テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





突発ラスト予想!―――2


 夕闇の中馬をかっ飛ばし、宵口には城についた。
 「頼もう!」
 「む・・・? 何者だ?」
 「俺は信長様に仕える山内一豊だ。突然の訪問恐縮だが、今ここに来られている織田信長様にお会いしたい」
 「ん・・・? 山内一豊・・・?
  どっかで聞いた名前だな・・・」
 「ああアレだろ。奥さんがめちゃくちゃべっぴんさんで器量もよくって旦那立ててくれるまさに妻の理想の!」
 「なるほど! 千代夫人の夫の山内何某!」
 「・・・待て。一体どんな噂が流れているんだ・・・?」
 手を叩き喜ぶ門番。
 眉間の皺を増やす山内何某の肩を、跡部は(必死で笑いを堪えつつ)なだめるようにぽんぽんと叩いた。
 「ま、まあいいじゃねえか手塚。話早くて助かったぜ。
  ―――その山内の奥さんが、今回中国に攻めるにあたって進言したい事があるそうだ。だが戦に関しては完全に素人の自分がでしゃばって良いのか、悩んだ答えがコレだとよ。
  顔立てるために夫に進言してもらおうだとよ。泣かせる話じゃねえか。あくまで日なたに立たせるのは夫。自分はその影で寄り添います―――だとよ」
 「おおおおお!! さすが千代夫人!!」
 「いいモンだなあ!! そういう奥さん持てると!!」
 「おい一豊!! お前ンな奥さんどうやって見つけたんだよ!?」
 「一生手放すんじゃねえぞ!? ンないい奥さんどこ探したっていねえぞ!?」
 「よしよしわかった!! いきなりだろうが気にすんな!! 俺たちがちゃんと信長様に会わせてやるぜ!!」
 「待ってて下さい千代夫人!! 貴女には俺たちがついてますからね〜〜〜!!!」
 さらに喜び城に駆けて行く門番改め千代ファンクラブ会員。なぜか1人か2人で済むだろうところ、全員去ってしまった。
 2人きりで取り残され、
 「・・・・・・。
  よくお前、あれだけの出任せがすらすら出てきたな」
 「まあな。あの位平然と言い切れねえと生きてけねえ世界で生きてきたモンでな」
 「そうか。今のここも大変だと思っていたが、お前のところもそうらしいな」
 「いやまあ本気で受け取られると俺もどうしようかって思うんだけどよ・・・」
 「・・・。違うのか?」
 「命の危険は少ねえ分まだマシか。ただし・・・・・・人間平和過ぎてもロクな事考えねえからな。騙し合い陥れは今とあんま変わりねえな。人間もあんま成長しねえモンだ」
 「む・・・・・・・・・・・・?」
 首を傾げたが、それきり手塚が何かを聞いてくる事はなかった。聞いてもわからないと思った―――のではなく。
 「よーし了解取ってきたぞ!!」
 「ほら入れ入れ!!
  ・・・でもって俺たちちゃんとお前のために働いたからな。千代夫人によろしく」
 「あ・・・ああ」
 見事なまでに下心と打算まみれのファンクラブ一同の手により、2人は歴史の主役3名の待つ場へと運ばれていった。





・     ・     ・     ・     ・






 3人のおわします広間へ到着―――する前に。
 「っあーーーーーー!!!!!」
 のんびりと(実際のんびりしている余裕はないが、城の中を客人が走るのは逃走時だけでいい)歩いていた2人に、悲鳴と共に指が突きつけられた。
 誰もが悲鳴の主を追い、そして指し示す指の先を見る。跡部を。
 「俺か?」
 「貴様いつぞやの!!」
 「光秀様の顔面に出会い頭に飛び蹴りを食らわせた無礼者!!」
 「ぐ・・・・・・!!」
 7年という月日は意外と短かったらしい。その強烈な個性で不二と手塚に覚えていてもらった跡部。それ以上に強烈な印象を残す行為を行った成果として、7年前あの場にいた家来らにはしっかり覚えていてもらっていた。
 「お前、そのような事をやってきたのか・・・?」
 「だからここにゃ来たくなかったんだよ・・・!!」
 半眼で見てくる手塚に小さく呻き、
 跡部は平然と笑って見せた。
 「な、何言ってやがるてめぇら。
  ほら光秀だって言ってたじゃねえか。ありゃ一種の挨拶だ」
 『嘘つけえええええ!!!!!!』
 「どこの世界に飛び蹴りから始まる挨拶がある!?」
 「俺の周りじゃ普通だぞ!?」
 「そんなの貴様の周りだけだ!!」
 「なら『周り』にいる光秀だってそれでいいじゃねえか!!」
 『いいワケあるかあああああああ!!!!!!!!』
 「・・・なるほど。お前の身の回りがやたらと危険な理由がよくわかった」
 「そーかよありがとよ!!」
 「者ども出あええ!! 殿のお命を狙う曲者の侵入だ!!」
 「やっぱこーなんのかよ!?」
 説得に失敗(?)した時点で平和解決への道は閉ざされた。
 わらわら集まってくる家来ども。囲まれる前に、跡部はその場を逃げ出す決意をした。
 最後に手塚の肩をぽんと叩き、
 「じゃあな手塚! 後頼んだぜ!」
 「お、おい跡部!!」
 「お前は千代夫人の加護があるから大丈夫だろ!
  何としてでも光秀止めろ! 信長守れ! それが、主に対する武士の義務だろ!?
  んじゃ、期待してるぜ一豊殿!!」
 手を上げ力強く笑い、
 跡部は低い柵を飛び越え屋根から身を躍らせた。





