テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第5回―――1
「リョーガが死なねえと、歴史が戻らねえ・・・?」
粘つく喉を動かし、跡部が佐伯の言葉を復唱した。
確認の意味を込めたそれに、佐伯は首を縦に振ってきた。その目は決して冗談やからかいでではない。
「さっき言ったとおり、『正しい歴史』なら最終的に光秀は死ぬ。そして多分この時点でヒストローム値が下がる。死ななければ、また天下統一を企んで歴史を変える恐れがあるからな。
リョーガを死なせるか生かすか。リョーガを取るか、歴史を取るか」
「ンなのリョーガ取るに決まってんだろ!?」
「リョーガを取って――――――お前は永遠にこの時代を生きるのか?」
「っ・・・・・・」
「歴史が直らない限り俺たちは戻れない。どころか『今』の歴史が変われば『未来』―――俺たちのいる時代のものまで変わる。
場合によっては、
・・・・・・お前はそもそも存在しなくなるぞ?」
「それなら・・・他のヤツにも同じ事が言えるじゃねえか! てめぇだって・・・それにリョーガだって!!
アイツがそもそも存在しなけりゃこの時代が狂うなんて事もなかった筈だ! だが狂わなけりゃ結局アイツは生まれる!!
どーいう事だよこりゃ一体!?」
佐伯の襟を掴み上げ、唾を吐き掛ける距離で言葉を吐き掛ける。
激昂する跡部に対し、佐伯は実に冷静なもので。
「ああ。お前が言う通り、本来歴史っていうのは戻っちゃいけないモンなんだ。
完成した絵に再び筆を入れればそれは元のものから変化する。何とか消そうとしても絶対元のままには戻らない。
絵ならそれを捨てればいいのかもしれない。だが歴史だったら?」
問われる。
それに対する答えを、跡部は思いつく事が出来なかった。
吐いた息を吸う間だけ考える時間に当て、
佐伯はため息と共に答えを告げた。
「破綻するんだよ」
「破綻・・・・・・?」
「その先何が起こるのか、それは誰にもわからない。それこそ『未来』の事だから。
だからそれが起こらないように、管理局が常に目を光らせてる」
じっと見上げる。
「もう一度訊く。
お前はどっちを取る? リョーガか? 歴史か?」
襟を掴む力が、緩められた。納得―――ではない。失望で。
「てめぇは・・・・・・歴史を取るってか? 佐伯・・・・・・」
「ああ。
――――――もしリョーガが生き延びようとするのなら、この手で狩る」
「仲間・・・じゃ、ねえのか・・・? リョーガは・・・・・・・・・・・・」
吐息を、かろうじて言葉にする。
確かに佐伯は何度もリョーガを殺すか! と爽やかにほのめかしていた。執行部がリョーガ抹殺の決定を下した事もあっさり言った。
・・・・・・全て冗談だと思っていた。ちゃんと、いい手を考えハッピーエンドで終わらせるつもりなのだと思っていた。
頭が割れそうに痛い。堪えないと、このまま気持ちを爆発させてしまいそうだ。
吐き気に近い昂ぶりを飲み込み、跡部は自分なりの結論をつけた。
決して佐伯とは目を合わせないまま、告げる。
「とりあえず、他に何か手がないか考えようぜ・・・? どーせ時間はたっぷりあんだからよ・・・・・・」
「そうだな。
あと7年。長くなりそうだな・・・・・・」
「全くだな・・・・・・・・・・・・」
(長く・・・・・・、なるだろうな・・・・・・・・・・・・)
こんな状態で7年。しかもこの月日は、同時にリョーガの命のカウントダウン。
いっそ出来るなら、永遠に引き伸ばしたい。
(そうすりゃ、リョーガは死なねえ・・・。
そうすりゃ、
―――佐伯はリョーガを殺さねえ・・・・・・・・・・・・)
完全に、交わす言葉はなくなった。
無言で焚き火を見つめる。視界の端では、やはり佐伯が焚き火を見つめていた。
パチリと木屑が爆ぜ、
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――バシュ!!
