テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第7回―――3


 「さて、行くか」
 「じゃあ今度は股乗りで、と」
 「・・・もうちっと言い方は考えた方がいいんじゃねえか?」
 観月も無事抹殺(誤)後、昼も食べ終え2人は出発の準備に入った。ちゃんとゴミは片付け荷物をまとめ馬に載せ―――
 「―――いたぞあそこだ!!」
 「おいあんぽんたん!!」
 「誰があんぽんたんだサド野郎!!」
 後ろから駆けつけてくる黒馬一同そしてその上の黒覆面。どこのご一行様だか正体は不明だが、とりあえず自分に向かって開口一発ケンカを吹っ掛けてくるヤツの正体だけは確実にわかったので言い返しておく。
 不二が眉を顰め跡部を指差し、
 「・・・・・・あんぽんたん?」
 「違げえ!!
  逃げんぞ!!」
 「え!? ちょ、ちょっと・・・!!」
 不二の着物帯を掴み馬上へ放り上げる。自分も(もちろん自分のに)乗り、跡部は馬にムチを入れた。
 「ねえ、どういう事!?」
 ワケがわからないながらもちゃんとついてくる不二。声だけで確認し、さらに速度を上げる。
 「この状況で名前―――じゃねえが呼ばれたらその後は1つだろ!? 追いつかれたら捕まって連れ戻されるぞ!!」
 「えうそ!? じゃあ急がなきゃ!!」
 「ああ!!」
 不二の馬も速くなる。今度はちゃんと股乗り(不二命名)しているらしい。横を走り抜ける様も大分恰好よくなってきた。
 「―――跡部!?」
 「お前先行け! 後ろのヤツなら知り合いだ!
  時間稼ぎするからちゃんと秀吉様か手塚に伝えろよ!?」
 「駄目だよ跡部!! 君も頑張って!!」
 「そりゃ―――簡単に捕まる気はさらさらねえがな!!」
 さらに上げる。だがこちらは普通の馬。向こうはこういった事態用に訓練された馬だろう。向こうの方が速い。
 徐々に詰まっていく差。少しでも向こうのペースが崩せないかと、跡部は後ろを向いて怒鳴りつけた。
 「何だよ佐伯!? 俺様の邪魔すんじゃねえ!!」
 「というかむしろ邪魔してんのはお前だろ!? 今秀吉に会ってどうする!?」
 「決まってんだろ!? 本能寺守らせんだ!! そうすりゃリョーガのヤツも手ぇ出せねえだろ!?」
 「出せなかったら本能寺の変が起こらないだろ!?」
 「起こんなけりゃリョーガが殺されちまう事もねーんだろ!?」
 「めちゃくちゃじゃないか!!」
 「いーじゃねーか!!」
 《なんか、完全に子どものケンカだね》
 「気ぃ抜けるからてめぇも出てくんじゃねえ!!」
 《あ酷い跡部くん・・・・・・》
 久々に語り千石の登場。そこまで出番が欲しいのか、この緊急事態に頑張って乱入した彼はあっさり一蹴された。
 「こうなったら先回りして強制的に止める!
  ―――おい手下一同!!」
 『はっ!!』
 「うあまだ使ってんのかよそれ!?」
 追いかけてくる一同の正体はわかった。かつて佐伯が人生を狂わせた伊賀忍者一同らしい。まあ黒装束の集団がただの侍やら町人やらだったりしたら怖いものがあるが。
 「え!? 忍びにもそういう格付けってあるの!?」
 「多分実際はあるだろーがこういう表し方するヤツはコイツだけだから安心しろ! 世の常識じゃねえ!!」
 「そっかよかった・・・・・・」
 「おいあんぽんたん!! そういう如何にも俺がおかしいっぽい言い方すんなよな!?」
 「おかしいわ!! つーかその呼び方いい加減止めやがれ!!」
 手綱を放し指を突きつける。ちなみにこんな事をやっている跡部、実は追っ手が来て以来後ろ向きに跨っている。首を捻じ曲げ後ろを向くと、重心が崩れ馬が遅くなるからだ。なお、こういった本当に使い道のないはずの芸を開発したのは、もちろん
21世紀の佐伯である。
 そして指差した跡部は、
 「・・・・・・あん?」
 指した先からさらにやってくる馬軍団に、口端を引き攣らせ笑った。
 「なあ佐伯、一応訊いとくが・・・
  ・・・・・・お前侍たちと仲良くなってたり、しねえよなあもちろん?」
 「残念ながらしてないな。特に光秀様お付の武士たちとは」
 佐伯もちらりと確認。さすが視力
2.0かつ動体視力とても良し。馬上で揺れる家紋をしっかり確認したようだ。
 「つまり?」
 「そういう事だろ」
 「待て跡部ー!! 貴様を秀吉様には会わせん!! この場でひっ捕らえてくれるわ!!」
 「利三様!! 他にも追っ手が!!」
 「何!? ここでアイツを渡すワケにはいかん!! アイツは大事な駒だ!!
  邪魔者は全て消せ! 斬り殺せ!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 つまりはそういう事らしい。
 ついに両手を放しぽんと手を叩き、
 「んじゃ佐伯、後頑張れよ」
 「えおいちょっと景吾お前まさか!!」
 さすが長年(ではないが)付き合ってきた佐伯。当人ではないはずなのに、意思の疎通は完璧なようだ。
 青褪める彼に手を振り、跡部は大声で騒いだ。
 「うあ駄目だあ!! 攻撃仕掛けられた!!!」
 『何ぃ!?』
 「跡部を殺させるな!! 死ねば人質として利用出来ん!!
  お前ら!! 早くアイツらを止めろ!!」
 『はっ!!』
 「待て俺たちは―――!」
 「問答無用!!」
 いきなり乱闘が始まった。刀を引き抜く武士たちに、忍者一同も馬にくくりつけていた槍で応戦する。佐伯が仕込んだだけあって、足止めだけが目的のはずなのにしっかり武器を携帯していたようだ。
 馬に乗り走りながらというなかなか見れない代物だが、それを見ている暇はない。
 前向きに戻り、
 「おし。邪魔者は排除した。行くぞ不二」
 「うん・・・。まあ、いいけど・・・・・・」
 前回はスマートに行き損ねたので今回は知恵(汚さ)と勇気(恥掻き)と友情(見捨て)で切り抜けてみたのだが、なぜか不二には不満だったらしい。あるいは戦いの血が騒いだのかもしれない。
 《ああ、跡部くんがどんどん正常から外れてく・・・・・・》
 がん!
 駆け去っていく2人の後ろで争いが続く・・・・・・。





