テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第6回―――3


 2人目、筒井順慶に会いに来た。
 《筒井順慶っていったら、信長と光秀どっちにもつかなくって日和見主義とか言われちゃう人だよね?》
 「ちなみに不二、コイツはお前の目から見てどんなヤツなんだ?」
 「順慶・・・? う〜ん・・・。
  優しくて何事にも慎重だけど、その分優柔不断気味で思い切った決断が出来ない人、かなあ・・・」
 「・・・・・・」
 不二の評価に、跡部が笑顔で頷く。





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 実際会った。
 「不二じゃないか! 久しぶりだな」
 「やあ順慶。会いにきちゃったよ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 《跡部くん。その笑顔は怖いよ・・・・・・》
 (いやいーんだ。あーもー大体のオチは予想ついてたからな・・・・・・)
 笑顔のまま額の汗を拭う。先程の藤孝が菊丸英二ならば、今度の順慶は大石秀一郎だった。心優しき青学の母は、きっと
400年前から胃薬の世話になっていたのだろう。
 「で? えっと・・・そちらの方は?」
 「ああ、あのね。
  僕の友達で跡部。
  光秀様のやっぱり友達で、彼の事について今回相談に来たそうなんだけど・・・」
 「光秀・・・の?
  え・・・、
  ・・・・・・・・・・・・うん」
 順慶の優しい笑みが消えた。理由がわからず不二は戸惑ったが・・・
 (なるほどな。俺が光秀につけって言いに来たのかと思ってるってワケか)
 《ああ。そりゃ素直に受け入れ辛いねえ。
  確かに跡部くん、そんな関係の人っぽいし》
 「そりゃ俺様に対する宣戦布告と受け取って構わねえんだな・・・?」
 再び犬歯を見せ微笑む。馬に続いて順慶も、びくりと震えて下がっていった。
 「あいや悪りい。別にケンカ売りに来たワケでも光秀の味方につけって脅しに来たワケでもその他お前に何か危害加えに来たワケでもねえんだ」
 《説得力ない―――》
 (もう黙ってろてめぇは!!)
 千石の評価はともかく、誠意ある態度と和らげた笑みが功を奏したか―――
 《いや脅しに屈したんでしょ》
 ―――功を奏したという事で大石は話を聞く姿勢を取ってくれた。
 「んで、単刀直入に訊くが、光秀から話は聞いたか?」
 「ああ・・・。謀反を起こし自分が信長様に代わって天下を取る、とな」
 「で―――
  ―――てめぇはどっちにつく? 信長か? 光秀か?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 跡部から視線を外し、順慶はため息をついた。
 両指を組んで下を向き、
 「正直、どちらにしたらいいか悩んでいる状態だよ。
  光秀は確かに友人だ。出来るなら力になってやりたい。
  だがやる事が大きすぎる。信長様を殺すなんてとても・・・・・・。
  それに仮に成功したとしても、すぐ他の者が光秀を殺そうとするだろう? そう例えば、秀吉殿とかが・・・・・・」
 「そうならないよう、てめぇが味方につきゃいいんじゃねえのか?」
 興味本意で問いてみる。実際つかれても困るのだが。
 「う〜ん・・・・・・。けどそれで負けたりしたら・・・・・・」
 「んじゃ信長か秀吉かの味方になるってか?」
 「けどそれでもし光秀の謀反が成功したら〜・・・・・・」
 「じゃあ足して2で割って順慶が謀反起こしてみるとか」
 「明らかに意見飛んでるじゃないか!!」
 ・・・なお最後のを言ったのはもちろん跡部ではない。
 立てた指を少しだけ傾け、不二が首を傾げる。
