テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第2回―――1
どこぞの誰かのせいで佐伯と離れ離れになった跡部。敵(たまたま遭遇した武者)3人までは倒したが、これ以上暴れて注目を集めても仕方ないので4人目で逃げ出した。
追っ手が振り回しているのは槍。何も持っていないこちらが不利。先程の刀は邪魔だったので捨ててしまった。しかも革靴はおせじにも雑木林を歩き易い―――走り回り易いとは言いがたかった。
(つーかやべえ・・・。あの薬、効果切れてねえ・・・・・・)
走りながら、むやみに心臓がばくばくする。腐っても運動部員。それも全国区。この程度動いただけで動悸息切れするほど哀しくありたくはない。
追いつかれる事を覚悟し、跡部は迫り来る相手と向かい合った。後ろから斬りつけられるよりは、前から来たのを避けた方がまだ生存確率が高い。先端を避け柄の部分を弾き内側に入り込めば、余程扱いに長けた者でない限り無手となる。
向かい合い・・・
「よく見ればお主、
――――――めんこいのう」
「・・・・・・・・・・・・あん?」
「今はこんな事をしとるが、わしもめんこい子は大好きじゃ。
どうじゃ? わしのものにならんか? 可愛がってやろう」
「ぜってー嫌だ・・・・・・」
ぼそりと呟く。大声で言わないのは、あまりにも情けなさ過ぎる展開に精根尽き果てたからだ。
(おい千石、てめぇの同類がここにいるぞ)
《あっはっは。ほらやっぱいつの時代も男は可愛い子にめろりんこv なんだよ》
(念のため確認取っとくが、俺は男だぞ?)
《わかってるって大丈夫! 可愛さ美しさを前に、性別なんていうのは些細な問題なんだよ》
心の中で自称語り担当と話し・・・・・・余計に気力が萎えた。
「んじゃ、さっそくおじちゃんの家に行きましょっか〜♪」
鼻の下を伸ばし笑う武者。まるで神経を逆撫でるように―――逆だった。落ち着かせるように両手を広げ近寄ってくる。槍も置いてきていた。
そんな、最早ただの変態男を見て、
跡部はにっこりと笑った。
「んじゃ、ぜひとも可愛がってくれよ?」
「え・・・・・・?」
それが、男の最後の言葉だった。
「死ねやおらぁぁぁぁ!!」
「ひぎゃあっ!?」
声の低さ(以上にその内容)を怪しむ間もなく、男は飛び出した跡部に顔面を殴られ吹っ飛んでいった。いくらちょっと鎧を身に着けていようが、西洋の物と違ってフルフェイスではない以上顔面はがら空きだ。
倒れた男を追って血飛沫がアーチを描く。冷めた目でそれを見送り、
「・・・あ、鼻水収まった」
《え・・・? ポイントそこ・・・?》
些細な問題を指摘してくる千石を無視し、後は火照りを収めるだけ・・・とぱたぱた手で顔を仰いだ。
その手が―――ぴたりと止まる。
《敵5人目発見、と》
(言われねえでもわかってる)
《そりゃしっつれ〜しましたっ!》
軽口叩き屋は一言で黙らせ、跡部は軽く拳を固め声を上げた。もちろん意識は後ろの気配に集中させて。
「いんのはわかってんだぞ。今すぐ攻撃して欲しいんなら自己申告しやがれ。その勇気に免じて9割8分殺しにまけてやる」
《穏便に済ます気0?》
(当然だ)
努めてゆっくり呼吸をしながら時を待つ。煩い鼓動が邪魔になってきた頃、
がさっ・・・
「待て。俺はみ―――」
「そこかぁ!!」
がすっ!!
振り向き様ダッシュをかけての殴りは、現れた男の手の平にしっかりと受け止められた。
(なるほど。さっきのヤツよりゃ強ええ、ってか)
「待てと言っているだろう!? 俺は自己申告していない!!」
「してねえから10割殺し決定なんだろーが!!」
間髪入れず左の蹴り。こちらは持っていた槍で受け止められた。
「だから!! 俺の話を聞かないか!!」
「聞く耳持たねえ―――よ!」
下ろすとみせかけ更に脚を上げる。槍を絡め取ればそれはあっさり手放された。
やはり随分手馴れているらしい。とっさの判断で手持ちの武器を手放すのは、素人には難しい芸当だ。
「お前が今倒したのは武田軍の者だろう!?」
「知るか! 俺に歯向かったヤツぁ全員敵だ!」
「どんな理屈だそれは!?」
左脚に向こうの右手がかかる。叩かれたりでもすればさすがに体勢が崩れる。急いで脚を下ろした。
反動で前に泳ぐ体をむしろ相手に押し付ける。体格はほぼ同じ。このまま体重をかければ後ろに転ばさせられ―――
「だから!! いい加減人の話を聞かないか!!」
「―――っ!」
残っていた右足が払われる。左も下りきっていない。片手取られたまま宙に浮き、跡部は逆に相手に押し倒される恰好となった。
「ぐ・・・!」
さすがにこの状態では受身は取れない。肺を固め衝撃を堪える跡部の上に、相手が跨ってきた。
一瞬の攻防で上がった息を落ち着け、肩を落とす。
跡部も荒い息のまま相手を見上げ・・・
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ////////!!!???」
ずざざざざざざざざぁっ!!!