・     ・     ・     ・     ・






 「待て待て貴様らあああ!!!」
 「どこへ行くご主人様!!」
 「え? だからお前らにここは頑張って食い止めてもらって、俺はあんぽんたんたちの足止めを」
 「何だよそれ!? 俺ら囮扱いか!?」
 「当たり前じゃん」
 「あっさり見捨てんのか!? お前と俺らの間に友情ってモンはねえのか!?」
 「ない」
 『・・・・・・・・・・・・』
 「忍びに必要なのは仕事遂行能力だ。必要な事を成し遂げるためには時に親子どもですら犠牲にする覚悟でないとな。もちろん友でもだ。
  たとえ辛くとも、感情に流されては仕事は行えない」
 「・・・・・・いやその理屈は結論の前に言った方が説得力あったと思うぜ?」
 「辛くても・・・って、お前めちゃくちゃ喜んで俺ら見捨てるつもりだろ」
 「いやそんな事はないぞ? だからこうして俺は手ぬぐいで涙を拭って」
 「ちょっと待て!! お前そう言いながら何さりげなく覆面してんだよ!?」
 「まさか―――!!」
 こちらも付き合いは短いが濃ゆい関係を築き上げた佐伯と伊賀一同。何をやるつもりか察し慌てて回避をしようとする―――が遅かった。
 ぼごおおおおおん―――!!
 「何!? 煙幕!?」
 「視界が―――というか目が!! 潰れる!!」
 「うあっ!? げほげほ!!」
 「がはっ!! 苦しッ・・・!!」
 「ここで終わりなのか・・・!! 無念・・・・・・!!」
 ヒヒーン!!
 「またこの展開かあ!!??」
 敵味方構わず襲い掛かる無差別攻撃名称『火遁の術』。おかげで逃げられなくなった者々は、その場に馬ごと転倒しむせ返った。
 煙が晴れる。死屍累々横たわった一同を、こちらは馬含め何の被害もない佐伯が見下ろし、
 「待て。話を聞け。
  俺たちは敵じゃない」
 『敵だあああああああああああああ!!!!!!!!!』





