テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
突発ラスト予想!―――6
密書が奪われた。直接交渉に行ったところで、毛利輝元はもう味方になってはくれないだろう。
《どうするの〜・・・?》
暫く落ち込んでいた跡部。千石のため息にすっくと立ち上がり、
「こーなったら作戦第3段階!! 越前―――じゃねえ! 秀吉の説得だ!!
天下統一は光秀と2トップでやってもらうぜ!!」
《ええ!!??》
・ ・ ・ ・ ・
という事で高松城へやってきた。
「つー事で、謀反に協力しろ」
「ヤだよ。何で」
いきなり意味もなくケンカ腰で挑む跡部に、こちらもなぜか敵意剥き出しで応じる秀吉。跡部とリョーマというと、いつの時代で会ってもこうなるらしい。
広間に嫌なムードが広がる。正面から堂々入り込み大将とバチバチ火花を散らす男に、周りに控えていた家来達もどう対処すればいいのか悩み込んでいた。
火花を手で振り払い、跡部が落ち着いて続けた。
「このままだと光秀てめぇが殺す事になんじゃねえか」
「だから?」
「光秀とてめぇは兄弟みてぇなモンなんだろ? 普通ちったあ嫌だと思わねえか? てめぇにゃ血も涙もねえのか?」
「その台詞は信長殺す光秀に言ってよ」
「信長は納得済みだそうじゃねえか」
「光秀だって納得してんでしょ?」
「そりゃ信長殺す事に対してだろ? 自分がその後どうなるかについては納得してねえじゃねえか」
「謀反起こせばどうなるかくらい、わからないほど馬鹿じゃないでしょ光秀も」
「つまりてめぇは兄貴より天下が大事だ、と・・・。
は〜・・・・・・」
「何そのため息。すっごいムカつくんだけど。
言っとくけどねえ、アンタの時代がどーかはともかく、今天下取るって事がどれだけ大事だと思ってんの?
狙ってんの俺だけじゃないんだよ? 俺が止めたって他の人が光秀殺すよ?」
「だから止めろとは言ってねえだろ? 光秀とてめぇ、2人で天下取れっつってるだけで。
てめぇの度胸と勘、それに光秀の世渡り上手。2人合わせりゃ鬼に金棒じゃねえか。どっちがどっちだかはいいとして」
「本気でどっちでもいいよ・・・」
「光秀のへたれに関しては俺が保証するぞ? 取り入りたいヤツに関しちゃ奴隷になっても喜ぶヤツだからな」
「・・・・・・そこまで凄かったんだ。さすがにそれは初めて知ったよ」
「凄いぞ〜? 『靴舐めて生き延びろ』と言い捨てられてすら、その本人には一切逆らえねえで他で八つ当たりするからな」
「ダメじゃん光秀・・・。むしろ一緒に俺まで落ちそうなんだけど」
「大丈夫だ。
てめぇぜってーいらねえところでケンカ買って敵増やしてるだろ?」
「ぐっ・・・・・・。
・・・・・・放っといてようるさいなあ」
「そんな時こそ光秀の出番だ。媚び誉め煽て調子に乗らせ、人に取り入り薄く儚い友情を捏造[つく]る事に関してアイツの右に出るヤツぁそうはいねえ」
「むしろ誰も出たくないし」
「なんならお前が日なたに立って、影の汚ねえ部分全部光秀にやらせてもいいんだぞ? そうすりゃ楽してふんぞり返ってるだけで天下が取れる。汚名は全部光秀が被ってくれる」
「いっそそれいいなとか思ってきちゃうから止めて」
「んじゃその方向でよろしくな」
「だから。
それで光秀が納得するワケないでしょ? どこの世界に『アンタ俺の手下になってヤな事全部やってね。成果は全部俺が貰うから』って言って引き受ける人がいると思ってんの?」
「いなかったのか? 佐伯とリョーガなんていつもそんなモンだったから、てっきりそれもまた世の一面の姿かと納得してたんだが」
「は?」
「いや悪りい。こっちの話だ。
だがそうかなるほど。つまり構造改革は基本から。秀吉が佐伯になりゃ万事解決だな。そうすりゃリョーガの謀反をネタに永遠にいびり続けられる」
「ちょっと・・・」
「そうかそうか。佐伯とリョーガの最悪コンビなら天下統一なんて朝飯前か。どうりで信長時代はあんなに苦労してたのに秀吉になった途端あっさり終わった挙句意外と安泰なのかと思ったら、そういうカラクリだったか。確かにアイツらに逆らおうなんて根性あるヤツそんなにいねえだろーしな」
「ねえ・・・・・・」
「それに秀吉がいまいち特徴のねえ普通のキャラなのもこれで納得か。佐伯ならあくまでごく普通の天下統一人その1で済ますだろうし、そのためにリョーガ飼い慣らして汚ねえ事全部やらせた、ってか・・・。
よし。
―――つー事で秀吉」
「・・・何?」
「今すぐ死ね」
「は・・・・・・?」
笑顔でするりと短刀を抜き出す跡部。もちろん通常殿の前で武器は携帯出来ないはずだが、長年佐伯の幼馴染をやってくればズボンの膝から下に刀の鞘を縫い付けるなど、わざわざ考えるまでもなく思いつく―――どころか無意識の内にやっていた事だ。
『殿〜〜〜〜〜〜!!!!!!!』
