テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第6回―――2
不二と共に馬を走らせまず1人目、細川藤孝の構える城へ到着。
(細川藤孝っつったら、当代きっての文化人で近世歌学を大成させたっつーよな)
《つまり大人しげな人? けど光秀協力要請蹴ったって事は、意外と芯が強かったり?》
(そうだな。信長の死を悼んで剃髪したっつーし・・・・・・)
「なあ不二」
「何?」
「ここの主、細川藤孝って・・・・・・どんなヤツだ? お前の目から見て」
大人しい文化人というと確かに不二と気は合いそうだが・・・・・・
「藤孝?
すっごく明るくて面白いよ? 気さくで、お城構えてる凄い人なのに全然偉ぶったりしないし。
・・・ああ、あと友達作りも上手だから、跡部もすぐ友達になれると思うよ?」
「何で一瞬ためらった上に決意して付け加えてるのか聞いてもいいか・・・?」
「それは気にせず。
あれ? でもだとしたらおかしいね? 藤孝って、結局光秀様の協力断っちゃうんだよね? 君の話だと」
「そうだな・・・」
「藤孝だったらむしろ率先して協力すると思うんだけどな」
「まあ・・・
―――事が事だからな。友情にかけて、っつーただそれだけの理由で動くにゃ賭けるモンが多すぎる」
「そう、かなあ・・・・・・?」
不二の声に、僅かに不満げなものが混じる。
慌てて跡部は意見を取り下げた。
「あ、ああホラな、さっき言った通り光秀ってのが実際の光秀じゃなくって未来からやってきた俺の知り合いなんだが、まずアイツが友情に薄っすいヤツだから、きっと怒らせるかなんかしちまったんだよああ」
「そう・・・かな?」
「そうそうそう! まずアイツときたら人は利用するためにあるものとか思っちまってるダメ人間だから、むしろ断った方が正解だぜ? ロクでもねえ使われ方しかねねえし―――」
「そう?」
「そうだだから断れた藤孝は実に物事を良く見れた頭の切れるヤツでちょっと待て」
不二を悲しませないためなら友人を売るのに全く抵抗のない跡部。間違ってはいないがどちらかというとリョーガより佐伯を表しているようにも聞こえる暴言を吐き続け、
・・・ふと気付いた。
人を利用するのが得意で友情の薄い光秀というかリョーガ。
明るく気さくで偉ぶらず、友達には率先して協力する藤孝殿。
《とっくにリョーガくんの手駒にされてんじゃん?》
千石の解説が、
冷たい風となってその場に吹きぬけた。
・ ・ ・ ・ ・
挫けかけつつ場内へ。
「で、でもまあもうそう決まった、って事もないし〜・・・。ね?」
「ああ、そうだな・・・。いっくら何でも『友情』の一言で即決しちまう事ぁねえだろ・・・・・・」
不二に慰められ、前向きに考えてみる。ちょっと明るくなり下から顔を向けたところでやってきた。『細川藤孝』が。
「あ、不二〜vv」
「やあ藤孝」
「もー駄目だろこりゃ・・・・・・」
現れた男を前に、跡部は目尻を手で押さえ笑った。嗚呼上を向かないと涙が零れちまいそうだ・・・・・・。
目の前で不二と戯れる男。それはとても見覚えのある少年だった。21世紀にいたら、彼は間違いなくこう呼ばれていただろう。『菊丸英二』と・・・・・・。
頭の中を、不二の説明が蘇る。
―――『藤孝?
すっごく明るくて面白いよ? 気さくで、お城構えてる凄い人なのに全然偉ぶったりしないし。
・・・ああ、あと友達作りも上手だから、跡部もすぐ友達になれると思うよ?』
確かにそれは、英二の特徴とぴったり同じだった。
(つーか・・・)
不二と気の合うヤツ。即ち友人。
・・・・・・・・・・・・この時点で気付けばよかった。
完全に挫ける跡部。崩れ落ちる頭の中では、同じく挫けたらしい千石の声が響いた。
《な〜るほどねえ・・・。何か・・・
―――歴史って、リョーガくんに優しく作られてるんだね・・・・・・》
(全くだな・・・・・・)
どうしよう。絶対説得は無理そうだ。いっそ全部放っておきたい。それでも知らない内に解決していたりしそうな気がする希望だが!!
挫けていると、喜びのじゃれあいは終わったらしい。英二―――いや藤孝がこちらを指差し、
「―――で!
にゃんだよお前さっきっから!! 人の顔見ていきなり駄目っぽいとか言うなよな!?」
「いや言ってねえだろ駄目『っぽい』なんて。正真正銘嘘偽りも妥協もなく駄目だって言ったじゃねえか」
「そこまで言うかあ!?」
「まあまあ藤孝!!