・     ・     ・     ・     ・






 飛び下りる―――と見せかけ屋根を掴み下の階へ。運良く掴むなり外れた瓦(これであくまで『運が良い』のは片手で体重を支えられる握力と腕力を持つ跡部ならでは。普通なら『運悪く』そのまま落ちる)を下の池に投げ込めば、周りは自分が下に落ちたと思うだろう。
 急いで死角に回り屋根を上へと上がる。馬鹿と何とかは逆だった。煙と何とかは上へ上がりたがるからか、それとも単に攻め込まれた時陥落を少しでも遅らせるためか、殿もよく利用する広間は城の中でも上の方にある。天守閣に次ぐ高さか。ここまでご高齢の方が来るのは辛いように思うのだが・・・。
 それはともかく、だから跡部は上へと向かった。上へと・・・・・・向かえればよかった。
 「よっ・・・と・・・・・・」
 「ああ!! 貴様は自称殿の友人!!」
 「『自称』じゃねえ!! 光秀だって認めただろーが!! つーか自称ならむしろ赤の他人にしてえよ!!」
 「ワケのわからん事を!! 覚悟!!」
 「何でだよ!?
  大体てめぇら根に持ちすぎだろ!? いいじゃねえか飛び蹴りの1発や2発!! どーせ無傷なんだからよ!!」
 「1発や2発!? 貴様1発に飽き足らず―――!!」
 「訂正する!! 2発目以降は殴った・・・・・・あん? そういや今回珍しく殴んなかったか? 怒鳴りつけた記憶はたんまりあるんだが・・・・・・。
  ―――ああそうだ。他のヤツ蹴ったんだ」
 『同じだああああああ!!!!!!!!』
 説得再び失敗。さすが跡部というか、さすが日々人を挑発する事には長けきっている一同と共にいるだけある。どこまで言われたら怒るのか、最早跡部の基準は一般のものと完全にずれていた。
 『うりゃあああ―――!!!』
 「ちょっと待ててめぇらせめてそっち上がってから―――!!」
 屋根から上がろうとする跡部に向かって突っ込んできた家来一同。そんな事をすればどうなるか。
 焦る跡部の予想通り、いきなり大量の負荷をかけられた屋根はあっさり崩れ落ちた。
 『―――ああああああぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!』
 「やっぱこーいう展開かあ!!」
 怒声を悲鳴に変え家来一同が落ちていく。一応こういった事態に慣れた跡部は、言いたい事をしっかり言い切ってからやはり落ちていき・・・・・・
 がしっ!!
 ・・・・・・空中で、何かに抱き止められた。
 上から張った縄にぶら下がるそいつ。黒装束覆面姿に、かつての記憶が蘇る。
 「佐伯・・・・・・?」
 小さな呼びかけ。自信のない囁きにそいつは答える事もなく、跡部を右手1本で肩の上へ担ぎ上げた。
 縄が揺れる。ぶつかる寸前曲げた脚をついたそいつが、跳ね上がると同時に縄を掴む左手を引いた。
 恐るべき腕力。担いだ跡部ごと2人の体が宙を舞い、少し後には屋敷のてっぺんへと到着した。
 跡部を下ろし、そいつも縄を外し腰を下ろす。
 右手で覆面を取り、
 「悪いなあ。俺自分の言うとるんとちゃうんよ」
 「白石!!」
 「静かにしいよ。見つかってまうで」
 「あ、わ、悪りい・・・・・・」
 たしなめられ謝り、改めて跡部はそいつをじっと見た。
 覆面から零れた茶髪といい、現れた人懐っこそうな顔といい、左手に巻かれた包帯といい、見れば見るほど白石だった。左手の黒包帯は多分、今回のような荒業を行う際手を傷つけないためだろうが・・・。
 「とりあえず、ありがとよ。助かったぜ。
  えっと・・・・・・」
 「『白石』でええよ? リョーガもそう呼んどるし」
 「な・・・・・・?」
 リョーガはこの時代では『光秀』だ。そうでなければ・・・・・・何も起こってはいなかった。
 なぜコイツがリョーガの本名を知っている?
 「ああ、警戒せんでもええよ? 俺はリョーガ―――いや光秀様に仕えとる忍びなんよ。見たまんまやけどな。
  仕える前提でいろいろ聞いたんよ。自分らの事含めてな。
  今回は、自分が暴れとるゆう事で回収に来たんよ。やけど―――
  ―――する必要なかったな。凄いで自分。もう目と鼻の先まで来とったやん」
 楽しげに笑う白石。こんなところもやはりそっくりだ。
 「ンな事ねえよ。あのまんまだと多分辿り着く前に捕まえられてただろうしな。恩に着るぜ。
  ―――ああ、そういや『回収』だと? リョーガ・・・っつーか光秀っつーかとにかくアイツに会わせてくれんのか?」
 「・・・・・・呼び方はどっちでもええよ? ちゃんと通じるさかい」
 指摘しておいて、
 白石はう〜んと首筋を掻いた。
 「そうせえ言われた〜―――んやけどなあ。さてどないしよ・・・」
 「忍びにとって主君の命令は絶対じゃねえのか?」
 「『友達の頼み』やさかい。嫌やったら拒否してええんよ」
 「『友達』・・・・・・」
 不思議な響きのする単語だ。リョーガがこの時代において、自分たち以外を指してそう呼ぶ。嬉しいような、少し寂しいような・・・。
 口の中でその単語を呟く跡部。表現しようのない顔をする彼に、
 「何感慨耽っとるん? 自分の事やで?」
 「あん・・・・・・?」
 「せやから。行くか行かんか」
 「いやどう聞いても今のはリョーガがお前に対して言ったんだろ」
 「アイツと俺はただの主君と忍びや。それ以上の関係はあらへんよ? 代理としてしかな」
 「・・・・・・」
 (代理・・・・・・
  ・・・・・・佐伯のか)
 
