テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第8回―――2
寺から出―――
跡部は近くの木に隠れ、寺の様子を伺った。
《どしたの?》
「信長待ってる決まってんだろ? あのヤロぜってー出て来ねえ気だ」
《へ? そうなの?》
「俺様の眼力舐めんじゃねえぞ? 死ぬ覚悟が充分出来てる事くらいすぐわかる。
大体何だこの一団? 腕の立つ家来0で連れてんのが小姓数十人だけだと? 襲ってくれっつってるようなモンじゃねえか」
《んじゃコレって・・・・・・》
「誘いだ。『本能寺の変』ってのはどうやら、うつけ者信長が最期に仕組んだお遊びらしいな。光秀はただ乗せられただけだ」
《けど、なんで?》
「さあな。俺が知るか。
生憎と、俺は死にたがりじゃねえモンでな」
《ああそりゃ確かに》
何だか引っかかる納得のされ方だった。
気にはなったが手を振り軽く流す跡部。返されなくて寂しいのか、千石がさらに言葉を重ねた。
《んじゃさ、なんでそこまでわかってながらあっさり出てきちゃったワケ?》
「3つな。
1つは信長も言った通り、小姓を見捨てるワケにゃいかねえからだ。いくら俺らの計画にゃ関係ねえっつっても、だからこそ無駄な死は避けるべきだろ。
信長も、自ら望んで死を選ぶならむしろ他のヤツは逃がすはずだ。みんな道連れなんて考えるほどイカレちゃいねえみてえだしな」
《両手に花どころかハーレムで死にたいのかもよ?》
「ねえな。なら俺を先に行かせるハズがねえ」
《うーわ出たよ跡部様台詞!》
「2つ目行くぞ。今ここで無理やり出すと騒がれる恐れがある。光秀軍だって、攻める前に見張りの1人や2人は配置してるはずだ。ここで騒がれりゃさすがにバレる」
《んじゃいつ逃がすのさ》
「もちろん、『本能寺の変』が始まってからだ。木を隠すのは森の中、人を隠すのは人の中。
混乱のどさくさに紛れりゃ逃げるのもやりやすい。適当に兵の鎧でも奪っておきゃ顔パスならぬ鎧パスだ。集まったヤツらがどいつもこいつも顔見知りなハズねえからな。でもって下っ端が敵軍の大将の顔なんて知ってる事もねえ。何せ計画は秘密裏だ。言われた通り動くしかないヤツらが、自分たちが倒すべき『敵』がまさか信長様だと知ってるはずもねえだろ」
《そっか。知らされたら普通反対するもんね。自分たちの一番の上司だし。
んで3つ目は?》
「・・・・・・・・・・・・」
《3つ目は?》
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
《ねえ、3つ―――》
「うるせえなあ! この俺が体差し出してやるとまで言ってやったのに従わねーのがムカつくんだよ!!
覚えてろよ信長の野郎・・・!! 俺様に従わなかった事、ぜってー後悔させてやるからな・・・・・・!!」
《・・・・・・・・・・・・。
男心って、ムズかしいんだね・・・・・・》
「つーワケで、今夜は寝ずの見張りだからな」
《うん。頑張ってね跡部くん》
「てめぇもだよ実況中継!!」
《うええ!!??》
・ ・ ・ ・ ・
同時刻程度。亀山城にて。
「殿! 信長様は予定通り本能寺に入られました。連れは小姓が数十人といったところ。兵は連れていないようです」
知らせを受け、光秀―――の隣にいた利三が反応した。
「兵はいない、だと? 馬鹿な。よく確認したのか?」
「は、はい・・・! どこを見ましても、全く兵を連れている様子はありませんでした」
「隠しているのではないか? なにせ相手は変わり者の代名詞たる信長殿。何をやっていても不思議ではない」
「―――んじゃ実は小姓たちが兵だった、っつーのでどーだ? 正に『意外な展開』って感じだろ? おっさんの大好きな」
「ふざけている場合か光秀!」
たしなめられてしまった。リョーガがクックックと笑う。
利三お抱えの間者に手を振り、
「いいぜもう下がって。いねえってんなら実際いねえんだろ。
仕事ご苦労さん。ありがとな」
「いえ、勿体無いお言葉です」
一礼し、間者はいなくなった。
2人きりになり、利三がますます険しい顔をする。
「どういう事だ光秀。もっと綿密に調べさせるべきだろ?」
「どうせ調べても何も出ねえだろ。
部下の言う事は信用してやれよ。上下関係ってのは、信頼が第一じゃねえの?」
「そのようなものはいらんだろう? 金で雇われている時点で、アイツらは私に奉仕する義務がある」
「つまりあんたは俺に奉仕する義務があるってワケか。おっさん」
「ぐ・・・・・・」
わかりやすく利三が止まる。それもまた笑って見やり、
「ま、んじゃ信長様は全く警戒してねえ、って事で」
「何だその投げやりな答えは」
「はあ? どこがだよ?」
「『んじゃ』だの『って事で』だのの辺りだ。適当に答えるな。この計画が我々にとってどれだけ重要なものなのかわかっているのか?」
「はーいはい。ンなの計画立てた俺が一番よくわかってるっての。
わざわざ口煩く言わなくていいぜおっさん。物事繰り返して言うのはボケの始まりだぜ?」
「何を―――!!
