺らの反応。
天海僧正っつったら、確か家康に仕えて、その後3代家光までずっと相談役になってた坊さんじゃねえのか? 武家出身だが剣じゃなくって教法で民衆救おうとした。
『人はなにゆえ殺し合わなければならないのか・・・』とか何とか・・・・・・。
―――ああなるほど。それで俺らを止めようとした・・・」
「いや全く止めようとは思わんかったが」
再び跡部が崩れ落ちた。
さっさっさと手際よく跡部を蹴りどかし、
「なら天海殿、そんなコイツの言う通り家康様のところへ行ってみるというのはいかがでしょう?
実はコイツ、かつて光秀がそれで騒がれた『未来人』でして。乗ってみるとまた人生が切り開けるのではないでしょうか?」
「しかしのう。家康様は騙しが通じん人じゃからのう」
「ちょっと待て。取り入り方ぜってー違う―――」
「ならご心配なく。家康様の下には服部半蔵と名乗る自称伊賀忍者以下一同がいます」
「いや公称服部半蔵だし伊賀忍者だろ」
「公称。つまり周りはそう言うが実際は違う」
「それこそ詐欺の理論だ・・・・・・」
「彼に協力を頼めば必ず良い結果がもたらされます。なおその際、『閣下からの命令だ。しっかり働けよ烏合の衆』と伝えておいてください。そうすれば確実に死ぬ気で働いてくれます」
「『烏合の衆』?」
「なんか扱いランクアップされてねえか? 少なくとも金魚の糞よりゃ」
「してない。
金魚の糞はそれでも金魚にとっては大事だし存在目的がはっきりしてる。
烏合の衆は存在するだけで目的も何もない。出来る事はせいぜい誰かに煽られ右往左往するだけ。役立たずの代名詞だ」
「・・・・・・・・・・・・まあ、お前が満足ならそれでいいけどな」
「どうしても聞いてくれないようならここは秘密兵器、コイツの存在を出し『家康様はこの先、秀吉様の次に必ず天下を取れます』と言えば確実です。ホトトギスを鳴くまで待つのは得意でしょうから」
「そうじゃのう。アイツなら鳴くまでいくらでも待つじゃろうし。
外で待ちすぎて肺炎起こしたヤツじゃ」
「入れてやれよ誰か!!」
ぱんぱんと土ぼこりをはたき跡部も復活し、
「んじゃ天海様。
裏切りや争いのねえ国になるように、よろしく頼むな」
「なるほどな。裏切る時はもっと上手に―――」
「違げえ!!」
「ではさっそくそう家康に進言してくるかのう」
「ちょっと待て天海!! そうじゃね―――!!」
止める間もなく、天海は風のようにその場を去っていってしまった。
取り残され・・・
「・・・・・・やっぱ歴史狂うんじゃねえの?」
計算機を確認。ああ良かったまだ下がってる今のところ。
そんなやり取りをしている間にリョーガも復活し。
「えーっとなんつーか、
ホントにありがとな跡部クン。ずっと俺の味方でいてくれて、さ」
「ま、『恋人』が欠片もアテになんねーみてえだったしな。しゃーねえだろ」
『恋人』―――佐伯を横目で見る。さすがに彼もバツの悪そうな顔を浮かべ、
「景吾、お前がいなかったら、俺は取り返しのつかない罪を犯すところだった」
「ああそーだな。リョーガはまだしもこの俺様を殺そうとした罪は万死に値するぜ」
「ならこのリョーガの命を代わりに差し出すという事で」
「ぜんっぜん!! 反省してねーじゃねえか!!」
「許してくれるといいが・・・」
「許せるか!!」
いろいろ散々あったが、結局何も変わらないらしい。
何の変わり映えもしないやり取りを経て、
佐伯の表情がふと変わった。
「景吾、リョーガ」
「あん?」
「何だよ佐伯、改まっちまって」
2人の目をじっと見て、
言う。
「多分、今更こんな事言ってもただの言い訳にしか聞こえないと思う。
俺があくまで『歴史通り』に拘ったのは、
―――お前らと出会えて、今こうして一緒にいられるその事実を、失くしたくなかったからだよ」
「佐伯・・・・・・」
初めて聞く佐伯の本音。この言葉、この思いに嘘偽りはないだろう。
目を見開くリョーガ。対して、
「ああ。言い訳にしか聞こえねえ」
跡部は、平静な目でそう冷たく言い切った。
「過去を失くしたくないから今を壊す? 出会えた事実が欲しいからその相手を殺す?
本末転倒じゃねえか。本当に友達で、恋人でいたいんなら、
――――――過去壊してでも今大事にしろよ」
「景吾・・・・・・」
声にならない呟きを上げる佐伯から逸らすように目を閉じ、跡部は軽くため息をついた。
「今はまだお前の事許せねえ。理由はどうあれ、直された未来でどうなるのであれ、リョーガを殺そうとしたのは『事実』だ。2度と変えようのない、な」
「・・・・・・・・・・・・ああ」
佐伯も重々しく頷く。この瞬間彼は、一生拭えない罪、己が存在し続ける限り、永遠に下ろせない十字架を背負った。
確認し、
最後に跡部は薄く微笑んだ。
「それでもいつか、許せる日が来たら・・・・・・。
そうなるといいな」
「ああ・・・。
俺も、そう願ってるよ・・・」
・ ・ ・ ・ ・
ヒストローム値が、0.1になる―――。
「んじゃな! 佐伯! リョーガ!」
「じゃあな景吾!」
「また会ったら、そん時ぁよろしくな! 跡部クンv」
「てめぇも愛想尽かされんじゃねえぞ!」
「尽かされてねえげぎゃ!」
「ほらリョーガももう行くぞ!
じゃあな〜〜!!」
「あばよ!! とりあえずノリでもうソイツ殺すなよ!?」
そして彼らは、彼らの時代へと戻っていった・・・・・・。
―――最終回 3
2006.1.30