青学の人々
No.3.Writing 裕太
8月●日 水曜日 晴れ
聖ルドルフ学院2年の不二裕太だ。―――あ、今「不二の弟だ」なんて思ったヤツ後で覚えてろよ!?
俺は―――というか俺たちは今青学に来ている。別に俺が来たかったワケじゃない。ただ「全国大会も終わって3年が引退した後の青学の新戦力はどうなったかチェックしに行くのですが君もどうですか?」って観月さんに誘われただけだ。あとたまたま一緒にいた柳沢さんと木更津さんも一緒だけど・・・・・・なんだかなあ。あの1戦以来観月さんは兄貴の事異常に毛嫌いしてるし、しかもこれは俺がそう思ってるだけかもしれないけど観月さん木更津さんとも何気に仲悪りーんじゃねーかなあ。どーなるんだ、今日・・・・・・。
「お? 基礎練終わったみたいだ〜ね」
柳沢さんの言葉どおり俺たちがテニスコートにたどり着いた時、丁度運良く基礎練が終わったようだ。コートにぞろぞろとジャージを着た奴らが戻ってくる。
けど、さすがに他校から来てる奴らが多い。やっぱ気になんだろうな。あれだけの戦力を揃えてた青学の新戦力だもんな。マジでどーすんだ? レギュラーとかで今年争ってた9人中6人が引退―――ってかなりヤバイんじゃ・・・。聖ルドルフ[オレたち]みたいに金かけて集めたんならともかく、普通にしててあれだけ揃うってのは珍しいよなあ。そりゃ氷帝みたいに何百人からの選抜とかになりゃその位の実力者が集まるってのもわかるけど、テニスの名門校ってわりには部員少なかったような・・・・・・ってちょっと待てよ? 確か兄貴の話じゃ前のレギュラーのうち以前からテニスやってたのって・・・・・・。いや怖い考えだから止めとくか。そういう兄貴自身、テニス始めたの青学に入ってからだしなあ。
―――うげっ!? 兄貴に気付かれた!!
「あっ! 裕太!?」
わかったから嬉しそうに笑うな! 思いっきり手を振るな! 走り寄って来ようとするな!!
「裕太君、今日はあくまで『偵察』の為に来たんですからね。くれぐれも忘れないで下さい」
ううっ。観月さんの態度がメチャクチャ冷てー。
「裕太はお兄ちゃんと仲がいいだーね」
「クスクス、そうだね」
2人にも在らぬ誤解を受けてるし。しかも回りの視線も痛いし。大体なんでカンケーねえ他校の女子まで来てんだよ!? ―――ってこの視線考えりゃすぐわかるけどな・・・・・・。
とりあえず諸悪の根源の馬鹿兄貴を睨んで―――と、
「裕〜〜vvvv ・・・え?」
移した視線の先じゃ走り寄ろうとしてた兄貴が前につんのめってた。どうやら隣にいた越前が兄貴のジャージの袖を引っ張ったらしい。いいぞ! 越前!!
軽くかがんだ兄貴の耳に越前が何か囁いてる。でもってそれを聞いた兄貴が笑って越前の帽子をポンポンって叩いてた。たぶん―――
―――先輩、俺より裕太の方が大事なわけ?
―――やだなあ越前君。そんな訳ないじゃない。もちろん僕は君が一番だよv
ってトコか。読唇術なんて出来る訳じゃないけど、兄貴の、俺ですらほとんど見た事ない笑顔見たらこのくらいは推測できる。ついでに言うと菊丸さん以外で家に上がらせたのが越前だけって辺りで(姉貴の話でな。俺がンなにちょくちょく家に帰ってるわけ無いだろ?)、兄貴と越前の関係は大体予想がつく。
けど・・・なんだ、あんな笑顔[カオ]も出来んじゃん。―――別に嫉妬じゃねえぜ!?
「んじゃレギュラーは今日は以前やった『ゾーン練習』をするからな!」
集まった部員を前にそう叫んだのは桃城。って事はこれからの部長はアイツって訳か。あ、そーいやレギュラージャージ来てる奴変わってる。兄貴たち3年は普通のジャージだった。―――うわなんか似合わねー。
桃城・海堂・越前・・・はそのまんまか。後は―――さすがにわかんねーな。青学[ココ]にいたの数ヶ月だしなあ。
「じゃあゾーン練習のやり方は多分覚えてると思うから、まずはそれぞれのプレイスタイルから説明・・・します」
レギュラージャージの―――多分2年だな―――が説明する。茶色い癖のない髪で優しげな、兄貴とは少し違った感じの―――ってそう思うのは兄貴の笑みについていろいろ知ってるからか?―――優しい笑みを浮かべた男が、見た目の印象どおりオドオドと。何回も乾さんの方を伺い見て。
―――ああ成る程な。アイツが新しいマネージャーって訳か。いや乾さんは部員だったけど。ってそれを言ったら観月さんだって部員だったけど。
「まずカウンターパンチャーは海堂君・僕・池田君、アグレッシブ・ベースライナーは桃城君・荒井君・林君・堀尾君、サーブ&ボレーヤーがいなくってオールラウンダーは越前君。
で、今回はそれぞれ普段とは逆のプレイをしてもらう、ということで・・・・・・」
「普段とは逆?」
「それってどう言う事っスか?」
そいつの説明にレギュラー(だと思う)奴らが聞いてきた。1人は顔にそばかすのある奴、もう1人は越前と同じくらいの背の奴。
俺もよくわかんなかったけど、逆って言ったら例えば桃城・越前なら守り、とかか? ってそういや俺はそもそも『ゾーン練習』っていうのがよくわかんねーよ。
「え〜っとそれは・・・・・・」
説明してた奴はその質問に口篭もって乾さんの方をまた見た。つまりは練習内容はわかっても理屈まではまだつけられないってわけだ。
乾さんもそう判断したのか、手に持っていたノート(たしか兄貴の話じゃ『データノート』だっけ)を広げて説明を交代した。さすがに威厳がある。
「つまりは前回とは逆に、カウンターパンチャーと今回はいないけどサーブ&ボレーヤーが攻撃、アグレッシブ・ベースライナーとオールラウンダーが守りにつく、と言う事だよ。ルールは前回同様攻撃側が半面・守り側が全面の5ラリー対決。ただし今回は3回勝負で先に2勝した方の勝ちとする。1−1になっても延長戦はなし。以上」
「どーいう事っスか?」
今度聞いてきたのは越前。まあ今ので大体のルールはわかったけど・・・・・・やって何か意味あんのか?