 「いっそ賽でも振って決めてみたら?」
 「もうめちゃくちゃじゃないか・・・・・・」
 「何かそれでいいような気もしてきたな」
 「止めてくれ・・・・・・」
 順慶が呻く。まあそれも仕方のない事か。
 このメンツで一番正常らしい順慶が、困った顔を残り2人に向ける。
 「だから。そうやって単純に考えられる問題じゃないんだって」
 「なんで?
  単純な事じゃないか。友達取るか、自分を取るか」
 とんちんかんな疑問と見せかけた――――――痛烈な嫌味。
 あくまできょとんとつぶらな瞳を向ける不二を、
 決して順慶は見る事が出来なかった。
 「だから・・・そうじゃなくって・・・・・・、俺は・・・・・・」
 俯いてぼにょぼにょ口を動かす順慶に、不二はさらに言葉を重ねようと身を乗り出し―――
 「まあ待てよ不二」
 「跡部・・・?」
 差し出した跡部の手に、勢いを全て削がれた。あるいは、跡部の口調に何かを感じたか。
 そんな不二の方を見ることもなく、跡部の目はただ一直線に順慶へと向けられていた。
 穏やかな口調で、言う。
 「確かに不二が言う通り事は単純だ。ダチ取るか、自分取るか」
 「ほら―――」
 「だがあくまでそれはコイツが1人の場合だ。でもってコイツがもし1人だったなら、迷わず光秀の味方についてただろうな。
  話してよくわかった。お前はたとえソイツが何をやっていようが、友達見捨てるヤツじゃねえ。悪りい事だろうが誤った事だろうが、お前はどこまでもついていくだろうな。ただしそれが必ずしも相手にとっていい事であるかは別問題とするが」
 「―――つまり俺に光秀を止めろ、って言いたいのか?」
 「いや別に言わねえ。
  ・・・ああそういや藤孝にそんな提案すんの忘れちまったな。まあアイツだと結局説得され返すだろうが」
 「藤孝に会ったのか!?
  で、アイツはどっちにするって? やっぱり光秀の味方に!?」
 「いや? 最初はそのつもりだったみてえだが、意見変えさせた。結局味方にゃつかねえとよ」
 「そんな! それじゃ俺もつかなかったら、光秀は孤立状態じゃないか!!」
 「ああそーだな」
 「ああそーだな、って・・・!!
  それじゃ確実に負けるだろ!?」
 「だから『勝つ』側の信長につく―――か?」
 「―――っ!!」
 馬鹿にした言い振り。
 口端を吊り上げ鼻で笑う跡部を睨みつけた後、
 ・・・順慶は食いしばった歯から息を吐いた。
 暗い表情で、呟く。
 「ああそうだ。それなら俺は信長様の味方につく」
 「そんな! 酷いじゃないか順慶!! 勝ちそう負けそうだけで決めるの!? 君と光秀様は盟友じゃなかったの!?」
 「仕方ないだろ!? 俺だって出来るんならアイツについてやりたいさ!! 他に味方がいないんなら尚更だ!!
  けど俺には選べないんだ!! これは俺だけの問題じゃないんだから!!」
 「だったら誰の問題!? 君の問題である事には変わりないんでしょ!?」
 「ああ!! 俺と、そして俺に仕える家臣たち、引いては俺の治める国全体の問題なんだ!!
  もしも俺が光秀に味方して、その結果負けたとしてみろ!! 俺も同罪となり、反逆を企てたとして国全体が滅ぼされるんだぞ!?
  俺はこの国の責任者として民全てを守る責任がある!! 俺の言動1つが国の命運を左右するんだ!! 感情だけに任せて動くわけにはいかないんだよ!!」
 胸に手を当て血を吐くように順慶が演説する。
 聞き。
 己の考えの浅はかさと、それでも納得出来ない悔しさに何も言えない不二。そして・・・
 ぱち・・・。ぱち・・・。ぱち・・・。
 「ご大層な演説ありがとよ、順慶殿。
  ―――行くぞ不二。もうこれ以上コイツと話し合う事はねえ」
 完全に見下しきった目を向け、跡部は立ち上がると挨拶もせず踵を返した。
