テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第3回―――3


 さて、明智光秀・・・・・・に扮したリョーガ控える坂本城にやってきた跡部。ここに来る前手塚に聞いたところによると、光秀は長く諸国を流浪していたが未来人としての力を信長に気に入られ、異例の出世を果たしたらしい。
 (前歴が不明ってのは、やっぱ突然現れたから・・・か)
 「殿のおな〜り〜!!」
 大仰な呼びかけ―――一応言うがここは広間とはいえ体育館の端と端ではない―――に合わせ、跡部も頭を垂れ・・・
 ―――襖が開き前に誰かが現れた瞬間、勢いよく飛び出した。
 「てめぇが元凶かおらぁ!!」
 「うおあっ!?」
 どごがっ!!
 跡部様の華麗なる飛び蹴り炸裂。見事顔面に喰らい、光秀殿はせっかく閉めた襖から即座に退場していった。
 「ぶ、無礼者・・・!!」
 「貴様殿の暗殺が狙いか!?」
 とりあえず顔面蹴りは礼儀以前の問題だし、暗殺希望ならこんな人前で堂々とやりはしないと思うのだが、突発事態にパニくり過ぎて何を言えばいいのかよくわからない家来達にそれらを突っ込むのはあまりに酷だろう。
 刀や槍を構えて包囲する。一発決めて実にすっきりした跡部を。
 「――――――あ〜・・・ってて。
  まあった随分過激な挨拶してくれるねえ、跡部クン」
 「殿! ご無事でしたか!!」
 奥から再び入場してきた袴姿の男は、見間違い様もなくリョーガだった。こちらの名を気安く呼ぶ時点で決定だ。
 確認し、
 「ちっ・・・。仕留め損ねたか」
 「貴様!! 今すぐこの場で成敗―――!!」
 辺りの空気がさらに険しくなる。
 いつもと変わらぬ光景なので、特に静める気も0でリョーガは面倒くさそうに手を振った。
 「あーいいいい。
  コイツの礼儀の悪さはいつもの事だ。これでも一応上流階級のヤツなんだけどな」
 「ですが・・・!!」
 「いいって何もしなくて。コイツは俺の友人だ。友人に刃物突きつけて無礼もクソもねーだろ。
  お前ら下がれ。2人で話がしてえ」
 「2人だけ・・・!?」
 「せめて護衛の者をお付けください!! この者は既に殿に危害を―――!!」
 「いいから。コイツは何もしねーよ。ンなヤツじゃねえ」
 「しかし・・・!!」
 「それとも―――」
 尚も食い下がろうとする家来を前に、
 リョーガの醸し出す雰囲気が変わった。
 「―――この俺の言う事が聞けねえ、ってか?
  俺を誰だと思ってやがる? 未来人の明智光秀だぜ?
  その俺が、よりによって自分の未来見誤るとでも思ってんのか? ああ?」
 「はっ・・・!! 申し訳ありませんでした!!」
 「では我々は下がっておりますので」
 「殿、いつでも必要な時はお呼び下さい!!」
 「よっしよっし。んじゃ何かあった時ぁよろしく頼むぜ?」
 『はっ!!』
 一声で下がっていく家来達。手を振って見送るリョーガに、ぽつりと跡部が呟いた。
 「意外と人気者なんだな。光秀殿」
 「ま、君ほどじゃないと思うけどね。跡部クン」
 脚を崩しどっかりと座り込む。2人きりなら遠慮する筋合いもない。
 合わせ、リョーガも座り込んだ。こちらは一段高いところから脚を下ろして。
