テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第4回―――2
話し掛けてきた男が、目元除き覆っていた覆面を少しだけ持ち上げた。細められた紺青の目、隙間から零れた銀髪は間違いなくかの男のもので。
「貴様ら、忍びか!? 何用だ!?」
「コイツを取り返しに来た。目的はそれだけだ。
黙って通してもらおうか」
言いながら、佐伯が立ち位置を変えた。こちらを守るように、背中に庇い前に立ち塞がる。
自分がそこまで弱いとは思わない―――まあさすがに本物の殺し屋たる佐伯よりは弱いだろうが。だが・・・
・・・・・・こうやって庇われるのは、少しだけ嬉しくもあった。
《跡部くんのピンチにどんぴしゃ駆けつけたサエくん。その雄姿に跡部くんもどっきどき〜vv と・・・》
「なんねえ!!
やっぱ俺も戦う!!」
「そりゃ残念。
けど大丈夫か? 今までずっと逃げて来たんだろ? あんま無茶すんなよ?」
「ハッ! 安心しな。わざわざてめぇに心配されなけりゃなんねーほど落ちぶれちゃいねえよ」
「そりゃ良かった。
―――ほら来たぞ!」
「任せとけ!」
乱戦が始まる。右から来た1人を倒してる間に、佐伯は左から来た3人を適度に叩きのめしていた。気のせいか、その動きは以前見た時よりも格段によくなっている。
周りを見れば、他の黒装束一同も頑張っているようだった。
「おい佐伯! てめぇこりゃどういう事だよ!? つーかてめぇ今まで何やってやがった!!」
「説明は後だ。今忙しい」
にべもなく言い切られる。確かにそうかもしれないが・・・
と―――
「ご主人様・・・! ここは我々に」
「ああ、手下1号。んじゃ心置きなく見捨てるから後よろしく」
「このヤロ・・・!!」
あちこちから湧き上がる憤怒の声。どうやらこの黒装束一同。仲間意識というか友情度はとことん低いらしい。
「景吾、行くぞ!」
「おいいいのかよマジで見捨てて!?」
「大丈夫だ! 見捨てられるのは俺じゃない!!」
「そりゃそーだろーよ見捨ててんのはてめぇなんだからよ・・・・・・」
「それ以上駄々捏ねるんなら抱き上げていくぞ?」
「ぜってー断る・・・!!」
という事で、跡部は手を引かれるまま部屋を突っ切り走って行った。前を行く佐伯が選んだのは右。逃走犯は左を選びやすいというデータに基づいてだろうか。
ちらりと後ろを向けば、覆面男のリーダー格―――佐伯が言うには手下1号―――が行く手を塞ぐように立ち、
「さあ侍ども。ここはこの・・・・・・手下1号・・・・・・が通さん。
これでも喰らえ!!」
懐から取り出した導火線付きの球。取り出した摩擦で火がつくよう細工されているのか、投げつけると同時に爆発した。
「ぐはっ!! げほっ!!」
「何だ・・・!? 煙が・・・・・・!」
「前が見えん!! ってか目が痛い!!」
「誰だコレ、ロクでもない代物混ぜたヤツ!!」
「フハハハハハハ!! どうだ!! ご主人様・・・に教わった伊賀忍者最新の術、『忍法・火遁の術』は!?
どうだ貴様ら!? これで手も足も出なぐがはげほ!!」
「あーあ・・・。高笑いなんぞすっから余計に吸い込んで・・・・・・えほ」
「つ−かコレ、モロに無差別攻撃か・・・?」
「ってか、何で逃げるだけの術がここまで悪質なんだ・・・・・・?」
「早く逃げよーぜ俺らも。ほらおかし―――じゃねえ、手下1号担げよ4号」
「そーだな。蚊取り線香で死ぬ蚊の気分なんて味わいたくねえしな。
んじゃ逃げんぞ」
『おー・・・・・・ごほ』
「・・・・・・・・・・・・」
後ろで続く寸劇らしきもの。そろそろ首が疲れたので前に戻し、呟く。
「誰がアレ作ったのかはよくわかった」
「にしてもアイツらも馬鹿だなあ。逃走用の術だから投げたらさっさと逃げろってあれだけ念押しておいたのに、よりによって高笑いとは・・・」
「まあ、多分次からはぜってー言いつけ守るだろーな・・・・・・」
呟きながらも走り続ける。止まった瞬間包囲網が完成するが、走っていてもじき完成しそうだ。
「仕方ない。こっちだ!」
「ああ? そっち!? 天守閣じゃねえかよ!! 逃げ場無くしてどーすんだよ!?」
「いいから来い!」
拒否権はないらしい。とはいってもあえてそちらを選んだ以上策はあるのだろう。仕方ないからヤケクソで選んだといったら、捕らえられる前にコイツを殺そう。
手を引かれ、天守閣に向かう。階段ではさすがに手を放し・・・
「はっ!」
ずばっ!
「ぐぎゃっ!!」
「うおあっ!?」
どん! ゴロゴロゴロ・・・ぐしゃ。
上から降りてきた相手に、佐伯が短刀を振ると見せかけ足払いをかけた。
たまらず転がり落ちていく家来。慌てて脇へ避ける跡部。巻き込まれていたらタダでは済まなかった。
「さ、どんどん上がるぞ」
「なあ佐伯、頼む・・・。やっぱ手ぇ繋いでてくれ」
「え?
