テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





最終回―――3


 プー。パッパー。
 「・・・・・・あ?」
 耳慣れない―――いや知ってはいるがここ暫く聞いていなかった音に、我に返る。していたのは自動車音だった。それにその他諸々。
 そして、
 「―――あれ? 景吾」
 「おー跡部クン久しぶりv」
 「佐伯にリョーガじゃねえか。どうしたよお前らこんなトコで」
 直ったはずだがそれでも過去を弄ったせいだろうか。少しだけ『現在』が変わっていた。
 向かいから声をかけてきた佐伯とリョーガに首を傾げる。その前では、別れたばかりの樺地が2人にぺこりと頭を下げていた。
 佐伯が近付きながら上げた手を振り、
 「いや? 大した用じゃないさ。ちょっと遊びに来ただけ」
 「ちょっと遊びに・・・・・・?」
 かつての佐伯では考えられなかった台詞だ。こちらから行くか交通経路(つまりは費用)を手配しない限り、意地でも来ようとしなかったというのに。
 考え、
 跡部はちらりと横にいるリョーガを見た。
 「・・・いや跡部クン。ンな哀れんだ目で見ねえでくんねえ?
  俺は好きでやってるワケだしおかげで一緒にいられるって利点もあるし、それにこの金はそもそも桜吹雪のおっさんから巻き上げてきた分だから俺の懐は傷みもしねえし」
 「ほお・・・。つまり、それが自分の金だったらお前は俺とは一緒にいない、と。
  お前の愛はその程度のものだったのか・・・・・・」
 「あいやいや! ンな事ねーぞ!? おっさんの、つってもつまり俺が稼がせてやった分だし、今俺のモンな時点で即ち俺の金! お前のために使えるんだったらいくらでも惜しくはねえぜ!!」
 「そーかそーかならいいんだvv
  うんリョーガ、大好きだぞ」
 「はは・・・ははは・・・。
  ・・・・・・・・・・・・せめてハートマークは『大好き』の方につけて欲しかったぜ」
 「一応、財布代わりに使われてる自覚はあったんだな・・・・・・」
 顔で笑って心で泣いているらしい(このリョーガの顔を見て笑顔だと思えるのは佐伯1人だろう)リョーガへとそんな結論を送り、
 頭の中ではさらに別の相手に結論を送る。
 (桜吹雪って・・・、いつの時代でもコイツのせいで不幸になるんだな・・・・・・)
 戦国時代では身代わりに殺され、現在では苦労して貯めた金を全て搾り取られしかも1人だけムショに送られた。
 自業自得ではあるのだろうが・・・・・・。
 「―――そういや佐伯、お前ってどうでもいい事に詳しかったよな?」
 「失礼だなあ。トリビアって言ってくれよ」
 「同じだろーが・・・」
 ため息をつき、
 尋ねてみる。
 「明智光秀って、どんなヤツだ?」
 「どうでもいいのか・・・?」
 一応現在六角留学生につき歴史の勉強にも勤しんでいるリョーガ。
 半眼で突っ込む彼を遮り―――
 佐伯が声を上げた。
 「ああリョーガ?」
 『は・・・・・・・・・・・・?』
 謎の返され方。いや跡部にはわかりはしたが。
 (だがンな馬鹿な。アイツはあくまで『光秀』としか名乗ってねえし。
  ―――誰かにでも言ったのか?)
 それも可能性は低い。そんな事をすれば、それこそ歴史が狂う。仮に言ったとしたら、確実にそれを他には洩らさないと判断した相手にだけだろう。
 自分達も信長に言ったが、彼が広めたとも思えない。だとすれば光秀=リョーガより、信長が生きていたという方が余程騒ぎになるだろう。
 必死に原因を探る跡部。無言で考え込む彼はともかくとして、
 何もわからないリョーガは単純に尋ねるしかなかった。
 自分を指差し、
 「俺?」
 「ああ。そっくりだ。あの物悲しさと情けなさが」
 「・・・・・・はあ?」
 ますます怪訝な顔をするリョーガに、佐伯はぴっと指を立て、
 「歴史の簡単な覚え方だ。身の回りにいる人間を当てはめると理解しやすい。
  天下統一を目指し、あと一歩で夢破れながらもその強烈な個性と共に後の世に広く知られるようになった織田信長。
  彼の後を継ぐように、ついに天下統一を果たした豊臣秀吉。
  そして―――
  ―――信長を殺しておきながら直後秀吉軍に負かされ、僅か数日であっさり主役の座を下ろされ、最後はどこぞの名も伝わらぬ土民Aの手によって殺される。