「今回の目的は『パターン化の防止』―――というほど大げさな物じゃないけど、まあ簡単に言えば『苦手の克服』って事かな?
試合の時は出来る限り自分の得意な形に持って行こうとするだろ? けどそればかりをやっていればワンパターンの物となる。もちろん完全にワンパターンである事なんてないけどね」
「なる程・・・・・・」
「それは確かに・・・・・・」
「これが悪いとは言わない。使い慣れたものなら、より色々な意味で優位になるからね。
けどそれが通用しない場合が大変だ。4月のランキング戦、海堂対越前の試合を見た人は結構多いと思うけど、あれなんか典型的なパターン。スネイクを使って相手を左右に振り回し、疲れきったところをじわじわいたぶるっていうのが海堂の得意パターンだけど、結果は逆に越前にいたぶられる形となった」
「いたぶるって・・・・・・」
「けっ・・・・・・」
へえ、そんな事あったのか・・・・・・あ、海堂機嫌悪そうだな。横向いてる。
「海堂は今その克服としてより体力を―――持久力をつけようと励んでいる。おかげで今の海堂と持久力で張り合えるのは同じカウンターパンチャーの不二と大石くらいだろうな。このプレイスタイルの特徴は粘って粘って相手のミスを誘う事だからね。持久力がないと自滅しかねない。
けど試合中自分のプレイスタイルが通用しないって思った時、この時は海堂のような手は使えない。じゃあどうするか。これの一番わかりやすい例が菊丸だね」
「んにゃ? 俺?」
「そう。ルドルフ戦や氷帝戦、単純なネットプレイは通用しなかっただろ?」
「ゔ・・・・・・」
「けどだからといってそのままではなかった。ルドルフ戦でのオーストラリアンフォーメーション、大石に主導権を渡しての囮作戦、そして充電。また氷帝戦でははじめて後衛に立って桃城をリードした。
どちらも本来の菊丸のプレーとはかけ離れている。これらはダブルスだからこそ出来る事ではあるけど、実際あそこまで変えるのはかなり難しい事だ」
「つまり今日の練習では敵を欺く方法を学ぶ、って事っスか?」
聞いたのはまたも越前―――ってスゲー言い方だな。
「まあそんな所かな。とはいっても本当にそんな事が出来るのは桃城と越前くらいだろうからそこまでは言わないよ。ただ『何もわからない』状態より『1度でもやった事がある』方がいざと言う時やりやすいだろ?」
「ああなるほど」
笑顔で兄貴が頷いてる。なんかなあ・・・メチャクチャなんか企んでますってな顔で頷くなよ。しかもこっち―――って言うか観月さんの方見てるし・・・・・・。
「ある程度はやっておいたからオーストラリアンフォーメーションもブーメランスネイクも本番で上手く出来たってわけだね?」
「ぐ・・・・・・」
うわ〜、つまりルドルフ戦[ほんばん]までどっちも出来てなかったってわけか。そりゃそうだな。出来てたら観月さんが知らないわけねーか。
―――ってか観月さんがかなり怖いんだけど・・・・・・。
「そういう事だ。あとあえて言うなら理想は不二かな。一応プレイスタイルは決まってるっぽいけど攻撃・守り両方出来るし、固定のパターンがないからね」
「何それ? だからデータが取れないって意味の皮肉?」
「まあね。
せめて気分でコロコロ変えるのを止めてくれるともう少し取りやすくなるんだけどね。あともう少し全体的に『本気』を出してくれると助かるよ」
「けどホラ、あんまり本気出していたぶっちゃカワイソウじゃない」
「・・・・・・にゃんか不二の口から出たとは思えにゃい台詞だね」
「そーっスか? むしろ弱いやつに1ポイントでも取られるとムカつきません?」
「越前君はそういうタイプだよね。『獅子は兎を倒すにも全力を使う』って感じ」
「―――不二が言うとまるで兎をいたぶって倒すかのようだな・・・・・・」
・・・・・・なんか気が付いたら全然会話カンケーねえ方に飛んでねーか?
「乾・不二・菊丸・越前」
あ、やっぱ止められた。けどさすが手塚さん。呼んだだけで静かになったよ。
「・・・で、そんな訳でいつもとは全く別の事をやってみよう、という計画。わかったかい?」
「先輩」
海堂が手を挙げてくる。何気に律儀だよな、コイツって。
「俺別に攻撃が苦手な訳じゃないんスけど」
「けど短期決戦は苦手だろ? 5球以内に決まらなければ自動的にお前の負けになる」
「・・・・・・」
「今回カウンターパンチャーには短期決戦、アグレッシブ・ベースライナーには守りがそれぞれの課題だ」
「・・・・・・俺は?」
「越前はオールラウンダーだけどかなり攻撃型だからね。今回は守りについて学んでもらうよ」
「・・・ういーっス」
「あとは組み合わせ。プレイスタイルに偏りがあるのが難点だけど、まあ吉村優対荒井・池田対林・海堂対桃城、で・・・」
「ええ!? 俺が越前とっスか!?」
「いや、それだと下手をすると越前が1球で勝負を決めかねない。それじゃお互い練習にならないから代わりに俺がやろう」
「い、乾先輩と!?」
「かわいそうに堀尾君、負け決定だね」
「そうだね」
「じゃあ俺誰とやるんスか?」
「越前は―――3年の元レギュラーの中で越前とやりたい人いるかい?」
『はい!』
・・・こんなんで決めていいのか?
