テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
突発ラスト予想!―――7
6月2日。夜明け前。
跡部(ら)が本能寺に着いた時、丁度光秀軍もそこに着いたところだった。
《うわ〜。見事鉢合わせ》
ため息混じりに言う千石に、跡部はにやりと笑った。
「丁度いい。狙ったとおりだ」
《・・・・・・負け惜しみ言ってない?》
「言ってねえ。
たとえ事前に着いたとしても、多分光秀側の誰かが見張りについてた筈だ。そん中で逃がすのはさすがに骨が折れるし、安全圏まで行かせる間に事態が進んじまう」
《今ならいいの?》
「歴史によりゃ、この戦いで本能寺は焼き尽くされる。そん中で信長は自害したそうだが・・・
―――つまり焼く時ぁ人が遠ざかるワケだ。当たり前だな」
《そりゃ焼け死にたくないしね》
「そこに入って逃がす。場は混乱してるだろうし、兵もこれだけ数が多けりゃ1人2人見ず知らずのヤツがいたところで怪しまねえだろ」
《なるほど火事場泥棒》
語りだけの存在のクセに、なぜか手を叩くぽんという音まで聞こえてくる。こういう無駄に細かい演出は千石の得意技だ。
「・・・・・・・・・・・・。
まあ、人聞きは悪りいが例えりゃそんなトコだな」
《いや例えずともモロにそれじゃん。信長様盗むワケっしょ?》
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
―――そういやそうだな」
何となく納得。確かに言われてみれば『火事場泥棒』だ。
跡部もぽんと手を叩き、
開き直った。
「んじゃ行くか火事場泥棒」
《まあいーけどね。今更犯罪の1つや2つ増やしたところで》
・ ・ ・ ・ ・
馬を隠し適当な武者をのし鎧を奪い。
実に順調に作戦をこなしていく跡部を見習うかの如く、光秀軍も着実に計画をこなしていっていた。
寺に火矢が放たれる。いくら木造とはいえさすがにそれですぐには燃え出さないが、それでも何本も打ち込んでいけば燃えるものだ。
割と燃え、そこで―――
「光秀、どこへ行く?」
「燃え尽きるまではヒマだろ? 散歩だ散歩」
「そうか・・・・・・」
隣にいた、かのエセ大富豪桜吹雪彦麿によく似た男に手を振り、光秀ことリョーガはのんびりその場を立ち去っていった。酒瓶と刀を手に。
その会話を耳にし、
(やべえな・・・)
《何が?》
(リョーガのヤツ、中入る気だ)
《え? 何で?》
(こっちの考えに気付いてるか、さもなきゃ自分の手でとどめ刺しに行くつもりか)
《うあマジでヤバいじゃん!!》
(だな。急ぐぞ)
口の中で呟き、跡部は寺へ目をやった。そこに群がる兵たちへと。
建物ごと火攻めにするといっても、単純に火をつければいいというものではない。それでは周りに燃え広がり大火事になる。
周りではそれ以上広がらないよう下っ端武者が木を切り倒したり穴を掘ったり水を流したりと頑張っている。それらに紛れれば寺のすぐ近くに行けるし、巻き込まれた振りをして中へと侵入出来るだろう。
移動しようとし、
近くで再び会話が聞こえた。残ったあの桜吹雪もどきである。さらにこちらもエセコックの何某氏と、何やら良からぬ顔でぼそぼそ話している。
(『顔』って・・・、さすがにその言い方はマジいだろ)
《いや『表情』って意味でね? 『にやりと笑う』じゃ君の専売特許っしょ。
別に顔が悪いなんて俺は一言も言ってないよ?》
(今言ったじゃねえかしっかりと悪意ばりばりで)
こちらもぼそぼそ会話しながら、跡部は進みかけていた足を止めた。
不自然でない程度に近付く。リョーガがいた時は気取られるかと警戒していたが、まあこの程度のヤツらなら大丈夫だろう。
実際大丈夫だった。気付かれず、話される。
「いよいよですね利三様」
「邪魔な信長が消える以上、これで天下は私のものだ」
(利三? って事は斎藤利三かアイツ)
《誰?》
(明智光秀の家臣だ。その中でも中心的な、な。
死ぬ時は光秀と一緒に首晒されたんだったか)
《仲良しなんだね〜》
(確かに仲は良さそうだな。お互い蹴落とし合っちまう位良いらしいぜ?)
