テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第8回―――1


 《天正
10年6月1日深夜。ついに俺と跡部くんはここ本能寺に辿り着きました》
 「うっせえ。なんでいきなり実況中継始めてやがる」
 《いやだって『語り』だし。最近仕事怠けてるから》
 「つーか何だよ『俺と跡部くんは』って。結局実際動いてんの俺1人じゃねえか」
 《ああっ!! 鋭いダメ出しが!!
  んじゃテイクつ―――》
 「・・・・・・先行くな」





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 改めまして本能寺の御殿にて。不二を手塚に預け、馬を飛ばしてやってきた跡部はついに『信長様』と対面を果たした。
 「アンタ―――!!」
 「ん? 何だお前さん? お前さんみてえなべっぴんさんの小姓はいなかっただろ? いたら俺が見逃す筈ぁねえしな。
  ―――ああ! 新しくつけてくれたってか!! いーねえ!
  んじゃさっそくこっち来いよ。大人の魅力ってモン教えてやっからよ。
  今日は楽しくやろうぜ〜?」
 「子が子なら親も親だってか!?」
 《いやそれだと越前くんだけ浮くと思うけどね》
 会うなり腰に抱きついてきた信長様―――越前南次郎そっくりの人に、跡部は悲痛な叫びを上げた。どうしよう、助ける気ががんがん失せる・・・・・・。
 「おら放しやがれ!! 俺は違げえ!!」
 ずびしっ!!
 一応知り合いの親(そっくり)につき、拳は作らずチョップで応戦。首筋に入れ一瞬気絶したところを引っぺがす。
 「あ、って〜・・・!
  近頃の小姓は芸に幅が出てきたのか? そういうのももちろん俺はいいけどよ!」
 「天下の織田信長が堂々変態発言してんじゃねえ!!
  だから俺は違うっつってんだろ!? 謀反の計画があるから伝えに来ただけだ!!」
 「謀反?」
 ようやっと信長の頭のネジが締まった(暴言)。
 「訊かせてくれるかい?」
 「ああ。そのために来たんだからな」
 勧められるまま前に腰を下ろし、跡部は説明を始めた。





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 「―――ほ〜お。そうか光秀がか」
 「だからアンタには逃げて欲しいんだ。今ならまだ間に合う。この闇に紛れて―――」
 珍しく焦りが入っているらしい。身振り手振りで何とか逃げを促す跡部。だが、
 「はぁ〜っはっはっはっはっは!!! そうか!! ついにアイツが来るってか!!」
 話を聞き、なぜか信長は腹を抱えて笑い出した。
 「・・・・・・何が可笑しい? 言ってとくが、嘘でも冗談でもねえぞ?」
 「いやいや悪りい。わかってる。ンな冗談言うために、わざわざ俺のトコまで来る命知らずなんてまずいねえしな。
  それにお前さんの目、とてもとても嘘をついてるようにゃ見えねえ。
  俺は今までこの勘を信じてやってきたからな。そいつが確かに告げてる。お前さんの言う事は本当だ」
 「なら―――!!」
 意気込む跡部を、信長の掲げた手が制した。
 「だが1つ教えてくれ。
  お前さん―――ああ、名前なんてえんだ? そういや聞いてなかったな」
 「跡部だ」
 「そうか跡部君。
  ―――君、なんでそんな事俺に教える? それこそ光秀にバレりゃ君の命がやべえだろ。
  よければ、教えてくれねえか?」
 人を食った笑みで。その奥では深く澄んだ、そして熱いものを湛えた瞳で。
 見つめられ、跡部が止まった。
 その瞳は、まるで何もかも見透かしているかのようだ。自分の眼力を他人の目から見たよう―――いやそれ以上だ。
 呑み込まれそうだ。ふと思う。
 (そういや、越前兄弟もこんな目ぇしてるか)
 こんな風に、真正面で見つめ合った事はそうない。だが何となくわかる。きっと同じなのだろうと。
 親子なのだから。
 跡部は瞳を閉じた。息を吐く。
 瞳を開き、
 「アンタにとっては恐ろしく失礼な事を言うと思う。それで構わないんなら話す」
 「いいぜ?」
 そんな前置きをし、
 話した。
 「俺にとっちゃ、正直アンタの命なんてどうでもいい
  アンタが死のうが生きようが、ンなの俺の知ったこっちゃない」
 「ほう?」
 「だがアンタを殺す事で、光秀は謀反の犯人として秀吉に殺される。正確にゃ少し違うが、大筋はこんなモンだ。
  俺は光秀を助けたい。アイツは俺の友人なんだ。
  ―――だからアンタを助けに来た。光秀を殺させねえために」
 じっと見返す。今度は決して逸らさない。呑まれない。
 真正面から挑む跡部に信長も応え。
 小さく頷いた。
 「光秀のため、ねえ。
  ほーお。アイツにもンな相手が出来た、ってか」
 にやりと笑う。
 「なら跡部君、君の『本音』を聞こうか。
  1つ、試させてもらうぜ?」
 「あん・・・?」





