テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





突発ラスト予想!―――4


 手塚より一足先に戻ってきていた跡部。迎え出た不二にもロクに何も言わず、以前使った部屋に入った。
 明かりもつけず座り込む。酷く疲れていた。出来るなら、この暗さに包まれ眠りに落ちたい。
 壁に身を凭れかからせ、呟いた。
 「なんでこんな事になっちまったんだろーな・・・・・・」
 全ての始まりは、リョーガが
25世紀でタイムトラベル管理局のクビ候補になった事か。腹いせに歴史を変えてやろうとこの時代に来、いなかった明智光秀の代理となった。
 「待てよ・・・・・・?」
 柱から身を起こす。
 そういえば昼間、佐伯と千石と、光秀について復習した時だ。
 自分は思った。他の2人も認めた。
 光秀はリョーガに似ていると。
 管理局に勤め努力はしているのにクビになったリョーガ。
 天下統一を目指しせっかく信長抹殺まで果たしたのに周りに恵まれず結局負ける光秀。
 人に見捨てられる事に関してこの2人は同じなのだ。
 そして新たに付け加える。自分もよく知る、
21世紀のリョーガを。
 元プロたる南次郎の息子として自分もプロを目指していながら早々挫折。跡を継ぎ日の下前へと進むリョーマと対照的に、影である裏社会に落ちていった。
 ―――似過ぎていないか? 今のリョーガと。
 グランドスラム確実と言われながら怪我で断念した南次郎と、天下統一あと一歩で殺される信長。
 現在中学テニス界で着実に実力をつけ名を広めているリョーマと、信長の仇を取りそのまま天下統一を果たした秀吉。
 そして彼らに挟まれ、僅か一瞬で栄光から転落していった光秀。あるいはリョーガ。
 「まさか―――!!」
 《どったの跡部くん!?》
 大きく動いたこちらに、今まで黙っていた千石が慌てて出てきた。
 丁度いいのでそのまま訊く。
 「おい千石! お前『語り』なんだから今までいろんなトコ行って来たんだよなあ?」
 《そりゃねえ。いつの時代も語る人がいなきゃ受け継がれていかないよ》
 「んじゃ丁度いい。
  俺は今まで自分のいる
21世紀、佐伯とリョーガのいる25世紀それに今の時代見てる。そこで妙に見知ったヤツ見かけるんだが―――」
 《あくまで姿とか性格とかがね。実際に同じ人間は自分自身しかいないよ?》
 「それを踏まえた上で訊く。
  同じ時間に『同じヤツ』見かけた事あるか?」
 返事はなかった。千石が悩んでいるのが雰囲気で伝わる。
 《・・・・・・・・・・・・。
  ないね。それで?》
 「リョーガと光秀だ。以前リョーガに『なんで明智光秀やってんのか』って感じの事訊いただろ?」
 《ああ訊いたね。何でそんなピンポイントなヤツ選んだのか?、って》
 「まあそん時は完全他人事だったんでボロクソに言った。
  ところが今になって思う。実は本当にリョーガって明智光秀なんじゃないのか?」
 《・・・・・・つまり?》
 「さっきお前が言ったとおり、同じ時代に同じ人間はいない。少なくとも直には会わない。だから俺たち―――俺・佐伯・リョーガはこの時代でそれぞれ『俺』・『佐伯』・『リョーガ』には接触してない」
 《だねえ》
 「ところが俺は
21世紀で『佐伯』と『リョーガ』に接触してる。幼馴染と友達っつー感じだが、今一緒に来てる25世紀の2人と恐ろしくよく似てる―――ってか完全に同じだ」
 《なのに君は君には接触してない
 普段から馬鹿絶好調だが、知識がないだけで思考能力には長けている千石(ただし語りとして必要なのは知識だろう)。やはり材料を与えてやれば組み立てるのは早い。
 「ああ。そして図ってなのか何なのか、佐伯とリョーガが