―――まあいい。今はこんな事に時間を費やしてる場合ではない」
「そーだな。そうこうしてるうちに闇に紛れて逃げられちまう恐れも〜・・・・・・ねえ事もねえしなあ」
「何!?」
「バーカ本気で捉えんなっての。何のためにあんた見張り用意したんだ? それこそ部下は可愛がってやれよ? 懐かれると可愛いモンだぜ?」
「うるさい! さっさと行くぞ! 指揮を取れ!!」
「そーいうあんたが指揮取りゃいーんじゃねえのか? 意外と似合うぜ? 何にもしねーで偉ぶってふんぞり返んの」
「この―――!!」
「はいはいさっさと行こうぜ? さっきっから無駄なやり取りでどんだけ時間ムダ使いしてんだ?」
「〜〜〜〜〜!!
・・・・・・まあ良い。行くぞ」
せかせか歩き出す利三の後ろ姿を眺め、リョーガは腰に手を突っ込みのんびりと歩いた。
「あ、殿!」
「おう」
「いよいよですね。頑張りましょう!」
「あんまきばんなよ? 腹壊すぜ?」
すれ違う家来たちに手を上げハイタッチ。無邪気に笑う彼らは知らない。これから自分たちが何を攻めるのか。『敵』だと思っている相手が誰なのか?
―――『敵は本能寺にあり』
歴史に伝えられるとおり、リョーガはそれだけしか言わなかった。
騙している―――のだろうか。真実を知った時、彼らは自分をどう思うだろう。
恨むか? 失望するか? もう、こんな風に接してくれなくなるか?
ふいにリョーガの足が止まる。周りに誰もいなくなった。
1人きりの空間で、声が聞こえる。自分の忍び、白石の声が。
『そない意外な展開好きの光秀様に耳寄りな情報。
さすがやなあ自分。予想一部正解や。
――――――小姓もどきに跡部混じっとるで。信長様に接触しおった』
「へ〜え」
『攻める時は気ぃつけた方がええんとちゃう? いくら跡部かて、さすがに火矢には勝てへんやろ』
「跡部クンなら殴りと蹴りの風圧で消しそうで怖ええけどな。
ま、いざとなったらちゃんと佐伯が保護すんだろ。来てんだろ?」
『すまんなあ。佐伯は前回見失ってもうた』
「・・・・・・うあ使えねえ」
『部下には愛情持って接するんやないの?』
「成果が伴ったら愛情注いでやるぜ?」
『ほな注いでもらおか。
―――伊賀の服部が本能寺に向かった。今ずっと見張っておる』
「つまり佐伯も来てる、ってか。
よーしよーしよくやったな白石」
『あん!
―――って俺犬かい!?』
「いや猫のつもりで可愛がっちまった。
ありがとな。んじゃ次もよろしく」
『ま、ええで。
俺の主は自分だけやからな。頑張りいよ、光秀様』
「・・・おう」
・ ・ ・ ・ ・
「敵は本能寺にあり!!
行くぜお前ら!! 戦いの始まりだ!!」
おーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
天正10年6月1日から2日深夜。ついに本能寺に向け、光秀軍が侵攻を開始した。
―――第8回 3
2006.1.22