えっとこっちは跡部って言って、僕の友達なんだ。今日は藤孝に話があるからって事で連れてきたんだ」
「ええ〜!? 不二アイツと友達なのか!?
―――考え直した方がいいぜ? 友達選びは大事だぞ? よりによってあんなの選ばなくても、お前ならいくらだって出来んだろ? お前旦那といいコイツといい何でヘンなモンばっか・・・・・・」
どごっ!!
「ってーな何すんだよ!?」
「そりゃこっちの台詞だ!! てめぇ何不二にヘンな事吹き込んでんだよ!? 確かに手塚はコイツの夫としてどうかと思うけどな!!」
「だよなあ!? 何であんな仏頂面が!? せっかく可愛い不二がおかげで影響されちまったらどーすんだよ!?」
「仏頂面の不二なんて見たくねえよなあ!? 不二は笑ってなんぼだよなあ!?」
「そうそう!!
お前とは気ぃ合いそうだな!! よろしくな! 俺細川藤孝! 藤孝でいいぜ!」
「おう! 俺は跡部景吾だ。よろしくな、藤孝!」
がっしり!
「男の人の友情って、僕よくわかんない・・・・・・」
《大丈夫。俺にもよくわかんない・・・・・・》
10秒前までのケンカ腰はどこへ行ったのか、固く手を握り合い肩を叩き合う2人に、女の不二と語りの千石は呆然と呟いたのだった・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
「へ〜。んじゃお前、光秀とも仲いいってか」
「ま、一応な。
俺が、っつーか正確にゃ俺の知り合いがなんだがな。光秀のヤツ、そいつにはてんで頭が上がらなくてよ」
「ほへ〜。アイツがかよ。すっげーなお前の知り合い。今度会わせてくれよ。見てみて〜」
「いや会わねえ方が幸せになれるぜ〜?」
完全に打ち解けきった藤孝と跡部。無礼講といった感じで酒とつまみで盛り上がり・・・
「んでその光秀なんだがよ、
―――お前聞いてるか? 謀反起こすっつー話」
「あー聞いた聞いた。もう手紙来たぜ? 協力してくれってな」
「んで? 協力すんのか?」
「そりゃするに決まってんだろ? 何たって、俺はアイツの盟友なんだからよ」
(あーやっぱそー来んのか・・・・・・)
一瞬も悩まず言い切られてしまった。ここまで来るといっそ微笑ましい。
(いっそ岳人だったら即座にぶん殴んだがな・・・・・・)
《よかったねえどこかにいるかもしれない向日くんそっくりの人。跡部くんに関わらずに済んで》
さてどう説得するか。首を傾げ・・・
(・・・待てよ? コイツが菊丸だと仮定すりゃ・・・)
「なあ藤孝、さっき光秀から手紙が来たっつったよな?」
「ああ。届けてくれてな」
「んで? 返事はもうしたのか?」
「そりゃしたぜ? 読んですぐ」
「ところでお前、信長に仕える武将だよなあ?」
「だぜ?」
だから? と無邪気に問いてくる藤孝。どうやら予想は当たったらしい。出来れば当たって欲しくないとも少し思ったが。
深く深〜いため息をつき、
言う。
「手紙に書いてなかったか? 『信長を殺す』って」
「へ・・・・・・?
――――――ぅええええ!!!???」
「・・・お前一体何やる光秀の味方するつもりだったんだよ?」
慌てて藤孝が手紙を取りに行く。どたどたばらばら騒がしく戻ってきて、さらに騒がしく騒ぎ出す。
「あああーーー!! マジで書いてある!!」
「だから最初に言ってやったじゃねえか。謀反起こす、ってしっかりと。
使いのヤツも言ってなかったか?」
「謀反って、何か陰謀企てて起こす事じゃねえのか!?」
「そっちの意味が先に出てくるお前にさりげに感心するがな、
―――普通『謀反』っつったら時の指導者に対する反逆の事だぞ? つまりは光秀に取っちゃ、信長に対してだな。
んじゃ具体的に何をやる? その地位から引き摺り落とすか・・・・・・さもなければ殺すかだ」
ざざざっ・・・とこれまた騒がしく血の気を引かせていく藤孝。
崩れ落ちた肩に手をぽんと乗せてやり、
「おめでとうな。信長暗殺の共犯者」
「嘘だろーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!????????」
頭を抱え藤孝が蹲った。
どうしていいのかわからずおろおろする不二。そして、
《ねえ、どういう事さコレ?》
(つまりな。