―――景吾もそんなに俺の事が好きなのか。恥ずかしいヤツだなあvv」
「ああもーそれでいいから・・・・・・」
何せ相手は予告0で自分の方に敵を突き落としてくる男。命の危険と天秤にかければ、この程度の恥などなんて事はない。
・ ・ ・ ・ ・
紆余曲折を経て最上階到着。その後敵に遭っては落とされかけた跡部が戻り様佐伯を殴り、逆に跡部が前に出て事故を装い佐伯を落とそうとすれば軽く避けられ、後半はむしろ2人の蹴落とし合いに敵が巻き込まれた恰好となったが、生きたまま最上階に到達出来た事で2人の中ではそれらは既に過去の事となった。
「んで? 来たがどーすんだ?」
風に煽られ遊ばれる髪を撫で付け跡部が尋ねる。こちらは覆面端の布をなびかせ小道具を広げる佐伯に。
「ん? 忍術を使って逃げようかと」
「忍術?」
「そ。俺はこの時代では忍者でな」
「それで忍術・・・・・・ねえ」
胡散臭げに見つめる。確かに使えはするのだろう。先程の、名称『火遁の術』を見れば。
―――そしておかげで余計に不安が増えたが。
佐伯が黒装束を脱いだ―――ように見えた。実際は、薄手の装束の上にさらに同色の布を巻きつけていたらしい。覆面も取れ、ようやっと顔が露わになる。
体を離れ、ばたつきながら布が広がった。先に紐のついた布が。
「何だこりゃ?」
「景吾の時代で言えば、『パラグライダー』ってトコかな? 試しに作ってみた。名付けて『忍法・トンビの術』」
「こないだの栄養ドリンクといい、相変わらずネーミングセンスは最悪だな。名付けねえ方がずっと良くねえか?
つーか『試しに作ってみた』? 大丈夫なのか?」
「多分な」
「・・・・・・・・・・・・」
清々しくなれる返答だった。
夜空を見上げ、風に吐息を流す。その間に準備を終えた佐伯が、紐を手にこちらににじり寄ってきていた。
「んで、この紐で体固定するんだ。まずここな」
「お、おいちょっと待て! 勝手に触んな!! いい! 自分でやる!!」
「はいはい暴れない。次はこっちな」
「うあっ! っておい!!」
「で、最後がここな」
「ひぁっ―――!」
「はい終わり。
それじゃ景吾、しっかり掴まってろよ」
「掴まるって・・・、どこにだよ・・・!?」
「どこ・・・って。
まあ首なり腰なり好きなように。俺はトンビの操縦があるから、自分の体重はしっかり支えろよ?」
「あくまで名称は変えねえのか・・・・・・?」
文句を言いながら、跡部は佐伯の首に手を絡めた。まるで抱き合っているようだ。さすがに恥ずかしいので、脚を絡めるのは止めておいた。
(せめてまだおんぶの恰好が良かったぜ・・・・・・)
《大変サエくん! 跡部くんは自分から迫りたいからおんぶの恰好にしてくれだって!!》
「何!?
なるほどそれでためらってたのか!! だったら今すぐでも!!」
「さっさと出発させろよ!!」
ぱしりと平手で頭を打つ。この体勢では攻撃しにくいのもあり、同時に今ここで佐伯が気絶するとまっ逆さまに落ちる。
おかげでこちらも余裕があるのか、痛いなあ・・・と佐伯も頭を擦り、
「それじゃ、姫君のリクエストにお答えして、
行くぞ―――それっ!」
「―――っ!」
足元を蹴って外に飛び出す。僅かな空中遊泳の後、襲ってくるのは吐き気の込み上げる落下感。
何の保証もない(なにせあるのは「多分な」だけだ)恐怖を胸に、上がりかける悲鳴を無理やり喉の奥で殺す跡部。女じゃないんだからここで「きゃ〜」とか悲鳴は上げたくない!!
考えていると、体がふわりと浮かんだ。どうやらさすがに命に関わる布はケチらなかったらしい。
「ほ〜ら。大丈夫だっただろ?」
耳元で笑い声。
口と共に固く閉じていた目を開けば、すぐ横で佐伯が笑い、上では空気を含んだ布が空を遮り大きく広がり、
―――そして前つまりは後ろでは鉄砲隊が到着していた。
「撃て!! 撃ち落とせ!!」
怒声と共に銃声も鳴る。自分たちはまだしもこれだけ大きな布となれば、的としてさぞかし狙いやすいだろう。
「おい佐伯! 撃ってきたぞ!」
もちろんわかっているだろうが、つい肩を叩いて呼びかける。
後ろを向いたままの跡部の頭に、
ぽんぽんと手が乗せられた。
「大丈夫大丈夫。何とかなるさ」
「何とかって・・・・・・」
最早自慢するしかないが自分は運が壊滅的に悪い。どうせ当たりはしないだろうといった楽観は、絶対出来なかった。
尚も不安げな跡部に対し、佐伯はちらりと肩越しに後ろを向くだけだった。
小さく笑い、親指で示す。
「大丈夫だって。ホラ」
まるでそれが合図であったかのように、場が動き出す。
新たに人が現れ、
「止めろ! 撃ち落すな!」
「殿!! ご無事で!?」
「ああ。俺は別に何もされてねえよ」
「ですがあの者らは殿に危害を加えようとした者。やはり今の内に―――」
「別にいいって。実際何も喰らってねえしな。客1人奪われただけで。
わざわざ弾無駄遣いして撃ち落す必要もねえ。今仕留めなくても、どうせアイツらはまた来る」
「は、はあ・・・・・・。
撃ち方止め!!」
鉄砲音が止む。ばらばらと天守閣から人がいなくなり、残るは1人となった。
最後の1人―――リョーガが、闇夜に遠ざかりつつある2人を見やる。2人もまた、微動だにせず堂々と佇むリョーガを見つめた。
目線が絡み合わなくなるまで見送り、
リョーガは口端を吊り上げた。
「ついに役者集合ってか。面白くなってきたじゃねえの」
―――第4回 3
2006.1.15