テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第5回―――3


 そしてご都合主義万歳の結果、4人は7年後―――
1582年へとやってきた。
 「いーのかマジでこれで・・・」
 《まあいいっしょ。7年も待つのめんどくさいし》
 「うあ・・・。なんか今まで積み重ねてきた歴史が一言で全否定されたな・・・」
 《んじゃ戻る?》
 「・・・・・・やっぱいい」
 《ホラ。
  ま、こっちも満足してるみたいだし》
 「はいご苦労さん。料金は払わなくていいよなアッシー?」
 「あーもーいいっスよ・・・!! んじゃ俺ら帰りますんで」
 「では、良い結果を期待しているぞ、佐伯」
 軽い挨拶を済ませ、時元移動機は虚空へと消え去った。
 取り残され、跡部と佐伯は周りに目をやった。
 「さ・て・と。
  とりあえず場所は同じまんまかな?」
 「うあ、日が目に痛いぜ・・・。ここ昼か?」
 「そういや、場所はともかく正確な日時聞きそびれたな」
 「ああ? ちゃんとセットしてきたんじゃねえのか?」
 「いやでもセットしたのが切原だし」
 「・・・・・・つまり?」
 「アイツ寝てバス乗り過ごすとかいっつもやってるからなあ。今回も知らない内に行き過ぎてて、事態が全部終わってたとか・・・」
 「いやさすがにねーだろそりゃ・・・・・・」
 反論の声は、出した自分でも悲しくなるほどに説得力を帯びていなかった。『切原』はいつの時代でもそういうヤツらしい。
 「という事で、こんな時のための秘密兵器。お助け君を呼んでみるか。
  ―――おーい千石〜」
 《あなたのハートにラッキースマーッシュ♪ みんなのアイドル、語りの千石。あなたのためにただ今参上!!
  んで? 何の用だいサエくん?》
 「うん。今俺らがいるのっていつのどこだ?」
 「お互いいろいろ完全無視か? とりあえずコイツのどこが『お助け君』なんだ役立たずが?」
 《あちょっと跡部くん! そんな君まで俺の煽りは無視!?》
 クレームがつけられた。
 顎に手を当て暫し吟味し・・・。
 「・・・・・・・・・・・・。
  痛すぎたな」
 「ああ」
 《いらないから!! そんな酷すぎる評!!
  はいもー次行くよ!!》
 「自分から振ったクセに」
 《・・・俺だっていい加減帰るけど?》
 「なら今後永久にお前の出番はなしって事で。じゃあな千石」
 《うああああああ!!! 答えます何でも俺にわかる限り!!》
 「・・・・・・結局駄目っぽくねえか?」
 《そーんな事ないよ。光秀関連っしょ?
  大丈夫v ちゃんと一夜漬けして叩き込んできたからvv》
 「マジで歴史が嫌いな受験生かてめぇは・・・・・・?」
 跡部の突っ込みは無視し、千石はようやっと必要な事を話し出した。語り千石が初めて役に立った瞬間である。
 《今っていうのは
1582年の5月20日前後。ここは近江坂本の山中。つまり移動前にいたのと同じ場所だね》
 「よしわかった。ありがとな千石」
 《ええっ!? これで終り!? もっと語れるのかと思ってせっかくカンペまで完璧に作ってきたっていうのに!!》
 「結局叩き込んでねえじゃねえか・・・」
 《さ〜みし〜よ〜〜〜!! 語らせてよ〜〜〜〜〜〜!!》
 「あーはいはい。語れよもう好きなだけ」
 頭の中でがんがん鳴り響く声。通常のものと違うため、耳を塞いだところで全く効果はない。
 お手上げといった感じで手を振り、2人は先を促させた。
 《わ〜いこっから俺の大活躍〜vv 聴いてるキレ〜なおねーさま方にアピールアピールvv》
 「うあやっぱすっげー消してえ・・・」
 「我慢しろ景吾。ここでしゃべらせないと以降ずっと煩いぞ」
 《えーっと。光秀は信長に中国遠征を命じられたんだ。ライバル秀吉の配下に入って攻めろってね。
  そう言われて丁度今日、信長のいる安土城からこの坂本城に帰って来るワケ。
  んで数日後出発するんだけど、その間坂本城で何をやってたかは記録にないね》
 「んで本能寺の変が6月2日、か・・・」
 「だから、リョーガが動くとしたらこの数日間・・・だ」
 呟き、今度は解説が佐伯に移った。
 「光秀が天下統一に失敗した理由っていうのは、大きく3つ。
  1つは、信長に敵対する戦国大名の協力を得られなかった事。中国地方を支配する―――おかげで正に丁度今信長に攻められかけてた毛利輝元に密使を送ったけど、途中で行方不明になったそうだ。
  2つは、親友の裏切り。細川藤孝・筒井順慶が信じていたのに味方につかなかったらしい。まあ、これはこれでお互い理由もあったんだから一重に『裏切り』とも言えないだろうけどな。
  んで3つ目。備中坂松にいた秀吉の軍が戻ってくるのが早すぎた。おかげで山崎の戦では準備が全く間に合わず、2倍以上の戦力差を前にわずか1日で撤退するハメになった」
 「敵は味方にならず親友には裏切られ全く計画通りに進まず。光秀もツイてねえモンだなあ」
 《まさしくリョーガくんにぴったりv だね》
 「そうだなあ。
  ――――――が」
 指を3本立てた佐伯。なぜか最後に全てを倒した。
 「という事で、これがリョーガだった場合を考える。
  脅したり媚売ったりして薄く儚い関係構築するのが大得意なアイツなら、輝元を味方につける事も藤孝・順慶を言いなりにさせる事も簡単だろうな。
  なにせ前歴完全不明であの信長相手にここまで取り入ったヤツだ。たとえ未来人だろうがこれだけ短期間で一国一城の主になった事を考えれば、リョーガのこういう人脈とコネ作りはこの時代でも十分通用するって事だ。
  そして山崎の戦。元々早く戻ってくる事がわかってれば、戦力を用意する事も可能だろうし、もっと手っ取り早く、秀吉の帰りを遅くするっていう手もある。元々秀吉は何かあるかもって予感して早く帰れるよう準備していたっていう話もあるし、周りもそれをお膳立てしていた。
  お膳立てを崩して、信長死去の情報をぎりぎりまで流さない。そうすれば秀吉の到着はもっと遅くなる」
 「つまり、リョーガなら本当に歴史を変え得る・・・って事か」
 「まあ、そもそもこの元になってる光秀がどんな性格のどういうヤツだっていうのが正直よくわからないから比較のしようがないけど、可能性としては十分ありえるな」
 「となると、アイツを止めるとしたら―――」
 「今日が5月
20日程度。予定で光秀が死ぬのが6月13日。実際事が動くのが、本能寺の変の起こる6月2日」
 「タイムリミットは6月2日。いやもっと早ええか。
  兵引き連れて遠征に出かけりゃ、接触するチャンスなんて無くなんな」
 「つまり今日から数日間。接触するとしたらこの間だ。
  ―――という事で、今から戻ってくるところを会いに行くっていうのでどうだ?
  馬で駆けつければこっちの方が早いはずだ。どっかで待ち伏せして、通りかかったところで接触。もう一度説得・・・と」
 最終的に佐伯が立てた指は1本だった。
 立てられた提案に、反対も追加意見も出なかった。
 跡部がばしりと拳を掌に叩きつける。
 「おし。それで行くか。
  んじゃ行こうぜ佐伯!」



―――第5回 4

2006.1.16