テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――





第9回―――3


 6月
13日。山崎の戦勃発。利三率いる光秀軍は、僅か1日で秀吉軍に負けた。
 そんな話を遠くで聞きながら、跡部とリョーガは山道を移動していた。
 「夜の山中手を繋ぎ〜♪
  ―――は〜・・・。これが―――」
 「『佐伯だったら〜』とかまたホザきやがったら、はっ倒すぞリョーガ・・・!」
 《え〜? 跡部くんってばヤキモチ〜?》
 「死んで来い」
 「ちょっと待て今のは俺じゃね―――!!」
 逃げている自覚があるのかないのか。ぎゃーぎゃー騒ぎながら歩いていると、
 ―――目の前に人が倒れていた。
 「佐伯か!?」
 《いやサエくんが倒れてたらどーすんのさ・・・》
 「いろんな意味で多分聴衆者全ての期待を裏切る事になんじゃねえのか?」
 《むしろ期待通りっしょ。サエくんが人の期待裏切んのは》
 「つーかてめぇら助ける気ねえのか・・・?」
 一応善人兼常識人跡部。ため息をつきながらもそちらへ歩み寄っていった。
 「行き倒れか? この恰好からすると、僧侶ってトコだよなあ?」
 「ほらやっぱ行き倒れっつったら―――!」
 《サエくん以外の誰がいるのさ!?》
 「いい加減佐伯から離れろ!! てめぇらの態度は行き倒れ起こす佐伯以外の人に対して失礼だ!!」
 《君の今の発言が一番失礼だったような・・・》
 「てめぇもだ千石!! 『語り』が余裕綽々嘘ぶっこいてんじゃねえ!! それこそ歴史狂うだろーが!!
  ―――ほらよく見てみろ!! どこが佐伯だ!!」
 言いながら、被っていた笠を外す。指を指し・・・・・・、
 「・・・・・・佐伯じゃねえか」
 「ほらやっぱぁ!!」
 そこから覗く銀髪に、さすがの跡部も黙り込むしかなかった。
 ずざざざざざざざざぁっ!!! と音を立て、哀しいほど怯えた様子でリョーガが下がっていく。痛くなるまで首を振って見送り戻し、
 「―――あちょっと待て。
  このエクステみてえなぴよぴよ髪はまさか・・・」
 そっと体を仰向けにする。
 改めて顔を見て。
 「・・・・・・やっぱ仁王か。
  おいリョーガ! 違うヤツだぞ!」
 「ホントにぃ!?」
 リョーガの叫び声がかろうじて聞こえた。耳に手を当て聞き取ってからまた声をかける。衛生中継並みの間抜けさだ。
 「本当だ!! 佐伯がコイツに扮してるワケがねえ!!」
 「んじゃあ・・・・・・」
 リョーガの口がそう言った。衛星代わりに千石の中継を経、かろうじて悟る。
 1分程度かけ、警戒しながらリョーガが戻ってきた。その間にも跡部は水をやり介抱していた。
 「おい、大丈夫か?」
 「・・・・・・は〜。悪いのう。空腹で目ぇ回しとったようじゃ」
 何とか目が覚め、ふらふらしながらそんな事を言う僧侶。支えながら指差し、
 「ほらなリョーガ。佐伯じゃねえぞ?」
 《なんで?》
 「アイツなら平気でそこらの草も食う。おかげで食物繊維摂取過多により腸捻転になった記録の保持者だ」
 《なんの記録さ・・・・・・》
 「た、確かに・・・!! 一般的食い物がねえから食わねえなんて理論の持ち主、佐伯のワケがねえ!!」
 《いーんだ・・・。あくまでそれで納得すんだ・・・・・・》
 「草なら食ったぞ? 消化出来んから結局同じじゃ」
 「やっぱお前佐伯かああああああああああ!!!!!!!!!!」
 「落ち着けリョーガ!! 佐伯ならぜってーセルラーゼ生成微生物腸で飼ってる!!」
 《多分この会話聞かれたら、リョーガくんの前に跡部くんが殺されるだろーね・・・・・・・・・・・・》
 「ちゅうか、消化出来んから食物繊維摂取過多になったんじゃなかと?」
 会話がどんどんマニアックになっていく。なぜそれにこの僧侶までついて来れるのかは置いておくとして。
 仕切り直し。
 「つまりさっきっからお前が名前言わねえから話が進まねえんじゃねえか。なんて名前なんだ?」