けどまあ越前は人気あるみたいだな。とりあえず真っ先に手を挙げたのは菊丸さんと兄貴、んで少し控えめに挙げたのが手塚さんと大石さん、遅れてオズオズと河村さんが手を挙げた・・・。よりどりみどりってトコか。多分さっきの奴の相手がなかったら乾さんも手、挙げたんだろうな。
「で、越前、誰とやりたい?」
本気でこれで決めんのか? そりゃ練習だけどさ・・・。
「青学って面白いところだね」
木更津さんもクスクス笑ってるし。危うく俺も後一歩であの中に入るトコだったのか・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・。
乾先輩、質問なんスけど」
「ん?」
「また、罰ゲームみたいなもんあるんスか?」
また? ってか罰ゲーム? そういや兄貴が何か言ってたよーな・・・・・・
「ああ。今回は基本に立ち返ってこの―――」
とかいってどっかから何かを取り出す。・・・・・・いやホント何だかわかんねーんだけど・・・・・・。
「乾特製野菜汁改良型32号を用意した」
ずざざざざざざ!!
って音がしそうなくらい面白いようにみんなが引く。つまりはまあそんなもんなのか・・・。納得。
「『乾特性野菜汁』・・・!?」
「っていうか32号!?」
うわみんなすっげー怯えてる。あ、海堂まで顔引きつってる・・・。
「―――なら」
そんな中越前が平然と―――むしろあの生意気な笑みで手を挙げた5人を見回した。
「英二先輩、勝負しません?」
・・・ご指名制? 選ばれなかった兄貴の笑みが引きつってるよオイ。
「俺?」
菊丸さんも予想外だったみたいだな。兄貴のほう横目で伺ってるよ。気持ちはわかるけどな。・・・・・・やっぱ苦労してんだな、菊丸さん。
「今日こそ野菜汁飲ますっスよ」
「あ、にゃるほど〜。けどおチビってこーいう感じの勝負、俺に勝った事なくにゃい?」
「・・・・・・今日こそ勝つっスよ!」
なんとな〜くなんかあったってわかるけどな・・・・・・越前、それじゃぼろ負け続きの悪役の台詞じゃねーか・・・・・・。
「ふ〜ん。じゃ、いいよ〜ん」
「菊丸相手か。なら予定通り越前が守りで菊丸が攻撃だな」
「うげ・・・・・・」
「らっき〜♪」
「あれ乾、けどそれだと越前君はともかく英二は練習にならないんじゃない?」
「いや、前回と同じく攻撃側はベースラインより前には出られない。後ろからどうやって攻撃するか、それが菊丸の課題だ」
「え〜〜〜!!?」
「ああ、あと丁度元レギュラーの3年も全員揃ってるし、見本として後の4人にもやってもらおう。組み合わせは菊丸が抜けたからおおむね前回どおり。大石は今回は河村と。それと不二対手塚。さっき言った通り大石は短期決戦、河村は守り、それと手塚は―――まあ人数合せだな。一応守り」
「僕は?」
「不二はもう何言っても無駄そうだけどね。とりあえず『目的を果たす』かな?」
「ああなるほど」
「―――じゃあ始めるぞ!!」
最後の〆だけは桃城。部長の貫禄が薄いのはどう見ても今だにいる3年のせいだな・・・・・・。
「まずテスターは不二と手塚だ」
結局主導権を握ったのは乾さん。最初に説明してた奴はその隣で持ってたノートにせっせとなんか書き込んでる。
『テスター?』
周りから声があがった。ちなみに俺も呟いてたりするんだけどな。
「まあ気にするな。じゃ、サーブは前回同様俺が出すから」
「よろしく、手塚v」
「・・・・・・。ああ」
にっこり笑う兄貴に手塚さんも返事が遅れた。よっぽど越前に指名されなかったのが悔しかったんだろうな。なんかオーラがドス黒い。むしろ返事出来た手塚さんが凄いよ・・・・・・。
「では―――Go!」
乾さんの声と同時にサーブが放たれる。練習してた奴らも手を止めてそっちを見てた。やっぱ気になるよなあ。元とはいえレギュラー同士、それもNo.1とNo.2、2人とも文句なしに全国区となれば。
んで、その勝負の結果は・・・・・・。
「んふ、不二君もさすがに手塚君相手では歯が立たない、といったところでしょうか・・・・・・」
やたらと嬉しそうに観月さんが言う通り。
「0−2。手塚の勝ちだな」
「ありがとうございましたv」
あれ? てっきり腹いせ失敗に機嫌悪くなるかと思ったんだけどなあ・・・・・・。
「不二ーーー!!!」
むしろ見てた菊丸さんが怒ってるし・・・。
「なに? 英二」
「真面目にやれよーー!!」
「そーっスよ! せっかく不二先輩と手塚部ちょ・・・じゃなくて手塚先輩の対戦だって楽しみにしてたのに!!」
『・・・・・・』
なんだ手加減してたのか。通りであっさり終わったわけだ。
けどよくあの2人わかったな。驚いてる様子からすると他の奴は気付いてなかったっぽいし。―――乾さんは別か? 表情1つ変わってない。
「あはは。ごめんね、越前君。けどね―――」
なんか笑みがより一層怪しくなったような・・・。
「『改良型』とか『32号』とか聞いたらつい飲んでみたくなるじゃない」
『ならない!!』
「やはりな」
やっぱ予想してたらしい。乾さんが特に何も言わずコートに近付いて、兄貴にあの変なモンの入ったコップを渡してる。
「いいのかよ乾! 不二真面目にやってなかったじゃん!!」
「だから言っただろ? 不二には何言っても無駄だって。それに『目的を果たす』はちゃんと守った訳だし」
『それなんか違うだろ・・・・・・?』
口にしたのは菊丸さんと越前。俺も心の中では思ったよ。
で、それを無視してくぴくぴと一気飲みする兄貴。
「それに、『テスター』ってつけただろ?」
しれっと答える乾さん。なるほどな、『試し飲み』って訳か。兄貴がそれに選ばれた時点でもう少なくとも味は大体予想つくけどな。
「う〜ん、青臭さが上がって酸味が下がったね。僕としては前の方が良かったかな?」
「なるほど。不二は青臭さより酸味を好む、か。いいデータが取れたな」
「・・・大抵の奴ってそうなんじゃないっスか?」
「けど不二の一番の好みって辛味でしょ? わさび寿司とかペナル茶とか」
「苦味もじゃないっスか? コーヒーいつもブラックだし。しかもインスタントの粉あからさまに入れすぎだし」
「―――僕は特に嫌いな味はないけど?
