テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第7回―――5


 「俺が秀吉だけど? アンタが光秀の使い?」
 眠そうにだるそうに面倒くさそうに現れた少年(いや自分よりもう上だろう。ただしイメージでは彼は永遠の『少年』だ)。それもまた、今まで同様酷く見覚えのある相手だった。だが・・・
 (何で、よりによって秀吉が越前なんだよ・・・・・・!?)
 生意気な青学のルーキーにしてリョーガの弟越前リョーマ。今目の前に『秀吉』として座っているのは、間違いなくかの少年だった。
 「――――――何?」
 不審げな目を向けられる。驚いたジェスチャーを見せておきながら、その先何もしないとなれば当然か。
 (落ち着け・・・。姿かたちついでに性格はそっくりだがコイツは越前じゃねえ、『羽柴秀吉』だ・・・・・・)
 《跡部くん落ち着いて。動揺まる見え》
 (してねーよ別に!!)
 向き直り、前に拳を置く。土下座ではない。
 そこに体重を乗せ身を乗り出し、
 言う。
 「謀反の計画があります。明日早朝、本能寺で信長様を襲おうと」
 「誰が?」
 即座に返され、跡部の口元がひくりと痙攣した。
 (いいのか・・・? 言っちまって・・・・・・)
 それを伝えに来た。そして秀吉にその邪魔をしてもらおうと。
 だが、これでは・・・・・・
 (越前がリョーガの邪魔するって事になるじゃねえか・・・!)
 《けど、そのまま歴史通りに進んだら―――





  ――――――越前くんがリョーガくん殺す事になるよ?》





 (――――――っ!?)
 「光秀様、です・・・・・・」
 千石の宣告に、流されるまま言葉が出てきた。たとえ友を売ったとしても、兄弟で殺し合うなどという最悪のシナリオに比べたらよっぽどマシだ。
 「ふーん」
 反応は、意外と少なかった。この見た目だとそれが自然のようにも思えるが・・・
 「・・・・・・それだけか?」
 「他に何がいんの?」
 「だから、信長様助けて謀反止めさせよう・・・とか」
 「別に? させといたら?
  俺今こっちで忙しいし、終わったら行くよ。それまで持たないんだったら、まあ信長もその位の人だった、って事で」
 「・・・・・・・・・・・・」
 言われた。言い切られた。
 クール通り越して実に冷たい発言。リョーマだと考えるとこれも納得出来なくもないが・・・。
 (アイツだって仲間とかそこら辺についてはもうちっと熱くなるだろーよ・・・!!)
 「では、秀吉様は光秀様を止めようとも信長様を助けようともしない、と?」
 「そう言ってんじゃん。
  ああ、光秀には感謝するかな? 信長殺してくれて。おかげで俺も天下取れるし」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「何? 他にもうない? なら俺行くよ?」
 立ち上がる秀吉に、跡部は下を向いたまま続けた。拳が震える。瞳孔が揺れる。
 怒り出したい衝動を、何とか理性で押さえつけ。
 最後に、問う。
 「・・・・・・てめぇはそれでいいんだな? 秀吉」
 「貴様!! 殿になんたるご無礼を!!」
 周りに控えていた家来が、刀を抜き放ち跡部に詰め寄り―――
 ―――秀吉の振った手に、止められた。
 ひたりと見下ろす。凄絶なまでの表情を浮かべこちらを見上げる跡部を。衝動を抑える代償に口端から流れる血を。
 見、
 言う。
 「いいよ?」
 跡部の体から殺気が迸った。家来達が秀吉を守る壁となる。
 が・・・
 「ならいい」
 「む・・・?」
 警戒する彼らの前で跡部のしたのは、ただ立ち上がる事だけだった。
 「忙しい中邪魔したな」
 完全に感情を制御した声。その中にはもう怒りも悔しさも、希望もそして絶望も現れていなかった。
 秀吉の眠そうな目が細まる。
 「アンタどうするつもり?」
 これでも殿の座に安然と座っているワケではない。まだ若年ながら老獪な武将達の間を渡り歩き乗り越えてきたのだ。天性の才能にそれらの経験が付与され、己に関わる事については敏感になっている。
 その勘が、告げていた。この男はまだ何か企んでいる、と。
 立ち上がりながらもう後ろを向いていた跡部が、振り返りもせず言う。
 「直接信長に言う。今から兵は用意出来ねえでも、逃げる事くらいは出来んだろ」
 「させないよ?」
 「なら止めてみろ」
 まるで秀吉当人であるかのように家来達が跡部に突っ込み―――5秒も持たず倒れ伏した。
 今だ振り向いていない跡部。倒れた1人から刀を奪い、ようやく振り向いた。
 ―――秀吉の喉に先端を突きつけ。
 一息で詰め寄り、まだ残っていた周りが反応出来ない速度で刀を出す。
 唯一反応した秀吉自身が刀を引き抜きながら弾いた。手首を返し刀身を絡め、再び中へ戻ってくる。もう秀吉にも対抗のしようはなかった。
 鋭い刃を突きつけ、それ以上に鋭い目を向け、跡部は静かに呟いた。
 「ただし―――
  ―――それなら俺を殺すつもりで来い。でないなら俺がてめぇを殺す」
 場が止まる。誰も動けない。
 どれだけ時間が経ったか。秀吉が、小さく息を吐いた。なぜかその顔に浮かぶのは、笑みだった。
 「強いねアンタ。ケンカで負けたのなんて、光秀以来だよ」
 「生憎だがな、俺は光秀より強いぜ?」
 「かもね」
 刀を鞘に戻す。跡部も刃先を下ろし、