 「人に訊く時は自分から言うモンとね。プリッ」
 「そういやそうだな。
  俺は跡部。こっちはリョーガ」
 「よおわかった」
 「んでお前は?」
 「言うとは言っとらん。人の話はよう聞きんしゃい」
 「わかったんじゃ見た目から『仁王』っつー事で。反対意見のあるヤツいるか?」
 「『天海』とね」
 「よしよし。最初っから素直にそう言やいいんだよ。
  んじゃ褒美だ。握り飯あるからこれも食え」
 「かたじけないのう」
 《なんで僧侶餌付けしてるワケ・・・?》
 もぐもぐ食べる仁王改め天海とやら。跡部も頷き、
 「困った時はお互い様―――と言いてえが、
  そもそもお前何やってんだ? そんな服装でこんな人気のないトコいるって事は、修行僧か? それともどっかに行く途中か?」
 「俺は修行僧の方でな。今各地巡り歩いとる」
 「そんで行き倒れか? 近くの村とかで、食べ物分けて貰えんじゃねえのか?」
 「不思議じゃのう。前の村はなんでか追い出されての」
 「・・・。
  不思議、だな多分」
 何となく嫌な予感がする。仁王に良く似るこの僧侶。似てるのは顔だけではないと、今までの会話で充分判明した。
 考えている間に食べ終わったようだ。満足そうに水をすすり、
 「まあ礼といっては何じゃが、1つ面白いモン見せちゃる」
 「ほお? 僧侶のか?」
 「つー事はお経とかその他いろいろ利益のあるモンか―――」
 《リョーガくん、下心見え見え》
 「何だよ俺は普通にありがたがる気持ちじゃねえか。別にここで頂いて後で売り飛ばそうなんて事は微塵も―――」
 「リョーガ・・・。せめてそういう算段は心の中でしろ」
 ため息をついている間に準備は終わったらしい。天海が下げていた顔を上げ。
 「秘儀・瞬間変装。第
198弾、リョーガ編」
 「そーいう事やってっから追い出されんだよ!!」
 すぱこん!
 それこそ予想通りな展開に、跡部は傍に置いておいた笠で天海をはたき倒した。馴染みのないらしい被害者リョーガは硬直するだけだった。どうやら天海、やはりどこぞの詐欺師と同じだけあって、人を見る目は確かだったらしい。
 頭を擦り髪型を直し―――
 「いやもーそりゃいいから・・・」
 「っつー事で向こうに小栗栖って村があるからよ、礼はそこですんな? 俺行きゃ泊めてくれっから」
 「だから声色まで真似しねーでも―――
  ――――――小栗栖?」
 だら〜っと会話をしていた跡部の目が引き絞られた。
 「ピヨ」
 《リョーガくんはそんな台詞は言わないっしょ》
 「ンな事ぁどーでもいい!!
  やべぇじゃねえか小栗栖だと!?」
 「? どーした跡部クン?」
 「・・・いや活字だけだとどっちがしゃべってんのかわかんねえから、次からちゃんと名前名乗ってからにしろ」
 「リョーガです。どうなさいました?」
 「リョーガです。何か驚きの事態でも?」
 「結局わかんねーじゃねえか・・・。
  あーもーどっちでもいいがとにかくリョーガ!!」
 「あ酷でえ・・・」
 ボヤいた方の襟を掴みがくがく振る。
 振って、言う。





 「ここ小栗栖が!! 明智光秀最期の地なんだよ!!」





 「な―――!?」
 ようやっとこちらも驚きを露わにしたリョーガ(本物)。
 さらに振り回し、
 「歴史じゃ今日の深夜、山崎の戦で負け逃げ延びた光秀はここで落ち武者狩りに遭い、土民の手によって殺されちまうんだよ!!」
 「な、ちょ、ちょっと待て!!
  ならどーすんだよ跡部クン!!」
 「俺が知るか!! 俺はついてくっつったが何でてめぇはよりによって最悪の場所選んで来ちまってんだよ!!」
 「だってだって!! 何したかまでならまだしもどこで死ぬかなんて覚えてねーよ!!
  ―――んじゃまさか!!」
 バッ、バッとリョーガが辺りを大仰に見回す。
 緊張の時が流れ、





 「フフフフフフフフフフフフフ・・・・・・・・・・・・」





 風に乗り、低い笑い声が聞こえてきた・・・・・・。



―――第9回 4

2006.1.26