テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





突発ラスト予想!―――3


 「そんで、手塚君―――だったか。
  あー思い出したぜ。千代夫人の旦那ってか。あの馬良かったぜ〜?」
 「・・・お褒めに預かりありがとうございます。身に余る光栄です」
 先程の広間と違い狭い部屋に通された手塚。粗野にどっかと座り込む信長を前に、こちらは丁寧に膝を畳み、
 「ああいいぜ適当にくつろいで。つってもここの主は俺じゃねえけどな。
  ま、客人同士気楽にやろうぜ?」
 「はい」
 とはいえそもそもの位が違う。失礼にならない程度に膝を開き脚を崩すというジェスチャーを見せると、信長は苦笑いして肩を竦めた。
 「お堅いねえ。まあ、俺が崩れ過ぎだって周りは言うけどな」
 「いえ、そのような事は―――」
 「んで? 話だって? そのお堅いお前さんが不躾な訪問までして」
 「申し訳ありません。急ぎの用事でして」
 「ああいい気にすんな。俺だって似たようなモンだ。
  で?」
 「大変申し上げにくい事ではありますが」
 「ならさっさと言う。それが礼儀ってモンだ」
 あっさり切られた。これ以上の前置きもいらなければためらいも不可と。
 手塚は面を上げ、
 言った。
 「光秀様が謀反の計画を。
  6月2日、本能寺にて信長様を暗殺する―――
  ―――と、危惧している者がおります」
 「危惧してるヤツがいる? つまりお前さんの考えじゃねえ、ってか?」
 「いえ・・・。
  私には、光秀様がそのような事をなさるように見えません」
 「が、それでも俺に言って来た。
  ―――けっこー根拠があるってか? それとも、これも千代夫人の入れ知恵か?」
 「半分ずつ正解です。そのように危惧した者を信頼しようと決めたのは、妻の千代です。
  危惧した者は光秀様と同じく未来人で、光秀様のご友人のようです。だからこそ光秀様をむざむざ殺させたくない、と」
 「でもって今屋敷でばたばた暴れてる、って?」
 「・・・・・・はい」
 渋面で(とはいえいつもとあまり変わりはないが)頷く手塚。珍しく、心の中で呪詛を吐いていた。
 (跡部・・・!! お前のせいで信用を失っていくではないか・・・!!)
 外でなおも聞こえるどたばた音。それからすると、まだ捕まっていないらしいが・・・。
 (いっそ大人しく捕まってくれ・・・!!)
 そうすればここで自ら堂々と忠告出来るだろうに。
 ため息をつく手塚とは対照的に、信長は豪快に笑っていた。
 「いや〜結構結構! 光秀にゃ悪りいが、随分楽しい見世物じゃねえの!
  ここのヤツら、血気盛んだが腕は悪くねえからな。ソイツら相手にここまで粘るとは、やるじゃねえのよお前さんの連れ。さっすがさっすが、お前と光秀の知り合いってだけはあんな」
 「恐縮です・・・・・・」
 最早何と答えればいいのか。
 他に何の返しようもなく手塚は呻いた。
 信長が、すっと目を細める。ほんの僅かな動作。多分直接見ていればむしろ気付かなかっただろう。
 彼を取り巻く空気が変わった。顔を上げる手塚の前で、信長はなぜか外を見つめ、
 「さっきちらっと見たんだがな、そのお前さんの知り合いとやら―――ああそういや名前聞いてなかったか。これじゃ長げえしな」
 「跡部、です」
 「跡部君、かい。
  その跡部君ってのはアレかい? 異国のヤツか?」
 「さあ・・・。どこから来たかは何とも。南蛮から来たらしいとは言っていましたが」
 「確かにな。あの珍しい髪の色。最初は白髪かと思ったが、月明かりで光ってたんだな。目も黒じゃねえみてえだし」
 「灰白色の髪に青灰色の瞳。いずれもこの辺りの者の特徴とは大きく異なるようで。服装も随分と。