ああ、さっきの批評はあくまでバランスの問題だから。これだと青臭さばっかり目立っちゃうんじゃないかなあ、って思って」
「・・・・・・。せっかく貴重なデータだと思ったのにな」
「とりあえず不二は味にうるさい、これでいいんじゃにゃい?」
・・・・・・・・・・・・
もう俺書ける事何にもないんだけど・・・。
「つまりあれは青汁みたいなものなんだ〜ね」
「意外とつまらないことしてますね、青学は」
「あ、ははは・・・。そうですね・・・・・・」
言えねー。
あの兄貴が負けてまで飲みたいものが『青汁』レベルで済む訳はない!! なんて・・・
泳ぐ目が、
「クス・・・」
木更津さんと合った。―――もしかして全部見透かされてる?
「―――だけど手塚、キミ今回は結構本気で来たよね・・・」
「・・・後輩指導のためだ。当然だろ」
目を開けて笑う兄貴に手塚さんがそれっぽい理由をつけてる。けどちょっとあった間が何を言いたいか雄弁に物語ってた。
―――相当マズイな、あれは。
「わざと負ける気だった割には5球きっちりかけたのは不二の嫌がらせか、それとも本気でやったという割には5球全て不二が取りやすいところへ落としていた手塚が律儀なのか、どちらとも取れない一戦だったな」
「けどとりあえず手塚はちゃんと指示どおり動いた訳だし・・・はは・・・・・・」
淡々と批評(か?)をする乾さんにそれこそ律儀にフォローを入れる大石さん。―――さすがに兄貴はフォローのしようもないか。
「じゃあテストも終わったところでいよいよ本番に行こうか」
そう言うと乾さんはなんでかフェンスから外に出てきた。周りに張り付いてた奴らとなんか話してるな。
あ、俺たちのほうまで来た。
「少し悪いんだけど、道を開けておいてくれないかな?」
「道、ですか・・・? どこへ?」
「あ・そ・こ」
冗談なのか可愛らしく(!?)言葉を切る乾さんの指の先を見て―――俺は大きく頷いた。疑問そうな観月さんや柳沢さんを誘導して数歩下がる。木更津さんも特に何も言わずに下がった。これで丁度1本の道が出来た訳だ。コートから―――水道までの。
「最初は大石と河村。次に海堂対桃城・吉村対荒井・池田対林、で俺対堀尾、最後に越前対菊丸だ」
戻っていった乾さんの発表からすると、『偵察』すべきなのは2戦以降。けどやっぱ気になるのは1・2戦、それと最後だな。聖ルドルフ[ココ]が悪いって訳じゃないけど、もし俺が青学にいたらこの人たちと戦えてたのか―――って少し思う。
「―――裕太。あそこに自分もいたかった?」
突然聞かれてびっくりした。なんか自分に聞かれてるみたいだ。
「な、何言ってるんですか木更津さん! 俺は俺の意志でルドルフに・・・・・・!」
「そう・・・・・・」
クス、といつも通り笑って目をコートに戻す木更津さん。何となく、何となくだけどな・・・・・・
・・・・・・このヒト、兄貴に似てる・・・。
見た目とか性格とかじゃなくて、相手との接し方。かなりざっくりと食い込むかと思えばあっさり引いていく。全て見透かしてるようで、それでもこっちが望まない限り肝心なところには一切触れない。もどかしいような、イラつくような、そんな感じはするけど―――けど安心もする。甘えてるとは思いたくないけど、包み込まれてるような、そんな感じ。
「始まるみたいだね・・・」
「そうですね」
初戦は、2−1で大石さんの勝ち。河村さんの力強いプレイに押され気味に見えたけど(って河村さんの方が守りなんじゃ・・・・・・)、冷静に相手の隙を突いたムーンボレーが連続で決まった。
「ぬおおおおおお!!」
『野菜汁』を飲んだ河村さんは見当違いの方向にダッシュして―――フェンスに激突してそのまま気絶。
「半バーニング状態だったね・・・・・・」
「なる程。ラケットを持たなくても特殊条件下ではバーニング化する、という事か。いいデータになったな」
あっけに取られる回りの人々。冷静に解説する兄貴と乾さん。俺は・・・・・・冷や汗をたらしつつ思いっきり目を逸らしていた。
第2戦は、1−2で桃城の勝ち。乾さんの指摘通り海堂は5球で攻めきれなかった。とはいってもスネイクにしっかり喰らいついていった桃城の瞬発力の勝利、ってトコだろうな。まあそれこそ持久戦だったらこうはいかなかっただろうけど。
「・・・・・・・・・・・・……っ!!!」
飲み終わって、何もなかったみたいに歩き出す海堂。だんだん足が速まって、顔面真っ青になって、それで・・・・・・
「海堂ですらフェンスまでが限界か」
「あっぶね〜、前回以上じゃねーか」
フェンス入り口で倒れた。とりあえず誰か水道まで運んでやれよ・・・・・・。
第3戦は2−0で乾さんの後輩っぽい奴の勝ち。
「2−0。吉村の勝ち」
あー、あいつ吉村って言うのか。確かカウンターパンチャーだっけ。その割には攻撃も上手かったな。相手の隙を見つけてって意味では合ってるけど。
「吉村もなかなかに力をつけてきたな。データテニスとまではまだ行かないけどよく相手を見てる。隙を見つけるのも上手くなった」
「ホント、さすが英二を相手に1ゲームとはいえ取っただけあるよ。しかもあの一戦、後半は割といい勝負してたしね」
「うるさいにゃ〜不二。けどにゃ〜んか吉村って苦手。不二とか大石とかみたいに粘っこいプレイするんだもん」
―――ちなみに負けた長髪の奴は「ぐがふっ!?」とか呻いてコートに沈んでいった。
第4戦は2−1で・・・・・・
「2−1。池田の勝ち」
中学生のテニスとしては割と上手い方だと思う。けど今までの青学が『超中学生レベル』だったからなあ。そこからすると普通か。
「まあこの2人はこれからに期待、といったところか」
―――乾さんも似た感想を持ったらしい。そしてこの人も。
「青学の新レギュラーは大した事なさそうですね。んふ」
「はあ、そうですね・・・」
さすがに同学年の奴を格下扱いはしにくい。一応自然に聞こえるように返事する。
「がは・・・!!」
視線を戻した先では負けた方―――名前覚えてねーや―――が一言言い遺してそれきり動かなくなった。・・・・・・本気であれって殺戮兵器じゃねーのか?