21世紀に現れる時も2人とは接触しねえ。
  ―――ヒストローム値なんつーモンが存在する事から考えても、『時間』ってのはそれ単体で膨大な力持ってんじゃねえのか? そしてそれが、何らかの理由により『同じ人間』を接触させないようにしようとしてる。まあこの理由についてはわかりようがねえが」
 《んじゃあつまり・・・・・・》
 「光秀は、リョーガっつー『同じ人間』が現れた時点で接触しねえよう消されたんじゃねえのか? あるいは接触させないために分岐して作られた世界こそがここだ。
  いずれにせよ、ここじゃリョーガは『光秀の代理の偽者』じゃあなくて本当に『光秀本人』になっちまってるんだ。
  だから光秀とリョーガの間に異常なまでに接点が多い。当然だ。同じ人間なんだからな」
 《で? それがわかったところで?》
 わかったところで何なんだ。確かに何も変わらない。本物そっくりの偽者か、偽者だと思ってる本物か。それだけの違いだ。
 だが―――
 指を2本立て、跡部は続けた。
 「2つ。
  1つ―――光秀の本物を探して、歴史を本当の意味で正す事が不可能になった。
  2つ―――光秀、引いてはリョーガが謀反を起こす事が確定になった」
 《は・・・・・・?》
 千石の間抜けな声が広がる。1つ目はすぐわかっただろう。考えてみれば、殺す殺さないで仲違いする前に7年飛ばず地道にそちらを探すという手もあった。空振りとなっていただろうが。
 問題は2つ目だ。
 「明智光秀ってのは謎の多い人物だ。まあ、自分以外を完全に理解する事が不可能な以上、誰だって謎にゃ包まれてんだがな」
 《いやそんな哲学的になられても・・・》
 「俺に取って一番わかんねーのは、なんで佐伯がそこまでリョーガを殺す事に執着してるかだが―――。
  同時に光秀が謀反を起こした理由も不明とされている」
 《へ? 天下取りたいからじゃあ―――》
 「それもあるだろうな。だが一部の資料じゃ、光秀はそこまでガツガツしたヤツじゃねえっていうんだよな。
  自分の主殺してまで成り上がるとなりゃ、相当の覚悟あるいは野望があったはずだ。なのにそこまでして得た座をあっさり放棄。主張に首尾一貫性がねえ」
 《チャンスだったからやってみたけどやっぱダメだったので諦めました、ってノリなんじゃん?》
 「ンな『とりあえずやってみる事に意義がある』並の後ろ向きさで迫られてもな。ある意味リョーガそのものでちょっとした笑いは誘えるだろーが。
  さらに母親見殺しにされたり人前で馬鹿にされたりして信長に恨みを抱いてるっていう怨恨説だの、信長がどんどん危なくなってこのままだと自分も何されるかわかんねえって自己防衛説だのもあるがな。
  ―――ああ、あとついでにてめぇが今言ったのに関連して、一族や部下達に対する面目説ってのもあるか」
 《ほらやっぱまとめて『とりあえず』説で。
  ・・・・・・っていう冗談はさておいて、確かにそれなら信長殺せたら満足なんだし、その後どうなってもいんじゃん?》
 最近『語り』相手にも効果音を入れる事によって殴れるという理論を導き出したのだが、おかげで千石はちゃんと進めてくれるようになった。
 殴れなかった分の惜しさも含めてため息をつき、
 「光秀が実際本能寺の変により信長を殺したのはこれらの要因が重なった―――積もり積もったからといった説だったりする。俺が教わった限りじゃ。
  ところでここに『リョーガの場合』っていう要因を足す」
 《今実際やろうとしてるのはリョーガくんなワケだしね》
 「と、だ。
  これらの説にもう一つ仮説を加える事が出来る」
 《どんな?》
 問われ。
 暫く悩んだ後、結局跡部は最短で告げる事にした。
 息を吸い、
 吐く。