『・・・・・・・・・・・・は?』
焚き火がいきなり消えた。虚空から現れた何かに踏まれて。
2人の目の前に、ワンボックスカーらしきものが現れる。ワケがわからず尻餅をついたままの跡部とは逆に、わかったらしい佐伯は驚きの表情を浮かべ立ち上がった。
「これは・・・・・・時元移動機!?」
「てめぇのよりゃ豪華そうなんだな・・・・・・」
一応突っ込んでおく。スクーターとワンボックスカー。多分正規のものこそがこっちなのだろう。体剥き出しで時元移動するような未来は嫌だ。
身を引き立ち上がる。ドアが開き、中から男が2人下りてきた。スーツ姿の青年・・・と少年。
「つーか・・・
・・・・・・真田と切原じゃねえか」
またしてもそっくりさんの登場に肩を落とす跡部。気にする事なく、真田の方がこちらを順番に見やってきた。
「佐伯虎次郎と、跡部景吾だな?」
横柄・・・に聞こえなくもない言い振り。ただしこれは跡部の知る限り、21世紀にいる真田の普通のしゃべり方だ。
だがなぜか、佐伯はそれに対して敵対心を剥き出しにした。
「もう確認しないと不安な位危ういんですかねえ真田部長殿?」
「『部長』? 副じゃなくって?」
「どこの副にする気だお前?」
「そうか。お前と直に会うのは初めてだな跡部。俺は統一執行部の部長、真田弦一郎だ。こっちは部下の切原」
「統一執行部って事は―――リョーガの上司か」
「そうだな。ただし『元』だが」
「あの人もうクビっスよ。ウチに恥さらしはいんないんで」
跡部の目が自然と細まった。コイツらが、リョーガを追い込んだ元凶。
(てめぇらのせいでアイツは・・・・・・!!)
拳を固める。肺を固める。
一発ぶん殴ろうと飛び出しかけ―――
―――前に出された佐伯の手に阻まれた。
「どういう事だ真田? 来ない約束だっただろ?」
「約束?」
「ここに来る前にな。話つけてきたんだ。
『仲間の俺が解決するから、執行部は一切介入するな』、って」
少しだけ視線をずらし、佐伯が補足を入れる。
さらに補足を入れるように、真田が言葉を続けてきた。
「確かにそう約束したな。
だがそして2年。一向に事態は解決しない。
お前はリョーガ如き相手に一体どれだけかけるつもりだ? 佐伯」
「悪いね。
生憎と、俺は慎重派でね。簡単な物事ほど時間掛けてより完璧にやりたいんだよ」
「貴様の理想論など知らん。我々にとって重要なのは、如何に迅速に歴史をあるべき形へと戻すかだ」
「戻すために、邪魔なリョーガは殺すってか。
随分ご大層な理念だなあ真田部長殿」
横から口を挟む跡部。真田の視線が、最初に外されて以来ようやっと跡部に向けられた。
「む・・・? 貴様は・・・」
「跡部だ跡部。さっきっからずっとここにいるしてめぇだって最初に確認しただろーがマジで大丈夫か頭?」
「大丈夫に決まっているだろう!!」
激しくプライドを傷つけられたか怒り出す真田をこちらも押さえ、部下の切原がしゃしゃり出だした。
「そーそー。大丈夫ですから気にしないで上げてくれません? 真田部長、これでもけっこー若い方ですから。
んで、
―――アンタそもそも民間人だろ? しかも21世紀の。関係ねえんだからいちいち口挟まねえでくれる? 跡部さん」
「そりゃ悪かったな。俺はあんまりにも部外者すぎてな、てめぇら執行部がどれだけお偉いのかさっぱりわかんねーんだよ」
「言ってくれんじゃねーか。俺らは今回みてーに違う方向に流れそうになってる歴史、直してやってんだぜ? アンタにも充分貢献してやってんだろ?」
「だがそもそもそりゃ、てめぇらの時代のヤツが勝手にタイムスリップしちまった成果―――つまりはただの尻拭いだろ?