21世紀の世界で接していてよく思う。佐伯と白石は似ていると。見た目だけではなく、中身もだ。2人の気が合うのもそのためだろう。
 あくまで代理というスタンスに置く。そしてそれを告げる。
 ―――リョーガにとって、本命はやはり佐伯ただ一人という事か。
 それをあっさり言ってのける白石。彼はその扱いをどう思っているのだろう。知りたいが・・・
 ・・・残念ながら、自分の眼力を持ってしても白石の嘘と本当を見抜くのは至難の業だ。跡部は早々諦める事にした。今はこんな事に時間を費やしている場合ではない。
 先程の質問を頭の中で反復し、
 「行きてえな。連れてってくれ」
 「嫌やv」
 「・・・・・・・・・・・・。
  てめぇ実は仲間内で弾かれてねえ?」
 「ないでえ? これでも甲賀の頭領や。俺に命令する存在に誰もなりたない言うてな」
 「やっぱ
400年経っても変わんねーモンだなてめぇみてえなのは」
 「おおきに」
 「ああ」
 「・・・・・・多分自分も変わってへんのやろな」
 「ありがとよ」
 「ほんまな・・・」
 実りのない会話終了。
 「会うよりもっとオモロいモン見したるさかい。
  こっち来いよ」
 言うなりしゃがみ込んだまま走り出す白石。どうでもいい事だが随分足腰が強くバランス感覚が良い。
 もちろんこちらも劣っていない跡部は、とはいえ月明かりのみででこぼこの瓦屋根を走るのに手間取り、少し遅れてついていった。
 辿り着く。屋根の端へと。
 「悪りい。遅れた」
 「ちゅーかむしろ速いわ。ウチん者とタメ張れるで?
  これや。見てみい」
 指し示されたのは、1枚の鏡だった。端ぎりぎりに備え付けられた鏡。
 「これが―――」
 どうした?
 訊こうとして、口を噤む。
 それと合わせる形で付けられていたもう1枚の鏡。白石がそれを少し動かすと、映るものが変化した。畳に腰掛けるリョーガへと。
 「仕掛け鏡か」
 「都合上夜やないと使えへんのが欠点やけどな。苦労したで〜ここまでやんの」
 にやりと笑う。確かにカメラのないこの時代、鏡の反射だけでこれだけ作るとなれば、随分頭を使うハメとなっただろう。
 だが・・・
 「って事は見えんのは姿だけか?」
 肝心なのは手塚が謀反の事実を告げた後の反応。大きく動けば見ただけでわかるが、動き出した時にはもう間に合わないだろう。
 贅沢かもしれないが声も聞こえないかと思っていると、
 「声も聞けるで? 伝声管繋がっとるんよ」
 「なら―――」
 「やけど、
  ―――その必要あらへんで。見てみいよ」
 「ああ?」
 一体何が言いたいのやら。
 多分従わないと先は続けてくれないだろう。跡部はとりあえず見てみる事にした。
 白石がさらに鏡を動かす。紐で他のものと連動させているのか、見える場所が変わり部屋に通されたらしい手塚の顔となった。ついでに仕掛けが硬いのか、映らない辺りではさりげなく白石が奥歯を食いしばっていた。
 「・・・・・・で?」
 「お楽しみは、これからやで?」
 さらに動く。部屋にいたあと2人へと。
 「これが―――信長様と、秀吉殿や」
 「――――――っ!?」
 鏡に映った2人を見て、跡部は危うく上げかけた悲鳴を喉の奥で殺した。
 「嘘だろ・・・? マジかよ・・・・・・」
 「やっぱ見覚えあるんか」
 「あるも何も・・・・・・」
 映った2人―――信長と秀吉は、