家来達が悲鳴を上げる。だが慈母のような笑顔で花束代わりに刀を持つ跡部はどうしようもなく怖かった。見ようによっては信長以上だ。
まるでテニスの試合開始の如く。周りの注目を一身に浴び、跡部は秀吉へと悠々と歩み寄った。秀吉もまた、目を逸らすだけでぴくりとも動けない。
ちゃきり。
「・・・・・・一応訊いときたいんだけど、何この納得出来ない展開?」
「世の中それが普通だ。納得して死ねる信長は幸せだなあ」
「いやそんな悟り開いてないで質問に答えてよ」
「俺は納得したぞ?」
「俺は?」
「まあいいじゃねえか。ンな細かい事気にすんな」
「どこが細かいんだよ」
「無数の人が誕生しまた死へ向かうこの悠久の時の中で―――」
「もういい・・・・・・」
「んじゃ納得したところで」
「してない!!」
「何でだ! ちゃんと痛くねえように刃だって砥いだじゃねえか!!」
「殺す気満々で来たワケ!?」
「ああ」
「誰かちょっと!! ここに俺の抹殺企ててる人がいるんだけど!!」
「何ですと!?」
「殿を守れ!!」
「罪人を捕らえよ!!」
「うおあちょい待てよ秀吉!! てめぇ汚ねえぞ!! 1対1の果たし合いじゃなかったのか!?」
「ンなワケないだろ!? 大体やってたのは『話し合い』!! 何で決闘にすんだよ!?」
「てめぇ1人が死ぬ事で世の中平和になって万々歳なんだぞ!? 世のため人のために命投げ出そうとかそういうつもりはねえのか!?」
「ないに決まってんだろ!? しかもそれ、万々歳なのアンタと光秀だけじゃん!! 世のため人のためなら普通に光秀死なせなよ!!」
「だけじゃねえ!! それにもう1人加わるから3対1だ!! 民主主義に則りてめぇが死ぬのが決定されたぞ!?」
「天下統一目指してるヤツに『民主主義』とか言うなよ!! 俺の意見が採用されるに決まってんだろ!?」
「そういう自分勝手な事ばっか考えてるから嫌われんだぞ!?」
「アンタに言われる筋合いはない!!」
・ ・ ・ ・ ・
こうして、跡部は城を摘み出された。正確には・・・・・・牢にぶち込まれそうになったので家来達を全員のして逃げてきた。
そんな事情で今も馬を全力で走らせ、
「ちくしょー・・・。なんで上手くいかねーんだ?」
《ちょっとめんご跡部くん。
君、ホントに今の〜何ていうか、成功すると思ってやってたの?》
「当たり前じゃねえか。失敗確実な案に時間費やすなんつー無駄な事、この俺がやるワケねえだろ?」
《う〜ん・・・。まあ、その辺りは君の感性だからいいとしてさ。
―――なんで秀吉殺すなんて結論になったの? 死んだからってサエくんが代理になってくれるとは限らないよ?》
「いや大丈夫だ。佐伯の目的は『歴史を狂わさない事』。リョーガを殺すのもその一環でだ。
秀吉がなぜか殺されたなんて突発的な展開になりゃ、何とか歴史をその通り維持する方法は1つ。アイツ自身が代理になる事だ」
《でも代理になっても、結局リョーガくん殺すんじゃん?》
「大丈夫だろ。『殺した』っつー事実さえありゃ。
ンな立場なら、殺しを偽装する事も適当な存在として潜り込ませるのも自由自在だ。いっそそれこそ光秀取り込んでもいい」
《なんで?》
「死以上の屈辱を与えられるからだ。主を殺してまで行った謀反を結局利用された。また信長派で光秀に恨みを抱いている者も、だから秀吉には怒りを向けない。ヘタに殺しちまうと、今度はなくなった怒りの矛先が秀吉に向くかもしんねーからな。つまり光秀は生贄代わりだ。
―――こんなにいい案佐伯が見逃すワケがねえだろ?」
《うあ問答無用の説得力が・・・!!》
「・・・だっつーのにな〜んで秀吉のヤツは反対すんだろーな。
やっぱ越前と同じく意地の固まりってか・・・」
《・・・・・・・・・・・・。
まあ、もーノーコメントで行くけどね。
んじゃ次はどーすんの?》
問われ、跡部は馬を止めた。ようやっと追っ手が撒けたところだ。
「作戦最終段階だ。本能寺の変を食い止める」
《でも、もう準備万端だしどうやって?》
「一番簡単な手だ。信長逃がす。
これなら俺1人でも充分出来る」
《つまり・・・跡部くんは信長の意志汲んであげない、と》
死にたがってると。殺して欲しがってると。
問う声には、全く非難は込められていなかった。
僅かに視線を上に向け、確認出来ない千石の存在を感じ。
跡部は、多分逆に訊いたなら千石もそう答えるであろう事を言った。
「当然だ。ンなモン俺が知るか」
《う〜わ言い切るし》
「親を乗り越える方法なんて他にいくらでもあんだろ?
邪魔だからって殺してくようなら、そいつが作り上げられるのは1人きりの王国だ。ンな世界で生きてえとは思わねえ。
変えてやるさ。俺がアイツら馬鹿親子をな」
《んじゃ―――》
「さっそく本能寺だ!! 計画実行は明日の朝! 急ぐぞ!!」
《おー!!》
―――突発ラスト予想! 7
2006.1.22