テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第7回―――1


 馬を駆り立ていざ高松城へ!!
 「そういや手塚って・・・」
 爆走する馬上で虚空を見上げぽつりと呟く跡部に、目敏く耳敏く聞きつけた不二は手綱を握ったままにっこりと笑みを向けてきた―――もちろん跡部のいる横へと。
 「そうなんだvv 今手塚高松城にいるんだvv
  楽しみだなvv 手塚の仕事する姿初めて見るやvv」
 「・・・・・・・・・・・・」
 台詞全てに花を飛ばす不二。跡部も微笑んで頷き・・・・・・
 ・・・・・・着いたらまず手塚を一発殴ってやろうと心に決めた。
 「じゃ、急ごう跡部!!」
 パシッ!!
 「うお早ええ・・・。
  おい待てよ不二!!」





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 さてこちらは暫し出番のなかった佐伯。跡部と別れて以来何をやっていたのかというと・・・
 「佐伯」
 「『ご主人様』」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご主人様」
 「何だ?」
 呼びかけてきた伊賀頭領、木手に笑顔で振り向く。もちろんこれは別に自分がそう呼ばれていばりたいという願望によるものではない。前回あれだけ身元は隠せと口うるさく言ったにも関わらず「伊賀だ」と名乗った馬鹿手下1号の再教育である。
 そしてそのペナルティとして今度はタダで扱き使われるハメとなった伊賀一同。しっかり働かないと次は何をされるかわからないため、ちゃんと四六時中交代で跡部の見張りをしている。木手が戻ってきたのは、佐伯に状況変化の報告をするためだ。
 「『あんぽんたん』に動きがあった。備中高松の方へ向かっている」
 「高松・・・? となると秀吉に会いに行くのか」
 「秀吉様にか?」
 「多分本能寺の守りさせる気じゃないかな? そうすれば光秀も謀反を諦める。
  さすがあんぽんたん。頭いいなあ・・・v」
 ちなみにここで話題にされる『あんぽんたん』。もちろん跡部の事である。作戦がばれないようこちらも偽名を使っているのだが、最初は普通に(?)『アホ部様』としていたところぱっと聞き本名とあまり違いがないため、同じ『あ』から始まるこれになった。おかげで前回の救出作戦も『おドジなあんぽんたんを助けようの会』略して『ドジあほ会』という名前になっていた。つくづくネーミングセンスのない佐伯である。狙って付けられた甲斐[かい]が激怒したのは言うまでもない。もし跡部がこれらの事実を知ったら、全てを差し置いてまず佐伯をぶっ飛ばしに来るだろう。
 そんな余談はいいとして本編に戻る。
 佐伯がすっくと立ち上がった。のろけ顔から一転、目が鋭く細められる。
 「じゃ、さっそく邪魔しに行くか」
 「暫く泳がせるんじゃなかったのか?」
 「あんぽんたんが俺の思惑通り動いてる内ならな。違う事をすればもちろん修正する」
 「そうやって、お前の手の平で踊らせる、か。
  7年前と随分変わったな」
 「変わってないさ。俺もあんぽんたんも。
  変わらないから―――こんな事になる」
 薄く微笑む。僅かに寂しそうな表情で。
 そんな佐伯を、木手は逆に何の感情も浮かばない目で見やるだけだった。
 「さ、じゃあ急ぐか。追いつけなかったら笑えるし」
 「ああ。
  ところであの男の見張りを我々に任せ、お前は何をやっている?」
 「俺?」
 確かに、佐伯は順慶の屋敷から出てくるのを見た以外、今回跡部にはノータッチである。使いの者を騙しそれぞれの手紙を見てきたのも甲斐と平古場だ。
 伊賀の者にも一切内容を明かさず、佐伯は一体何をやっているのか。
 「新しい『忍術』の開発に勤しんでるんだ」
 「いやもうそれはいい」
 笑顔で掲げられた球体に、木手は即座に首を振った。佐伯が残念そうな顔をする。
 手の中で転がし首を上げ、
 佐伯は楽しげに笑った。
 「最近俺もちょっとした有名人でね。ファンサービスに励んでんだよ」
 お得意の爽やかスマイルでひらひらっと手を振る。決して木手や、その他この場にいる仲間に送ったものではない。
 振り向き様、木手が持っていた手裏剣をそこに向かって投げつけた。
 「どうした?」
 「どうした、だと?」
 全く気配を感じないそこ。当たった手応えも同様になかった―――いやありはしたが、人ではない。生い茂る木の枝に当たっただけだ。
 佐伯が何の行動も起こさなければ、自分は全くそれに気付く事はなかっただろう・・・・・・というのに。
 平然と尋ねる佐伯。なぜか気付いていながら無視するらしい。
 問おうとし―――
 ―――結局木手は言葉を喉の奥に戻した。訊いたところで、どうせ佐伯は答えてはくれまい。
 「では、馬を用意してくる」
 「ああ。頑張れよ〜」
 「・・・・・・。念のため問うが、お前も今回はさすがに来るのだろう?」
 「そうだな。お前もちゃんと『ご主人様』って言えるようになってきたからな、手下1号」
 「・・・・・・・・・・・・」