  長篠の戦で出会ったのですが、とても戦をする様には見受けられず。武田の武者を4人倒していましたが、それも襲われ止むを得ずでしょう。私にも襲い掛かり、『俺に歯向かったヤツは全員敵だ』などと言っていました」
 「はっはっはっはっは!!! そりゃ随分威勢いいじゃねえの!! いいね〜そういうヤツは!! 見てて飽きねえ!!
  ―――光秀と似たようなモンだなやっぱ。アイツも俺が拾い上げたみてえなモンだが、俺の側室に手ぇ出してとっ捕まっててよお。何やってんだコイツ? と思ったら言った台詞が『よお信長様、飯食わせてくれ』だ。ありゃ俺の人生で最高に笑わせてもらったぜ」
 「すみません・・・。一体その2人のどこが似通っているのか理解し兼ねるのですが・・・」
 「つまり生きる事に対する執着心だな。片や邪魔者は全部なぎ倒せ。片や生きるために手段は選ぶな。
  権力争いだの何だのでぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃやってる俺から見りゃ、ずいっぶん潔いモンだった。
  気に入ったんで面倒見てやったんだがよ・・・。
  ――――――そーかいよいよアイツが来るか」
 「・・・?
  つまり予想はしていたと?」
 「予想、っつーより予感だな。子はいつか親の背中乗り越えるモンだろ。
  ちっと待っててくれ」
 「は・・・」
 信長が立ち上がった。障子を開け廊下に出―――また戻ってくる。もう1人伴って。
 「秀吉様・・・」
 「で、何? 信長」
 「まーいいから聞け。今から手塚君が言う事だ。お前にも関係がある。
  そうだろ? 手塚君」
 「信長様、やはりご存知で・・・」
 「俺の話は後だ。このまんまだと置いてけぼり喰らうコイツがまた寝ちまう。
  起きてる内にちゃちゃっと頼むぜ?」
 「別にンなに寝てないし・・・・・・」
 ボヤきつつも、秀吉も一応話を聞くつもりになったらしい。こちらもどかりと腰を下ろす。
 2人を前に、手塚は跡部から聞いた事を完結に伝えた。信長が光秀に殺されると。そしてその光秀を今度は秀吉が殺すと。
 聞き終え・・・
 「つー事だ秀吉。後頑張れよ」
 「頑張れ、って・・・。
  ―――信長殺されんの? 光秀殺したりしないワケ?」
 「しねえ」
 秀吉の尤もな疑問に、
 信長は全く悩まず頷いた。
 さすがに驚きを隠せない秀吉と手塚。それでもリアクションが小さいのは、この2人では致し方ない事だ。
 正面の手塚からは視線を外し、信長が秀吉を見やる。そのずっと向こうで、光秀を。
 「俺はな秀吉、お前と光秀は俺の息子みてえなモンだと思ってる」
 「息子・・・?」
 「ああ。
  俺にゃ今まででもって今大勢の家臣達がいる。だがどいつもこいつも怯えてんのか何か企んでんのかで俺の事真っ直ぐ見ようとしねえ。
  お前と光秀だけだ。俺の事呼び捨てにする。俺の前で頭下げねえ。
  ―――でもって俺の目真っ直ぐ見てくるヤツは。
  嬉しかったんだぜえ? コレ言うと恥ずかしいから普段言わなかったけどよ。
  周りのヤツらがどんどん俺にひれ伏してってよお、天下統一なんて夢物語だったってのに何でかもう目の前だ。
  だんだん自分が化け物染じみて見えてきた。俺は、俺自身でももう制御出来ねえバケモンじゃねえのかってな。
  ンな中でな、
  お前らの存在が、俺を人間に戻してくれた。俺を人間に繋ぎとめてくれた」
 ふーっと長いため息が部屋に木霊した。
 手塚はもちろん秀吉ですら初めて聞いた、信長の弱音。信長の本音。
 照れ臭く笑う信長は、この上ないほど人間だった。人間味に溢れていた。
 「今日こうやって集めたのは俺の気まぐれって事にしてあるが、実のところ前々から決めてたんだ。
  手塚君、さっきの質問答えるぜ。
  お前さんらのせっかくの忠告無駄にするが、





