テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





突発ラスト予想!―――8


 『本能寺の変』が終わった。光秀が信長を殺した。
 謀反の計画が本格的に進行しだした。信長の居城、安土城も落とされた。勢いに乗り、京に入る。
 このまま順調に進むと思われていた、光秀による天下統一。跡部はそれを遠巻きに眺めていた。
 ―――ただひたすら、成功を祈って。
 そして・・・





 「ンな・・・馬鹿な・・・・・・・・・・・・」
 《コレ、どう見たって・・・歴史どおりじゃん・・・・・・・・・・・・》





 孤立していく光秀陣に、呻き声を上げた。





・     ・     ・     ・     ・






 光秀軍大将明智光秀。そう名乗る越前リョーガはこの日、2つの報告を受けていた。
 「藤孝も順慶も味方になんねえ?」
 「はい。
  藤孝様は信長様の死を悼み剃髪。一線からは退くそうです。
  順慶様は静観を決め込むそうで」
 「・・・・・・・・・・・・。
  わかった。もういい。ありがとな」
 「はっ・・・」





・     ・     ・     ・     ・






 秀吉陣にて。その一員として、謀反者の光秀を倒しにいく事になった手塚は、胸の内に複雑なものを抱えながら準備に勤しんでいた。
 (なあ跡部。俺は今、このように動いていいのか?)
 心の中で問い掛ける。今はここにいない友人に向け。
 そして・・・
 「手塚・・・!」
 「む?
  ―――跡部か。どうした? こそこそと隠れて」
 ・・・なぜかタイミングよく現れた呼びかけ相手に、手塚はとりあえず首を捻った。
 その間にも跡部はこそこそ近寄り、
 「どうなってんだこの状況?」
 「謀反を起こした者として、秀吉様は光秀様討伐へと動き出した」
 「そりゃ見りゃわかる。
  早過ぎねえか?」
 「・・・・・・事前から知っていらっしゃったのなら、早く引き返す手順は整えているものだろう?」
 そういえばそうだ。秀吉も光秀の謀反計画は聞いていたか。
 舌打ちする。光秀敗北の原因の1つを、まさか自分達が作り出していたとは。
 「光秀の味方は?」
 「ないに等しい。毛利輝元の協力もない」
 「まあそりゃ・・・」
 密書は佐伯に奪われた。あれさえ渡していれたなら、また何か変わっていたかもしれない・・・。
 しかし後悔をしている暇はない。
 「んじゃ、藤孝と順慶は? アイツらは味方につけたぞ?」
 「『味方につけた』? お前はまた一体何をやってきたんだ?」
 「ま、まあいいじゃねえかンな細けえ事は。
  んで?」
 「細川藤孝様と筒井順慶様か? 詳しい事はわからんが、2人とも今回の事からは一切手を引いているそうだ」
 「・・・・・・っ!!」
 「どうした跡部?」
 「いや・・・・・・」
 噛み締めた歯の間から何とか声を出す。言葉は平静を保ちつつも、表情は険しいままだった。
 (やられた・・・!!)
 《え? どーいう事跡部くん?》
 (佐伯だ。俺が行った後やっぱソイツらんトコ行って、意見変えさせたんだ。
  くっそ・・・! 密書ン時も対応やけに早ええと思ったが、俺の後つけてたってか・・・!!
  考えてみりゃ、俺が一番歴史壊しかねねえ要因だしな・・・。俺の動きさえ潰してきゃあ、後は勝手に歴史通りになるってワケだ)
 頭を掻き毟る。
 こちらの策は全部潰された。自分は他に何が出来る?