 「――――――――――――『ゲーム』」





 《つまり?》
 「リョーガにとって、今の光秀での人生ってのは1つのチャンスなんだ。
  今まで失敗ばっかでどん底にいたリョーガが初めて上に、表舞台に出られるチャンスだ。
  ―――やるしかねえだろ」
 《ああ、やっぱり野望説か》
 「リョーガもそう言ってたしな。
  そしてもう1つ。
  このまま『光秀』として歴史通り動けば、最後に待っているのは死だ。そしてその死を佐伯が担当する
 《つまり、リョーガくんは恋人の手で人生の幕引きをする、と》
 「佐伯はリョーガにそういう態度を示してる。多分、これからもそうなるよう事態を進めていくはずだ」
 《だからそうさせないようにしようと?》
 「逆だ
  そうなるように仕組んでるんだ。リョーガ自らが。
  だから多分、今日信長も秀吉も殺されない」
 先程急いで駆けつけてみれば2人とも健在で。まだ会ってないのかと思えば普通に会っていた。しかも他に人はいなかった。
 なぜリョーガはさっさと隠し持っていた武器で2人を殺さなかった? 家族に近い存在だから殺せなかった? それとも・・・
 「白石が言ってた。今リョーガの意見を変えさせられるのは本当の家族か友人か、あるいは恋人か・・・ってな。
  これはリョーガから佐伯に課す最後のテスト―――プロポーズだ。
  わざと歴史通りに事を起こしていく。当然俺はアイツを助けようとあの手この手を打つ。
  なら佐伯は? 俺を手伝うか? 邪魔するか?
  そして『光秀』最期の日、6月
13日。佐伯は歴史通りアイツを殺すか否か」
 《何それ? めちゃくちゃリョーガくん危ないじゃん。それで歴史通り死んじゃったらどーすんのさ?》
 至極尤もな疑問だ。
 出来るなら自分も・・・・・・そう思いたかった。
 「それならそれでいいんだよ
 《え・・・・・・?》
 「既に1度裏切られてるリョーガが、最後に試したいんだ。佐伯が自分を愛してくれているかどうか。
  
25世紀での居場所はなくなった。このままいても追っ手が自分を殺しにやってくる。
  『親』の信長を殺しちまった。『弟』の秀吉に命を狙われている。他のヤツにはみんな裏切られた。
  ―――もう他に何もねーんだよ。最後に残ってるのが佐伯への愛情だ。それが否定されればもう、





  ・・・・・・・・・・・・リョーガが生きている理由は、ない」





 室内を、不気味なほどの静寂が続いた。
 まるでお通夜の光景のようだ。そんな、タチの悪い冗談まで浮かんでくる。
 静寂が、
 消えた。
 《どどどどどどーすんのさ跡部くん!? じゃーもー何!? リョーガくんの命運は跡部くんの働きにかかってるって事!?》
 「うっせえ耳元で喚くんじゃねえ!!」
 《耳元でしか喚き様がないんだから仕方ないじゃん!!》
 「あーだから手塚に説得に行かせたんだろーがまあそれは結果論だが!!」
 《何その頼りになんない返事!! ちょ〜っとしっかりしてよ跡部く〜〜〜ん!!!》
 「してんだろーが俺はしっかりと!!
  何とかここで信長か秀吉かどっちかの心変えさせる!! 歴史通り進まなけりゃリョーガだって佐伯だって考え直すはずだ!!」
 拳を畳に叩きつける。そのまま、震えるまで力を込め、
 「誰もいねえから死ぬなんつー終わり方ぜってーさせねえ・・・!!
  
21世紀のリョーガだって今じゃ幸せにやってんだ。てめぇだけ不幸なまんま終わる理由がどこにある?
  恋人に殺されて人生終わりなんつー馬鹿馬鹿しい三文芝居、俺がぜってー変えてみせる!! 『友人代表』舐めんじゃねえ!!」
 《おーーーーーーーー!!!!!!!》
 雄叫び勇ましく立ち上がったところで、
 部屋の戸が開いた。