相手は、跡部の上から勢いよく後退していった。
「? どうした?」
眉を顰め身を起こす跡部。相手はなぜか色白そうな顔を赤く染め、必死に両手を振っていた。
「お、俺は断じて見境なしではないしそういったつもりで押し倒したのではないからな!!」
「・・・・・・。
ああ・・・・・・」
再び火照った頬に手を当てる。急激に動いたせいだろう。余計に熱くなっていた。
「別に、こりゃ単に体調不良で、てめぇに何か思ってじゃねえよ・・・」
媚薬飲まされたなどとはとても恥ずかしくて言えない。適当に誤魔化しておくと、戻ってきた男がぴたりと額に額を当ててきた。
「熱があるのか?」
「〜〜〜//」
睫が触れそうなほどの至近距離。今までは戦闘中だったのでよく見ていなかったが、こうして近くで見れば端正な顔立ちだ。
《頼れる味方もいない孤立無援下、跡部くんは優しくしてくれる美男子についふらふら〜っと―――》
「しねえ!!」
いらない解説を加えストーリーを変えようとする千石を一声で黙らせる。が、
「『死ね』・・・?」
(げ。ヤベえ・・・)
相手の顔がモロに不審げなものになった。千石の造り出したストーリー通り動くワケではないが、確かに今は頼れる味方もいない孤立無援下。味方になってくれる見込みのあるヤツを手放すのも惜しい。しかも相手は自分とタメを張る腕前の持ち主。いらない争いは出来れば避けたい。
じ〜〜〜っと見てくる相手に、跡部は汗を掻きながら説明を加えた。
「しねえ・・・しねえ・・・・・・そう!!
『死ねえ!!』と襲い掛かられて危うく死にそうだったんだ!! 助けてくれてありがとな!!」
「いや・・・。誰がどう見てもお前の方が相手を殺しそうだったが・・・・・・」
取った手をぶんぶん振り感謝の意を込める。割と高めの跡部の握力―――ではなく誠意溢れる態度にやられ、相手もかくかく首を振って納得してくれた。
「んで・・・えっと・・・。
てめぇは? 何か敵じゃねえみてえな事言ってたが」
「俺は織田方の者―――織田軍・羽柴秀吉隊の山内手塚一豊だ。手塚でいい。武田軍の武者を倒したお前の敵ではない」
「『手塚』?」
「む・・・? そうだが?」
首を傾げる・・・ようなリアクションを込め疑問符を上げる相手をじっと見る。いつもの眼鏡がないから気付かなかったが、確かに言われてみればこの顔は自分の知っている青学部長だった。
(ま、まあ長い歴史の間にゃ同じ顔のヤツがいたところで不思議じゃねえよな・・・。佐伯とリョーガだってそうなんだからよ・・・・・・)
25世紀から来たという殺し屋とタイムトラベル捜査官。なぜそれが21世紀の知り合いと全く同じ顔兼性格なのか、やはりああいうヤツが淘汰の波を乗り越え数百年経ってもまだ選ばれるのかと、いろいろ思うところはあったが・・・
(未来でありゃ過去でもありえる、ってか・・・・・・)
「で、敵じゃねえって言いてえのはわかったが、それで?
