テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第6回―――5
「さって藤孝は落とした。順慶は―――まあ今はどっちつかずか。次はもうちっと強くでも出てみっか。
んじゃ次は、毛利輝元の協力を、っと・・・・・・」
坂本城にて。着々と計画を練り上げていたリョーガ。
さすがにこういった裏工作が十八番だけある。まるでチェスでもやるかの如く、狙った通りに事を進める彼の元に、
―――手紙が2通、届いた。
「ああ? 藤孝と順慶から?」
開く。
リョーガの顔が顰められた。
「順慶が俺に仁義を通して誰の味方にもならねえ?
しかも藤孝は頭刈って断るだあ?
・・・・・・新しいファッションにでも目覚めた、って事か?」
日本の風習に疎いリョーガ。剃髪が土下座と並んで反省と詫びの意味を持っているなど・・・・・・もちろん彼にわかるわけがなかった。
全く手紙の意味が通じず首を捻るリョーガへ、
隣に控えていた家臣の1人が解説を加えた。
「・・・いや光秀。剃髪というのは詫びの気持ちを示したもので、お前との約束を破談にする事をそれだけ深く反省していると・・・」
「何だよそれだったら頭刈らねえで首刈ってこいよ」
「・・・・・・。
光秀、たとえ冗談とはいえそういった問題発言は人前では止めておけ。信長様と同類と見なされる」
「ああ悪りい悪りい。ちょっとしたお茶目なジョークってヤツだ。気にすんな」
「じょお・・・く?
まあ、お前がそう笑うのなら構わんが」
家臣のクセして光秀とタメを張りそうなほど偉ぶるのは桜吹雪彦麿―――じゃなかった、斎藤利三。
リョーガから渡された手紙にさっと目を通し、景気の悪そうなツラにさらに渋面を浮かべる。
「順慶はまだしも藤孝まで・・・?
確実に味方につく算段ではなかったのか? 光秀」
「つまり、2人にちょっかい掛けて意見変えさせたヤツがいるってワケだ」
「我々に横槍を!? そんな馬鹿な。我らの計画を知っている者など―――」
「いるじゃねえか。
俺と同じ未来人なら、俺らが今やってる事なんて教科書にいくらでも出てるからな」
「未来人?
―――跡部か!!」
「俺のダチ勝手に呼び捨てにしてんじゃねえよ」
どすっ!!
目に見えない素早い動作で投げられた短刀。ビィィィィ・・・ンと柱に突き刺さり震えるそれを見る利三の頬には、一筋血が流れていた。
「・・・・・・わかった。悪かった。お前の友人は貶しはしない。
だがどういう事だ光秀。お前は確実に勝てると言ったではないか、その不思議な未来[さき]読みの力で。
だから私はそれに乗ったのだぞ? なのに何だこの様は!
こんな事なら、端からお前の計画になど乗らなければ良か―――!!」
言葉が。再び止まった。
首筋に突きつけられた刀を前に。
片手で、全く震えもせずそれを支え、
リョーガは鋭い目を利三に向けた。
「何か、言いてえ事があんのか?」
「・・・・・・っ」
反論がなくなった。
始まりの動きとは打って変わったのんびりとした仕草で刀を鞘に収めるリョーガ。
固まる利三の手から手紙を奪い、
ビリビリと細かく千切っていった。味方につかないというのなら、もうこの2人に用はない。
青褪めていた利三が何とか口を開く。
「だ、だが光秀。
あの者が邪魔をするなど、お前の話では全く出なかったではないか。大丈夫なのか?」
「ああ? 何言ってやがる。
ンなモン前来た時点でわかるモンだろ? だからわざわざ言うまでもないかと思ったんだがよ。
言ってやらねえとその程度もわかんねえのか? おっさん」
「なら対策は―――!!」
「とっくに考えてるぜ」
手から零れ落ちていく裏切りの証。空になると同時、リョーガは袖から取り出したライターで火をつけた。
虚空で紙が燃える。炎の使用そのものは普通に行われているが、このように自在に操るのは妖術使いか忍者程度。未来人として以外の能力に、利三は悲鳴を上げ後ずさっていった。
一人残され、燃え行く手紙を見やる。書いた2人と、書かせた1人を。
鳶色のリョーガの瞳が、炎を受け紅く輝いた。
(佐伯に続いて跡部クンまで、ねえ・・・。
いいぜ? 邪魔すんなら好きなだけして。
ただし、
――――――君が思ってるほど、この時代ってのは甘かねえぜ? 跡部クン)
面白い。受けて立とうこの勝負。
自分が壊れるのが先か。跡部が壊れるのが先か。
炎を見つめるリョーガ。その顔に心底楽しそうな笑みが浮かぶのは、既に彼が狂い始めている証拠かもしれない。
炎が収まる。興奮が収まる。
「おっさん」
「な、何だ・・・!?」
「跡部クンの後つけろ。この調子なら、次行くのは高松城だ」
「高松城・・・秀吉殿の元か!!