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 誰もいなくなった。枝に膝を引っ掛け、木から白石がぶら下がり垂れてきた。
 「さっすが佐伯やなあ。気付かれとったか」
 苦笑する。左手に持った木切れには、木手の投げつけた手裏剣が刺さっていた。全く気配の読めない相手に、方向だけを見当付けここまで正確に投げてきた木手も大したものだが・・・・・・
 ・・・・・・やはり賞賛を送るべくは位置まで見抜いていた佐伯だろう。見張っているぞというアピールはしておいたし、実際だから佐伯も用心して事に関わりを持たなかった。しかし、
 (初めてやなあ。隠れとって気付かれたんは)
 実に惜しい。彼が本当にこの時代を生きる忍者だったら、とても良いライバルになれただろうに。
 (ま、ただしそれやとアイツのお付は佐伯に奪われとったか)
 枝から手裏剣を抜き、木手の立っていたところに投げ返しておく。ちょっとしたからかいだ。
 反転し、枝に腰掛け。
 「完璧光秀様の予想通りやん。やっぱ主に持つんやったらあない賢いモンやないとなあ」
 甲賀頭領の白石。誰も自分に命令する立場になりたくないからとその地位を授かった通り、リョーガに仕えるまで彼は誰にも仕えた事がなかった。正確には、仕えて即座にケンカ別れで終わった。
 その点リョーガは随分面白いものだ。未来人として―――いや未来人[じん]として知っている通り動いているのではない。たとえ未来にとっては過去でも、今にとっては今なのだ。前歴不明で地位も何もない男がここまで上り詰めるのは、並大抵の努力や苦労ではない。
 腹の黒い武将らの間を上手く立ち回る政治的手腕。下に慕われ敬られるカリスマ性と統制力。上のためならプライドを捨て媚びへつらえる根性と、その相手を切り捨て踏み台にする残忍さ。
 『明智光秀』という座に収まったが、彼は少し前の時代に現れていたら『織田信長』となっていたかもしれない。不思議とこの2人はよく似ている。
 「ま、誰でも構ひんけどな。誰が天下取りおったところで、俺には関係あらへんし」
 笑って、木をさらに上る。一番上で日の光を浴びう〜んと伸びをし、
 「さっていよいよ跡部と合流、やな。金ちゃん上手やっとるやろか?」





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 「急げ!! すぐ跡部を探し出せ!! 邪魔する者は全て蹴散らせ! 斬り殺せ!!」
 「利三様! 跡部を見つけたら如何なさいますか!?」
 「捕らえろ! そして人質として光秀のヤツに突き出してやる!!
  今に見てろよあのガキが・・・!! この私を侮辱した事、土下座で詫びさせてやる・・・!!」
 こちら利三以下下っ端一同。高松城へ向かいながら大声で反乱計画を練る彼を、
 こちらも木の上から見下ろす男がいた。甲賀の忍び、千歳である。
 大きな体に見合わず軽い身のこなしで木々を移動しながら、苦笑する。
 「ほんに底の浅いヤツばいねえ。こないなんが腹心とは、光秀様も苦労するのう。
  まあ、跡部やったらこないなん蹴散らすか。その前に金ちゃんが暴れるじゃろうけど」





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 そして跡部と不二。もちろん彼らにも多数の見張りが。





 「は〜。なんで俺らがこんな事・・・」
 「仕方ねーだろ? 最初に頼っちまったのはこっちなんだし。
  次逆らったら俺らの名称『金魚のフン○号』とかにされんじゃねえ?」
 「つーかな、お前はまだいいぜ凛。
  ―――なんっか俺だけ扱い酷すぎねえか? ヘンに恨み買ってるように思うんだけどよ」
 「ま、おかげで俺らは楽・・・じゃなかった。
  それだけお前に見込みがあるから厳しくすんだよ。頑張れよ裕次郎」
 ボヤく伊賀2名の後ろで、





 「なんやろなあ謙也? アイツら文句言っとるで」
 「よっぽどヤな上司に当たったんやろ。難儀になあ。
  まあ、
  ・・・・・・ヤな上司に関してはウチもタメ張れるんやろうけどな」
 「そーなん? 俺クララ好きやで?」
 「俺かて好きやで〜? ただなあ、
  せっかくほっと一休みやったんやで!? 休ませいよ!! ちゅーか残業手当寄越しいよ!! 労働法違反で訴えるで!?」
 甲賀2名中お守りを任された1名もまた、静かに騒がしくわめいていた。



―――第7回 2

2006.1.19