  ――――――全部知ってた光秀から聞いてな」





 「え・・・・・・?」
 「拾った時にな、言ってたんだ。自分は未来から来たヤツで、歴史の流れ通り
1582年の6月2日、俺を殺す、ってな」
 「それで・・・・・・」
 「アイツはさらに続けた。『それで構わねえんだったら拾ってくれ。嫌ならこの場で殺してくれ』ってな。
  構ったんで拾った」
 「は・・・?」
 「む・・・?」
 「俺は今まで天下取るためなら女子どもだって構わず殺した。そいつらに対して直接の恨みはなかった。
  コイツはそれが歴史だから俺を殺すだとよ。そこにゃ何の恨みもなかった―――むしろ哀れみがあったくれえだ。
  なるほどコレが俺に下された天の判決か。今まで殺したヤツらの気持ちを知れと。
  だから俺は決意した。死ぬ時までに1つくらいは良い事でもしてみようかってな」
 信長の顔に、笑みが浮かぶ。
 「とことんアイツを可愛がってやろうと思った。死にたくねえワケじゃねえ。そこまで無様な真似はしねえ。てめえの死位真正面から受け止めてやる。
  ただ、どうもアイツが寂しげに見えたんでな。この世界じゃ身寄りがねえからかとも思ったがどうもそれだけじゃねえっぽい。俺が思うに、誰かに捨てられたんじゃねえかってトコだ。
  だから生きる事にゃ執着するがそれ以上は求めねえ。何がしてえかどうありてえか、主義主張の1つもねえ。
  ―――そりゃ〜さすがにあんまりかと思ってな。
  俺だって周りに誰もいねえが天下統一っつー夢がある。アイツに夢がねーんだったら、代わりに家族を作ってやろうと思ったんだ。そうすりゃちったあ、生きてて良かったと思えるようになんじゃねえか・・・ってな。
  実際そうやって暮らしてみりゃ随分馴染んだ。お前もだろ? なあ秀吉。
  随分光秀にからかわれてるじゃねえの」
 「うるさいなあ。いいだろ別に?」
 話題を振られ、秀吉がむくれる。普段見下し笑い以外なかなか表情を見せない秀吉にしては珍しい。
 それを見つめる信長の笑みが、さらに底意地の悪いものとなった。
 「・・・・・・が、暫くして気付いたんだがな、アイツ身寄りはねえが決まったヤツはいるらしいぜ? あれだけいろんな女に言い寄られるんだし―――まあ時々男もいるが―――正室も側室も作りたい放題の筈なんだがな。
  何でか遊びまくるクセにぜってー本命は作らねえ。おかげでアイツは今でも1人モンだ」
 「光秀に? いたんだそんな人。ただの遊び人かと思ってた」
 「ま、俺も知らねえがどっかにゃいるんだろ。それこそ光秀だの跡部君だのが普通にいる世界でか。
  だが・・・・・・」
 笑った顔が、暗くなる。
 「今日ここに集めた理由ってのはな、最期の晩餐ってトコか? せめて死ぬ前にもう一度、『家族』で飯でも食って話してえって思ってな。
  光秀もわかってたから、自分が持て成す側になったんだろーな。アイツもよーやっと俺をありがたがるようになったってか。
  喜んで応じたんだが・・・・・・」
 再び『だが』。最初の言い振りに反し、えらく言葉を濁している。
 手塚と秀吉の目が細まった。無言で先を促す。
 受け、
 ようやっと信長が結論を言った。
 「どうも光秀のヤツ、様子がおかしい」
 「そう?」
 「表面じゃ表さねえようにしてるが、妙に思い詰めてる。
  気付いてたか秀吉? アイツが俺と会うのに刀携帯してたのは初めてだ」
 「ああ。短刀隠し持ってるね。珍しくわかりやすく」
 「だが抜こうとしねえ。いや、どうするか迷ってる。ここで殺すか。あくまで待つか。
  ・・・・・・お前を殺すか殺さないか」
 「俺?」
 「今日アイツが俺を殺せば、そんなアイツを殺すのは立場上お前だろーな秀吉。
  だがお前と光秀じゃ腕に差がありすぎる。まだお前はアイツにゃ勝てねえ」
 「ンな事・・・」
 「ない、って言い切れねえだろ? かーわいーいねえ青少年」
 「うるさいなあ!! さっさと先言えよ!!」
 「あーはいはい。全く、からかってすぐ怒んのは倫子そっくりだ」
 「倫子?」
 「俺の嫁さんだ。子も出来ねえ内に早々死んじまったがな。俺の身代わりになって」
 暗く笑う信長もまた、遊びで子は山ほど作るものの誰も娶りはしていない。『妻』といったフレーズを用いたのは今回だけだ。
 「ま、俺のンなのろけ話はいいとしてな。
  光秀もお前のそういうトコが可愛くて仕方ねーんだろーな。だから理性で歯止めかけてる。