そう跡部が予想した通り、
行われていたのは更なる反逆計画だった。
「光秀も随分よく働いてくれた。未来人だからと力を貸したが、まさか本当にここまで上り詰めるとはな」
「ならばその光秀は―――」
「この場で殺せ。信長と相討ちだった事にすればいい。
そして光秀『様』の跡を引き継ぎこの私が・・・・・・」
「やはり、利三様についてきて良かったですよ・・・」
「くく・・・。ご苦労だな。
私が天下を取った暁には、お前にも領地をやろう」
「ありがたき幸せ。
―――では、私は光秀様を探しに行きますか」
「では、しっかり頼むぞ」
「お任せを」
そして手下らしい方が、人混みを縫って去っていった。
見送り、舌打ちする。
(どうやら、寄り道しねーといけねえらしいな)
《何で? 今倒しちゃえば?》
(アイツが1人きりで動いてるとは思えねえ。他のヤツと合流したところでまとめて叩かねえとな)
《『ゴキブリは巣ごと潰せ』?》
(食事中の方に不快感与える例えはすんなよな。
とにかく行くぞ)
《あ待って〜》
そして去る跡部(ら)。その後ろでは、
「利三様!?」
「誰か救護班を回せ! 利三様が倒れられたぞ!!」
跡部にさっそくしばき倒され、黒幕が情けない終わりを迎えていた。
「―――ったく余計な事に時間取らせやがって・・・」
手下も全て片付け、跡部が寺へと戻る。
入ろうとして・・・
《待って跡部くん。誰か出てきた》
「あん・・・・・・?」
寺を見る。崩れ落ち始めている寺。
入り口から1人の男が出てきた。越前リョーガ―――いや、明智光秀か。
全身を血に染め、垂らした手に信長の首を持ち・・・・・・・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
その少し前。散歩と言いリョーガは寺の中へ入っていった。
「ま、別に『燃える屋内に散歩に来てはいけません』なんて決まりもねえしな。
―――よう信長。来てやったぜ」
「おう光秀。待ってたぜ」
御殿にある一部屋。中央では、死に装束を着た信長が堂々と佇んでいた。
・ ・ ・ ・ ・
「あんたの好きな酒、持って来たぜ」
「おおそりゃ悪りいなあ! 寺にゃあそういうモンはねえしな。サミシかったぜ〜!」
差し出された酒を、瓶ごと受け取りぐびぐび飲む信長。
ぷは〜と気持ち良さそうに息をつくのを、リョーガは目を細めて見つめていた。
「ん? どした?」
「いや?」
笑って。
膝をついたまま擦り寄ると、信長の腰に抱きつきぽてりと寝転がった。
「何だよ今更赤ちゃん返りか光秀〜? 珍しいじゃねえのよお前が甘えるなんてよ」
「へへ。たまにゃこういうモンもいーだろ。
俺あんたの息子って事で育てられたけどよ、そういやンな風に接した事ってなかったよな」
「ま、お互いいい年してるモンな。
秀吉がガキの頃はやってたんだが、変態親父扱いされるようになってな。お父さんけっこーしょっくぅ〜?」
「ハハハハハ! ま、チビ助ならそーだろーな。アイツも照れ屋で可愛いね〜」
「代わりにお前が来てくれんなら大歓迎だぜ? お父さんがとことん可愛がってやるからな〜vv」
「うあ〜! 変態親父〜!!」
「ひっで〜!! お前もかよ光秀〜!! お父さんサミシ〜〜!!」
泣き真似をする信長。腹を抱え大爆笑するリョーガ。
2人で笑う。
余韻も消え。
「――――――どーした?」
「何が?」
「悩み事があんなら言ってみろ。最後くらいは親父らしく相談に乗ってやるぜ?」
ぽんぽんと頭を撫でられ、
リョーガは頭を回した。
仰向けになり、見上げる。
「信長さあ・・・」
「ん?」
「好きなヤツに振られた事って、あるか?」
「何だよ恋煩いか〜?