  そんな、やった事そのものは偉大なのにその後の転落っぷりの方が見事で目立つ、ピンチヒッター的ただの繋ぎ役な光秀はお前にぴったりだ☆」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「さらに信長をお前のおじさん、秀吉を越前とすると、
  ほ〜ら覚えやすいだろ?」
 「うっせえほっとけ!!」
 「いやいやまあ聞けよリョーガ。
  光秀って凄いんだぞ〜? 天下取りだってちゃんと事前に綿密な計画立てて進めただろうに、土壇場で親友は裏切る、敵に送った共闘のための密書は密使ごと行方不明。しかもどこから洩れたのか、他に出かけてた秀吉軍はやけに手際よく戻ってくる。
 おかげで信長を殺してから自分も殺されるまでわずか
11日。『3日天下』なんて言われるとおり、スピード栄光スピード転落だ。ここまであっ! という間に終わったヤツも珍しいだろうな。
  こうなるとそもそもの本能寺の変も、信長が自殺用に仕組んだんじゃないのかな〜とか疑っちゃう位だよな。乗せられ煽られ落とされて。まるで仕組まれたコントでも見るかのようなどたばた劇だな」
 「それのどこが凄いんだよ!?」
 「考えれば考えるほどお前にそっくりだ」
 「それはもーいい!!」
 血涙を流し叫ぶリョーガの後ろで、
 跡部はがっくりと項垂れていた。
 (確かにそっくりだよなあ・・・。
  つーか、
  ―――もしかして『明智光秀』って、マジでリョーガ本人だったんじゃねえのか・・・・・・?)
 成り済ましたのではなく本人だったら。
 そりゃリョーガが行った時『そもそも本人が存在しなかった』だろうし、だとすればここまでそっくりに見えるのも納得だ。どころかやけにしっくり来てたのも。
 自分がかつてやっていた事を、未来で学んでその通り行う。立派にタイムループを生んでいるが、それは佐伯と伊賀忍者で既に発生済みだ。ありえない結論でもない。
 (なにせ、『歴史』がそもそもあれだけスチャラカなんだからな)
 跡部がそんな風に考えている間に、佐伯は挫けたリョーガへとさらに説明を続けていた。
 「それにだ、転落してなおどん底の人生をしぶとく這いつくばる。まさにお前にぴったりじゃないか」
 「悪かったなどん底ライフ満喫中で!!」
 「―――どういう事だ?」
 光秀は死んだ筈だ。確かにアレは替え玉だったが、千石もその辺りは調整すると言っていたし、だからヒストローム値も問題なく下がった。
 眉を顰める跡部へと向きを変え、
 佐伯が解説する。
 「実際の歴史としては証明されてないけどな、こんな説がある。
  ―――実は落ち武者狩りに遭い死んだのは影武者だったのではないか、と。実際鎧とかから本人だと断定したけど、顔は腐りきってて判別出来なかったそうだ」
 「だろうな・・・・・・」
 あくまでアレが『光秀』として扱われたのなら、顔はわからなかったという事にしておかなければ。
 「んで?
  死んでなかったかも、ってのはわかったが、それで何で『どん底の人生をしぶとく這いつくばる』事になんだ?」
 仮に替え玉だと怪しまれても、その後の世界に『光秀』はもういない筈・・・・・・
 「その暫く後の話だ。
  徳川家康以下家光まで、徳川3代将軍に仕えた『天海僧正』というお坊さんがいる」
 「そりゃ知ってるが・・・」
 「そのお坊さんが、だ。
  なんと光秀にそっくりだったと言われている」
 「・・・・・・」
 「さらにこの天海。特に家康の相談役となって徳川幕府に影響を及ぼした偉大なる人物だという記録の裏に、
  ―――食い逃げをしてとっ捕まったり、年頃の綺麗どころを片っ端っから落としていったりしたという、非常〜に情けない伝承が残っている。
  ほらリョーガで決定だ!」
 「何でだよ!!」
 「・・・・・・。
  そーかアイツは懲りずにやってたのか・・・・・・」
 どうせまたかの変装術だろう。問題のあるヤツはやはり
400年前から問題があったらしい。
 「んで、光秀の何の話だ? 景吾」
 「いやもういい。
  ってかこんだけ語った後にまだ話せんのか?」
 「もちろん話せるぞ?
  光秀に関しては完璧だ。調べれば調べるほど、リョーガを思い出し虚しさに駆られるからな」
