テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





突発ラスト予想!―――5


 「―――で? 俺たちに何をしろと?」
 あくる日の事。根負けし、付き合うため馬を用意する手塚に跡部はうんうんと頷いた。
 「逆転の発想だ。いっそ光秀にとことん謀反を成功させる」
 「させるの?」
 こちらは見送りに来た不二が、首を傾げる。
 「止めさせると今度は手塚が文句を言い出す。信長様絶対主義だからな」
 「当然だ」
 「え? 僕じゃないの!?」
 「・・・・・・それとこれとは話が違うだろう?」
 そんないちゃいちゃ会話は置いておいて。
 「だが俺は光秀に歴史通り歩まれると困る。統一失敗後殺されるワケだしな。
  だから足して2で割りゃ、信長様を殺した後そのまま天下統一。ここまで徹底して歴史が狂や佐伯―――ああ光秀の殺し役な―――も手の出しようがねえだろ」
 《すっごい本末転倒だね》
 当て逃げの如く言うだけ言って逃げた千石は気にせず。
 「では、そのためにどうすると?」
 「光秀の天下統一失敗理由は3つだ。毛利輝元を味方にし損ねた・細川藤孝と筒井順慶が自分に協力しない・秀吉が戻ってくるのが早すぎる。
  つまりこの3つを逆にすりゃいい。まずは藤孝と順慶のところだ」
 「そうか。では行こう」
 「ああちょっと待て」
 馬に乗りかけた手塚を、跡部の制止の声が留めた。
 「む? 行かんのか?」
 「そりゃ行くに決まってんだろ」
 頷き、
 言う。
 「馬貸してもらうだけでいいわ。これからは俺だけで行動する。
  ンな俺の我儘に付き合ってくれてありがとよ、手塚・不二」
 「何で・・・?
  僕ら、ちゃんと助けるよ?」
 心配げな声で詰め寄る不二の頭を撫で、
 「わかってる。お前らはいいヤツだからな。ぜってー俺を裏切らねえだろ」
 「なら・・・」
 「だがここから先、俺と一緒に動けば必然的に光秀に荷担する事になる。
  信長様に仕えてんだろ? なら謀反の共犯はマジいだろーよ」
 「だが―――」
 引き下がらない手塚。当然だ。あれだけ聞いて何も協力しないのでは無責任極まりない。
 ぽんぽんとその肩を叩き、
 跡部は耳元で囁いた。
 「夫なら妻守れ。そのためならどんな汚ねえ事にでも手ぇ染めろ。友人だって裏切れ。
  それが、夫婦ってモンだろ? なあ手塚」
 「跡部・・・・・・」
 「主君のためとかホザきやがったらぶっ殺すが、不二のためならしゃーねえよ。
  ―――ちゃんと幸せにしてやれよ?」
 「・・・・・・・・・・・・。
  わかった。お前との『友情』にかけ、必ず不二を幸せにしよう」
 「上等」
 こつりと拳を合わせる。それで手塚は引いていった。
 「跡部!!」
 不二の悲痛な声が響いた。それもまた、手塚が前に差し出した手に遮られる。
 「1人で行かせてやれ不二。ここからはアイツの戦いだ。
  部外者たる俺たちに出来るのは、ここまでだ」
 「けど・・・・・・」
 「心配してくれてありがとよ。
  お前らはこの時代で俺が会った、最高の友人だ」
 笑って明るく言う跡部から何を察したか、不二は顔を強張らせた。
 見開いた目で尋ねる。
 「跡部・・・。君、





  ―――自分のやる事が成功するって、思ってないでしょ?」





 「何・・・?」
 2対の目に見つめられ、
 跡部は馬に乗り軽く上を見上げた。
 「光秀を殺そうとしてるヤツってのがな、たとえどんな過程を経たとしても必ず目的果たすんだ。アイツが『失敗』したトコなんて見た事ねえ。
  だがな―――」
 真っ直ぐ前を見つめる。道はどこまでも続いていた。果たして自分が歩む道には、これから何が待ち構えているのか。
 何にしても構わない。決して自分は目を逸らしはしない。立ち止まりはしない。
 「リョーガがやんのがプロポーズなら、俺からくれてやんのは挑戦状だ。
  この勝負はぜってー俺がもらうぜ、佐伯・・・!!」





・     ・     ・     ・     ・






 訪問1人目―――細川藤孝。
 「俺が光秀の味方に?
  もちろんつくに決まってんじゃん! 盟友だぜ俺ら?」
 「おーしおーしその意気だ!! そのまま頑張れよ藤孝!!」
 「おう! ありがとうなどこの誰だか知んねーが!!」





 訪問2人目―――筒井順慶。
 「俺が光秀の味方に?
  うーんそれはすぐには決められな―――」
 「もちろんつくよなあ? つかねえんだったらお前ンとこの国の民に何が降りかかるかわからねえが・・・・・・、
  ―――『すぐには決められな』何だって?」
 「すぐには決められな『くもない』だ!! もちろんつくぞ俺は!! 当たり前じゃないかハハハハハ!!」
 「よしよし。やっぱそうだよなあ?
  ほんと、光秀もいいヤツ友達に持ったもんだなあ」
 「ははははは・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・そうだな本当に」