岳人がよくやる事なんだが、アイツ試験でまず問題文読まねえらしいんだよな。そんでくだんねーところで間違えてしょっちゅう減点喰らう。おかげで試験前俺と忍足はこれでもかって程問題読め問題読め言ってんだが・・・・・・どうも効果がねえんだよな。岳人が言うには選択肢とか見るとついそっちばかりに気を取られるって事だそーだが・・・
―――菊丸と岳人が同類のヤツだと考えりゃ、藤孝も同じ事やってんじゃねえのかと思ってな)
ため息が洩れる。どうせ『光秀の味方につくかつかないか』という選択を前に、その前提たる『光秀が何をやるか』は完全に頭の中から抹消されたらしい。
「そ〜んな〜・・・。
光秀のヤツ、『何があっても俺たちはずっと友達だよな?』とか言うから『ああ! 当ったり前だろ!?』とか頷いちまったじゃねーか・・・・・・」
「・・・・・・本人かよ。届けに来たヤツ」
《実はヒマなんじゃん? リョーガくん》
「光秀の馬鹿ああ!! 俺の事騙しやがって〜!! 友達ってのはどこ行ったんだよ〜〜〜!!」
「どこにも行ってねえだろ」
「へ・・・?」
涙でぐしぐしに濡れた顔を上げてくる藤孝が。
跡部は眉を顰めたまま指を立て、
「『何があっても友達だ』って確認したんだよな?」
「・・・・・・。ああ」
「つまり『何をやるか』確認しなかったお前が悪りいんだろ。手紙にゃしっかり書いてあるっていうし。
―――ここで断りゃむしろてめぇの方が光秀裏切って騙した事になんぞ? 一度は引き受けたんだからなあ。
残念だな。てめぇと光秀の友情は所詮こんなモンか。さぞかし失望すんだろーな光秀は。もう『盟友』とか思ってくれなくなんじゃねえのか?」
「ゔ・・・・・・!!」
さすが友情に厚い男菊丸英二もとい細川藤孝。泣き声を呻きで止め、
「・・・・・・・・・・・・ど〜しよ〜〜〜〜〜〜」
「結局泣くの・・・?」
「考えろよ泣く前に・・・・・・」
《あーほんっとリョーガくんに遊ばれやすいキャラだね〜・・・・・・》
(そういや関東大会じゃ佐伯にも遊ばれてたか・・・)
一応最後の2つは藤孝には聞こえないようにした。あまりにも可哀想だろう、口に出して言ってしまえば。
「で、でもホラ!! 光秀様裏切らなければいいんでしょ!? まだやりようはいくらでもあるよ!!」
「・・・・・・。どんなのが?」
不信げな目を向ける藤孝―――さすがにこの状況で愛想を良くしろという方に無理がある―――に、不二は指を立てた。
まず1本。
「いっそ一緒に謀反人になってみるとか」
「本末転倒じゃねーか!!」
2本目。
「ごめんなさいって切腹とかは?」
「死んでどーすんだよ!?」
「友情は裏切らないよ?」
「その友情築いたまんま死ねってのかよ!?」
「死んでもなお続く友情。素敵じゃないか」
「・・・・・・もーいい」
ますます藤孝が絶望に陥った。
すす・・・と動き、跡部は不二の指をもう一本立てた。
「3つ。
んじゃ心から詫びてるって気持ち込めて頭でも剃ったらどーだ?
さすがに光秀も鬼じゃねえだろ。いくら何でもそこまでやりゃ許してくれるんじゃねえのか? 『盟友』なら」
「そーかそれだ!! ありがとな跡部・不二!!
んじゃさっそく剃ってくるな!!」
「あ、ねえ・・・」
じゃあ自分たちはおいとまさせてもらおうかと、言う間もなく孝義は出て行ってしまった。
仕方がないので戻ってくるまで待つ。ちゃんと挨拶しないうちに帰るのは失礼だ。2人とも礼儀を慮る性格らしい。
《そういや、結局藤孝ってリョーガくんに乗せられる代わりに君に乗せられる事になったんだね》
(ま、いいじゃねえか。おかげでわざわざ負け戦に参加せずにすんだんだからよ。
これも1つの人生経験ってモンだ。これでちったあ賢くなんだろ)
《うわ〜。何か君が言うとやけに説得力溢れて聞こえるね。
もしかして君も、人生揉まれたクチ?》
(ほっとけ)
・ ・ ・ ・ ・
そして戻ってきて・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・不二と跡部はひたすらに笑いを堪えるのが大変だったそうだ。
《ちなみにそんな藤孝の見た目は―――》
「言ってやるな何も!! アイツはアイツで一生懸命なんだ!!」
「うわ跡部ちょっと止めてよ面白い事言うの!! ただでさえ堪えるのキツいっていうのに・・・!!」
「光秀〜〜〜〜〜〜〜〜!!! ごめんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
―――第6回 3
2006.1.17