第5戦、最初に言った通り乾さんがあの1年の(越前と同じ身長って事は1年だよな?)相手をして―――で、まあ当然2−0で勝ってた。しかも練習になるようにだろうけど、きっちり5球目まで待ってからスマッシュで一気に勝負つけて。
・・・・・・何気に兄貴以上の嫌がらせじゃねーか?
「は、は〜。やっぱ乾先輩強いっスね・・・・・・」
「堀尾が弱すぎるだけじゃん」
同じレギュラーに対して越前のこの発言。この間俺と対戦した時ってまだ(言葉では)手加減されてたのか?
「うるせ〜!!」
「ま、まあ堀尾はまだ1年だし」
「大石先輩それ慰めになってないっスよ? 『テニス歴2年』とかいつも自慢してたじゃん」
「それに同じ1年の越前君が証明してるしね。別に学年と実力は比例しないって」
「そ〜そ〜。あとテニス歴も不二だっておチビだって2年ちょいじゃん」
「・・・・・・越前、不二、英二。頼むから若い芽は潰さないでくれ・・・・・・」
「けど俺桃先輩に『出る杭は早めに打っとかねーとな』って言われたっスよ?」
「へえ、越前君よく意味知ってるね」
「・・・馬鹿にしてるんスか?」
「そんな訳ないでしょ?」
「・・・・・・おーい、頼むからそっちで盛り上がらないでくれ〜」
寂しそうに言う1年。堀尾だっけか? やっと向いてもらえたと思ったらコップ渡されてるし。つくづくこの部活の勢力関係ってわかりやすいよなあ・・・・・・。
「がっ!! がはっ!! げへっ!!」
「―――堀尾、吐いたらもう1杯追加になるぞ」
「そ、そんな〜・・・・・・ゴホ」
―――本気でわかりやすいな。ってか今までイジメとかなかったのか、この部は・・・?
倒れた気の毒な堀尾氏を(・・・なんかもう他人事だとは思えねーんだけど)水道まで運び出していよいよ最終試合。
「ぜ〜〜〜ったい勝つからにゃ!!」
「今日は負けないっスよ・・・・・・」
にやりと笑いつつも目は本気の越前に、ラケットを器用に片手でくるくる回す菊丸さん。そういや赤澤部長たちとの対戦でもやってたっけ。確か集中するため、とか。
「では第6試合、Go!」
乾さんの掛け声と共に、一番注目の―――って言っても間違いなさそうな一戦が始まった。
「せ〜め〜づ〜ら〜い〜にゃ〜〜〜〜〜!!!」
互いに2球目を終えての菊丸さんの台詞。そりゃネットに張り付いてる越前を後ろから抜くのは難しいだろうな。越前のネットプレイは厄介だって観月さんも指摘してたし。
「頑張れ英二! そこを攻めるのが課題だ!」
さすが黄金ペア。大石さんは菊丸さんの応援をしてる。まあ今回は同じく攻撃組だからってのもあるか。その割にはやっぱり攻撃組だった兄貴は、
「さすが越前君。このまま後3球英二を押さえ込めば勝てるよvv」
なんて越前の応援してるけどな。ちなみに他の奴らは黙って興味津々って感じで見てる。―――乾さんはノートと2人を交互に見てはなんか書き込んでるけどな。
「英二先輩、このままじゃ『勝てない』っスよ?」
越前の笑みがさらに深くなる。でもってわざと菊丸さんの取りやすい球を返す。そりゃ『守り』なんだから当り前だけどな。
・・・・・・越前のこの性格は前からなのかそれとも兄貴に出会って変えられたのか・・・。
「こーにゃったら〜〜〜!!」
おおおおお!!!
正直俺も驚いた。ネットにいる越前の死角をついたムーンボレー。けどあれって大石さんの十八番じゃなかったっけか?
「―――まだ、だね・・・・・・」
みんなが騒ぎ立てる中、一人兄貴だけは静かに呟いていた。顔は少し下に向いてるけど、髪で隠された中で目を開いて薄く笑っているのは明らかだった。普段の微笑みとも、恐怖の冷笑とも違う――本当に楽しそうな笑い。
そしてその言葉を実行するようにボールに向かって猛ダッシュする越前。ラインギリギリに(さすがにライン上じゃなかった)落ちてきたボールに飛びついて、スライディングで返す。
ヘロヘロのロブ。菊丸さんにとってはこの上ないチャンスボール。それでも・・・・・・。
「上手いね」
木更津さんの感心した声に俺も頷いた。どこまで越前が考えてたのかはわからないけど、ヘロ球はその分滞空時間が長い。越前の足なら菊丸さんが打つまでにまたネットまで戻れる。そう、途中でコケたりしなければ。
菊丸さんの最後の1球。得意のジャンピングスマッシュ(って言えるのか? 確か菊丸さんは『菊丸ビーム』とか言ってたっけ)でも決めるかと思ったけど―――そりゃまあ後ろからスマッシュっていうのはかなり変則的だけど、あれだけ高く跳べば後ろからでも十分決まるよなあ―――意外とそのまま留まって、むしろ越前が戻ってくるのを待ってるかのようにじっとして・・・・・・。
ダッシュしてきた越前に声をかけた。
「ねえおチビ! 今日の部活前も、部室で不二と抱き合ってたよねえ!?」
どべしゃぁっ!
