テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第6回―――1
そして長浜へ戻ってきた跡部。馬を止め、手塚の屋敷前へ降り立つ。
「さって来たはいいが・・・」
《入らないの?》
(問題は、アイツらが俺の事を覚えてるかだ)
《大丈夫っしょ》
(何でだ?)
《君いろんな意味でキャラクター性強烈だもん。忘れたくても忘れられないよ》
「ああそりゃありがとよ・・・!!」
犬歯を見せ微笑む。礼を言って馬をビビらせる男として、確かに人の印象には残りそうだ。実際通りを行く人が自分を見て足を止め・・・すぐに全力で逃げ出していった。
そしてまた現れた人が自分を見て驚き・・・・・・
「跡部じゃないか!!」
「あん・・・?
―――不二じゃねえか。久しぶりだな」
丁度買い物の帰りだったらしい。紙に包まれたものを両手で大事に持ち、不二がとてとてと近寄ってきた。
7年経っても動作は変わりないが、見た目は少し変わっていた。肩上まで切っていた髪は、今は胸まで伸びている。
目の前までやってきた不二。なぜかとても嬉しそうに笑っていた。
「よかった。また会えて。
ぜひ君にはお礼が言いたかったんだ」
「ん? どうした?」
「あのね、君に言われた通り手塚に馬買ってあげたんだ。どんなのがいいのかわかんなかったけど、そこは手塚に選んでもらって。
―――凄いんだよ? ホントは金30枚したんだ。なのに10枚にまけてもらっちゃった。手塚が交渉術上手いなんて初めて知ったよ」
「・・・・・・まあ、ヘタじゃあねえだろーなあ」
あの顔で、無言のまま見つめられて。
・・・・・・それでもぼったくれる程肝の据わった人は、いくら商人でもそうはいまい。さらに隣で不二が「お金足りない・・・・・・」と落ち込んだりしてみれば完璧だ。
「去年・・・馬揃えだっけ? 品評会があったんだ。それが信長様に気に入っていただけてね、褒美に家蔵して下さったんだ」
「ほお、そりゃ凄げえじゃねえか」
「でしょ!? おかげで手塚も目を掛けて頂けるようになって、出世出来そうなんだ。
凄いよね。さすが手塚。戦うだけじゃなくって、いい馬見極める目も持ってるんだね!」
「・・・・・・そこなのか? 凄げえところは」
無邪気にぱちぱち手を叩く(もちろん落としかけた包みは跡部がキャッチしてやった)不二に、どう返せばいいのかわからず跡部は珍しく顔を引き攣らせた。
不二がきょとんとする。
「・・・ああ」
叩いていた手をもう一度叩き、赤い顔で頭を掻いた。
「何でかそれで僕まで周りに誉めてもらえるようになって。『内助の功』だって。
おかしいよね? 跡部に言われた通りやっただけなのに」
困ったような笑み。
自分は何もやっていないのに誉められてどうしよう・・・・・・そう的確に表す笑みを見。
跡部もまた、がりがりと頭を掻いた。
(ったくコイツは・・・)
その手をぽんぽんと不二の頭に乗せ、
「だがヘソクリ貯めてたのはお前だろ。それを手塚のために使いたいって思ってたのもな。
俺は単に使い方を提案しただけだ。実際決めたのはお前だ。
―――充分誇っていいんじゃねえか? お前は妻の鏡だ」
うにゃうにゃと撫でられ不二が笑う。今度は、本当に嬉しそうな笑みだった。
・ ・ ・ ・ ・
不二に屋敷に招かれ、中で事情を打ち明ける。
「え・・・? 光秀様が謀反を・・・・・・?」
「ああ。ところが信長を謀殺したはいいが・・・いやよくねえが、あくまで光秀視点でな・・・、その後親友に協力を仰いだが拒否されて孤立しちまうんだ」
ここまでは『事実』。これからは、未来予想。
「だからそれを知ってる光秀は、そうならないよう手ぇ打ってるはずなんだよな。だからそれを―――」
「ちょっと待って」
言いかけた跡部を、不二が手を上げて止めた。
「光秀様や君がそれを知ってるのって、君らが未来を先読み出来る『未来人』だからだよね?」
「あ、ああ。まあ・・・」
そういえばそんな触れ込みで光秀―――リョーガは信長に取り入ったと言っていたか。
ここで訂正している時間も惜しいので頷いておく。
「つまり君らが見るのは確かな『未来』。なのに何で変えられるの? 変えたんならその『未来』が見えるはずじゃないの?」
「あ〜・・・・・・」
・・・・・・やはりこの設定では無理があったらしい。本当に先を読む不二の姉由美子曰く、「私が読む未来はあくまで現時点においての未来。未来の1つの形。そこに至るまでの間に違うアクションを示せばまた変わるわ」という事だそうだが・・・・・・実際未来を読めない自分がその辺りの理論を理解する事は不可能だ。もちろん説明する事も。
諦め、跡部は真実を告げる事にした。
「俺・・・に、それに光秀もな。
実は未来から来たんだよ。今よりずっと先の」
「ああなるほど。つまり僕らにとっての未来も君らにとっては過去。だから『未来』の事がわかるのか」
「早ええな納得・・・・・・。
普通余計不思議に思わねえか?」
「不思議に? なんで?