 ・・・・・・何も浮かばない。





 虚ろな目の跡部に、
 手塚は全く関係のない話をしだした。
 「そうだ跡部。お前ここまで馬で来たのか?」
 「・・・あ?
  ああそりゃまあ。お前の寄越した馬でな」
 「あの馬をずっと使っている、と? どの位走らせた?」
 「どの位・・・? まあ、かなりぶっ続けでか・・・」
 言いながら、振り向く。馬の隠してきた方を。
 休まず動き、自分もかなり消耗しているが馬はそれ以上だろう。実際ここまで来たのもかなりの強行でだ。これ以上は苦しいかもしれない。
 (リョーガより先に殺しちまいそうだな・・・)
 苦笑いする。悲劇を食い止めるはずが、このままでは余計に広げそうだ。
 そんな跡部の思いを察したか―――いや元々こちらが主題だったか、手塚が続けた。
 「跡部、手数かもしれないが1度不二のところまで戻ってくれ。
  お前にぴったりの馬を用意した」
 「あ・・・・・・?」
 「不思議な縁でな。詳しく話している時間はないが、お前が去ってすぐに出会った。
  なぜか見ているとお前を思い出す。飼わなければならないような強迫観念に駆られた。
  ―――恐らく実際お前に合うだろう。任せておけ。馬を見る目はある」
 「そりゃそーだろーな・・・・・・」
 そのおかげで馬揃えは大成功したのだから。これでなかったら大爆笑だ。
 苦笑する―――ようやっと笑みを浮かべる跡部の肩をぽんと叩き、
 「跡部、お前は俺たちを変えてくれた。お前に出会い、俺たちは変われた。
  お前には人を変える力がある。今度はその力で友を救え。
  諦めるな最後まで。
  大丈夫だ。お前には俺たちがついている。お前は俺たちにとっても最高の友人だ」
 「手塚・・・・・・」
 見つめる。自分が知るとおりの仏頂面だ。いや・・・
 (笑ってる・・・・・・?)
 何となくそう見える。もしかしたら気のせいかもしれない。いずれにせよ、
 ―――その瞳の力強さは本物だった。
 「ああ。肝に銘じとくぜ」
 再び拳を合わせる。まるでそこから力を貰うかのように、胸の奥が温かく、熱くなった。
 「んじゃ不二んトコ行ってくるぜ。お前からの伝言は『愛してる。逢えなくて寂しい』でいいんだな?」
 「おい!」
 赤くなる手塚に跡部はけたけた笑い、
 「ああ!! 貴様!!」
 「またしても殿のお命を狙ってきたか!?」
 「うげっ・・・!!
  んじゃな!!」
 ・・・・・・兵たちに追いかけられ、慌てて逃げていった。
 一気に混乱に包まれる秀吉軍。おかげで出陣が少し遅れる事になるかもしれない。
 混乱の中心で頭を抱え、
 手塚は小さく呻いた。
 「跡部・・・・・・。
  ―――お前本気で一体何をやってきたんだ・・・・・・?」





・     ・     ・     ・     ・






 1人になる。独りになる。
 堪えきれずに笑いがこみ上げてきた。
 「へ・・・、へへ・・・・・・」
 信長を殺す前、謀反の計画を伝えるために跡部が城に乱入した。結局接触する事はなかったが、つまり跡部は歴史を変えてでも全てを止めようと動いている。
 なのになぜ歴史通り動く? 跡部が変えたはずの流れを戻すのは誰だ?
 「わかってんだぜ? なあ佐伯・・・。
  お前今でも俺の事見張ってんだろ・・・? 俺がちゃんと歴史通り動いてるか・・・・・・」
 試しに動く。逃げ出そうと馬を引き、
 ドスッ!
 ―――馬はどこからか飛来した矢に射抜かれ、そのまま死んだ。
 「へ、へ・・・。へへへ・・・・・・」
 見下ろし、1歩下がる。2歩下がる。
 再び矢が飛んできた。今度は自分のすぐ足元。
 警告。
 逃げる事は許さない。
 歴史通り動け、と。
 「へへ・・・へへへ・・・・・・。
  へへへへへへへ・・・・・・」
 笑って、へたり込む。
 思い出すのは、信長の言葉。



 ―――『それでもまだお前は死んでねえ。死んでねえならやり直しなんていくらでも出来る。
     今は大変かもしれねえが、全部片付いたら後で笑え。一緒に笑えりゃもう大丈夫だ』



 「なあ親父、死んでねえのに、やり直し出来そうにねえや・・・。
  一緒に笑えそうにねえや俺ら・・・・・・」
 佐伯にとって自分は何なのだろう。人形か? 手の平で自由自在に踊らさせられるだけか?
 (いや、それ以下か・・・)
 佐伯にとって、自分はもう人ですらないのだろう。ただの駒。歴史という壮大な装置を動かす1つの歯車。
 正確に働いているか監視する。壊れたようなら修復する。



 ―――『生きろよ光秀!! お前は俺の自慢の息子だ!!
     生きて、お前なりのでっけぇ夢掴み取れ!!』



 「死にてえよ親父・・・。
  早く死んで、人に戻りてえ・・・・・・」
 それだけが、自分の夢。
 それだけが、自分の願い。





 刀を抜き、喉に当て。
 それもまた弾き飛ばされる。
 死すらも許されない。





 「へ、へへ・・・、へへへへへへへ・・・。
  へへへへへへへへへへへへへへへへへへへ・・・・・・・・・・・・」





 愉う。嘲う。哄う。
 ああ笑いが止まらない。
 涙を流し大笑いしながら、
 リョーガはぽつりと呟いた。きっとこの声は届かない。










 「それでも愛してるぜ、佐伯・・・・・・」










 『光秀の死』まであと4日。随分長くなりそうだ。





・     ・     ・     ・     ・






 長浜へ戻ってくる。随分かかってしまった。
 「不二!」
 「跡部! ちょっと待ってて!!」
 「ああ・・・?」
 挨拶もそこそこに、不二は中へと引っ込んでいった。





