テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第4回―――4


 その後、人里離れた山中に着地。「じゃあこのままダイビングv」と押し倒そうとした佐伯を殴り倒し紐を外し、黒装束から元の服に着替えている間に掻き集めた枝へ渡された打竹(うちたけ。竹筒の中に火種を仕込んだもの)で火をつけ焚き火を熾し、こちらも渡された飢渇丸で腹をまあ2分程度埋めた。本気で佐伯は忍者に徹していたらしい。実は行く道すがら腹が減らないようにと不二がかやくご飯でおにぎりを作って持たせてくれていたのだが、とても言い出せない状況だ・・・と考えるまでもなく取られて食われた。そしてその佐伯は即座に卒倒した。さすが不二のそっくりさん。別人であろうとやる事に変わりはない。だからリョーガがもてなしついでに何か食わせてくれないかと期待していたのだが・・・・・・。
 かくて2人は現在に至る。
 「やっぱリョーガだったな。明智光秀」
 「俺もちょっと前に噂で聞いたよ。
  執行部がそんな話してた時は適当に聞き流してたけど、まさかアイツがそんな有名人に成り済ましてたなんて・・・・・・」
 「自分より有名でムカつくのか?」
 「確かに俺は全くの無名だけど、けど有名人には会って来たぞ? なんとあの服部半蔵だ」
 「服部―――って忍者の?
  んじゃあの集団って・・・」
 「そう! 伊賀の忍び一同なんだよ。
  たまたま俺が放り出されたのが伊賀の山中でさ、いきなり野盗に成り下がったそいつらに襲われたんだ。
  だから返り討ちにしてやったんだよ」
 「てめぇが忍者の集団を?」
 「あ、信じてないな?
  ちゃんと倒したんだぞ? だからアイツらも俺に従ったワケだし」
 「・・・・・・。
  どーせ卑怯卑劣な事でもしたんじゃねえのか?」
 「前半は普通に戦ったぞ?」
 「やっぱ結局違うのか・・・・・・」
 「俺の知略の勝利って事だな。忍者なら頭も良くないと。
  いやあ。アイツらマジで馬鹿一同だったぞ? せっかく憧れの忍者の時代だわ〜いわ〜いと喜んで来てみれば、カッコいい忍術は使えないっていうし。
  仕方ないから教えてやる代わりにそれ相応のもの寄越せ、って事で2年間居座った」
 「カッコいい・・・・・・?」
 やはり思い出すのはアレやらソレ。
 火薬が貴重な時代に火を使って煙幕を起こすのは確かに不思議な現象だ。それで自爆しては元も子もないと思うが。
 航空技術がない中空を飛ぶのはまるで魔法だ。たとえどんなに名称に問題があろうとそんなものは些細な事か。
 「だから今日だって、糞尿から作る火薬の技術と引き換えにお前の救出を依頼したんだ」
 「もしかして『最新』って・・・・・・」
 「教えた中で一番新しいのだな。炎系統は。まあ尤も俺は―――
  ―――出来るのに3年はかかるわその間の手入れがぬかみそ並に面倒だわ何よりイメージでばっちいから作った事ないけどな」
 「詐欺じゃねえか・・・・・・」
 「いや俺は作ってないだけで実際出来るみたいだぞ? 古文書には書いてあった」
 「つーかそもそも最初に疑問に思うべきだったんだが・・・
  ・・・・・・なんでてめぇンなに忍者に詳しいんだ?」
 わざわざ教えたという。本物の忍者ご一行に。
 ヘタをすれば、これこそまさに歴史を変える事になるのではないだろうか?
 直接歴史で習いはしないが、忍者については跡部も好きである。たとえ伊賀だけとはいえそれが変えられるとなれば・・・
 不安と不審が伝わったらしい。佐伯は軽くぱたぱた手を振り、
 「ああ大丈夫。俺も忍者は好きだからな。あの卑怯とも言える頭脳戦がな。
  だからちゃんと学んだ。実践も