勢い余って今度は前にヘッドスライディングをかます越前。その後ろに再びムーンボレーが決まった。
「や〜いや〜いおっれのっ勝ちっ!!」
「―――ってまたその手っスか!!?」
「にゃはははは〜vv 勝つ為には手段は選ばにゃいよん」
「マトモにやってください!! 大体今日は不二先輩が俺にのしかかってきたんです!! ちゃんと後ろからだったじゃないっスか!! 英二先輩と同じく!!」
「―――なる程、越前と不二は部活前部室で抱き合うほどの仲、か」
「そんなの当り前じゃないv やだなあ、今更」
「ところで『後ろから』って?」
「ああ、以前前から抱きついたら抱き合ってるみたいに見えるって越前君すっごい怒っちゃって。それ以降一応人の在るところでは後ろからにしてるよv」
「って不二先輩知ってたんスか!? 英二先輩がいるって!!」
「ふふ、当り前じゃない。人の気配には敏感なんだよ、僕」
「だったら止めようとか―――!!」
「止める? なんで?」
「なんでって―――!!」
「だって他の人ならともかく英二だし」
「・・・・・・それどーいう意味?」
「英二に僕のものに手を出す勇気があるとはとても思えないし」
「そ、そりゃまあ・・・。否定できないけどさ・・・・・・」
「英二だけではないだろう。不二のものに手を勇気があるとしたら、不二の事を全く知らない他人か、あるいは自殺願望者・精神異常者、もう少し端的にマゾといった程度だろ。
少なくとも青学男子テニス部には存在しないな」
「冷静な分析ありがとうv」
ちなみにもしかして、その中には兄貴に歯向かった観月さんも含まれてるのか・・・・・・?
「だからそういう問題じゃなくって!!」
「そ〜んにゃに照れてムキにならなくてもいいよんv ちゃ〜んとあったか〜く見守っててあげるからvv」
「そんなサービスいりません!!」
何かもう4人でメチャクチャに会話進めてるよ。今まだ練習の途中だって覚えてる奴どれだけいるんだ・・・?
「んで? カウントは? もちろん俺のポイントっしょ?」
あ、菊丸さん覚えてたらしい。まあこういうのは当事者ほど冷静だからな。――なんか違うか? けど俺の周りじゃこんなモンだぜ?
「そうだな。1−0で菊丸のリードだ」
いいのか今の得点に入れて・・・・・・。『けどおチビってこーいう感じの勝負、俺に勝った事なくにゃい?』っていう菊丸さんの言葉の意味が一部よ〜くわかったような気がする。
「・・・ってなあ英二」
「うにゃ? にゃに大石? 俺が勝った事誉めてくれんのvv?」
「いやそうじゃなくて・・・・・・。
・・・・・・『またその手か』って、もしかしてこの間越前に勝ったって言ってた時もこんな感じだったのか・・・?」
「ゔ・・・。け、けどまあ最初はちゃんと勝負してたよ・・・?」
大石さんに上目遣いで訴える菊丸さん。つまりは途中からはこういった手で越前に勝ったってワケか・・・・・・。
「そーっスね。1ゲーム対戦で15−15までは普通にやってたっスよ」
「おチビ! 余計なこと言うにゃ!!」
「俺はただ試合の途中結果を報告しただけですから」
もう立ち直ったみたいでしれっと越前が答える。やっぱこのくらい図太くねーとこの部じゃ生きてけねえのか・・・?
「―――ちなみに不二、今のは本当か?」
「本当だよ。
こんな感じで英二対越前君では、越前君もポイント30までは取ったけど英二の勝ち。
僕対英二はラブゲームで僕の勝ち。
それで越前君対僕は40−40でアクシデントがあって中断」
「アクシデント?」
「うん! スゴかったにゃ!! にゃんとおチビの新必殺技が出たにゃ!!」
「新必殺技? というと?」
「それがね・・・・・・」
「うわーー!!! 何でもないっス何でもないっス!!」
笑って言おうとする兄貴の口を越前が必死に塞ごうとする。・・・ンなにやべー技なのか・・・?
そんな越前の努力を完全に無にして菊丸さんが騒いだ。
「にゃ〜んと不二の裏トリプルカウンターと互角に張り合えるくらいスゴかったの!!」
『裏』・・・・・・?
新しい兄貴の必殺技かとざわめく他校生と1・2年。それに混じって・・・・・・俺は嫌な予感に冷や汗をだらだらと流した。
「裏トリプルカウンター? そんな物があったのかだ〜ね」
「裕太君は何か知ってますか?」
「い、いえその、俺は何にも・・・・・・」
確信は出来ない。けど以前兄貴と菊丸さんに別々に聞かされた話を合わせると―――というか知ってるらしい3年生が、とはいっても実際は手塚さんと大石さん、それに河村さんだけだけどとにかくその3人の驚愕の様子を見たら間違いはなさそうだった。手塚さんまで体中で驚きを表してるし。
「裏、だと・・・?」
「あの封印された?」
「間違いはないのかい、英二?」
3人とも信じたくなさそうだ。俺も信じたくはない。越前が、あの生意気・強気極まりない越前がアレをやったなんて・・・!!!