 暫くして戻ってくる。1頭の馬を連れて。
 「お前それ・・・・・・」
 驚きの表情を浮かべ、跡部はその白馬を見やった。
 「手塚から聞いたかもしれないけど、君のために僕たちが用意した馬だ。
  名前は―――」
 「いやいい」
 不二の言葉を遮り、そちらへと近付く。
 手を伸ばす。鼻へと触れる。
 初めて会ったとはとても思えないほどごく自然な流れで、馬は跡部の手を舐めた。
 目を懐かしげに細め、
 「久しぶりじゃねえのエリザベーテ。まさかンな場所でお前に会うとはな。
  ああ、名前がいまいちこの時代に合ってねえが、
  ―――まあいいよな? 他にゃ思いつけねえし」
 ぶるりと鼻を鳴らす。了承の合図。
 よしよしと頭を撫で、
 額を触れさせ合う。
 瞳を覗き込み、
 「ダチ2人助けてえんだ。リョーガと佐伯。お前も知ってんだろ?
  アイツらが今、取り返しのつかねえ馬鹿な事やろうとしてる。俺は何としてでもそれを止めてえ。
  残りあと少し。けっこーお前の事扱き使う事になっちまうが、
  ―――ついて来てくれるか? エリザベーテ」
 ぶるり。
 「よっしいい子だ! やっぱお前は最高の女だぜ!」
 頭を抱え、ぎゅっと抱き締める。笑う跡部の腕の中で、エリザベーテも嬉しそうに鳴いた。
 「んじゃ不二、この馬買ってくぜ。いくらだ?」
 向き直ると、不二は笑って首を振った。
 「お代は別にいいよ。君のものを預ってただけだから」
 「だがコレ、相当高かったんじゃねえのか?」
 「まあ、今まで僕らは君にいろいろ助けてもらったからね。全然足りないだろうけどそのお礼にさ。受け取ってよ?
  それに―――」
 不二の笑みが、なぜかいたずらっ子っぽいものになった。
 「―――実はこの馬、貰き物なんだ」
 「あん・・・?」
 「以前馬揃えがあったでしょ? それで気に入られて信長様に家蔵して頂いて」
 「ああ・・・」
 「実はこの馬、その子どもなんだ」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 「出来たらしくてね。それで君の出て行ったすぐ後信長様が来られて、今度はこの馬を立派に育ててくれ、って。
  けど信長様、死んじゃったし・・・・・・。
  ―――ホラ、君から始まった連鎖だ。君に戻るのは自然でしょ?」
 跡部はエリザベーテを見た。なんという偶然だ。
 (・・・って、事もねえか)
 歴史の教科書には載らないが、ここにあるのは確かに自分の歩み。7年前に成した事が、今こうして返ってきた。
 自分のやっている事は決して無駄ではなかった。たとえ誰も知らない歴史でも、それを刻むのは自分自身。今ここに生きる自分。
 笑みが零れる。
 行ける。まだ行ける。
 まだ終わってはいない。ならば誰も知らない歴史の形、自分が刻み付けてやろうじゃないか。
 「んじゃ、ありがたく頂戴するぜ。
  ありがとよ、不二」
 「いえいえ毎度〜。
  ああそうそう跡部。1つお願いしたいんだけど」
 「何だ?」





 「その子、終わったら放してやっといてくれないかな? きっとちゃんと生き残れるよ」





 「不二お前・・・・・・」
 「何?」
 「・・・・・・いや、何でもねえ」
 笑顔の不二。きっと気付いてる。これが、自分達が会う最後だと。
 成否に関わらず、もうここには戻ってこない―――と。
 歴史が狂ったのが『明智光秀』という存在のせいなら、それが歴史から消える
13日に、全ては終わりを迎える。
 それがどんな形になるのかはわからない。だがいずれにせよ、ここには戻って来られないだろう。
 「んじゃ、そろそろ行くな」
 エリザベーテに跨る跡部。
 どこへ走らせるか、そこで何をするか。全く決まってはいない。だがそれでも、
 ―――ここで立ち止まっているわけにはいかないだろう。
 ムチを入れ、走り出そうとし。
 ぽてぽてと不二が近寄ってきた。
 「あん? どうした不二?」
 何も言わず、手を取られる。元々テニスをやっているため硬く厚くはあるが、さらにここ暫くの無茶で皮が剥け血の滲んでいる手を。
 ふと手綱を見る。一般的な荒縄や革ではない。持ち手の部分に綺麗な布が巻きつけてある。恐らく、着物を切ったのだろう。
 「お前・・・」
 「駄目だよ跡部? 僕の事ばっか気を使って。君の方がよっぽどボロボロじゃないか」
 手が―――心が。
 胸に抱き寄せ、温める。
 「大丈夫。僕達がいるよ? 君にはずっと。
  だから、君は前に走って。最後まで諦めないで」
 手塚と同じような台詞だ。やはり夫婦は考えが似るのだろうか。
 「不二・・・・・・」
 呟き、
 「――――――っ!!」
 跡部が目と口を開いた。



