テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第7回―――2
高松城まであと1歩。
備中に入った跡部と不二は、城近くの川原でお昼の準備をしていた。このまま駆け込んでもよかったが・・・
「あたた・・・。お尻痛いし目が回る・・・・・・」
そんな不二の訴えをもちろん聞き、休息を取る事にしたのだ。
不二が頭を回しながらお弁当を広げる。跡部も川原から水を汲み、
「ケツ?
不二、お前馬の乗り方知んねーのか? 腿で胴挟んで体固定させて、ほとんど立った姿勢で乗るんだぞ?
そうすりゃケツも痛くなんねーし、上下動も膝で殺せるから目も回んねーんだ」
さすが氷帝で普通に乗馬を学ぶ跡部。もちろん慣れた彼は、これで腿を痛める事もない。
「ええ!? そうだったの? 早く言ってよ〜」
「つーか・・・・・・マジで知んなかったのか?」
「知らないよ〜。馬に一人で乗ったの初めてだもの。こんな風に飛ばしたのも」
「・・・・・・」
つまり乗馬初心者でありながら、跡部ですら追いつけないほどの爆走振りをみせたらしい。
「・・・・・・さすが天才。妙なトコで才能発揮すんだな」
「何?」
「いや・・・。
んじゃ悪りい事しちまったな。あちこち引き摺り回しちまって」
「いやいいよ。僕が一肌脱ぐって言ったんだから気にしないで」
「だがよ・・・」
「僕と君は『友達』でしょ? 遠慮しないでよ。寂しいなあ」
「不二・・・・・・」
苦笑する不二。空を見上げ、そのまま後ろに倒れ込んだ。
大きく伸びをする。
「それに、たまにはこんな事するのもいいでしょ?
手塚は僕の事大事にしてくれるし、僕も嫌じゃないけど〜―――たまにはね? 僕だって冒険の1つや2つしてみたいよ。
―――あ、コレ手塚にはないしょね?」
人差し指を口に当てにっと笑う不二に、跡部も思わず噴き出した。確かに過保護気味の手塚なら、こんな事を聞いたら動揺の余り硬直するだろう。
―――などと思う跡部も全く人の事は言えないのだが、得てして人間自分の事は見えないものである。
「けど僕はむしろ君に訊きたいよ。
跡部、君はなんでここまで頑張るの?
言っちゃえば、今この時代に生きてない君にとって、誰が天下を取ってどうなろうが関係ないんじゃないの?」
不二が体を起こした。
特に責めも哀れみもない、素朴な疑問。
普通に不思議そうな顔を向けられ、
跡部も首を傾げた。
「なんでだろうな。正直俺もよくわかんねーんだよな。
こないだ言ったけどよ、俺と光秀と、それにもう1人が未来からここに来たんだ。こんな事はこれで3回目だ。
今までは、俺はただ巻き込まれるだけでな。他の2人が解決してくのにただついてくだけだった―――つもりだった。何でか全く関係なく動いてるはずの俺が、事態妙な方向に転がしちまったりしてたんだけどな。
何にせよ、俺たちはいつも3人でやってきた。あとの2人、光秀ともう1人は大切な仲間、友達だと思ってた。そいつら2人もそう・・・だと思ってた。
今回はそれが変わった。
光秀は自分が天下取るとかいう。ところがそのまま歴史が動くとその後アイツは殺されちまう。挙句もう1人は歴史通りアイツを殺すと言い出す」
「え・・・・・・?」
不二の顔が驚きに染まった。それはそれは彼女からしてみれば信じられない事だろう。自分だって、信じたくはなかった。
跡部は目を閉じ残りの息を吐いた。
もう一度吸い、続ける。
「まあそれぞれにそれぞれの事情があんだ。歴史変えるってのは重罪らしくてな。既にやっちまった光秀は、今更止めても殺されるそうだ。
でもって過去を変えると未来も変わるらしい。俺らのいる未来もな。それを防ぐために動くのも、決して間違いじゃねえと思う。
ただな―――
いくらそのためだからって、友達殺すのには納得出来ねえんだ。だから俺は動く。
秀吉の参戦は、歴史ではもっと後だ。ここで本能寺守るように促しちまったら、俺こそが歴史変えた罪人になる、ってワケだ。
だがそれでもやろうと思う。俺は俺に負けたくねえんだ。一旦やるって決めた事、途中で捻じ曲げたくねえんだ」
見下ろす。広げた両手を。
「これは俺自身に課した試練だろうな。
試してみてえんだ。この手で何が掴めるのか。
――――――俺は友のために、一体何が出来るのか」
「跡部・・・・・・」
開いた手を、ぎゅっと握る。
自然と浮かぶ、いつもの笑み。
そうだ。自分は一体何を迷っていた? 全ては自分で決めた事だろう? 何を怖気けづいている?