そうか! 秀吉殿に計画を教え信長様を守護させる気か!!
なら我らは妨害を―――!!」
「しねえでいい。そのまんま見守っとけ」
「だが光秀!! それでは―――!!」
「俺が『いい』っつってんだがよ。
おっさん、あんたいつから俺に逆らえるようになったよ?」
「ぐ・・・・・・!」
「よーしよし。おっさんも一応身の程わきまえてんだな。いいぜそういうのは? 長生きが出来る。
んじゃ、後よろしくな」
にぱっと笑うリョーガ。他の家来達に見せるものと同じ笑み。
利三の背に、計り知れない恐怖が伝わった。
安土城から戻って以来、光秀の様子が変わった。計画実行が近付いて高揚しているのかと思ったが、違う。家来が全て殺された事についても、手厚く供養するよう手配しただけで何も言いはしなかった。
そして今、跡部というその友人へ見せる過剰反応。計画に邪魔な因子ならさっさと排除すればいいだろうに、あくまで静観を決め込むという。
(歯車が狂ったか。あれでは、謀反が成功したところで長くはもたん。
もう、光秀も終わりらしいな・・・・・・)
見切りをつけつつ、退室しざま利三は一応鼓舞を入れておいた。
「何としてでも計画は成功させろよ?」
「ったり前だろ?
この俺を誰だと思ってる? 未来人の明智光秀だぜ?」
「わかっている。だから己の未来は見誤らんのだろう?
―――なら、良い結果を期待しているぞ。光秀」
「ああ」
・ ・ ・ ・ ・
部屋から出る利三を、リョーガは冷めきった目で見送った。
にやりと笑う。
どうせ裏切りなどいつもの事。『味方』としては便利だが、あの男に信頼を寄せた事など一度もない。
「あんたも同じなんだろ? なあおっさん」
「―――それでも飼い慣らすんか。大変やなあ殿さんっちゅーんも」
いつの間にか隣にいた影。現れた、リョーガと同じ年程度の男が、こちらの許可もなくリョーガの持っていた酒をくいと煽った。利三のものには目すら向けない。これが、彼なりの忠義の示し方だ。
「よお白石。やっぱずっと聞いてやがったか」
「随分オモロそーな知らせ入ったみたいやからなあ。見物や。
やけど、さすがに気付いとったか。大したモンやなあ光秀様は」
黒装束でケタケタ笑う男―――白石蔵ノ介。年齢に反し甲賀忍者の頭領たる彼は、すぐ隣にいてなお全く気配が読めなかった。
リョーガがわかったのは、単に長年の付き合いでそろそろ彼の性格を把握してきたからなだけだ。野次馬根性全開の男。面白そうな事には首を突っ込まないと気がすまない。
2人の付き合い開始は7年前。跡部を助けに、佐伯が忍者を引き連れやってきた時からだ。
佐伯自身は慎重に、決して身元はバラさないよう工夫したようだが・・・残念ながら手下の誰かはその意図を汲んでくれなかったらしい。しっかり『伊賀』と叫んでいた。
伊賀といえば対するは甲賀。こちらも誰か雇おうとして・・・
・・・自らを推薦してきたのがこの白石だった。
急激に力をつけ始めた伊賀を警戒していたらしい。その秘密に自分が関わると推測し、こちらに潜入してきた―――という旨を、会うなりいきなり告られた。随分大した度胸だ。
気に入り、以来傍に置いている。従順な家来や腹の浅い一部の家臣らと違い、完全に底が見えない彼は一緒にいて面白い。そして、
―――一緒にいると、少し佐伯を思い出す。
「んで? お前がわざわざ姿現すたあ珍しいじゃねえか。どうした?」
「別に? そろそろ自分の方が俺に用あるんとちゃうかな〜思てなあ」
「さっすが。よく気ぃ付くじゃねえの。お前みてえな家来がもっと欲しいモンだぜ」
「止めてえな。俺の仕事減ってまうやんか」
「んじゃ、減らさねえようにさっそく頼むか。
利三の後つけといてくれ」
「まだ殺さんの?」