「ホントホント。どれくらいスゴかったって、不二が行動不能になるくらい!!」
「馬鹿な・・・・・・」
「なんで越前が・・・?」
「よりによってあの技を・・・・・・?」
「―――ねえ」
兄貴の冷たい声に話していた4人がビクリとした。ついでに俺も。
「さっきから何か好き放題言ってくれてるようだけど・・・・・・キミたち言いたい事があるならはっきり言おうね」
『い、いやなんでもない・・・・・・』
「じゃあはっきり聞くけど―――菊丸、お前の言った『裏トリプルカウンター』っていうのはアレだよね?」
なんでかこの寒々しい空気の中、平然と乾さんが質問してたりする。聞かれた菊丸さんはこくこく頷くだけだったけど。
「で、越前のその『新必殺技』の感想は?」
「そりゃも〜すっごいカワイかったvv あんなの見られて不二は羨ましいにゃ〜。っていうか俺も持ち帰りたかったにゃ〜vvv」
「―――へええええええ・・・・・・」
うわ空気の温度さらに下がったし。
「英二、キミそんな事考えてたんだー。これ以上キミのそばに越前君置いておくと危なさそうだね。どうしよっかvv?」
「・・・・・・・・・・・・」
可哀想に菊丸さん。ヘビに睨まれたカエル―――ってかあれじゃ凶悪無比の主人にに睨まれたネコだよ・・・。震えすら出来ないし。他の人みんな視線逸らしてるし。
「じゃあ・・・・・・」
「―――ねえ」
さっきの兄貴と同じ言葉。けど今この兄貴を前に声がかけられる、っていったら・・・・・・
「さっさと続きやりません?」
途中からは話の中心から外れていた越前がもうコートに戻ってた。平然と言ってるけど―――多分その話題から、というか『新必殺技』とやらから離れたいんだろうな。
「そーそー! そーしよ!!」
「そうだね。
―――けど英二、後で覚えておいてね・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
一応これだけじゃワケわかんないだろうから補足しておく。とはいってもちゃんと確認した訳じゃないからあってるかはわかんねーけどな。勇気のある奴は後で兄貴か菊丸さんかに聞いてみるといいんじゃねえかな。―――何があっても保証はしねーけど。
確かあれは兄貴たちが中学1年の時、夏の合宿が終わって早くもレギュラーになった手塚さんと兄貴の練習試合での事だった。
割と互角に戦ってたらしいけどさすがにテニス歴ンか月で手塚さんに勝てるわけはねえよな。手塚さんのマッチポイントで―――
―――兄貴が何かやったらしい。
何か。菊丸さんもとても怖くて口に出せないって言ってたけど、とりあえずそれで試合はうやむやになったそうだ。ちなみにそれに対する周りの反応を挙げると、
手塚さんは立ったまま卒倒したらしい。周りで鼻血出した奴は10人を超えたらしい。保健室に運ばれた奴もいたらしい。部活自体続行不可能になったらしい。その後兄貴のファンクラブ(いつ出来たんだ・・・?)には男が殺到したらしい。
でもってその『技』は使用不可と周りにきつく言われたらしい。
・・・・・・まあ何があったのかは予想してくれ。多分合ってるから。
けどなあ、
あの越前がいくら兄貴相手とはいえ『媚びた』とはなあ・・・・・・。よっぽど負けたくなかったのか、それとも実は兄貴相手には日常茶飯事、とか? 言われて嫌そうだったけどあくまで『人にばらされるのが嫌』って風にも考えられるし。
―――ちなみに俺はその話を兄貴から聞いた時、うかつにも何をやったのか聞き返し・・・・・・それで食らったんだけどな。卒倒した手塚さんの気持ち、よくわかるよ。
んで試合の続き、だけど・・・・・・
「ところで英二、いつからあれが『裏トリプルカウンター』なんて名前になったわけ?」
「そうだな。まず1種類しかない。第一あれは『返し技[カウンター]』ではないだろ?」
もちろん越前にサーブを出すためだけど菊丸さんの隣にいる乾さん。でもってこっちは何でかさらにその隣にいる兄貴。
「んにゃ? だって不二の技だし。となったらそれしかないっしょ」
おかげでみんなにも通じたし、と笑う菊丸さんには俺も賛成する。けど兄貴は納得できなかったみたいでいつも通り目を閉じたまま首を傾げた。
「・・・そうかな?」
「そう。それに不二ならあと2種類くらいぱぱっと思いつくでしょ?」
「それはまあ、後2種類といわず軽く20種類くらいは思いつけるけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「だが越前もそれをやったのか。ぜひ今後の参考に見てみたかった」
「あ、ダメだよ。越前君は僕の前でだけ、やってくれるんだから。
―――ね? 越前君v」
「2度とやりません」
「え〜、なんで〜?」
笑顔のまま可愛らしく口を尖らせる兄貴・・・・・・怖い! ひたすらに怖すぎる!!
「当り前でしょ?」
「酷いなあ。僕は越前君のためだったらいくらでも出来るのに・・・・・・」
拗ねてるし! 何かもうこのままじゃ地面にのの字書きそうだし!!
「止めてください。絶対に」
「―――っていうか不二、それは嫌がらせにゃ・・・」
「越前の様子からしてもかなり嫌がってるみたいだけど?」
「そんなの照れ隠しに決まってるじゃない。かわいいなあ、越前君はvv」
「まあいつもより眉も眉間によって口も尖らせてるところからすると、少なくともいつものように冷たくあしらう、というわけではなさそうだね」
兄貴の勝手な妄想も乾さんが理屈付けると正論に聞こえてくるな。今回は本当にそうかもしれないけど。
「ではとりあえず、カウント1−0。菊丸リードで・・・・・・」
「あ、ちょっとタイム」
「―――何だ越前」
「さっきの・・・ありなんスよねえ?」
いまいちよくわからない言葉。越前の奴、何が言いたいんだ?
「だったら・・・・・・、俺もやっていいんスよねえ?」
ああなるほどな。目には目を、ってか。
「へ〜、けどおチビに俺を脅せる材料があるとは思えないけど?」
「やってみなきゃわからないでしょ?」
ふっふっふ・・・ってなんか怖いんだけど。絶対2人とも兄貴に変な影響受けたって!!
「じゃあありという事で。Go!!」
速攻。
この言葉は今の越前のためにあるような気がした。
―――つーかまだ1球目でもないだろ?
「そーいう英二先輩こそ今日の昼休み部室で大石先輩とキスしてたでしょ!?」
「に゙ゃ!? にゃんでおチビがそれを!?」
乾さんが放ったトップスピン気味の球にいきなりスライディングし、半面コートの右隅にドライブBを決める。真っ赤になって慌てふためく菊丸さんはもちろん取れなかった。
振り上げたラケットを菊丸さんに向け、さらに不敵な笑みを浮かべて一言。
「しかも切り出しがさくらんぼのヘタ。『さすがバカップルだねえ』って不二先輩も笑ってたっスよ」
「げっ! 不二まで見てたの!?」
「うん。越前君とお昼を食べ終わった後、テニスでもしようかって一緒に部室に向かってたからね。なかなかに微笑ましかったからそのまま見てたけど?」
見てるなよ。っていうか越前、止めてやれよ・・・・・・。
「あ、あれはそもそもデザートにさくらんぼ入れてきた姉ちゃんのせいで・・・!!」
「けどどうせ始めたのは英二でしょ?