決めたなら迷うな。ただひたすらに突き進め。後悔など後でいくらでもやってやる。今しか出来ない事をやれ。
これが俺。これが―――
(氷帝帝王、跡部景吾様だ!!)
ノリと勢いでパチン! と指を鳴らす。ビビって引いていった不二の額に指を突きつけ。
「つまり、こりゃただの俺のワガママって事だ」
「え・・・? それが結論?」
「そうだ。
でもってンなモンに進んで付き合っちまったお前は、立派な悪友ってワケだ」
とん、と軽く押す。少しだけ仰け反り、
戻ってきた不二もまた、楽しそうに笑っていた。
「あはは! 悪友かあ!
いいね。それこそ手塚が聞いたら卒倒しそう!」
「はっはっは! 眉間に皺作りまくって慌てふためくんだぜ〜? 『ついに不二が反抗期になった!!』ってな」
「ひっど〜い! 僕そんな子どもじゃないもん!!」
「そういう台詞が出てくんのが、反抗期の第一歩だぜ?」
「む〜〜〜!!」
2人で大笑いする。久しぶりだ。こんなに楽しいのは。
水で乾杯して握り飯(跡部監修)を食べようとして・・・
「―――どうしたの? 跡部」
「誰か来る」
「え・・・?」
そっと跡部が目線を送る。自分たちがやってきたのと同じ側。
不二も髪で顔を隠し見やる。確かにそこには馬に乗った男が1人。恰好からすると侍だろう。
「まったく、この僕を遣いにするとは、いいご身分ですねえ我が殿は・・・!!」
ぶつくさぼやきながら近付いてくる。どうする? と目線で問う不二に、
跡部はにやりと笑った。
不二の腕を引き寄せ、小声で告げる。
「(さっそく悪事の開始だぜ?
遣いだとよ。タラシ込んで話聞きだそうぜ?)」
「(いいね。面白そう)」
クスクス笑って不二も賛成した。
そして馬が近付き―――
「すいませんそこのお二方。高松城はこの辺りですか?」
「高松城ですか? すぐ先ですよ?」
「お侍さん、そちらへ行かれるのですか?」
「ええ、まあ・・・。そのもう少し先ですが。
あなた方も?」
「ええ。夫がそちらにおりまして」
「高松城にですか!? 今!?」
「あ、ご心配なく。秀吉様の兵として戦に参戦しているんですよ。
主人てば、戦の最中なのにどうしても私に会いたいなんて言い出しましてね。それで仕方なく・・・ふふv」
「はあ、それは大変ですね。
ではそちらの方はお供に?」
話を振られたのは、もちろん跡部の方。
跡部は男女共に虜にする妖艶な笑みを浮かべ、使者へと近付いていった。
「そうだ・・・と、思います?」
「え・・・?」
勿体つけつつ、通り過ぎる。流し目に反応し振り向こうとする男を後ろからゆるく抱き締め、
耳元に息を吹きかける。
「日々苛酷な状況にさらされる殿方の中には、少し特殊な趣味を持たれる方もいらっしゃいましてね。
私めはそんな殿方への励まし役なんです。お供なんて酷いですわ」
「そ、それは・・・失礼致しました」
赤い顔でカチコチになる侍。頬から顎にかけ指でなぞり、
「何でしたら、貴殿[あなた]も試されません?」
「い、いいいいえ結構です//!! 僕はこれでも普通の趣味の持ち主ですから!!」
侍は、真っ赤になって手を振りばたばたと下がっていった。
追う事もせず、跡部はあくまで上品にくすくすと笑い、
「冗談ですわ。何か、疲れていらっしゃるようでしたので少しでも元気になって頂きたいと思いまして」
「そ、そうですか。わざわざお気遣いありがとうございます・・・・・・」
呆然として、そしてその奥でちょっと残念そうに礼を言う。
「では僕はこれで・・・」
立ち去ろうとして、
「ああ、お待ち下さいな。
私たち、これからお昼を食べようと思っているのですけれど、よろしければご一緒に如何ですか?」
「ですが僕は・・・」
「むやみに急いでは思わぬところで転びます。
せっかくこれだけ上天気なのですから、川原でひと時、お休みになりません? とても気持ち良いですよ?
