テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
第9回―――1
寺が焼け落ちた。向こうからリョーガがやってきた。信長の刀を持って。
「無事だったか光秀!」
最初に寄ってきたのは、利三だった。周りに己の部下を従えて。
「おう。信長殺してきた。これが証拠品だ」
佐伯の『暗示』通りに言う。渡された刀を見て、利三は嬉しそうに笑った。
「おお! 確かにこれは信長のもの!!」
「んじゃ、さっさと引き上げようぜ。徹夜明けはお肌に悪りい」
ふわ〜と大あくびし歩き出すリョーガ。
―――の前に、何本もの刀やら槍やらが突きつけられた。
「・・・・・・つまり?」
間違いなく首謀者を半分閉じた瞳で見る。
利三は、まさしく悪役のボスといった笑みを浮かべ、
「今までご苦労だったな光秀。お前のおかげで邪魔な信長が片付いた。礼を言う」
「そりゃどーも」
「天下統一まであと1歩。ここまで来れば後は我々だけで充分だ」
「つまり俺は左うちわでのんびりしてていい、ってか?」
「ああ。
―――あの世でな」
それを合図に兵―――裏切り者達が動き出し、
・・・あっさり倒された。
どさどさどさっ。
「・・・・・・で?」
実に面倒くさそうにリョーガが呟く。眠そうな目は、ロクに開かれもしなかった。
「お前、自分の部下を・・・・・・」
「あんたの部下だろ? おっさん。
言っとくが、俺は裏切りモンにゃあ容赦しねえぞ。
オレンジは1つ腐ると周りまでダメにしちまう。する前に捨てるのは当然だろ?
俺は、仲間は思うがだからその仲間に害を与えるヤツは容赦しねえ。それがたとえ元仲間であろうとな」
この時になって、利三はようやく気付いた。
目を細めているのは眠そうだからではない。引き絞っているのだ。己が攻撃を仕掛ける獲物に狙いをつけて。
標的―――利三自身に。
リョーガが刀を抜いた。自分のものではない。信長のだ。
「この刀、今までさぞかし血ぃ吸ってきたんだろーな。天下統一邪魔するヤツ、いくらでも切り刻んできたんだろーな。
持ち主が死んでもその意志は残る。この刀はちゃんと覚えてるらしいぜ? 自分が何をすべきなのか」
「ま、待て光秀・・・! まさかお前、私を斬るというのか・・・!?」
「ああ斬るぜ? 当たり前だろ?」
「私が今までどれだけお前に尽くしてきたと思ってる!? そんな私をお前は斬ると!?」
「あ〜涙ちょちょ切れる感動話ありがとよ。とりあえず反乱されて殺されかける位は尽くされたか?」
兜の隙間から耳をほじり答える。その間も刀は下ろしてはいない。
改めて鼻先に突きつけ、
「何今更ンな甘っちょろい事言ってんだ? 裏切りなんてこの世の常だろ? 俺にそう教えてくれたのはおっさん、あんただぜ?」
「光秀貴様―――!!」
「言ったよな? この刀にゃ信長の意志が篭ってる。そしてそれが言ってるぜ? あんたじゃ役者不足だ、ってな。
――――――テメー程度が信長の遺志受け継げると思ってんじゃねえ!!」
「止めろリョーガ!!」
利三を斬り殺そうとしたリョーガを、
飛び出した跡部がそのまま飛びついて止めた。
「貴様―――!!」
「跡部クンじゃねえか!!」
転がり起き上がりリョーガが驚く。
上に乗っかった跡部は、そのまま肩を掴んで説得を始めた。
「なあ、もういいじゃねえか。
お前はちゃんと役割果たした。大丈夫だ。天下はこんなヤツじゃなくってちゃんと秀吉が取る。アイツならお前だって信長だって認めるだろ?」
「おい貴様―――!」
「あんだようるせえなあ。天下取りたきゃ勝手に取れよ。俺はコイツの説得に忙しいんだ。
―――なあいいだろリョーガ? お前だって気付いてんだろ? もう無理だって」
「・・・・・・」
「信長の茶番に付き合ってやったお前は立派だ。
それでいいじゃねえか。それで満足しようぜ?