 「おい!!」
 「だってみんなの意見も面白いぞ〜? 天下統一狙ったのだって、信長の見て自分も出来るんじゃないか的ちょっと勘違いしちゃったお茶目さん説とかもあるし」
 「しくしくしくしくしくしく・・・・・・」
 「まあそう落ち込むなよお茶目さん。確かに人のを見ると簡単そうなのに実際やると難しかったなんて、よくある事だしな。お前はたまたまそれが致命的な―――文字通り命を奪う事だった、っていうだけで」
 「俺じゃねえよ!!」
 「そうなのか?
  てっきりお前もおじさんの見て世界くらい楽に取れると勘違いして挫折した組かと・・・・・・」
 「それは言うなああああああああ!!!!!!!!」
 「しかし問題は、信長・秀吉とキャストを決めると残る家康を誰にするかだよな」
 リョーガの訴えには全く取り合わず、佐伯が腕を組んで唸る。
 「・・・そういやそうだな」
 跡部も上に目をやり呟いた。名前は出てきた割に、家康本人は見て来なかった。
 (帰る前に、何か理由つけて見てくりゃよかったな・・・)
 惜しい。南次郎、(リョーガ)、リョーマと続いてその先。一体誰がそうなのか気になるではないか。
 (意外なところで知らねえヤツとか・・・)
 「大穴はやっぱお前だよな」
 「は・・・・・・?」
 目を点にする跡部を指差し、
 「だから家康。
  リョーガのおじさん、それに越前とタメ張れるとなれば、やっぱお前くらいじゃ・・・。
  ―――ああでもお前なら跡継ぐなんて悠長な事しないで直接天下取りにいくか。鳴かないホトトギスは夕飯のおかずにするだろうし」
 「そりゃてめぇだろーが佐伯・・・・・・。しかもお前鳴いても食うだろ・・・・・・」
 半眼で突っ込みながら、
 恐怖の大穴を思いついてしまった。
 (そういや戦国時代でもう1人、『佐伯』にゃ会わなかったよな・・・・・・)
 同じ時代同じ人間が2人以上いたら大変だろうし、実際2人以上に会ってはいないが・・・・・・
 ふと思う。あれだけいろいろいて、当人が納まっていたリョーガはともかく、なぜ自分と佐伯はそれぞれの過去に会わなかったのだろう、と。
 (
400年サイクルで生まれ変わるんだったら、俺とコイツだけいねえのもおかしいよなあ・・・・・・)
 同時に存在するのは無理だろうが、場所が違えばもしかしたらいいのかもしれない。
 (だとしたら、徳川幕府ってすっげーヤな時代だなあ・・・・・・)
 佐伯が治め仁王が相談役になる世界。自分はいなくてつくづく良かった。
 (いや待て。だとすると・・・
  ・・・・・・服部半蔵って、1番の被害者か?)
 せっかく佐伯の元から離れられたのにまた佐伯の元へ世話になる。不幸極まりないものだ。
 などなどいろいろ考える跡部。もちろん彼は知らない。
 『徳川家康』として君臨したのが、佐伯をも凌ぐ最強の存在―――この時代で言えば『幸村精市』だったという事を。
 「あ、チャルメラ」
 「ん?」
 突然言われ、耳を澄ます。
 ♪ぷい〜ひゃらら〜
 ・・・確かにチャルメラ音だった。
 「・・・つーか、よく聞こえたな。これだけ自分で喋ってて」
 「食いモンに関しては第7感が存在するヤツだからな・・・」
 同じくようやく聞こえたリョーガが重苦しく呟く。さっそくそちらに行こうとした佐伯の襟首を掴んで止め。
 「何だよリョーガぁ〜」
 「お前今絶対食った代金俺に払わせようとしてんだろ」
 「当たり前じゃないか」
 「ダメだ!! ならせめてもうちっと色っぽいトコ行こうぜ!!」
 「そーか奢ってくれるか!!
  なら行くぞリョーガ! 色っぽいところで高級フランス料理店!!」
 「そりゃ単に高けえトコだろーがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!」
 ドップラー効果を上げ遠ざかっていく悲鳴。
 佐伯に引き摺られ―――どころか引き摺られすらもしない勢いで引っ張られ、リョーガもまた遠ざかっていった。
 肩を竦め、跡部が止まっていた足を進めた。
 徐々に大きくなっていくチャルメラ音。そういえば『佐伯』に会った時も、アイツは屋台でラーメンをすすっていたななどと考え路地を曲がり、





 「よっ。跡部クンv」
 「リョーガぁ!?」



―――最終回 4

2006.1.31