―――ああご心配なく。私はともかく、向こうのは本物の女性ですから」
「あいや、貴方も充分綺麗だと思います・・・。
では、そこまで誘うのでしたらお言葉に甘えて・・・・・・」
こうして、2人は使者と共に休憩する事に成功した。
・ ・ ・ ・ ・
「―――まあ! 観月さんは坂本城からいらっしゃったんですか」
「それは遠いところ大変ですねえ。
坂本城―――というと貴殿は・・・」
「僕は明智光秀様に仕える武士です。それで、今回はこの書状を届けに上がりました」
「となると、やはり羽柴秀吉様に?」
「ああ。同じ織田信長様に仕える者同士ですものね。励ましのお言葉とか?」
「それが今回は違うんですよ。
先程言いそびれたのですが、高松城のすぐ近くに毛利勢の陣地がありましてね。僕はそこに向かっているんです」
「毛利・・・?」
「政治に疎くて申し訳ありません。確か毛利というと・・・・・・信長様と敵対している勢力では、ありませんでしたっけ?」
「いえいえそこまで詳しければ大したものですよ。
実際そうなんですよね。一体、光秀様は何を言うつもりなのやら・・・・・・」
「観月さんもご存知ないのですか?」
「まあ、残念ながら・・・。僕はただのしがない使いっ走りですからね・・・」
「ですが、他には誰もいらっしゃらないんですからちょっとだけ〜・・・とか。やっぱり気になりません?」
「大丈夫ですよちょっとくらい」
「だ・・・ダメですよそんな事!! これは密書なんですから!!」
「あらそうですか? ふふ。ごめんなさい。
つい夫の手紙を覗き見るつもりで言ってしまいましたわ」
「・・・見てるんですか?」
「気になるじゃないですか。ホラ、浮気とかされていないか。
もちろん1人の男性が多数の妻を持つのは当たり前とされていますが、主人ってばどんな方に言い寄られても妻は私1人だけだって・・・・・・ふふふふふふvv」
「は、はあ・・・。
随分、愛されていらっしゃるんですねえご主人に」
「あらあらまあごめんなさい。私こんなにのろけちゃって。
随分熱くなってしまったでしょう? ささ、一杯お飲みくださいな。目の前からの汲みたてです。とても冷たくて美味しいですよ?」
「ああ、ありがとうございます・・・」
不二の酌(水だが)を受け、密使観月はそれを口に―――
―――しなかった。
ばっしゃあん!!
いきなりそれを投げ出し立ち上がる。
驚く不二と跡部を指差し、
「貴方がたがこの書状を狙っているのはわかっているんですよ!? どうせこの水に睡眠薬でも仕込み、寝込んだ隙に奪うつもりでいるんでしょう!?」
「なっ・・・!?」
「なんで・・・わかった・・・・・・?」
「んふふふふふふ。この僕を舐めないで下さいね。笑顔で接する振りをして、その奥で鋭い瞳を光らせているのにはとっくに気付いていましたよ!!