なんでわざわざ俺に声掛けてきた?」
いくら敵である武田軍の武者を倒そうが、自分に攻撃を仕掛けてきた時点で敵と見なすものだろう。なのに止めもささず、このように普通に話し掛けてくるというのは・・・・・・。
「うむ・・・。それは、な・・・」
「何だよ珍しいじゃねえかンな歯切れ悪りいの」
「珍しい、だと?」
「今までの行動見てっと実直なタイプかと思ってな」
《うっわ〜よくスラスラ出てくるね〜そんな出任せ》
(任せろ。何でか俺の周りにゃ何のためらいもなく嘘八百ほざきまくるヤツが多くてな。慣れたぜ騙されるのにゃ)
《いやそういう下地踏まえた上で、騙すのに慣れちゃう君もどうかと思うけどね。普通自分は正直に生きようって思わない?》
(思わねえ。やられたらやり返さねえとな)
《・・・・・・・・・・・・。
まあいいけどね》
心の会話に決着をつけている間に、手塚の方の決心も固まったらしい。
「お前がもしも織田軍の間者だというのなら、もしよければその首を俺にくれないかと思ってな」
武者に取っての成果とは、討ち取った敵の首の数だ。そして間者にとっては情報だ。確かに自分を間者だと仮定すればいらないものではあるだろうが・・・・・・。
「首? ンなの自分で取りゃいいじゃねえか。別に1つも取れねえほどヘボでもねえんだろ?」
「それはそうなのだが・・・
―――俺はどうも人殺しというものが苦手でな」
「ああ? てめぇ武者だろ? 戦で敵殺せねえでどーすんだよ?」
「確かにそうなのだが・・・・・・、たとえ敵でも同じ人間だろう? なぜ殺し合わなければならない?」
真剣な目で問われ、
跡部も真剣な目で返した。
「殺さねえと自分が殺されるからだ」
悩みはしなかった。迷いもしなかった。
必要なら自分だって人を殺す。一番大事なのは自分。そして自分が大切に思うものだ。それを守るためなら、この手などいくらでも血で汚してやる。
甘いと手塚は笑うだろうか。実際血と殺しと隣り合わせの生活を送る彼からすれば、自分の考えなど世間知らずの理想論だろう。
だが、
「てめぇにゃ帰り待つヤツはいねえのか? てめぇが死んで悲しむヤツはいねえのか?
だったら生き残れ何としてでも。人殺しもためらうな。てめぇはてめぇだけのモンじゃねえ」
「・・・・・・・・・・・・」
じっと、見つめられる。まるでテニスの試合をしている時のようだ。
こちらも逸らさずに見つめていると、
手塚が転がっていた槍を手に取った。
こちらに刃を向け、担ぎ上げ―――
投げた。
「ぐげっ!!」
後ろで悲鳴。先程殴り倒した男が再び倒れていた。刃は―――男の肩を貫いていた。
立ち上がる手塚。こちらの脇をすり抜け男の脇に立つと、それを抜き取り痛みにのたうっているのを軽く打ち。
言う。
「確かに戦場にて人を殺せない俺は甘いのだろう。だがそれでも、
――――――俺はこのままであろうと思う」
「ま、てめぇが決めたんならそれでいいんじゃねえの。1つだけ言っといてやるが・・・」
立ち上がり、ぱたぱた土をはたき。
跡部は手塚と向き合った。
「後悔はすんなよ?
てめぇで決めた人生後からうじうじ言うのは最高にカッコ悪いぜ」
「そうだな。肝に命じておく」
手塚が小さく肯く。その顔は、もしかしたら少し笑っていたのかもしれない。
「じゃあな」
「ああ」
手を上げ、互いに踵を返し逆方向に歩き出し・・・・・・
《ってそのまんま別れちゃっていいの? これからどうすんのさ跡部くん》
「・・・・・・・・・・・・」
千石の適切な指摘に、跡部は歩きかけていた足を止めた。
再び踵を返し、手塚の背を追いかけ。
「む? 何だ?」
「ま、まあここで会ったのも何かの縁だ。仲良くしようぜ手塚?」
「なぜだ?」
「・・・・・・っ!」
非常に答えにくい質問。まさか『未来から来たが仲間とはぐれた』などと馬鹿正直に説明するワケにもいかない。それこそ冷めた目で放っておかれる。
歯軋り後、跡部は薄く笑い、
再び去ろうとする手塚の肩に手をかけた。
伸び上がり、少し上にある耳に囁く。
「なあ、俺今行くトコなくて困ってんだよ。何でもするぜ? 連れてってくれよ、手塚ぁ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「よっし反対意見もねーな。決まりだ。これから頼んだぜ、手塚」
「ちょっと待て! 俺はまだいいとは―――!」
「ああ? 固ってえ事言うなよ。一度は寝た仲じゃねーか。今更何遠慮してんだ?」
「そのような言い方をするな!! 断じてそのようなやましい事はしていない!!」
「ほ〜・・・。
―――ならさっき、何ですぐ断らなかったんだろーなあ。耳が少し赤くなったように見えたんだがなあ」
「それは・・・!!
お前の熱がかかったからなだけだ!」
「そうそう。つー事で俺具合悪りいんだった。気遣うつもりならもちろん家連れてってくれるよな?」
「お前のどこが病人なんだ・・・?」
「んじゃ行くぞ。んで? てめぇん家はどっちだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
さっさと腕を引き歩き出す跡部。最早言葉を返す気力もないのか、手塚は後ろでため息をつくだけだった。
「はあ・・・。こんなんだから、俺はとても出世が出来ないのだろうな・・・・・・」
「ああ? 何か言ったか?」
「いや何も」
―――第2回 2
2006.1.11