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 前を走っていた2人。突然の爆発音に驚き振り返り・・・
 「・・・ねえ、あの人って一体何なの?」
 「アイツはああいうヤツだ。アイツの行動原理はもう誰にも理解不能だから、被害が自分に及ばねえ内は何も気にしねえで軽く流した方がいいぜ?」
 「跡部って大人なんだね〜・・・・・・」
 「こういう成長がしてえと望んだ事はねえ筈なんだがな・・・・・・」
 尊敬の眼差しを向ける不二に、跡部は心底不思議そうに首を傾げた。ああ自分の人生一体どこから間違っちまったんだろう・・・?
 《そりゃ最初っからでしょ》
 (そーだな。多分、生まれた瞬間から間違ったんだろーな・・・・・・)
 佐伯の奇行により余裕の出来た跡部。なので千石の突っ込みにもまともに答える。多分自分の人生の過ちは、佐伯と幼馴染という立場で生まれてしまった事から始まるのだろう。
 涼しい風が吹き抜ける。風に乗って、馬の駆け抜ける爆音もまた。
 「・・・・・・・・・・・・ああ?」
 後ろを見る。もちろん倒れ込んだままだ。こちらから聞こえるのは、激しい咳き込み音と立ち直りの早かった伊賀忍者の正しい怒声のみ。
 前を見る。目的音が伝わるのはそちらからだ。
 「うそ・・・。挟まれたの・・・?」
 心配げに不二が身を竦めた。跡部も先に出不二を庇い警戒し・・・・・・、
 ―――目を見開いた。
 「いや、あれは・・・・・・」





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 煩い一同を必死に説得する佐伯。今回アレンジバージョンとして痺れ薬を紛れ込ませておいたのだが、その解毒薬と引き換えにようやっと話を聞いてもらえる事になった。
 「だから俺たちは―――」
 わああああああああああ!!!!!!!!!!
 「・・・・・・煩いなあ。やっぱこの薬川に捨てようか」
 「いや、俺たちじゃ・・・ねえ・・・・・・!!」
 「あれは・・・・・・!!」
 何とか普通に動く眼球をそちらへ向ける。大軍で押し寄せてくる一同。立てられた旗が示すは―――秀吉軍。
 「ちくしょっ・・・!! 気付きやがった・・・!!」
 「このままでは・・・・・・我らも捕らえられる・・・!!」
 「仕方ないなあ。引くか」
 『結局見捨てかああああああああああ!!!!!!!!?????????』
 解毒薬を適当に投げ捨て、佐伯は馬にひらりと跨るなりさっさと走らせていってしまった。





 走らせながら、呟く。
 「全く。アイツらもお前ンとこのくらい出来が良くなってくれると嬉しいよ」
 『そらおおきに』
 木の上からそんな声が聞こえ、それきり自分を見張る気配はなくなった。





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 「さすがやねえ佐伯。気付いとったか。
  随分あっさり引き上げおる思たら」
 笑い、白石は取り出していた棒手裏剣を手甲に戻した。たとえ他の者がいなかろうが兵が来ていようが、佐伯なら辿り着く前に跡部と不二をどうにかする事も可能だっただろう。
 ―――しなかったのは、こちらの存在に気付いていたからか。2人に手を出せば、こちらも攻撃を仕掛けると。
 「さすが、お前が認めた相手だけあるとね白石。とても一筋縄ではいかん」
 利三を見張り、おかげで現在は合流していた千歳も笑う。
 「せやろ?」
 そこへ、さらに2人合流した。
 「帰ったで〜クララ・千歳」
 「おかえりケンケン・金ちゃん」
 「クララ呼ぶなや。せっかく真面目決め込んどったんやで?」
 「やったら俺かてケンケン呼ばれたないわ!!」
 「俺呼んどらんやん!!」
 向かいからやってきた謙也と金太郎。この2人は跡部と不二を追跡していたのだが・・・・・・
 「は〜。けどちかれた〜」
 「ご苦労さん。
  さすが風の金ちゃんやな。はっやいはっやい」
 3組接触時点で、白石は俊足を誇る金太郎を使いに出していた。秀吉側に騒ぎを伝えて来いと。
 しかしながら、役目を果たし戻ってきた金太郎(注釈として息一つ乱していない)はえらく不服そうだった。
 「やけど、伝える必要なかったんとちゃう? のろし上げたやろ?」
 「のろし?
  ・・・・・・ああ、アレばいね」
 「ほんま佐伯、自分どこまで狙ってやっとるんやろな・・・・・・」
 ため息をつき、
 白石は逆を向いた。倒れ込んだ侍一同。伊賀の者は何とか逃げ出せたらしい。
 秀吉隊がそれらを拘束する。まあ彼らは使いの者の護衛という事ですぐ釈放されるだろう。
 見る。その『使いの者』―――跡部を。
 「さ〜跡部が秀吉と接触するでえ。
  自分、どない『未来』予想しとるん光秀様?」



―――第7回 4

2006.1.1920