25世紀でしっかりやってきたから。特に薬と毒の扱いが得意だ」
 「ちょっと待て。まさかてめぇが殺し屋やってたのって・・・・・・」
 「実験だな。やっぱ毒は人間に使わないと」
 「うあすっげー殺されたヤツらが哀れに思うぜ・・・・・・」
 ため息をつく。まあそんな佐伯が教えたのなら間違いはないのだろう。しっかし・・・・・・
 「もしかしてよお、忍者がてめぇの言う『卑怯とも言える頭脳戦』なのって・・・
  ・・・・・・てめぇがそう仕込んだから、ってな事じゃ――――――――――――ねえよなもちろん?」
 「ん? そういえば不思議だな。
  俺はこの時代の忍術とかを学んだ分教えたけど、その学んだ分っていうのはつまり俺が教えたもの。タイムループが出来てるな」
 なおも指を立て首を傾げる佐伯から視線を逸らし、跡部はさらに深くため息をついた。
 (つまりコイツは・・・
  ―――ひたすら自分の趣味に生き、好きな事を教えさらにそれを学ぶっつー、究極のナルシスト状態の事やってたワケか・・・・・・)
 9世紀越しに自画自賛をやるヤツなど、コイツ以外にはまずいないだろう。
 嫌な考えに落ち着いた頭を振って話題をずらす。
 「そういや不思議っつったら、『ご主人様』と『手下○号』って何なんだよ?」
 「今回の作戦におけるコールサイン―――偽名だ」
 「いやンな事はわかる・・・ってかンなモンが本名のヤツの方が知りてえよ。
  じゃなくて、なんでンな妙な名前になったんだ? もうちっとマシなモンは考えつかなかったのか?」
 「さあ? 号令とか司令塔とか示すのに丁度いいかと思って提案したんだけど、反対意見は出なかったな」
 「すっげーてめぇ以外みんな不満そうだったけどな・・・。
  って事は何か? あの服部半蔵も中にいたのか?」
 「いたな。煙幕張った上で高笑い上げたちょっぴりお茶目な手下1号だ」
 「・・・・・・・・・・・・。
  古今東西、アイツをここまで扱き下ろしたヤツはてめぇだけだろうな」
 「ありがとう」
 「そういう理由で誉められて嬉しいのかてめぇは・・・?」
 「で、壮大にずらすけどリョーガどうする?」
 夕食のメインディッシュ決め並の適当な話振り。思わず「どうでもいいんじゃねえ?」と答えかけ、跡部ははたと我に返った。
 今は面白忍者劇場よりこっちの話の方が重要だった。
 「このまま天下取らせるか、それとも止めさせるかか?
  そりゃ止めさせるんだろーよ。俺らはそのために来たんだろ?」
 「ところがよくよく考えてみればさ、光秀って天下取るよな?」
 《あれ? 取るの?》
 2人の会話に突如割り込んでくる語りの千石。全てを知っているはずの男は、なぜか心底不思議そうに訊いてきた。
 「おい・・・。てめぇ腐っても『語り』じゃねえのか・・・?
  語りが語るべき内容知らなくてどーするよ・・・?」
 《だってこの時代で重要なのっていったら織田信長に豊臣秀吉、それに徳川家康でしょ? その辺り山張っとけばオッケーかな〜って事で》
 「歴史が苦手な受験生かてめぇは・・・?」
 《だ〜って歴史って長いんだもん! 全部覚えてようと思ったらキリないっしょ。だから出来事重視で気持ちとか完全無視なんだし》
 「あーもーいい」
 「そんなお前にわかりやすいよう解説入れておくと、明智光秀っていうのは天下統一に繋がるピンチヒッターみたいなモンだな。厳密には取ってないけど、限りなく近いところまで来るっていうのは確かだ。
  織田信長の家臣で、天正
10年―――今から7年後に起こる『本能寺の変』って言うので、天下統一寸前だった信長を襲い自害へと追い詰める。