今どんなに頑張ったって、お前1人で天下取れるモンでもねえだろ? な?」
優しい声で問い掛ける。
何度か呼吸を繰り返した後、
リョーガは一際深く息を吸った。
吐く。首元に手を伸ばし。
「・・・・・・・・・・・・そうだな」
顎から垂れた紐を引く。
兜を脱ぎ去り、それを利三に投げ渡した。
「おっさん、あんたにやるよ。俺にゃもういんねーや」
「では―――」
「ま、後は勝手にやれよ。健闘祈ってるぜ」
さらに鎧を脱ぎ捨てる。刀ごと地面に捨て、
最後に、持っていた信長の刀を放り投げた。
寺の焼け跡に、墓標のように突き刺さる刀を見。
「確か、『光秀』の首はここに晒されるんだったか。
そん時また会おうぜ、親父」
1人感傷に耽込むリョーガ。後ろで鎧兜を装着した利三が大笑いをしていた。
「やった・・・・・・やった!! これで天下は私のものだ!! ふはははははははははははは!!!!!!!」
「あーはいはい。
うっせーよおっさん。人がカッコ良く決めてるトコ、邪魔しねーでくんねえか?」
「頭が高いわ光秀!! 今や貴様はただの下っ端落ち武者!! 私は天下取りまであと一歩の斎藤利三だぞ!?」
「ああそうですか天下まであと一歩の斎藤利三おっ様。
そのお雄々しいお高笑いで耳が腐り落ちそうなんですが、お少しお静かにして頂けなくありませんでしょうかねえお願いいたしますよ?」
「貴様―――!!」
人を挑発する事に関しては天才的才能を発揮する越前リョーガ。利三は貫禄台無しでぶるぶる拳を震わせ、
「――――――まあ良い。最後の遠吠えだと思えば、それも気持ち良く聞こえる」
「あお〜〜〜〜〜〜ん」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!
――――――――――――――――――ま、まあ貴様のそんな憎まれ口を聞くのもこれで最後だしな」
「そ〜んな〜vv 憎まれ口なんてひど〜いvv
俺はおっさんの事大好きだったのにぃ〜」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
さっさと消えんか!!」
「あんたがな」
「っ―――!!」
歯軋りし、
これ以上の争いは無駄だと察したか―――それとも自分が動けばいい事にようやく気付いたか―――、利三は倒れた部下をそのままに、足早に去っていった。
去り際に、一言。
「戻って来ようなどと思うなよ。もうここに、お前の言う『仲間』などどこにもいない」
「なら俺も1つ。
―――12日間、頑張って生き延びろよ。利三様」
・ ・ ・ ・ ・
場には2人が残された。リョーガと、跡部。
自分で促しておいてなんだが、なんと声をかければいいかわからない跡部を他所に、
リョーガは楽しそうに笑い出した。
「お〜わった終わった!! やる事は全部やったぜ!!」
「ああそーだな。ご苦労だったな」
「ハハハ! まるで君の方が上司みてえじゃねえそれじゃ?」
「いいじゃねえか転落落ち武者が」
「うわひっで〜!」
笑うリョーガが、
崩れた。
ぽすりと跡部の肩に頭を置き、
「今だけでいいからさ、このまんまでいさせてくれねえ?」
「ちっ・・・。
仕方ねえなあ。今だけだぞ?」
「ありがとな」
ぎゅっと抱き締められる。縋り付いているようだ。
触れ合う体から震えが伝わる。笑っているのではないだろう。湿っていく襟が冷たかった。
「アイツら、マジでいいヤツばっかだったんだ・・・!! こんな俺の事、ホントに慕ってくれて・・・!!
それでも裏切んのか・・・? 俺にゃ結局誰もついてくんねーのか・・・?