・     ・     ・     ・     ・






 手塚が戻ってきた。さっそく成否を聞き―――
 「馬鹿野郎!! 手塚てめぇ何しに行ったんだよこの役立たずが!!」
 「ちょっと落ち着いてよ跡部!! どうしたのさ!?」
 手塚の襟を掴み振り回す跡部を、やはり気になって同席した不二が慌てて止めた。
 振り回されるまま、手塚も苦悶の表情を浮かべる。
 「出来るならば俺だって止めたかった・・・!! 仕える主を、殺されるとわかっていながら見過ごせだと・・・!?」
 「だったらなんで止めねえ!! 家来だったら主は死ぬ気で守るモンだろーが!! なんで脅してでも意見変えさせなかった!?」
 「仕方なかろう!? 信長様の決意は固かった!! ご自身の命を、意志を―――光秀様に、秀吉様に、受け継がせる覚悟が出来ていた!!
  俺如きに止められるものではなかったんだ!!」
 「〜〜〜〜〜っ!!」
 (死ぬ覚悟が出来てるだと!? 最悪じゃねえか!!)
 「お前なあ・・・・・・」
 泣きたい気持ちでため息をつく。
 「信長は最初からそのつもりだったからいい。秀吉も天下を取るために覚悟を決めた。
  ―――間の光秀はどーなんだ?」
 「む・・・?
  だがそれは、元々その予定であり実際そうするのだろう? それこそ光秀様のご意志そのものではないのか?」
 「『最初からその予定だった』。『実際そうした』。
  その間何があるんだ? 本当に予定通り行動すんなら、なんで最初に信長にそれを教えた? そこで殺されちまったり、そもそも拾われたりしなけりゃ何も出来ねえ事になんだろ?」
 「気に入られるための手では・・・」
 「勝率の低そうな手だなあ・・・。いくら変わりモン相手だろうと、いきなり殺す宣告はしねえだろ普通。
  そん時哀れそうだったんだろ? 本当は、殺す意思なんてなかったんじゃねえのか? だから信長に決めて欲しかったんじゃねえのか?」
 「・・・・・・・・・・・・確かに」
 「そして信長に思い切り可愛がられた。『息子』として育てられた。
  光秀が信長の殺害に成功すりゃ、見た目は主殺しだがアイツにとっちゃ同時に『親殺し』だ。普通はやりたかねえモンだろ?」
 「・・・・・・。
  そうだな・・・・・・」
 「しかもそれで殺しちまったら、今度は秀吉が仇として敵になる? 『弟』に命狙われるってワケか?
  一番納得出来ねえのは光秀自身じゃねえのか? 『歴史で決まってるから』の一言で片付けられるか? アイツだって一応生身の人間だし血だって心だって通ってんだぞ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「でもって歴史じゃ決まってねえがこのままだと確実にアイツが辿る未来について、俺が語ってやろうか?
  アイツにゃ誰も味方はつかねえんだよ。アイツは友人にも裏切られるんだよ。そのせいで秀吉軍に惨敗、天下も取り損ねるんだよ。
  そして最後に死ぬんだよ。惨めな落ち武者としてな。
  でな―――
  ――――――アイツをそんな事態に持っていって、最後に殺すのがアイツの恋人なんだよ。
  アイツは恋人の手の平で最期まで踊らさせられて殺されるんだよ」
 「な、に・・・?」
 「うそ・・・・・・」
 「だから俺は何とか止めてえんだよ。ンな悲し過ぎる幕引きにゃしたくねーんだよ・・・。
  俺は、何とかしてアイツら2人とも助けてーんだよ・・・。2人とも俺にとっちゃかけがえのねえ友人なんだ・・・。
  だから!!」
 跡部が2人の腕を掴む。痛いほどの力に顔を顰める2人の前で、跡部はただ心から訴えた。
 「だから!! お前ら2人に力借りてえんだよ!! 他に誰もいねーんだよ!!
  頼むから!! どーかアイツら助ける手助けしてくれよ!!!」
 「跡部・・・・・・」
 悲鳴のように叫ぶ跡部。きつく閉じられた瞳から、幾筋も涙が零れ落ちた・・・・・・。



―――突発ラスト予想! 5

2006.1.21