  そして晴れて天下は自分のもの〜vv と喜んだまではよかったものの、その後すぐに引き返してきた秀吉に『山崎の戦』で敗れ天下を取り損ねる。
  その後は惨めなもんで、敗走する最中落ち武者狩りに遭い、どこぞの名もなき農民Aの手によって殺される。そして結局天下は、光秀を倒した秀吉が〜・・・っていう流れだ。
  ―――もちろん本来の歴史ではな」
 《うっわーさ〜みし〜! むしろピンポイントで覚えてたいね》
 「いっそ哀しくなってくるぞ。コイツ学んでると」
 「しかもこのまま行くと、それをやるのがあのリョーガだ。哀しさ3倍増だな」
 《しくしく。泣けてくるねえ・・・。
  ―――ってリョーガくん全部知ってんだから変えようとすんじゃないの?》
 「だろうなあ。いかにも歴史は苦手科目そうだけど、アレでも一応名目上はまあタイムトラベル管理局執行部員だしな
  わざわざ成り済ましたとなれば、さすがに自分にどんな『未来』が待ってるか学んだだろうし、逆にそのまま落ちぶれたら墓の前で『ば〜か♪』とか笑っちまっても仕方ないよな?」
 《いやそんな苦笑で同意求められても・・・・・・》
 「リョーガが本気で天下狙ってるとすりゃ、本能寺の変まではそのままやるだろーな」
 「それで、引き返してきた秀吉も殺す。あるいはそこは大人しく引き上げて、態勢整えてから改めて攻める。
  どっちかだろうな多分」
 「つー事は・・・・・・」
 げんなり呻く跡部に、
 佐伯も同じ様でため息をついた。
 「あと7年、俺らはそんなアイツを生温か〜く見守る必要がある、と」
 「時元移動機は〜・・・・・・」
 「だから直ってないって。地道に頑張れ7年」
 「・・・・・・・・・・・・。
  いっそ全部ほっぽり出して帰りてえな・・・」
 「出来るんなら俺もそうしたいな。別に俺らタイムトラベル管理局の職員でもないし、歴史がどう変わろうが関係ないし」
 《う〜んどこまでも後ろ向きだねえ君ら》
 「そりゃな。学校帰りに予告も準備も0で巻き込まれて、挙句7年頑張れなんて言われちまうと―――
  ―――さすがの俺でも萎えるな・・・・・・」
 「ていうかお前はまだいいぞ景吾? 俺なんて既に2年暮らしちまったおかげで、ちゃんと正式手続き踏んで帰らないと2歳年取ったまんまになっちまう」
 「正式手続きってやっぱ・・・」
 「もちろん歴史正してヒストローム値
0.1以下にして〜・・・・・・・・・・・・」
 ぼんやりしていた佐伯の目が、焦点を合わせ絞られ始めた。
 「あん? どうした佐伯?」
 「待てよ・・・? ヒストローム値を下げる・・・?
  正しい歴史って事はまさか・・・・・・」
 「まさか?」
 佐伯の様子がおかしい。元々白い顔をさらに蒼白にして、
 言った。





 「大変だぞ景吾。
  リョーガが死なないと、歴史が戻らない」
 「何・・・・・・・・・・・・?」



―――第5回 1











 ―――第4回です。前回の反動か、薔薇之介カッコい〜〜〜〜〜〜!!!!!!
 4−3にてむやみにいちゃいちゃしていた2人。実はかなりラジオドラマそのままの流れで行っています。まあサエはともかく主人公のうららと跡部がかなりかけ離れた性格なので、無理が出過ぎるところは変えましたが・・・・・・聴いてるこっちが照れる位2人が甘かったのです。千石の入れたナレーションは、人物名さえ変えればほぼそのまま語られていました。うわ〜。初回から薔薇之介の一方的なからかいアタックだけかと思ったら、こんなに進んだ関係だったのですね・・・!?
 ではいよいよ事の重大さに気付きだした2人。今までフザけては何度も言っていたリョーガ抹殺も、現実味を帯びてくればさすがに口に出せなくなってくる―――のか!?

2006.1.15