・     ・     ・     ・     ・






 《跡部くん、これ、いいの・・・・・・?》
 「何か問題あったか?」
 現在もまたしつこく引っ付いてきている千石の疑問は、満面の笑みを浮かべる跡部を前に何の効力も発揮しなかった。
 鼻歌を歌って喜びを表す跡部。秀吉が現在攻めている高松城近くの川原で、ふいに馬を止めた。
 《どしたの?》
 「作戦第2段階だ。次狙うは―――毛利輝元」
 《あーまた脅すの?》
 「違げえ」
 即座に否定された。
 ようやっと跡部くんももう少しまともな交渉術を使うようになったんだね・・・と安心しかける千石ではあったが。
 ―――にやりと笑う跡部の台詞は、とてもまともなものではなかった。





 「襲う」





 《はい・・・・・・・・・・・・?》





・     ・     ・     ・     ・






 パン、パン。
 「よっし完璧な作戦だ。俺様様々だな」
 《多分コレ、後の歴史の教科書にはきっと君の悪行三昧が載せられるんだろーね・・・・・・》
 光秀から輝元に宛てた密使をぶち倒し書状を奪い取った跡部に、千石のそんな力ない呟きがかけられた。きっと人間としての実在があったなら、目を逸らし冷や汗を拭っているところだろう。なにせこちらも立派な共犯だ。
 「これで、俺が確実に輝元に届けりゃ―――」
 《跡部くん!!》
 警告。
 された時には、跡部は既に行動を起こしていた。理由などない。テニスをしていて、時折頭より先に体が動くのと同じ現象だ。
 前に身を投げ出す。砂利の上に手を付き前回り。している間に後ろが見えた。自分が1秒以内前にいた位置を、短刀の刃が薙ぎ払っていたのが。
 転がり、起きる。後ろを向けば、そこにいたのは予想通りの人物。
 「やっぱ来やがったか佐伯」
 「まさか、お前が先に来てるとは思わなかったよ」
 銀色の髪をなびかせて、佐伯がごく普通に佇んでいた。殺気も怒気も感じない。街中で会ったなら、こちらも普通に手でも上げていたかもしれない。
 ―――なのになぜだろう。彼の姿が死神に見えるのは。
 (ンなの簡単だな。アイツが死を司ってるからだ。リョーガと、俺の)
 手を上げる代わりに、跡部は手を下へと下ろした。ぶん取った密書を、ズボンに挟む。こういう時のセオリーは懐に入れる事だろうが、残念ながらYシャツにはそんな都合のいいものはない。ズボンのポケットに入れればくしゃくしゃになる。
 ブレザーを脱ぎ、馬の背に被せ。
 「目的のモンは俺が先にもらったぜ?
  欲しいんだったら―――俺を倒してみな」
 腰に差していた短刀を逆手で引き抜く。
 向かい合う2人の周りを、風が渦巻いていった・・・。





・     ・     ・     ・     ・






 ギィン―――!!
 絡み合う、刃と刃。そこから滑らせ胴体を狙う跡部に、佐伯は1歩後ろに下がった。
 進み間合いを詰める。跡部が振った刃を、佐伯は左に体を捻りながら避けた。
 振り切った勢いで回転し、再び一撃と見せかけ今度は脚で攻撃。佐伯がさらに左に避けた。舞い上がる髪とコート。まるで踊りでも踊っているようだ。
 向かいからそれを受け止め―――
 「―――っ!!」
 跡部の体が、突如硬直した。
 たまらず倒れ込む。
 「て、めぇ・・・! 何、仕込んだ・・・・・・!?」
 回らない舌でかろうじて言葉を紡ぐ跡部に、佐伯が僅かに驚いた顔を見せた。罠を見破った事に対してか。
 薄く、鋭く笑い。
 「まあ、『忍法・風遁の術』ってトコかな? 痺れ薬撒かせてもらったよ。
  悪いな景吾。お前相手に、真正面から挑むワケないだろ?」
 先程から佐伯が妙に逃げに徹していたのは、移動し常に風上に立つためだったようだ。自分は喰らわないよう後ろに下がり、その都度少量ずつばら撒いていたのだろう。大量なら粉や匂いでわかったかもしれない。少なすぎて気付かなかった。しかも攻撃で息を吐く分、そこから次の間は吸い続けるものだ。
 佐伯が近付いてくる。逃げたくても逃げられない。
 脇に腰を屈める。伏せたままぴくりとも動かない。
 仰向けにされる。睨みつけるのが精一杯だった。
 ―――Yシャツを捲られ、密書を抜き取られた。
 「この―――!!」
 僅かに手が動いた。密書の端を摘む。
 力が入らない。するりとすぐに抜かれた。
 「密書、確かに頂きました」
 笑顔で佐伯が言う。お決まりの営業スマイル。嬉しそうでも何でもない。コイツにとっては、予定[マニュアル]どおり事を進めただけ。
 力なく歯軋りをする跡部を見もせず佐伯は立ち上がりかけ、
 「―――あ、そうそう。お代」
 ポケットから取り出した丸薬を、口に含んで噛み砕く。
 唾液と充分に混ぜ溶かし、
 「ふは―――!?」
 跡部の口に、それを流し込んだ。
 口内で充分混ぜ合わせ、舌で口中に塗りつける。
 口を外し、
 「おっとむせ返って吐き出すなよ? 解毒剤だ。5分もしたら痺れは消える。
  じゃあな景吾」
 「待―――!!」
 それだけ言い残すと、佐伯は現れた時同様音も気配もなく姿を消した。





・     ・     ・     ・     ・






 5分経つ。痺れが消える。跡部はまだ起きない。
 倒れ込んだまま、跡部は叫び声を上げた。
 「ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



―――突発ラスト予想! 6

2006.1.22