テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第9回―――2


 「んじゃ行くぞ」
 「ってて・・・。
  ―――どこに?」
 立ち上がり手を伸ばす跡部。取りながら(ついでに頭を擦りながら)リョーガが尋ねた。
 「決まってんだろ? どっかへだ」
 「はあ?」
 「だから」
 向き直る。
 「どこだって構わねえ。こうなりゃどこまでだって行ってやるよ」
 「つまりそれは〜―――」
 《駆け落ち宣言!?》
 「違げえ!!」
 どごどごっ!!
 言った千石に怒鳴り返す。言う事もせず飛び掛りかけたリョーガは、どこからともなく飛来した攻撃を前にあえなく没した。
 「・・・・・・・・・・・・」
 復活するまで見守る。
 適度にしたところで仕切り直した。
 「ま、斎藤利三の裏切りなんつー事態は歴史じゃ起こんなかっただろうからこれからどうなるかわかんねえが、
  ―――とりあえずまずは
11日。そこまで生き伸びたら、そっから先はまた考えようぜ?」
 「君は、ずっと俺の味方でいてくれるってか・・・・・・?」
 そちらの方が背が高いクセして見上げてくるリョーガ。まるで捨て犬のような情けない表情を浮かべるその額へと、
 跡部はぴしりとデコピンを喰らわせた。
 「バーカ。
  俺がンな弱ええヤツに見えるか?
  決めたんだよ。俺は絶対裏切らねえってな。それが俺の『友情』だ」
 「跡部クン・・・」
 じっと見つめ合う。その目から思いが、繋いだ手から温もりが伝わり合う。
 ぎゅっと手に力が込められた。その目はもう情けないものではない。
 互いににっと笑い合い、
 解いた手を拳にし、重ね合う。
 自分たちは仲間―――いやもっと強い同志だ。
 確認し・・・・・・
 「・・・・・・で、それはそれとして現実問題で。
  どーすんだこっから?」
 ぼそりと小声でリョーガが言った。その顔からは嫌な汗がいっぱい流れている。
 ここ。佐伯の監視下から。
 されている事は、先ほどの不思議な攻撃で証明された。飛来したはずなのにその正体が明らかにならない。喰らったリョーガはもちろん、真正面で見ていたはずの跡部にすら、それが何だったのかはわからなかった。
 跡部も同じ汗を流し、
 拭った。
 笑みを浮かべ、懐を漁る。
 「つー事で、アイツに対抗出来んのはアイツのみ。
  借りるぜ佐伯、てめぇの攻撃。
  ―――『忍法・火遁の術』!!」
 ぼふおぉぉぉぉぉぉん!!!!!!
 取り出したのはお馴染みの球体。
 放つなり爆裂四散した球は、辺り一面を白い煙で覆った。煙幕・・・・・・兼殺虫剤ならぬ殺人剤で。
 2度目にして自らそれを放った跡部。もちろん先にタオルで目鼻口全てを覆う。
 対して初めてそれを喰らったリョーガ。当然防ぐ事など出来ず、まともに被害に遭った。
 「ごふあっ!! げほっ!!」
 「逃げんぞリョーガ!!」
 「いやちょっとム―――げはごほっ!!」





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 「げほっ! えほっ!
  おのれ景吾め小癪な手を―――!!」
 「かはっ! ごほごほっ!
  ちゅーかこら・・・自分の自滅とちゃうん?」
 飛んできた粉末でこちらもむせかえる白石そして佐伯当人。どうやらこれ、直接使わない限り製作者ですら防げないらしい。
 どうにか煙を追い払う。涙と咳が収まった時には、2人の姿は完全に消えていた。
 「あ〜・・・。行ってもうた・・・」
 「あの状況で全力疾走とは・・・。見上げた根性だなあリョーガ。
  まあ・・・
  ・・・・・・多分以降3日は行動不能だろうな」
 「ちなみに俺らは・・・」
 「1日くらいで・・・回復するんじゃないか?」
 「何じゃそらああああああ!!!!!!!!!!!」





