テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第1回―――2
という事でラーメン屋から離れる。がらごろと、金属製のスクーターもどき―――これでも時元移動機らしい。25世紀におけるものの価値基準が謎だ―――を転がしついてくる佐伯にくるりと振り向き、
「で? 今回は何の用だ?」
「よく訊いてくれた」
「そりゃ訊くだろーよこの状況じゃ・・・」
ラーメン代を払わせられ別れたのではただのタカリだ。スクーターを脚で固定し片手を腰に当てもう片方の指を突きつけてくる佐伯に、跡部は引き攣った笑みを浮かべた。どうしようコイツ・・・などと考えつつ。
「大変だ。リョーガの一大事だ」
「ああそーかよそりゃ大変だなじゃあな」
「って訊きっ放しで去るなよ〜〜〜」
立ち去りかけた制服の裾を掴まれる。嫌々首だけ振り向けば、佐伯が唇を尖らせむくれていた。
「何歳児だよてめぇは・・・」
このままでは聞くまで放してくれそうにない。脱ぎ捨て帰る手もあるが、下までがっしり掴まれているためその手を取るとこちらが変態となる。
「・・・・・・・・・・・・。
んで?」
体ごと振り向く。腕を組み聞く体勢を取る跡部に佐伯は感激して・・・
「景吾ありがとう!!」
抱きっ!!
ごすっ!!
べしゃっ!!
どごらぐしゃっ!!
・・・抱きつき即座にカウンター。倒れたところ、支えを失ったスクーターが乗っかってきた。
スクーターを起こしちゃんと固定し、無傷で立ち上がった佐伯は神妙な面持ちで解説を始めた。
「リョーガは時元移動機で戦国時代に行って、明智光秀に成りすまして天下を物にする気だ」
「は〜あ。またそりゃ壮大な計画で。
どーしたんだアイツ? お前の奴隷で満足充実してたんじゃねーのか?」
これは嫌味である。25世紀のタイムトラベル管理局・統一執行部員という何だか凄そうな肩書きを持っていながら佐伯に尻尾を振る生活を送るリョーガに対しての。
だが、
「そうだよなあ? 不思議だよなあ」
「・・・・・・・・・・・・」
・・・そのお相手にはあっさり同意されてしまった。リョーガの反乱理由がとってもよくわかるような気がする。
「気になる事は言ってたんだよな。あの時もうちょっと真面目に聞いてやればよかった」
「ちなみにどんなだ?」
「『な〜佐伯〜聞いてくれよ〜。な〜んで俺がリストラの候補なんだよ。これほど統一執行部に尽くしてるってのによ〜。ええ? ちきしょ〜! 今に見てろよ!? けっ!』
キャバレーで両脇に綺麗なお姉さんはべらせてわめくからとりあえず蹴り倒して迷惑料払わせて、2軒目の赤提灯の飲み屋でくだ巻いてたんだけどな」
「・・・で、てめぇはどう返したんだ?」
いろいろ気になるところもあったが、大筋とは関係なさそうなので結論を求める。
「『まあまあ落ち着けよリョーガ。努力に成果が比例しないのなんて昔からのお約束じゃないか。何今更そんな理想論語ってんだ? 今まで散々相手の理想を裏切ってきたお前が今更そんな弱気、似合わないぞ?
何も時元捜査員だけが人生じゃないだろ? どんな相手にでも媚びへつらえるお前なら、相手の靴舐めて充分生きていける! 俺が保証する!
頑張れよリョーガ!! 応援してるからな新しい生活!!』
―――と」
「・・・・・・。明らかにてめぇじゃねえか決定打打ったの」
「そんな! 俺はちゃんと明るく励ましたじゃないか!! だからリョーガだって感動して飲み料金奢ってくれたんじゃないのか!?」
「奢りはいつもの事じゃねえか・・・・・・。
んで? てめぇへの復讐に、リョーガは過去を変え自分が天下を統一、一番偉くなろうとした」
「なるほどな。そして俺が豊臣秀吉になってアイツの抹殺を、と」
「事態解決だな。じゃあな。頑張れよ。俺も応援してるぞ」
「そんな冗談はさておいてだ。実際反乱したからリョーガが殺されそうなんだ」
「てめぇにか?」
「俺が? まさか。俺はコレをネタに一生いびり倒してやるだけだ」
「・・・殺されていいんじゃねえのかリョーガ?」
「ついに執行部が怒り出したみたいでな。今リョーガを殺す準備中だ」
戦力確保はもちろんの事、狂った歴史を元に戻す準備もしなければならない。
一番簡単なのは過去に行く前にリョーガをどうにかする事だろうが、未遂犯を取り締まるのはさすがに厳しいか。時元移動寸前に捕らえようにも、仮にもプロの捜査員リョーガが相手だ。そんなわかりやすい痕跡を残してはくれないだろう。
大体リョーガがいつそんな考えになり出したのかがわからない。唯一知っている佐伯は、今ここにいる。
(一応こんなでも人道家、ってワケか。コイツも・・・・・・)
いかにも安物ハリボテっぽいスクーター。絶対正規のルートで手に入れたものではあるまい。おかげでマークもされにくい。
大体話の大きさはわかった。ついでに佐伯の目的も。
「つまり、アイツが殺されるより先に接触して説得したい、ってか・・・」
神妙な面持ちで呟く跡部に、佐伯も重く肯き、
「だから頑張れ景吾」
「俺かよ!? てめぇがやれよ!!」
「だってリョーガはお前にとっても大切な仲間じゃなかったのか!? 俺はそう思ってたぞ!?」
「言ってる事はカッコいいし正しいが全部俺に押し付けるてめぇが言ってる時点で全然説得力ねーんだよ!!」
「けど思い出してみろよ!! 俺・お前・リョーガで過ごしたあの楽しい日々!!」
―――『へ〜。君が跡部クン、ね。俺は越前リョーガ。
これからよろしくな、跡部クンv』
ちゅっv
どごどごっ!!
『いきなり何しやがるてめぇは!!』
『ええ〜!? これがこの時代式の挨拶じゃねえのか!?』
『アメリカじゃそうかもしんねーがここは日本だ!! つーかアメリカでも頬までしかしねーよ!!』
『そうだぞ〜リョーガv まさかお前がそこまで見境がないとはなあ』
『あいやあの佐伯、これはつい脊髄反射で・・・』
『うんうん。そうか脊髄反射か。
じゃあ俺も脊髄反射で攻撃仕掛けるからなvv』
『もーしたじゃねーか!!!』
「・・・・・・・・・・・・。
余計助ける気が失せたな」
「だな」
「てめぇまで失せてどーする!? 俺の説得すら出来ねー時点でリョーガのなんてぜってー無理じゃねーか!!」
「そんな事はない。大丈夫だ」
「・・・・・・根拠は?」
胡乱げな目を向ける跡部に、
佐伯はなぜかにっこり笑って拳を掲げた。
「いつの世も―――16世紀から25世紀まで、最後にものをいってきたのは暴力だ。リョーガが俺に勝つワケないだろ?」
「・・・。それもそうだな」
何か間違っていると・・・むしろ何もかも間違っていると、そう思うのだが。
最早突っ込み疲れた跡部は、あっさりそれに同意する事にした。
(まあ、確かにリョーガなら佐伯にゃ絶対服従だろうしな・・・・・・)
―――第1回 3
2006.1.10