ンなの恋多き俺はしょっちゅう―――」
「じゃなくて」
ふざける信長を一言で切って、
問う。
「―――本気で愛したヤツに振られた事、だ」
信長の目が、つと細められた。
「つまり、お前は今その状態だ・・・ってか」
「さあな」
答えられない。
肩を竦め、見上げる。その先にもしかしたらいるかもしれない。己が唯一愛した人が。
「残念ながら俺にゃねえな。
振ったとか振られたとか、ケンカしたとか。
・・・・・・ンな事やる前に死んじまったよ、アイツは」
「他にゃ作んねーの?」
「まあ・・・、な。
遊びじゃいくらでもやるが、マジの恋愛はこれだけで充分だ。倫子1人でな。
―――ああ、もちろんお前らも愛してるぜv」
「だからって息子押し倒すなよ〜?」
くっくっくと、リョーガが喉で笑った。
父親と同じ上―――天井の向こうにある空を見上げ。
「俺も多分、そうなんだろーな。
死んじまったら、振られたかどーかなんてわかんねえし」
空に向けてを伸ばす。もしも歴史通り死んだとしたら、その手にかけながら佐伯は自分を愛してくれるのだろうか。
伸ばした手で、目を隠す。顔を隠す。
何も見えない。何も見ない。そうすれば、そんな希望を持ったまま死ねる。天下統一の野望の途中で死ぬ信長と同じく。
「『父親』の事殺す俺が今更何言ってんだ、って感じだよな。
なあ。愛したヤツに殺されるってどんな気持ちだ? 俺もそれ将来の参考にしよっかな」
「お前・・・・・・」
信長がようやく驚きを露わにする。気付いたようだ。事が自分の想像よりも遥かに重大な、残酷な事になっていると。
「ちょっと起き上がれ光秀?」
「ん?」
言われたままに起き上がる。
反転した体を抱き締められた。
「信、長・・・?」
「俺がお前に言えんのはこれだけだ。
――――――ありがとな」
「え・・・・・・?」
「ンな俺のワガママに付き合せちまってよ。お前だって本当に俺殺したくてここにいるんじゃねえんだろ?
こんな俺のためにわざわざ嫌な思いしてまで尽くしてくれるヤツがいる。俺は幸せだぜ? 最期にそんなヤツに出会えた」
とん、と体が離される。
向かい合う信長。不思議な笑みを浮かべ、
―――腰から短刀を取り出した。
「光秀、お前にゃ嫌な思いはさせねえ。お前にゃ『親殺し』はやらせねえ。
俺の舞台は俺の手で責任持って幕引くぜ。そしたらお前は俺の首持ち帰ってくれ」
「待てよ信長それ―――!」
「黙って見てやがれ!!」
止めようとしたリョーガを、信長の一喝が押し留める。
張り詰める殺気。本気だ。本気でこの男は、自分で自分を殺そうとしている。
わかっていながら、リョーガに止める事は出来なかった。
そんな、強い息子に信長は満足げに頷いて、
「それでもまだお前は死んでねえ。死んでねえならやり直しなんていくらでも出来る。
今は大変かもしれねえが、全部片付いたら後で笑え。一緒に笑えりゃもう大丈夫だ。
負けんな光秀。お前は独りじゃねえ。必ずずっとついててくれるヤツがいる。俺みたいに、独りで迷って間違える必要はねえ」
「信長・・・・・・」
腹に短刀を突きつけ、
信長は、最期の言葉を告げた。
「生きろよ光秀!! お前は俺の自慢の息子だ!!
生きて、お前なりのでっけぇ夢掴み取れ!!
あばよ!! お前と『親子』だった間、楽しかったぜ!!」
「親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
・ ・ ・ ・ ・
どれだけ経っただろう。すぐ傍に燃えた木の落ちる音で意識が覚める。
覚めた意識に、やはり映るのは死んだ信長。
のろのろと立ち上がり、そちらへ向かう。
刀を抜く。視界が滲む。
駄目だ。ちゃんと見なければ。自分のせいで死んだこの男。最後まで見届ける義務がある。
刀を振り上げ振り下ろす。生前の力強さとは裏腹に、その首はあっさり斬れた。あるいはこの潔さこそ彼らしいのか。
しゃがみこみ、両手で抱き上げる。
胸に抱き締め、
ようやくリョーガは涙を零す事が出来た。
「あばよ親父。
生まれ変わったら、今度こそ本当の親子になろうぜ・・・・・・・・・・・・」
―――突発ラスト予想! 8
2006.1.25