テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第6回―――4
「ちょ、ちょっと跡部! 痛いってば!!」
引き摺られたまま外に出る。握り締められた手の痛さに不二が顔を顰めた。
いつもの彼なら慌てて放すだろうが・・・・・・
「・・・・・・跡部?」
跡部がぴたりと止まる。下ろされた手が、するりと抜けた。
力の篭らない手と体そして表情。一息吐き、跡部は首を後ろに倒した。
目の先に青空が映る。未来、あるいは現在ならともかく、この時代ならここに人はいない。
誰もいない。友情を育む者もなく・・・・・・故に裏切る人もいない。
「自分で仕組んどいて何だけどな、
・・・・・・盟友ってのも、所詮こんなモンか」
片やあっさり騙され尻込みをし、片や国と天秤にかけ捨てる。
《当たり前でしょ? だってみんな、一番大事なのは自分だもん》
千石の辛辣な言葉。これが一番正しいのだろう。
全く慰めもしない千石の真意。もちろんわかっている。自分のやっている事が間違いだと思わせないためだ。
自分は光秀の―――リョーガの敵となる道を選んだ。選んだその道を、迷わせないように、引き返させないように。
わかっている。だが・・・
・・・・・・今だけは、前に進みたくなかった。
視線を下ろす。後ろを向く。そこには人がいた。
不二。
今自分と共にいる彼女。その足はどこを向いているのだろう。どんな道を進むのだろう。
衝動に襲われる。訊きたい。訊いてみたい。彼女は一体、何を選ぶのだろう。
襲われるまま、跡部は実際尋ねてみた。
「なあ不二」
「何?」
「もし、もしもだぜ? 架空の話だ。そうだと仮定してだ。実際にある事じゃねえしンな風になって欲しいとか思ってるワケでもねえ。
その辺りを念頭においてだ」
「うん」
「もしも手塚が何か、とんでもねえ事をやろうとした―――あるいはやったとしたら、
・・・・・・・・・・・・お前どうする?」
不二の表情が険しくなった。
「あいや今のはただの例え話っつーか道中の世間話だ気にすんな!! 悪かった! 取り消す!! 今の話はなかった事にしてくれ!!」
慌てて手を振る。やはり衝動に身を任せるべきではなかった。
(何やってんだ俺・・・?)
疲れているのかもしれない。自分でもよく、考えがまとまらない。何をやっているのか理解出来ていない。
いつもならない失態だ。結果を考えず行動を起こすなど。
(いや・・・)
皮肉げな笑みを浮かべる。少し前にやってきたばかりではないか。佐伯を相手に大喧嘩を起こしてきた。
「そうだね・・・」
鬱に篭っていると、声が聞こえてきた。
目線を上げる。不二が頷いていた。
険しい・・・真剣な表情で、言う。
「もしも手塚がそんな事をやってたとしたら―――」
「だからその話は―――」
「僕はどこまでもついていくよ。だって僕は手塚の妻だもの」
「え・・・・・・?」
不二は笑っていた。いつものような華やかなものではない。強い意志を内に秘めた、静かな美しい笑み。
「正しいか間違ってるかなんて関係ない。良い事か悪い事かも。
たとえどんな事をやったとしても、それは手塚が手塚なりに考えて決めた事でしょ?
それなら僕はそれに従う。たとえ全ての人が敵になったとしても、僕は絶対手塚から離れない。
手塚と共にその道を歩くよ」
手を胸に当て誓う不二。
全てを圧倒する想いが、跡部をもまた圧倒した。
気圧され、下がる。なんて不二は強く、そして・・・
・・・・・・・・・・・・なんて自分は弱いんだろう。
よろめきかけた跡部を、不二が抱き締めた。まるで母親が子どもを包み込むように背中に手を回し、
「大丈夫。わかるよ。
たとえ敵になったとしても、君は本当に光秀様の事を思っているって。
僕とは違うけど、それもまた1つの友情の形だって」
「アイツはきっと、そうは・・・・・・」
「大丈夫。光秀様もきっとわかって下さるよ。
だって、『友達』でしょ?」
「けど、アイツはもう俺を・・・・・・」
「変わらないさ。たとえ立場が変わっても、進む道が別れても。その気持ちだけは、ずっと。
だから―――
―――大丈夫だよ。君は君の信じる道を進んで」
「不二・・・・・・」
ずっと、聞きたかった。言って欲しかった。誰かに、認めて欲しかった。
―――今自分がやっている事は、決して間違ってはいないと。
自分は弱いから。リョーガや佐伯のように、ただ自分の信念だけで突き進められるほど強くはないから。
だから迷ったら、先を示して欲しい。
だから疲れたら、少しだけ休ませて欲しい。
そして止まったら、背中を押して欲しい。
ただの甘えだと、わかってはいても・・・・・・。
「ありがとな、不二・千石・・・・・・」
力の抜けた顔に緩く笑みを浮かべ、
跡部は不二の体を抱き締め、2人に礼を言った。
・ ・ ・ ・ ・
そんな彼らを、木の枝に腰掛け見下ろす佐伯。
「あくまでリョーガに反発する道を選ぶ・・・か。景吾」
それならそれでいい。そうやって歴史どおりに動かしてくれるのなら、自分にとっても好都合だ。
(おかげで随分俺の仕事も楽になった)
組んでいた腕を解き、佐伯は長い指をついと唇に滑らせた。
その端が、上に上がる。
「いいぜ。歴史を正すのはお前に任せるよ。
そして俺は―――
――――――リョーガの死を、受け持とう」
―――第6回 5
2006.1.18