会社だって、藤孝も、順慶も、秀吉も、信長も、利三も、それに・・・・・・佐伯も。
ちきしょう・・・・・・。ちきしょう・・・・・・。
ちきしょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
俯いたまま泣くリョーガの頭をぽん、ぽんと撫で、
跡部は呪文のように繰り返した。
「お前はよくやった。大丈夫だ。俺がずっとついててやる。
お前には俺がいるからな、リョーガ・・・・・・」
・ ・ ・ ・ ・
そんな2人を、佐伯は影から見守っていた。喉に短刀を突きつけられ。
気配0で接近し後ろから彼を羽交い絞めにした者が、静かに囁く。
「お初にお目にかかります。光秀様お付の忍び、甲賀頭領の白石蔵ノ介ですわ。
短い間でしょうが、以後よろしゅう頼んます」
「お前か。ずっと俺の事見張ってたのは」
「さっすがさっすが。よお気付いたやん」
「そりゃわかるだろ。
で?」
「ん?」
「何のつもりだこれは?」
問う。飛び出した跡部に続こうとしたところ、こうして止められたのだ。
「ん〜・・・・・・」
そんな問いに、白石は適当に首を振り。
「まあ、一応俺は光秀様のお付やし、それっぽい仕事せななー思てな」
「光秀の命を守る、か?
なら問題ないだろ? 別に俺は今アイツを殺そうとは思わない。アイツが死ぬのは11日後だ」
「さよか」
刀がどけられる。
振り向き、ようやく佐伯は相手の姿を確認した。
声から若いだろう事は予想していたが、なぜか覆面もつけていない顔は自分と同年齢といった程度か。これが甲賀の頭領とは。
(あ、でも7年前の手下1号と同じ程度か―――ああでも実力が全然違うしなあ。やっぱ甲賀の方が凄いんだなあ・・・)
のんびり考え、
「何でわざわざ姿現した? 光秀についてんなら、俺が今言った事は聞いてたんじゃないのか?」
「聞いとったで? やからあと11日。しっかり働かんとなあ」
「だったら―――」
言いかけた佐伯の口を指1本で塞ぎ、白石は再び囁いた。
妖艶な笑みを浮かべ、唐突に関係ない事を言う。
「俺光秀様に仕えて7年目なんやけどな、いつも付きっきりでおったんよ〜。
―――寝る時ももちろんな」
「――――――!!」
「おお怖。あんま殺気は撒き散らさん方がええで? 2人も気付くやろ。
安心しいよ? ちゃんと断ったわ。
・・・やっぱ寝るんは立派な『浮気』やったやん」
「・・・結局何なんだよ?」
脱力し、佐伯が問う。
答える白石は、笑みは笑みでも今度はいたずらっ子のようなものを浮かべ、
言った。
「跡部殺したらあかんで?」
「っ・・・!」
「今自分、めっちゃ嫉妬ばりばりやろ? なしてアイツ慰めるんが自分やないんか、って」
旗色の悪さを悟ったか、佐伯は反論する事もなく顔ごと目を背けた。
俯き唇を尖らせる。まるで子どもの様。とても冷酷非情な殺し屋にも、自分たちをてこずらせる忍びの親玉にも見えない。
特にフォローも入れず、続ける。
「わかっとるんやろうけどな、
自分はアイツんトコ行ったらあかんよ? 殺すんやろ? やのに今慰めるんは酷やで?
―――今傍におってええのは跡部だけやよ。始めっからずっと味方やった、跡部だけや」
それだけを告げ、白石は立ち去ろうとし、
佐伯に呼び止められた。
「実はお前もちょっとムカついてるだろ」
振り向く。佐伯は笑っていた。もう殺気は霧散していた。
今度はこちらがいたずらっ子のような笑みを浮かべる佐伯。
「・・・・・・まあ、なあ」
肩を竦め、
白石は結局苦笑いを浮かべた。
「光秀様も酷いわあ。部下もっと信頼してえな」
「何だ。やっぱ裏切ってないのか」
「誰があないなんに付くんや。やから誰もおらんトコで襲われたんやろ?」
「全く、アイツも罪なヤツだよなあ。これだけみんなに好きにさせて、なのに自分は誰にも好かれてないと思い込む」
「なん? 自分ものろけかい。
あーあっついあっつい。ごちそーさん」
・ ・ ・ ・ ・
泣き声が収まる。場が静かになり・・・
リョーガが言った。跡部を抱き締めながら。
「あ〜、これで慰め役が佐伯だったら言う事なしなんだけどな〜―――」
どごっ!!
―――第9回 2
2006.1.25