 別に位が上だと見せつけるつもりではないだろう。単純に育ちの差だ。アメリカ暮らしを続けていたリョーガに、ずっとあぐらはキツいようだ。
 座るなり、リョーガが口を開いた。
 「んで、佐伯は?」
 「てめぇは他に言う事ぁねえのか?」
 「『悪いねえ君にまで迷惑掛けて。でも無事でよかったよかった』。
  ―――んで佐伯は?」
 「欠片も誠意を感じねえ言い振りだったな。
  はぐれたぜ?」
 「何ぃ!?
  何でだよ!? せっかく電波まで飛ばして居場所教えたってのに!!」
 「あのなあ。佐伯の所有物な時点でオンボロ決定の時元移動機に、電波キャッチなんつー高度な芸やらすなよな。おかげで故障しちまったじゃねえか」
 《ええ? それ明らかに整備費4割ケチったサエくんの方にあんじゃないの? 原因》
 「そんな佐伯の性格読みきれなかったリョーガだろーが悪りいのは」
 「結局俺なのか悪りいのは?」
 「ったりめーだ。そもそもこんなトコまで来させる原因作ったのはてめぇだろーがリョーガ。何今更被害者ヅラしてすっ呆けてやがる」
 「いやそこに関しちゃ責任持つけどよ、
  ―――故障は俺のせいじゃねえだろいくら何でも」
 「いーやてめぇのせいだ。だから一発殴らせろ。てめぇのせいでさんっざん!! 苦労してきたんだからな」
 《そんっ・・・なに苦労してないと思うよ君は。周りに被害が飛びまくっただけで。
  でもな〜るほど。妙に因縁つけるって思ったら、とりあえずサエくんが見つからないからリョーガくんでストレス解消しようと》
 「止めろよそーいう八つ当たり!!」
 「きっぱりてめぇも当事者だ!!」
 会わない内は話が進まなかったが、会ってもやっぱり話が進まない主役一同。なお千石の『語り』は、ほとんどの者には聞こえないが跡部の他にリョーガと佐伯も聞こえるようになっている。ナビゲーターとしての役割を考えれば当たり前の事か。一番役割を放棄しているのが千石自身だとしても。
 「んじゃあ、佐伯の居場所はわかんねえ、ってか・・・」
 「居場所どころか吹っ飛ばされた時代もな。生憎と俺じゃ時元移動の仕組みもよくわかんねえしな。
  最後に消えたのは見たから、異時元空間で彷徨ってるなんて事たあねえと思うが・・・・・・。
  ―――てめぇは何かわかんねえか千石?」
 《え? 俺?
  なんで?》
 「『語り』なんだろ? 過去未来現在どれも関係ねえんだろ?」
 「なるほどね。語り継ぐんなら対象の動きはちゃんと把握してないと、ってか」
 2人に見つめられ(いや実際姿はないが)、千石は暫く黙り込んだ。
 軽いため息が聞こえる。人間ならさしずめ、肩を竦めたといったところか。
 《君達、本当の『未来人』になんてなりたくはないでしょ?》
 「つまり佐伯は未来にいるってか?」
 《今現在君らがサエくんに接触してないなら、今後するにしてもしないにしてもそれは全て『未来』の事だ。
  本当に君たちが知りたいのは、サエくんがどこに飛ばされたかより――――――サエくんにまた会えるかでしょ?》
 それも1つの理屈だ。たとえどこにいるかなどといったように直接は問わなかったとしても、答えによっては間接的な未来予告となる。会えるか、会えないか。