俺らなんてそもそも歴史狂わす事何もやってねえぜ? つまり俺らは被害者だな。
――――――誰が一番偉いか、誰が一番大切にされるべきか。その足りねえオツムでも、さすがにそろそろわかってきたよなあ? ああ?」
「ンだとテメー・・・!!」
「ケンカなら買ってやんぞおらぁ・・・!!」
「はいはい景吾も切原も、意味もなく争うなって」
どごがごっ!
鞘に収めたままの短刀で殴られ、2人仲良く大人しくなった。
確認し、佐伯は再び真田に顔を向け。
「それで? 執行部ではリョーガをどうしようって判決を下したんだ? わざわざ来たって事は、相当具体的なところまで決まったんだろ?」
「うむ。執行部では反乱を起こしたリョーガに対し、然るべき措置を取る事で決定した」
「『然るべき措置』、なあ。
素直に『殺す』って言ったらどうだ? ただでさえお役所の言い回しはわかり辛いって不評なんだから」
「む・・・?
お前は反対ではなかったのか? 佐伯」
訝る真田へ、そして嫌悪感を露わにする跡部へと。
佐伯は軽く肩を竦めてみせた。
「残念ながら、現時点においてはやっぱり反対だな。
いいのか殺して? リョーガは完全に『明智光秀』になってるぜ? 本物が見つからない以上、今すぐ殺せばそれこそ歴史大幅に変える事になる。
光秀には、信長を殺し秀吉に天下統一のバトンを渡すっていう歴史上外せない役割があるんだからな」
「む・・・・・・」
「なるほどな。だから今すぐは殺せねえ。っつー事だから後は任せてさっさと帰れ、って事か。
やるじゃねえの佐伯」
「いやいや。誉めてもらえて光栄だよ」
指を鳴らしにやりと笑う跡部に手を振る佐伯。
呻き、彼らを見・・・
「佐伯、2人で話がしたいのだが構わんか?」
「何だよ改まって。
別にいいぜ?」
「では、向こうで話をしようか」
・ ・ ・ ・ ・
物陰にて。
「で? 何だ真田? 俺に告白か?」
「違う!」
「そ〜んな照れんなよv せっかく2人っきりになったんだしさ」
「断じて違うと言っているだろう!?」
「な〜んだ。せっかく期待したってのに・・・・・・」
「き、期待・・・・・・!?」
「そう。
―――お前がそんな事をしてきた日には、ぜひともこっ酷く振り指を指して大笑いした挙句それをネタにからかい倒してやろう、と・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・。
お前恋人の類は絶対いないだろう?」
「いるぞ? リョーガ。
アイツはMっ子気質だからな。苛めれば苛めるほど喜ぶ。相性がいいんだな」
「それは絶対『恋人』ではないだろう・・・?」
真田がしゃがみ込んだまま数歩引いていった。
なお25世紀においては、子作りなど細胞とお金を出せばいくらでも行える。おかげで同性・近親間での恋愛も普通のものとなった。真田が引いたのは別の理由によるらしい―――当たり前だが。
「だが、そうか・・・。
―――てっきりお前の意中の相手は、連れているあの男かと思ったがな。だから今回も無関係だというのに巻き込んだのではないのか?」
佐伯の目が少しだけ開かれる。まさかこの堅物部長真田殿が、恋愛話などをしてくるとは思ってもみなかった。
しかも・・・・・・。
小さく笑う。苦笑に近い笑い。
「景吾は大切な友人さ。会いたかったから巻き込んだ、って事は否定しないけどな。
で? 本題は何なんだ? まさかこんな、具にもつかない世間話するために2人になったんじゃないんだろ?」
「さすがに察しがいいな」
「そりゃわかるって」
いと珍しき、真田の茶化し。とっても良くない兆候だ。
茶化しの後に来るのは――――――もちろん真面目。
神妙な面持ちで、
真田が言った。
「お前にリョーガの抹殺を依頼したい」
―――第5回 2
2006.1.15〜16