 慌てて不二が立ち上がろうとし、それ以上に慌てて順慶が手を伸ばした。
 「お、おい待てよ跡部! 確かに俺の考えはお前たちから見れば納得出来ないかもしれないけど―――!!」
 「納得?
  したぜ?」
 跡部の足が止まる。
 振り向く彼は、最初の不二と同じ、きょとんとした表情を浮かべていた。
 「納得したから―――
  ――――――そのままぜってー変えんじゃねえぞ!!??」
 突如跡部が吠え出した。
 気圧され尻餅をつく順慶。血走った目を見開き、震えるほど力を込めた手で指差し。
 「友人と国民どっち取るかだと!? んでてめぇは友人捨てるってか!? 責任は友情より重い!?
  ざけんなよ!? ンな人の存在、数でしか見れねえヤツに誰がついてけるってんだよ!?」
 「そうじゃない!! 数なんかで見てない!!
  光秀は自分で反逆者になる道を選んだんだろ!? だが国民は!? この国の民に、己の預り知らぬところで謀反者になれと!?」
 「ああそーだな! 光秀は自分で選んだよ!!
  だからてめぇも自分で決めろっつってんだよ!! 仲間になっても敵対しても、光秀と真正面から向かい合いたいんなら―――光秀の『盟友』ならてめぇも自分で決めた道どこまでも真っ直ぐ貫き通せ!!
  コロコロ意見変えんじゃねえ!! それが光秀に対する一番の裏切り行為だし、そういうてめぇの中途半端な態度が自分ンとこの国民どんだけ危険にさらしてるかいい加減気付きやがれ!!」
 「――――――っ!!」
 「あばよ! 邪魔したな!!
  てめぇにゃもう2度と会わねえだろーな!!」
 言い捨て、跡部が不二を引き摺り歩き出した。畳広間をどすどす踏み鳴らし遠ざかっていく。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・!!
  ――――――――――――だったら!!」
 その背中に、再び声がかかる。先程よりずっと強い声が。
 肩越しに振り向く。凄絶な顔で、順慶が尋ねてきた。
 「だったら跡部、お前の今してる事は何なんだ?
  光秀を孤立させた? それこそアイツに対する一番の裏切りじゃないのか?」
 「そうかもな」
 「え・・・・・・?」
 順慶の勢いが、面白いほどあっさり抜け去った。
 それ以上に力の―――心のない声で頷いた跡部は、
 そのまま続けた。
 「確かに今の俺のやってる事は光秀の計画潰しだ。アイツに対する明確な敵対行為だ。
  今の俺は、アイツにとって完全な敵だろうな。
  だが―――」
 振り向く。碧い瞳には、さらに蒼い炎が灯っていた。
 「俺はアイツの計画―――天下統一に賛成しねえ。アイツのやろうとしてる事は間違ってると思う。
  だから俺は敵対する道を選んだ。アイツを止めるために。アイツにこれ以上馬鹿な真似をさせねえために。
  これが俺なりの誠意の示し方だ。
  決して流されねえ。決して見限らねえ。俺は俺の考え。アイツはアイツの考え。それぞれがそれぞれの意見を持った上で、自分の納得出来るように動く。
  誰にも指図されねえ。全てを決めるのは俺たち自身だ。
  ――――――これが! 俺たちの『友情』だ!!」
 「・・・・・・・・・・・・っ!!」
 跡部の目から炎が消える。
 湖面のような澄んだ瞳を順慶に向け、
 「お前にどうしろとは言わねえ。どうするのも、お前の自由だ。
  だが、これだけは言っておく。





  ――――――光秀は、お前の事盟友・・・・・・友達だって、信じて協力頼んだんだぞ?」





 「・・・・・・・・・・・・」
 今度こそ、順慶からの言葉はなくなった。
 「じゃあな」
 確認する事もなく、跡部は不二と共に城を後にした。



―――第6回 4

2006.1.17