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 さてその頃・・・・・・よりさらに後。
 「そっか・・・。光秀が、かあ・・・・・・」
 「は。謀反を企て信長様を―――」
 信長を無事堺にまで送り届けた木手以下伊賀一同。佐伯の就職案内に乗り、そのままここにいた徳川家康の元へと向かった。
 謀反の話を伝える。いかにも病弱そうな家康殿は、どこに焦点を合わせているのかわからない目で頷いた。
 「じゃあ、信長公にはもうお会い出来ないのか・・・・・・」
 「そうですね。もう2度と」
 「・・・・・・もう少し絹を被せた言い方してくれないのか?」
 「すみません。実直なところが長所なもので」
 「まあいいけど・・・・・・」
 頷く。
 さらに木手が続けた。
 「ところで家康様。このまま光秀殿が天下統一に向け進軍を続ければ、家康様の身も危なくなるかと」
 「いやそれはないだろ」
 「・・・・・・は?」
 「アイツが俺に手を出す根性なんて、とてもあるとは思えないなあ」
 即答する家康に暫し固まり・・・
 木手は頑張って続けた。
 「ですが、万が一の場合も考え―――」
 「けどなあ・・・」
 「そう。例えば光秀殿の謀反には黒幕がいた。その黒幕は家康様、貴公に対しても牙を向けるつもりだ―――」
 「『だから早く戻った方がいい。だがその道中は危険だ。なので自分たちを護衛として雇いはしないか?』
  ――――――と?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 佐伯が徹底して仕込んだ『忍術』―――口八丁手八丁は、それ以上の強者を相手にしては全く通用しないようだ。それとも木手の実力不足に問題があるのか。
 カウンターで大打撃を与えた家康。硬直する木手をのんびり見つめ、
 「別にいいよ?」
 「というと―――」
 「護衛に雇っても。
  確かに京は危険だろうし、避けて帰ろうと思ったら伊賀を通るのが一番の近道だからな。
  ―――ああ、お前たち伊賀の忍びだって言ってたけど、ならもちろん伊賀には詳しいよな?」
 「もちろんです。伊賀の山中は俺たちにとっては庭のようなもの。ご安心下さい」
 「さらに山賊等に遭っても俺たちがいれば安心安全。千切っては投げ千切っては投げする大活劇順路から、絶対に遭遇しない秘境順路まで」
 「その他ご希望ご要望に応じ、護衛の仕方も多種多様に取り揃えております」
 「顧客の満足度に関しましてはこの伊賀一同、自信を持ってお勧めいたします」
 ここぞとばかりに木手が売り込む―――のは無理だった。先ほどの大打撃から立ち直ってはいなかった。
 彼の代わりに必死に売り込む伊賀一同。なにせここで失敗すると佐伯の再教育が待っている。もちろん信長をしっかり船に乗せた時点で卒業ではあるのだが、就職失敗となれば次来るのは予備校だ(それは受験だと思う)。
 そんな、それこそ佐伯の教育の成果らしいセールストークにより何とか家康の気を引く。あまりの熱心さに後半意味不明になっていたが、一応熱意だけは伝わったようだ。
 家康もゆっくり頷き、
 「じゃあ頼む前に1つ確認するけど、
  本当にやってくれるよな?」
 『は・・・・・・?』
 さすがに今度は全員止まった。
 笑って家康がぱたぱた手を振る。
 「ああいや悪い。
  以前甲賀の忍びに同じように護衛を頼んだんだけどな。何でか話してる途中で断られたんだ」
 「甲賀が?」
 「そりゃ随分腰抜けなヤツだな」
 「俺たちはそんな事はないですよ? ご安心下さい」
 「そうか? じゃあ―――」





 5分後。
 『ぅえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!?????????????????』
 建物中に、彼らの悲鳴が広がった。





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 「ちなみに信長様、どこ連れてったん?」
 「堺にな。ついでに手下一同は徳川家康様に押し付けてきた」
 「なん? 家康?」
 「何だ。知ってんのか?」
 「そら知っとるよ。以前売り込み行った事あんよ」
 「甲賀が? けど家康様って、伊賀愛用じゃなかったのか?」
 「いや後々はともかく今はちゃうやろ。
  話聞いたんやけど・・・なんや家康様めっちゃヤバそうでな。ケンケン身代わりにして逃げてきたわ」
 「ケンケン?」
 「ああ、ウチの1人や。
  せやけどさよか〜。家康薦めてきおったんか・・・。
  ―――あとでぎょうさん恨まれるで自分・・・・・・」





 以上、現在回復中の佐伯と白石の会話である。



―――第9回 3

2006.1.25