 「―――でも甘い」





 背中に差していた短刀。左手一本で抜いたそれを、秀吉は一気に振り抜いた。跡部の喉を掻っ切る軌道。だが・・・
 「っ―――!!」
 ギンッ―――!!
 庇う形で上げられた跡部の右腕―――その手に巻かれたリストバンドが、異音を上げ刃を受け止めた。
 「・・・よく気付いたね」
 「やっぱ左利きだったか。俺の知り合いにてめぇそっくりのヤツがいるんだが、そいつも左利きなモンでな。
  まさかとは思ったが、どうやら当たりだったらしいな。
  だが、
  ―――備えあれば憂いなしってのは、まさにこの事だな」
 刀を戻していたのでは間に合わなかった。手放し、跡部は右腕を犠牲にする決心した。命のためなら右腕は惜しくもない。
 ・・・のだが、どうも違うものが止めてくれたらしい。自分にしては珍しく運の良い事に。
 手塚と対戦(もちろんテニスの)して以来、よりレベルを上げるためリストバンドをパワーアンクル代わりに使用していたのだ。中に入れていた鉄板が盾の役割を果たしたのだろう。始めから予想していれば、これだけの腕があればそれごと斬り裂く事も可能だっただろうが・・・。
 「アンタ忍び? 手甲なら普通に付けなよ」
 「いや。そうじゃねえ。
  ・・・・・・悪りい。俺もすっかり忘れてたわ」
 そういえば学校帰りこの時代連れて来られたのだ。テニスバッグはその場に放り捨ててきたが、直接身につけているものはそのままだった。
 つけた状態で慣れ過ぎて、自分でも忘れていた。外がもあもあタオル生地なおかげで向こうも気付かなかったようだ。
 秀吉が、今度こそ諦めて刀を下ろした。降参の印か、両手を上げる。
 「はい、降参。
  いいよ? 殺して」
 「・・・・・・あん?」
 ぱちくりと。2人の瞬きが重なる。
 何を言われたのかわからない跡部。そんな彼の反応こそわからない秀吉。
 「殺すんでしょ? ならいいよ? 負けたしね。
  あんま無様には死にたくないし」
 「殺す? 何でだ?」
 「はあ?
  アンタ言ったじゃん。止めんなら殺すって」
 「・・・・・・。
  ああ・・・・・・」
 そういえばそんな話もしていたか。
 頷き、
 跡部は刀を捨てた。
 「止めた。まあいい」
 「何で?」
 「助けんのが目的で来て殺してんじゃ意味ねーだろ」
 「・・・別に人が違うんだからいーんじゃないの?」
 「よくねえ。俺は誰も殺さねえし殺させねえ。そう決めた」
 「なんかめっちゃくちゃだね」
 「いーんだよそれで。それが俺だ」
 「ヘンなの」
 首を傾げ、秀吉が問う。
 「そういえば、結局アンタ何が狙い?
  光秀の使者とか言ってたけど、それなら謀反の計画なんてバラさないでしょ? しかも止めろなんてさ。
  それで光秀売って俺に付きたいのかって思ったらそれも違うみたいだし」
 「・・・意外と頭働くんだな」
 「何それ? 俺にケンカ売ってる?」
 「いや・・・」
 ここでいらない争いを繰り返しても仕方ない。視線を逸らし手で否定して、跡部はその間考えていた通り言った。
 「俺は誰の味方でもねえし誰につく気もねえ。強いて言や光秀の味方か?」
 「光秀売っといて?」
 「結果として助けられんなら、裏切り者の汚名なんぞいくらでも被ってやるさ。
  光秀が信長殺しゃもう後戻りは出来ねえ。だから何とかその前に止めたい。それだけだ」
 「ワガママだね。そのために俺利用するんだ」
 「ああ。
  んで? どうだ?」
 ためらいなく頷く跡部に、秀吉もまたためらいなく返事をする。
 「嫌」
 「だろうな」
 「何? それで終わり?」
 立場が逆転する。
 いささか不満げな顔を浮かべる秀吉へ肩を竦め、
 「どうせもう、いくら言っても無駄だろ?
  てめぇみてえなヤツの根性についちゃよく知ってる。ここでムダ話するよりゃもう少し建設的な事に時間使おうかと思ってな」
 「ふーん」
 頷く秀吉。
 今度こそ背中を向け歩き出した跡部に向け、
 「1つだけ言っといてあげるよ。
  殺すんならためらわない方がいい。そういう風にためらうから、結局負けるんだよ。アンタも、光秀も」
 「光秀が? どういう事だ?」
 「さあ?」
 クッと小さく笑った。本当に、こういう様はあの生意気なルーキーそっくりだ。
 悟り、跡部はそれ以上問う事は諦めた。どうせ意地でも言わないだろう。
 代わりに言う。
 「てめぇの言う事も尤もだな。ここで動かなけりゃ、邪魔な信長が死んでくれた上自分は仇っつー名目で光秀殺して堂々主役になれる。
  どうやら俺は、てめぇにこの上なく都合のいい情報与えちまったらしいな」
 「そういう事。この世の中、知恵のある人が勝つんだよ」
 「だな。
  あばよ秀吉様。アンタ天下取れるぜ?」