未来読むっていったら妖術みたいだけど、未来から来たって言われたら納得じゃないか。
きっと今よりずっといろんな技術が進歩して、だから過去にも来られるようになったんでしょ?」
「まあ・・・そう、らしいな。
実は俺も巻き込まれただけでな、俺のいる時代は今から400年ちょい後だが、それでもまだ過去に未来には行けねえな。さらに4・500年後のヤツに便乗させてもらっただけでな」
「っていう事は、900年くらい後なんだ〜・・・。
―――意外と進歩って遅いの?」
「・・・・・・・・・・・・。
どうだろうな? 2000年にゃ自由に宇宙行けるなんて言われてた割にゃまだまだ庶民にゃ手が出ねえし、感じ方次第じゃねえか?」
「ふーん・・・・・・」
2人で首を傾げる。
《・・・ってそういう事やりに来たんじゃないと思うけど》
「・・・・・・」
そういえばそうだった。
改めて不二と向き直り。
「つー事で、まずは光秀の親友2人に会いに行きてえんだけどよ、手塚いねえか? アイツにまた橋渡し頼みてえんだが・・・」
「手塚はちょっと〜・・・。今秀吉様が高松城攻めてて、手塚もそっちの方に行っちゃった」
「戦中か・・・。んじゃ無理だな」
いきなりアテが外れた。
(さってどーすっか・・・・・・)
「あ、ねえねえ跡部。だったら僕が一肌脱ごうか?」
「お前が一肌!? 駄目だ駄目だンなモン許すワケねえだろ!? 俺の目の黒いうちはぜってー許さねえ!! お前にンな事させんだったらいっそ俺が脱ぐぞ!?」
「は・・・・・・?」
《跡部くん、それはヘンタイの思考。
『一肌』違うから。しかも君元々目ぇ黒くないし》
「・・・・・・・・・・・・//。」
「・・・・・・・・・・・・」
非常に気まずい空気が流れた。
こほん、と咳払いをし、
跡部は何もなかった事にした。
「だがお前が? そりゃありがてえが・・・・・・何かアテでもあんのか?」
《いやいくら不二くんでも今の軽くスルーは・・・》
「アテ・・・・・・はまあないけど・・・
―――ああ、そういえばその光秀様の親友って誰? 聞いてなかったや」
《してるし!!》
「ああ。
・・・細川藤孝と筒井順慶。知ってるか?」
どうせ無理だろうと思いつつ一応尋ねる。夫の仕事もロクに知らなかった不二だ。まあ聞くだけ無駄だろうが・・・・・・
「ああ何だその2人か。なら知ってるよ?」
「・・・・・・ああ?」
「さっき言ったでしょ? 内助の功で誉められてるって。
その2人にも誉めてもらったんだ。手塚にいい馬買ってあげた、って。
それ以来何となく気が合って、時々遊びに行ったりしてるんだ」
「なるほどなあ・・・」
意外なところで交友関係が出来たようだ。
「つまりは跡部のおかげ。
だから、ね? 今度は僕に何かさせてよ」
自分を指差し笑う不二。正に『情けは人のためならず』といったところか。
跡部も笑って、
「んじゃ、ありがたく助けてもらうとするか。
恩に着るぜ、不二」
「うん!」
―――第6回 2
2006.1.17