 「君の言う通り従ってやる。君がここで俺に抱かれるんだったらな」





 跡部の顔が強張った。
 信長を見る。全く笑っていない瞳は、とてもこれが冗談や嘘の類ではない事を示していた。
 奥歯を噛み、暫く逡巡し・・・
 「・・・・・・・・・・・・わかった」
 そう、返事した。
 「代わりに確認させろ。
  本当に俺に従うんだな? こっから逃げるんだな?」
 「ああ。君も約束通り、その服脱いで俺に脚広げてくれるんならな」
 さあどうする? と問われ、
 「いいぜ?」
 跡部もまた、妖艶に微笑んだ。
 信長が驚きの表情を浮かべた。
 その目の前で、立ち上がりブレザーを脱ぎ・・・










 「んじゃ逃げんぞ。とっとと来い」










 「は・・・・・・?」
 「『は?』じゃねえよ。俺はいいっつっただろ? そっちも約束守りやがれ」
 「あいやでも、
  んじゃ俺に抱かれるってのは? まだ時間あんだろ?」
 名残惜しげに腕を掴む信長に、
 振り向き跡部はにっこり笑って言った。





 「『今』とは言ってねえよなあ? 逃げたら後で好きなだけ抱かれてやるぜ?」





 「はあ!? けどだってよお!! 『ここで』っつったじゃねえか!!」
 「おおいいぜ? 寺だが一応室内だしな。布団もあるし。
  ―――んじゃ、逃げてほとぼりが冷めた後また来っか?」
 「しまったああああああああ!!!!!!!!!」
 「詰めが甘めえんだよバーカ」
 《天下の信長様ここまで扱き下ろしたの、多分君が初めてだろーね・・・》
 (いやわかんねーぞ? 秀吉が越前なら、そっちにされまくってる可能性は充分あんだろ)
 信長ががっくり肩を落とす。出会ったばかりの相手しかも男を抱けずになぜそこまで落ち込むのか理解に苦しむが、とりあえず約束は約束なので跡部は崩れたままの信長の襟首を掴んだ。
 ずりずり強制的に引きずり出そうとし、
 「ならここは実力行使!! こちとら伊達に天下狙ってねえんだよ!!
  行くぜ! 覚悟しろよ跡部君!!」
 「やっぱ結局こういう展開かよ!?
  こっちだって伊達にてめぇの息子と付き合ってんじゃねえんだよ!!」
 がん!!
 飛び掛った信長の側頭部を、跡部の右回し蹴りが襲った。
 吹っ飛び床を転がる信長。跡部は優雅に脚を下ろし、
 「次やってきやがったら、『今のでてめぇに脚広げたから終わり』って言うからな」
 「うぐっ・・・!」
 呻き、信長の攻撃はそれで終わった。
 座り込んだままがりがりと頭を掻き、
 「まあいっか。光秀のモンじゃねえって事はよくわかったし、今はおあずけっつー事で」
 「ああ・・・?」
 わからず首を傾げる。
 そんな跡部に答える事もなく、信長は今まで通り―――いつも通りの笑みを向けてきた。
 「んじゃ悪りいが先行っててくれよ跡部君。俺も1人で来たってワケじゃねえ、さすがにな。
  他のヤツにも伝えねえとな。いらねえ被害増やしても仕方ねえだろ」
 「・・・・・・・・・・・・。
  まあな」
 そういえば信長以外を逃がす事について全く考えていなかった。見つからなければ、連れてきた小姓たちは拷問に遭い惨殺されるだろう。
 肩を竦め御殿から出かけ、
 跡部はちらりと振り向いた。
 にこにこ笑って手を振る信長に、釘を刺す。





 「ぜってー逃げろよ?」
 「はいはい」



―――第8回 2

2006.1.22