・     ・     ・     ・     ・






 外へ出る。出るなり、跡部は怒りを込め拳を振り払った。
 「クソッ!」
 どがっ!
 横にあった木にぶつかる。鈍い痺れが伝わった。
 「胸クソ悪りい・・・!!」
 《仕方ないっしょ。みんな天下欲しいもん。
  で? これからどうすんの?》
 「決まってんだろ。信長んトコ行く。
  こーなったら意地でも止めてやる・・・!!」
 《・・・・・・。まあいいけどね。
  あんまり熱くなんないでね。壊すのは拳だけにしなよ?》
 「・・・・・・・・・・・・」
 殴りつけた左手を見る。小指側の皮膚が裂け、薄く血が滲んでいた。広げると、少し筋に痛みが走った。
 どうやら力の加減も出来ないほど、感情が昂ぶっていたらしい。
 見つめ、
 跡部は薄く笑った。
 拳を舐める。血の味がする。
 ―――明日はどれだけのコレが流れる?
 「いいぜ? 俺の心1つでアイツが助けられるんだったら喜んでくれてやる」





・     ・     ・     ・     ・






 場所は移って亀山城。中国遠征を命じられた光秀軍は、数日前からこちらに入っていた。
 その一室。光秀の自室での事。
 「秀吉様は動かんらしいで? 光秀」
 「だろーな。跡部クンも完全に無駄足だった、と」
 極めて完結な状況報告を行った白石に、リョーガは落ち着いて頷くだけだった。どころか満足げに酒を煽る。
 珍しく白石が驚きを露わにした。
 「わかっとったんか?」
 「そりゃあな。
  アイツは俺よりもずっと信長の事よくわかってる。そういう事だ」
 「・・・どない言うこっちゃ?」
 「信長には大勢の子どもがいるがな、一番信長の子どもとして相応しいのは秀吉だと思うんだよな。
  誰もわかってやらなかった信長の気持ちを、あいつだけは汲んでやってる。だから助けない――――――だから死なせてやる。
  あいつが本当の子どもだったら、多分信長の生き方も随分変わってただろーな」
 「んでもって、自分も・・・か。光秀。
  自分もようわかっとるから殺したるんやろ?」
 からかう白石の眼差しを受け、
 リョーガは笑った。決して人がいいとは言えない笑み。
 言う。
 「信長は俺の天下統一に邪魔なだけさ」
 「・・・・・・ほんま、よお似とるよ。自分と秀吉様」
 「そーかよ。ありがとな」



―――第8回 1











 ―――いよいよ登場しました秀吉様。実は『突発ラスト予想!』を書くにあたって彼はリョーマにしようと決めていたのですが、性格によっては他の人に変えようかな〜とも思い出番を待ち・・・
 ・・・・・・うわ〜。めちゃくちゃムカつく人ですねー秀吉。もちろんこれで参戦されたら話進まないというか歴史変わりますからいいんですけど。
 あまりにムカついたのでそのままリョーマで行きました(爆)。彼ならこういった台詞も吐けそうだ。
 なおラジオ本編とはずれますが、リョーマがここまで冷たい態度を取るのはちゃんとワケありですよ? リョーガがしっかりバラしてくれたようですが、詳細は第8回、信長様当人登場で明らかになります。なので皆様リョーマに愛想は尽かさないで下さいね〜〜〜〜〜〜!!!
 ・・・どちらかというと佐伯の方にですか? なお薔薇之介はちゃんと怒鳴って利三一同を説得しました。天下の
NKがあんな強硬手段に出る人普通に登場させたら怖いよ・・・。

2006.1.1921