 ――――――越前南次郎とリョーマだった。





 (んじゃ何か・・・? リョーガのヤツ、親父さん殺して弟に殺されんのか・・・・・・!?)
 《実際は無関係だろうけどね、多分》
 千石が続ける。語りがそう言うなら間違いはないだろう。『多分』がやたらと気になるが。
 だがリョーガ。
25世紀を生きる彼の家族構成を聞いた事はないが、彼はあの2人を見てどう思ったのだろう。そういえば、天下を取るという話は盛んに聞いたが、そのために信長を殺す事についてどう思うか彼自身の意見を聞いた事はなかった。
 「―――自分平気か? 跡部」
 「あ、ああ・・・・・・」
 崩れかけ、慌てて意識を戻す。
 腕を掴んだ白石を見、
 「つまりお前聞いてたのか? リョーガから全部」
 そうでなければわざわざ見せようとは思わなかったはずだ。逆に、リョーガは自分にこれを教えたくなかったから急いで『回収』しようとしたのか。
 もしリョーガが、自分の予想した通り事を起こせば―――
 ―――今度はリョーガが父親と弟を殺す事になる。
 薄ら寒いものを覚える。何だこのキャスティング? 狙ったようにしか思えない。
 青褪め冷や汗を流す跡部に対し、白石は平然とした様子で肩を竦めた。
 「聞いとったで全部?」
 「止めようとか―――」
 「思わんよ。
  見た目が似とるだけの赤の他人やろ? 家族やとしても、今ん時代権力絡みで身内殺すんは珍しない。
  要はアイツ次第やろ。でもってアイツは止める気はあらへん。
  やったら俺の口出す問題やない」
 「そりゃ、そうかもしんねーが・・・・・・」
 「口出すんはもっと身内やろ? ほんまモンの家族か、友達か、あるいは・・・・・・」
 「っ・・・・・・・・・・・・!」
 跡部が蒼白な顔を白石に向ける。見開ききった目を、白石はただ見返すだけだった。
 自らは中立を貫こうとする程に冷たいが、それでも台詞の先は言わずにいてくれる優しさを湛えた眼差し。
 ふいに、逸らされた。
 「動いたで」
 南次郎―――いや信長が手塚を連れ部屋を去る。詳しくは2人きりで話すのか。
 動くか? 視線で問われ、
 跡部は首を横に振るのが精一杯だった。





・     ・     ・     ・     ・






 見物者のいなくなった鏡の中で、それでも事態は動いていた。
 リョーガと秀吉は、めいめい広間でくつろいでいた。美味しそうにお茶を飲むリョーガ。秀吉は柱に凭れ眠ろうとし、
 なぜか戻ってきた信長に呼ばれた。
 そちらに向かう秀吉。
 3人が消え、リョーガはやはりのんびりとお茶を飲んでいた。



―――突発ラスト予想! 3

2006.1.18