  だがそれでも、歯止めかけねえと事起こしちまうほど追い詰められてる
  さてここで手塚君に質問だ。
  お前さん、なんで今日忠告に来た? しかも随分急いで。
  前からわかってんならそん時すりゃいい。まだ日にちあんだから、約束取り付けて安土城に来ればいい。
  人ん家訪問中にたあ、無礼極まりねえじゃねえか。お前さんにそれだけの事やらせる理由、ってのが・・・
  ―――あったんじゃねえのか?」
 それだけする理由―――同時に、光秀の異常理由。
 知っているかと問われ、
 手塚は首を振るしかなかった。
 「恐らく、全てを知っているのは跡部でしょう。
  先刻、7年ぶりに突如あいつは家に来ました。来るなり、土下座をして頼み込んできました。光秀様を助ける手伝いをしてくれ、と。
  それを受け、私は無礼を承知でここへ参りました。
  直接は言っていませんでしたが、アイツは今日この場で光秀様がお二方を殺されるのではないかと考えていたようです」
 「なるほどねえ。わざわざ予定捻じ曲げてまで殺す、ってか。
  ―――お前何かアイツに恨み買う事でもしたんじゃねえのか? 秀吉」
 「そりゃアンタの方でしょ?」
 互いに責任を押し付け合う2人にはないようだ。ついでにこの2人には、光秀を殺す意志は。
 「んで、お前さんの話はこの位かい?」
 「はい・・・。跡部がいればもう少しいろいろあったのでしょうが」
 「ま、どっちにしろ俺のやる事ぁ変わんねーからいいか」
 「やはり殺される、と? そう仰られるのですか、信長様」
 手塚が問う。握り締めた両の拳に力を込めて。
 ここで頷けば、自分に仕える彼は何としてでも止めるだろう。あるいは光秀を殺すかもしれない。
 悟った上で、
 やはり信長は頷いた。
 「やらせてくれや、手塚君。
  これが、俺がアイツに出来る最後の子孝行だ」
 「孝行、というと・・・?」
 「さっきお前さんに言ったろ? 子はいつか親の背中乗り越えるモンだ。
  アイツが俺を邪魔だってんなら、俺を乗り越えるために殺すってんなら、この命喜んでくれてやる」
 「信長・・・」
 呟く秀吉に、信長が向かい合う。
 真っ直ぐに、決して逸らす事なくその目を見つめ。
 「お前もだ秀吉。本気で天下が取りてえんならこの俺の屍を踏み越えろ。光秀を殺せ。
  大丈夫だ。俺の果たせなかった夢も、お前なら果たせる。俺が保証する。
  お前は天下を取れる。
  お前は・・・お前たちは―――
  ――――――俺の自慢の息子だからな」
 「親、父・・・・・・・・・・・・」
 秀吉の目から、
 涙が零れた。
 ぼすんと胸に飛び込む秀吉。硬く抱き締める信長。
 その様は、本当の親子のようだった。血の繋がりなど関係ない。心で繋がり合った真の『親子』。
 この場にこそ自分は邪魔者だろう。静かに退室しようとし、
 手塚はふと立ち止まった。
 今のを見て思い出した。
 「そういえば1つ。
  友達なら助けるのが当たり前だといった千代の言葉に、なぜか跡部はえらく感銘を受けていたようでした。隠していたようでしたが、涙の跡が薄く」
 振り向き、一応告げておく。
 一礼して去ろうとし、
 信長の言葉に止められた。
 「友達なら助けるのが当たり前。つまり友達なのに助けねえヤツがいる、ってか。
  まあそれが誰でどんな事情があんのかは知んねーが―――良かったな?」
 「・・・・・・何が?」
 恐ろしく薄情な言い振りに、さすがに泣いていた秀吉も顔を上げた。
 半眼で問う『息子』の頭をくしゃくしゃ撫で、
 「つまり跡部君はアイツを裏切んねえ、と。
  ―――そーいうヤツが1人はいた方がいい。俺はこれ以上アイツの面倒みてやれねーが、跡部君に任せりゃ大丈夫そうだな。
  いよいよ息子の旅立ちか。嫁候補が跡部君だったら・・・それはそれでいいかもな」
 「俺ヤだよ・・・。いきなり人ん家で暴れる人と義兄弟になんの・・・・・・・・・・・・」





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 「跡部は裏切らない、か・・・。
  確かに、そうだろうな」
 城を出馬を走らせ、手塚は小さく頷いた。
 続ける。
 「・・・・・・・・・・・・しかしその跡部は一体どこへ行ったんだ?」



―――突発ラスト予想! 4

2006.1.1820