テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第1回―――3


 スクーター―――もとい時元移動機に乗る。
 後部座席に跨ろうとして、
 「あ、景吾ダメだって脚開いちゃ。みっともないなあ」
 「ああ? てめぇだって開いてんだろーが。つーか開かねーと乗れねえだろーが」
 「横座りで乗ったらいいじゃん」
 「ざけてろ」
 佐伯の頭をはたき、結局跡部は横座りで乗る事にした。これ以上ここで駄々を捏ねられても仕方ない。
 「しっかり掴まってろよ」
 「ああ」
 言われるまま腰に手を回す。先に釘を刺して、
 「次セクハラ台詞ほざいたらその座席から落とすからな」
 「ぐ・・・」
 ただの路上で下ろされたならともかく、タイムスリップ中に落とされたのでは異時元空間に投げ出される。佐伯も渋々と従った。
 「じゃあ、行くぞ!!」





・     ・     ・     ・     ・






 異時元空間に移動。リョーガの探査をしつつ時間を遡りながら・・・
 跡部は再び鼻をすすっていた。
 「やべ、風邪ひいたか・・・?」
 先程は湯気に当てられてかと思ったが、2度連打となれば偶然とも思いにくい。そういえば朝少し喉が痛かったか。
 「風邪? ならコレやるよ」
 前で律儀に聞いていた佐伯が、もちろん前を向いたまま後ろに手を回してきた。
 台拭きの件を踏まえ、慎重にそれを受け取る。茶色く小さなビンだった。
 ラベルを読み上げ、
 「栄養ドリンク『強力ヨミガエル ウルトラスーパーデラックス』・・・?
  滋養強壮、精力増進・・・・・・うあ何か―――」
 「『何か』?」
 「・・・・・・・・・・・・。いや、何でもねえ」
 「そうか? 俺の常備薬なんだ。よく効くぞ?」
 「何にだよ・・・?」
 情けない声で問い掛ける跡部。この効力説明、妙にエロくさく見えるのは自分だけなのだろうか・・・・・・?
 よほど訊いてみたかったが、ヘタに質問すればドツボに嵌りそうだったので止めておく。
 「ささ、ぐっとv」
 明るい声で盛り上げる―――なぜここまで明るくなるのかよくわからないが―――佐伯の声援を受け、跡部は上を向いて中身を口に流し込んだ。途端!
 「ぐげっ!?」
 脳天を突き抜ける激烈な苦さ。
 白目を剥き落ちかけた跡部は、佐伯の差し伸べた腕に抱かれかろうじてスクーターから落ちずに済んだ。
 「ちなみに、良薬の証拠としてめちゃくちゃに苦いから頑張れよ?」
 「そういうのは先に言え!!」
 佐伯の脚の間に横抱きされたまま吠える。その跡部の躰が―――
 ―――びくりと震えた。
 (な・・・・・・?)
 躰が熱い。これは、まさかやはり・・・・・・
 「な、なあ佐伯・・・」
 「何だ? 景吾」
 「この薬、マジで何に効くんだ・・・・・・?」
 腕の中で震えながら、それでも服をぎゅっと掴み何とか意識を保っている跡部。とても可愛らしい彼に佐伯はやはりにっこり笑い、
 「俺のストレス解消、活力向上に」
 「やっぱそういう薬じゃねーか!!」
 「あちょっと景吾暴れるなよ!! 一体何が不満なんだ!?」
 「騙されて媚薬飲まされて犯されそうになってのどこを指したら不満じゃねえ部分が見つかる!?」
 「別に騙してないだろ!? 『滋養強壮、精力増進』って説明どおりじゃないか!! それに従って飲んだのはお前だろ!?」
 「ああそーだな!! 自分で飲んじまった責任取って、全力で暴れて拒否するからよろしくな!!」
 じたばたじたばたじたばた!!!
 狭苦しいスクーターの座席で、2人が己の生死をかけた見苦しい争いを始める。異時元には飛ばされないよう手を足を引っ掛け殴り合い蹴り合い・・・・・・





 ぷすん☆
 『は・・・・・・・・・・・・?』





 「なあ佐伯、今なんかすっげーやべえ音が聞こえたような気がすんだけどよ・・・」
 「聞こえた・・・というか、
  何の音も聞こえなくなったな」
 
25世紀になってもいまいち静音技術は発達していないらしい。ずっとモーターらしき音はしていた。今までは。
 「こ、これは・・・!!」
 「何だ!? どうした!?」
 慄く佐伯に跡部も焦り出す。混乱時、まず必要なのは冷静になる事ではあるだろうが、
 ―――時元移動などという全く理解不能の体験をさせられている最中のトラブルだ。たとえ冷静であったとしても、跡部に出来る事は何もない。
 そんな跡部を他所に、さらに佐伯は慄き、
 「整備屋わざと手ぇ抜きやがって・・・! たかが4割値切り倒した位で根に持って暗いヤツらだなあ・・・!!」
 「ったりめーだンなモン!!!」
 原因はめでたく判明した。本体の代わりに佐伯を殴り倒したところで、
 スクーターが限界を迎えた。





 「うわあああああ!!!!!!」
 「てめぇ佐伯次会った時覚えてろよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」





 それぞれの悲鳴を上げ、2人は異時元空間へと投げ出されたのだった・・・・・・。



―――第1回 4

2006.1.10