 ―――『諦めるな最後まで』
 ―――『最後まで諦めないで』



 『最後』はどこだ? リョーガが死ぬ瞬間だ。
 ならば佐伯はどこに出てくる? どこでリョーガを殺す?
 「小栗栖だ!!」
 「え!? な、何が!?」
 驚く不二から手を引く。最後にしっかり握手をしてぶんぶん振り、
 「ありがとよ不二! おかげで助かった!!」
 「え・・・? あ、う、うん・・・。まあ・・・・・・」
 「おっし行くぜエリザベーテ!! 目指すは小栗栖! 光秀最期の地だ!!
  全力疾走で頼むぜ!!」
 跡部の号令に合わせエリザベーテがいななきを上げる。
 あっという間に爆走していった1人と1頭を、暫し呆然と見送り。
 慌てて不二は両手を振った。
 「なんだかよくわかんないけど・・・、
  頑張ってね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」





・     ・     ・     ・     ・






 6月
12日。山崎にて秀吉軍とぶつかった。
 兵力で劣る光秀軍。何とか天王山を制し有利に進めようとしたが、失敗。撤退を余儀なくされた。
 逃げながら、思う。
 自分は誰を相手に戦っているのだろう、と。
 秀吉か?
 信長の亡霊か?
 それとも――――――佐伯か?
 逃げるリョーガが向かったのは、





 ――――――『光秀』の死に場所にして跡部の予想通りの場、小栗栖だった。





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 6月
13日夜。跡部は小栗栖に到着した。小栗栖には、到着した。
 佐伯が『歴史通り』リョーガを死なせるなら、光秀の死ぬこの地小栗栖で、落ち武者狩りに扮して殺すのではないかと。そう予想し来たはいいのだが・・・・・・
 「小栗栖のどこで死ぬんだアイツはあああああああああ!!!!!!!!!」
 《跡部く〜〜〜〜〜〜〜ん!!!! 頼むから君もうちょっとクジ運良くなって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!》
 光秀がそこまで辿り着いたのなら、当然他の者も辿り着く。
 落ち武者狩りに遭う1人1人を確認し、時に事前確認が出来ず殺そうとした相手を倒してから顔を見悪態をつく。
 跡部は本能寺の変に続き今回もまた、妙な事情で足止めを喰らっていた。





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 小栗栖に着いた。早くも何人かが死んでいた。
 目の前に土民がいた。土民の恰好をした男がいた。
 近付いてくる。頭に巻いた手ぬぐいを取った。綺麗な銀髪が月夜に散る。
 リョーガもまた、そちらに向かい歩み寄った。
 微笑む。穏やかな笑み。この時になって、ようやく出来た笑み。
 「逢いたかったぜ、佐伯・・・・・・」
 やっと来た、最期の瞬間。
 この時くらいは人に戻ってもいいだろう?
 この時くらいは、





 ――――――『越前リョーガ』に戻ってもいいだろう?





 佐伯が手を上げる。短刀を持つ手を。
 リョーガも手を上げた。佐伯を抱き締めるために。
 刃が突き出された。腹に食い込む。
 気にせず近寄る。痛みは感じなかった。ただあるのは嬉しさ。
 佐伯が驚きの表情を浮かべる。その表情ごと、リョーガは抱き締めた。
 キスを贈る。温かい。冷酷非情なこの殺し屋にも血は通っていると皮肉るべきか、自分がその温かさを感じられる人間に戻ったと喜ぶべきか。
 離し、囁く。これだけは伝えたかった。










 「愛してるぜ佐伯。永遠にな」










 力が抜ける。膝が笑う。立っていられない。
 倒れながら、それでも佐伯を抱き締める腕だけは放さなかった。
 この胸の中で、死にたい。
 それだけが、最期のワガママ。





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 ようやく真の目的地に駆けついた跡部。そこで見たのは―――
 ――――――リョーガを殺す佐伯と、佐伯に殺されるリョーガだった。





 「リョーーーーーーーーーーーガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」




















6月13日深夜―――明智光秀 没










―――突発ラスト予想! 9

2006.1.26