この間気付かなかった他の者はやられましたが、この僕をそんな彼らと同じだと思わないで下さいね!!」
くひゃはははは!! と笑う観月に2人は驚愕の表情を浮かべ、
「・・・・・・何だ。わかってんならもうンなアホらしい芝居いんねーな」
「というか水に睡眠薬って、今そこで汲んだ水にどうやって仕込むのさ・・・」
「まあンなのは突っ込まねえでいてやれよ。よくわかんねえけど、他のヤツも何か騙されたっつーし。どうせそいつらと同類なんだろ」
「ああなるほどそっかあ。
うんごめんね観月。あんまりそういったところ突付いて苛めちゃ可哀想だよね?」
「そう思うならいい加減突付くのを止めなさい!!
なんですか貴方たちはそもそも!! 普通正体暴かれたら『畜生! 覚えてろよ!!』とでも言い残し去るものではないのですか!?」
「何今更ンな御伽噺みてえな展開期待してんだ?」
「そんな事現実にあるわけないじゃないか。馬鹿だなあ観月は」
「うがあああああ!!! だから!! いい加減人を馬鹿にするのは止めなさい!!
もーこうなったら勝負ですよ!! こっちは光秀様に仕える武士!! 女や色子に負けるほどヤワではありませんよ!?」
刀を抜き放ち構える観月・・・・・・を前に。
ごきっ・・・。ごきっ・・・。
「そーかそーかなら話は早ええ」
「僕も、今手塚にいろいろ仕込んでもらってるんだ。丁度いい実験台が来たね」
「おう。だったらお前先試せよ不二。俺だと多分もう動かなくなるから」
「いいの?」
「そりゃ、獲物は逃げてなんぼのモンだろ」
「そうだね! じゃあさっそく」
指の骨を鳴らす跡部の隣で、不二がどこに持っていたのか長大な槍を取り出した。とても彼女の細腕で扱える代物には見えないのだが・・・
ぶんっ! ぶんっ!
「お、不二。筋いいじゃねえか」
「ありがとうv 手塚にも誉めてもらっちゃったんだvv
―――じゃあ、行くよ観月」
「知恵と勇気と友情はねえが、まあ暴力がありゃいいよな? 世の中力押しで通らねえ事もそうねえし。この時代なら尚更だろ」
「あいやあのちょっと待ってください貴方たち出来れば平和的解決案を―――
――――――うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
・ ・ ・ ・ ・
「ああ何だろう? 人に暴力振るうのなんて初めてだけど、なんか凄くすっきりしたや」
「そうか不二。その気持ちを、今後も忘れんじゃねえぞ?」
「うん!」
明るい未来計画で締めくくり、改めてピクピク震える観月の懐と荷物を探る。完璧野盗の行為だ。
「―――あった!」
「どれだ?」
不二が掲げた書状を受け取り、広げる。血で少し読み辛いが、
「『毛利輝元』・・・・・・やっぱそうか」
「え? 誰?」
「さっき言った通り、中国を治めて織田信長に敵対してるヤツだ。
信長を殺そうとしてる光秀にとっちゃ一番味方になってくれそうなヤツだろう――――――が」
ビリビリと、跡部は細かく手紙を千切り川へと捨てた。
「いいの? そんな事して。それこそ歴史変える事になるんじゃないの?」
不安げに見つめてくる不二に、意地の悪い笑みを浮かべる。
「なんねえ。どうやら歴史ってのは俺たちに味方してくれるらしいぜ?
伝承じゃ、この手紙を持った使者は途中で行方不明になるらしい。手紙の行方ももちろんわからず。で、光秀は輝元の力が借りられねえ、と」
「じゃあ・・・」
「つまりコイツがその、『行方不明予定者』だ。
―――一緒に川流すか。誰か途中で拾うだろ」
「そうだね」
笑い合い、2人は観月用の馬の手綱で彼をふん縛って川に流した。一応仰向けなのが多分『知恵と勇気と友情』の成果だろう。
「じゃーな〜!! 観月!!」
「遠いどこかで今度こそお幸せに〜〜〜!!」
「覚えていなさいよ貴方たち!! 僕は必ず舞い戻ります!!
この恨みは、いつか絶対晴らしますからね〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
―――第7回 3
2006.1.19