 「まあ、佐伯なら跡部クンと違って運は悪くねえし、悪くても自力で切り開くだろ。
  このままやられっ放しで退場なんて、ぜってーしねえだろーな」
 「そーだな。アイツにゃ言いてえ事としてえ事が山ほどある。このまま逃がしてたまるかってんだ」
 ぽりぽりと頭を掻くリョーガ。ばしりと拳を打ち付ける跡部。確かに、この2人に未来予告などいらないようだ。
 「んで、それはそーとしててめぇは何やってんだリョーガ?
  明智光秀に成りすまして天下取りてえ? まったピンポイントなヤツ選んだな・・・。もうちっと確実に取れるヤツ選びゃいいじゃねえか」
 「それは言うなよ〜。俺だって3日天下はすっげー悲しいし、なれんだったらせめてまだカッコいい信長になりたかったぜ」
 「・・・結局天下取る気ねえんじゃねえか。やっぱ佐伯の奴隷のまんまでよかったんじゃねえ?」
 《う〜ん。まさしく『ザ☆後ろ向き人生』って感じだね。
  さっすがリョーガくん! 夢はでっかく、器はちっちゃく!!》
 「ほっとけ!!
  違げえよ!! 俺だって始めはもっとちゃんとまともにやる気だった!!」
 「熱意がラストまで続かねえ。そんなだから佐伯にだって愛想尽かされるんだよ」
 「尽かされたのか!? やっぱ尽かされちまったのか・・・!?
  うぐぐぐぐ・・・・・・」
 「・・・・・・何マジで落ち込んでんだ? 鬱なら早めに然るべき所に通って対処法考えた方がいいぞ?」
 怪訝な顔で肩を叩いてやると、何とか気を取り直したリョーガが説明を始めた。
 「つまり、最初は歴史を変えて俺自身が天下を取ってやろうと思った」
 《志だけは立派だね》
 「そうだな。志だけは立派だな」
 「同じ台詞ならせめていっぺんに言えよ!!」
 『志
だけ―――』
 「だからって繰り返すな!!
  だが一言に歴史変えるっつってもそう楽なモンじゃねえ。一応俺もこれでもタイムトラベル管理局に勤めてるワケだからな。この辺りはよくわかってる」
 「クビ候補のクセにか?」
 「ああそーだなでもってこんだけやってる時点でクビ決定だよ!!
  だから俺はヒストローム値の高い時代選んで来たんだ」
 「ヒストローム値? 歴史抵抗値・・・?」
 「ああ、これはうちの管理局専門用語なんだけどな。
  早く言えば歴史の歪みを測定する値の事だ。歴史ってのは、本来あるべき流れから時々違うところに行こうとする。それと、元に戻そうとする本筋の間に抵抗が生まれるってワケだ。値が低い間はそんなに変化もねえし本筋に戻されるかもしれない。値が高くなりゃ違う筋になる―――」
 「―――かもしれないから、タイムトラベル管理局が出動して元に戻す・・・って仕組みか」
 「そうそう。さっすが跡部クン。理解早いね〜」
 頷くリョーガを見て、
 さらに跡部は1つの結論を述べた。
 「んで、この時代はヒストローム値が高い―――だから弄くりやすい。実際明智光秀なんつー重要人物に成りすます事まで出来た。
  ・・・・・・やっぱ弄くるなら弄くるでもうちっと違うモン選んだ方がいいと思うんだがな」
 「そっちか結論!?
  じゃなくてだ、だから君の想像どおり、俺はこの時代を選んで来た。
  ところが来てすぐに気付いた。なんでヒストローム値が高いのか。どう歴史が変わろうとしてたのか。