「一応まだ飼い慣らし中でな。利用価値がある内はまだ殺さねえ」
「んで、跡部に手ぇ出したら始末しろ、っちゅーんか?」
やはり笑って言う。呼び捨てにしても、リョーガは何も言わなかったししなかった。
代わりにこちらも笑う。今度は普通に楽しげに。
「言わねえよ。跡部クン強ええもん。近頃運動不足気味の利三程度にどうにか出来る相手じゃねえ。
お前にどうにかして欲しいのはもういっこの方だけどな」
「佐伯の方か?」
さらっと返された。
さすがにそこまでわかっているとは思わなかったらしい。リョーガがぱちくりと瞬きをする。
再び笑い、
「さっすが忍者。情報収集はお手のもの、ってか」
「最近伊賀の動向がまた変わったんよ。あら何か狙いあるで?」
「狙い? どんなだ?」
「さあ?」
「・・・・・・・・・・・・。
君主に隠し事か? マジいんじゃねえのかそういうのは?」
「君主やからて全部は言わんよ。3サイズは教えとらんやろ?」
「おお? 教えてくれるってか?
んじゃ布団用意すっからよ。さっそく脱いで―――」
鼻の下を伸ばし手も伸ばしてくるリョーガ。
その手を逃れ、白石は流れる動作ですっと立ち上がった。
「教えへん言うたやろ? 今日は急がしいんよ」
「ああ? 何でだよ?」
不満げなリョーガに白石が噴出す。
「自分が今仕事せえ言うたんやん!
利三と跡部、それに佐伯の3人張らなあかん。佐伯は俺がやるとしても後2人必要や」
「何だよ。堂々浮気宣言か? ダメだぜ佐伯は?」
「いらへんよ。
ちゅーか自分の方が浮気しとるんやないんか? あかんで? 佐伯焼きもち妬くんとちゃう?」
「いーじゃねえか。佐伯だって跡部クンとよろしくやってんだ。寝る位じゃ『浮気』なんて言わねーよ。
それに―――」
「それに?」
問われ、リョーガは不思議な笑みを浮かべた。
「・・・・・・妬いてくれんだったらむしろありがてえモンだ」
「さよか」
「うあサッミシー! それだけか?」
「他に何答えぇ言うん? ただのノロケやん。あほくさ・・・・・・。
まあ―――誰張っとっても結局1人で出来るやろうけどな」
つまり佐伯―――引いては伊賀一同も跡部の元へ現れると。
暗黙の内に告げ、白石は忍者という職に反し堂々と部屋を出て行った。
退室しざま、振り返る。先程の利三の再現で。
「ほな、またな。
頑張りいよ、リョーガ」
「おう」
ひらひら〜と振られた手に、リョーガも笑顔で返した。
・ ・ ・ ・ ・
さらに馬を走らせる跡部と不二。
「それで!? 次は!?」
「秀吉ンとこ―――高松城だ! アイツに本能寺守らせるんだ!!」
「そっか!! そうすれば光秀様も攻められない!!」
「そういう事だ!
―――急ぐぞ!!」
―――第7回 1
―――今回のポイントはうららの大ボケトーク・・・だと思うのですが、この話でそれを再現すると跡部がまるで、国語も社会も出来ないダメダメアホ部様っぽいので断念しました。さすがにね、跡部にそれはね・・・・・・。
さて、新たな登場人物が出る度孤立していく石松つまりはリョーガ。歴史上仕方のない事ではあるのでしょうが、なんかあまりの可哀想さに勝手に1人出しました。甲賀頭領、白石ですね。なので今後登場するかはわかりません(爆)。とりあえず・・・・・・伊賀のライバルとしては登場しないだろうなあ・・・。比嘉対四天宝寺じゃ、結果が・・・・・・。
そしてリョーガ×白石(誤)。ビジュアルはいいなあ・・・と、もう完全に節操のない台詞を言ってみます。なおこの時代の白石がなぜ『3サイズ』などといった言葉を知っているのか。
・・・・・・リョーガが散々に尋ねたからでしょうね。しかしリョーガ。男の3サイズを聞いて何を判定するつもりだ・・・?
2006.1.17〜18