  ――――――いなかったんだよな。『明智光秀』っつーヤツが」





 「いなかった? てめぇが抹殺したんじゃねえのか?」
 「ンな事しねーよ。俺は佐伯と違って殺し屋なんつー職業やってねえからな。それに、
  人の名前騙って天下取ったって面白くも何ともねえ。俺がやるんだったら、後の歴史にゃ『将軍・越前リョーガ』って名前しっかり刻み込んでやるぜ」
 「んじゃてめぇが光秀やってるってのは・・・」
 「逆だな。歴史狂っちまわねえように、一応誰か代理つけねーとな。
  可笑しいか? その俺がまず狂わそうと思って来たってのにな。
  けど何だなー。実際狂ってんの見たら、やっぱ直さねーと―――なんて考えるまでなく直そうとしちまってた。俺も大概お人よしだよな」
 「・・・・・・・・・・・・。
  そうだな」
 苦笑する。
 リョーガはそういうヤツだ。悪ぶってみたところで結局悪役にはなれない。困っている人を見たりすると、何も省みずに手を差し伸べる。
 だから仕事の出来は悪いと怒られ・・・・・・だから人からの信頼をよく集める。自分だって、リョーガがただのろくでなし野郎だったらこんなところまでわざわざ助けに来ようなんて思わない。
 「んで? 代理やりながら本物待ってる、ってか?」
 「そのつもり・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・だったな。前は」
 リョーガの口調が変わっていった。
 暗く重く、そして熱く呟く。
 「ある時執行部のヤツが来た。そういや上司の許可なしに来ちまったワケだから確認に来たってか―――って事で報告しようとしたら何も訊かれず殺されかけた。
  理由訊きゃ俺は反逆者だとよ。ついでにリストラ候補だったのがしっかりクビになってた。執行部に恥さらしはいらねえってな。
  何だこの展開? これだけやってるってのにクビ決定で挙句殺すだあ?
  フザけんなよ。だったら徹底的にやってやろーじゃねえか。
  歴史変えて、光秀で永遠に天下取ってやるよ。管理局でも直しようがねえ位完全に変えてやる。
  『未来』は全部知ってんだ。最後に勝つのはこの俺だ・・・!!」
 べきりと妙な音が鳴った。音源を見れば、畳に突き立てていたリョーガの爪が剥がれていた。
 深い深い憎しみが伝わる。そして奥には悲しみが。
 (どうする? 止めるか? 止められるのか俺に?)
 執行部がリョーガ抹殺の考えを示しているのは佐伯に聞いて知っていた。歴史を変え反乱を企てているとすればその判断も仕方ないと思ったが・・・
 ―――まさかその原因を作ったのが他ならぬ執行部だったとは。
 唇を噛み締める跡部の―――跡部だけの耳に、千石の声が届いた。
 《1つだけ、君らのために未来予告をするよ。
  君が悩めば悩むほどリョーガくんは余計に苦しむ。決断を下すなら今しかないよ》
 (―――っ!!)
 どんな時でも決して悩まない千石の口調。全てを知っているのならわざわざ悩む必要はないのか? それとも、千石が語っているのは事象だけでなくその裏に隠された気持ちもなのか?
 なら―――
 ――――――それがわからない自分はどう動けば良い?
 (簡単だ。
  俺は俺が思うがまま動く!)
 リョーガが立ち上がった。顔が上がる。
 今までの怒りはどこへやら、いつもと何も変わらない、人を食った笑みを見せ。
 「俺の話はこれで終わりだ。
  さって跡部クン。今の聞いて君はどうする? あくまで止めるか? それとも―――」
 「止めるに決まってんだろ?」
 「全っ然悩みもしてくんねーんだ」
 「当然だ。元々俺たちはそのために来た。馬鹿な事やってるてめぇの説得にな。
  てめぇにどんな事情があろうがンなモン関係ねえよ。説得してさっさと連れ戻す。それだけだ」
 「交渉決裂。残念だねえ。君が俺の味方についてくれるって言うんなら、好きなだけ領土あげようって思ったってのにな」
 「その台詞は佐伯にゃ言わねえ方がいいぜ? 『日本全土』なんぞと言い出すからな」
 「そりゃいいな。だったら全部プレゼントしてやる。最大のプレゼントだぜ?」
 「そんでてめぇは晴れて佐伯の奴隷に逆戻り、ってか」
 軽口に、返事は返ってこなかった。
 代わりに違う事を言われる。
 「お前ら出て来い! コイツ捕まえろ!!」
 『はっ!!』
 「ちっ・・・!!」
 これ以上の話し合いは無駄。
 逃げようと踵を返した跡部の周りを、
 すぐ外に待機していた家来達が取り囲んだ・・・・・・。



―――第4回 1











 ―――サエが〜・・・じゃなかった薔薇之介が出てこなかった〜・・・・・・。この回の感想はまずこの一言が・・・。
 さて第3回。いよいよ反逆者リョーガの登場です。やっぱりサエが絡まないとカッコいい人です(自画自賛)。
 果たして今後サエは・・・だから違くてリョーガは、跡部はどう動くのか。本当に野望を達成してしまうのか。追っ手を逃れて阻止する事が出来るのか。そして何よりサエの出番は〜〜〜!?

なお補足兼お詫び(?)
・ヒストローム=歴史抵抗というのは私の想像です。今回初めて聞くため、それがどういう理由でつけられたのかはわからないんですよね。
historyohm[Ω]かな〜と思い、つけました。
・不二が、つまりは千代が戦で両親を無くし一豊に拾われたのは大河ドラマより。そんな不二、鏡の裏にヘソクリを隠すと言いますが・・・・・・
 ・・・・・・普通壁に立てかけてその隙間に隠すのでしょうね。枠と鏡の間に隠すのは不二ならでは(+跡部とサエの教育の賜物)でしょう多分。そんな仕組みだったらむしろ不自然ですぐバレるでしょうし。

2006.1.1215