『ねー大石―、さくらんぼのヘタ口の中で上手に結べる奴ってキスが上手いらしいよ』とか言って」
「ゔ・・・! っていうかおチビも不二もどっから見てたのさ・・・!!」
「部室の入り口から」
「じゃなくて、どのへんから―――」
「大石がヘタ口に入れたあたりから。けどさすが大石だね。そんな遊びに付き合ってあげるなんて」
それは言える。俺ならアホらしくて付き合えねえ。
「そーいえば英二先輩不器用っスねー。俺でも結べるっスよ?」
「うるさいにゃ〜!! 手でだったら絶対結べるのに〜〜!!」
手でだったらむしろ結べない奴の方が問題だと思うけど・・・。
「何だ菊丸結べないのか。ちなみに大石は?」
「ああ、結べてたよ」
「何秒で?」
「そうだね・・・・・・。10秒くらいかな?」
「やはり不二の記録には勝てないか・・・・・・」
「不二の記録・・・ってどの位?」
「自己申告では平均3秒だな。ちなみに越前は最高で5秒だそうだ」
「―――にゃんのためにそんなモン集めてる訳?」
「さっき越前も言ってたあの噂話は本当なのか試そうと思ってね。とりあえず河村・海堂・桃、それに不二と越前のデータは取った。河村・桃はダメだったが海堂は予想以上だった。今のところ不二・越前に続いて第3位だ。あと手塚のタイムが加わるとより完璧になるけどね」
「ああ手塚ならそういうの苦手だから、取ってもあんまり意味ないんじゃないかな」
「・・・・・・なんで知ってるんスか?」
「前それでからかった経験があるから。
本気で笑えたよ。だってあの手塚が口モゴモゴさせて散々頑張ったあげく出来ないんだもの。しかもヘタなくなるまで頑張ったし。おかげで舌切ったみたいだし」
「手塚先輩が・・・・・・?」
「俺並にぶきっちょ・・・・・・?」
あはははははははは!!! ・・・・・・って本人いんのにそんな遠慮なく笑っていいのか? 堪えてる奴多いけど。
「わ、笑える〜〜〜〜〜〜!!」
「ひは・・・ハラいた〜〜〜!!!」
コートにうずくまって笑いこける2人。
「そうか。それはいいデータだ」
乾さんはやっぱり冷静にデータを取ってた。
―――で、2人の笑いが収まるのを待って、
「後は照らし合わせだな。官能検査は正確な結果が得られにくいけどまあ仕方ないか。
―――菊丸、それに越前。大石・不二のキスは上手いと思うか?」
「え、えええええええ!!? ここで答えんの!?」
「っていうか大体なんで俺に聞くんスか!?」
「やだなあ越前君、君以外に誰が答えるのさ?」
「む、昔付き合ってた女にとか・・・!!」
「残念。僕好きな人以外にあんまり触れない主義なんだよね。体は繋げてもキスはした事ないよ」
・・・・・・体より口が大事って、どういう主義なんだ・・・?
「じゃ・・・じゃあ身内がいるんだしそっちに聞いたらいいじゃん!!」
そう言って下げていたラケットを今度は俺に―――って俺に話振るなよ!! 知んねーよ!! 兄貴のキスの上手さなんて!!
真っ赤になって首ブンブン振る俺。うわ・・・・・・。すっげー注目浴びてるし。
「いくら家族だってせいぜいライトキスまででしょ? ね? 越前君」
「そ、そりゃまあ・・・・・・」
納得できんのか今ので・・・。そーいや越前は帰国子女だとか言ってたっけ。
「にゃんだ〜。不二の裕太溺愛振りならキス位いくらでもしてるって思ってたのににゃ〜・・・」
「う〜ん。やりたかったんだけどねえ。裕太口の中に物入れると問答無用で噛むから」
―――よかった。その癖のおかげでキスされずに済んだのか・・・・・・。
とりあえず俺は助かったと胸を撫で下ろした。
「という訳で乾の質問に答えられるのが越前君しかいないんだけど?」
「よかったね〜おチビ! 今ので不二が本気だってわかったじゃん!!」
「な・・・・・・//////!!!」
耳まで赤くして越前が俯く。ボソボソ口を動かすその様は確かに可愛いと思う。さっきからの兄貴たちの話が良くわかる。
「あ〜v おチビ可愛い〜〜〜vvv」
「うんホント可愛いねvv ―――けどもちろん英二は取らないよねvv」
「・・・・・・当り前じゃん」
「・・・・・・今の返事の遅さが気になるんだけど」
「そ、それに俺には大石がいるし!!」
「それが最初の理由にならない辺りがさらに気になるんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・」
最初の理由、というか1番の理由はもちろん―――以下略。万が一これが兄貴に読まれると俺が殺されかねねーし。
「どうやら越前は答えにくいようだね。じゃあ菊丸は?」
「に゙ゃ!!!」
乾さんの質問に越前に続いて菊丸さんも真っ赤になって俯いた。そりゃまあ答えにくいよなあ・・・・・・。
そんな2人を5秒くらい観察して―――珍しくため息をついて乾さんは矛先を変えた。
「じゃあ逆の質問をしよう。不二・大石、この2人のキスは上手いと思うか?」
「は、はあ!?」
「う〜ん、上手いと思うよ。
とはいっても他に知らないから基準はよくわからないけど、とりあえず気持ちいいかどうかって聞かれたら気持ちいいし。まあ越前君からはあんまりしてくれないけどね」
今更確認するまでも無いと思うけど、やっぱり赤くなって詰まったのが大石さん。それで―――
―――ためらいもなく公衆の面前で答えてくれたのが兄貴。しかも顎に手を当ててちゃんと考えてるし。
「なる程。ちなみに不二は自分は上手いと思うか?」
「自画自賛させたいの? それとも少しは謙遜しろって意味?」
「客観的に見て、どっちだと思うんだ?」
「越前君の反応からはなんとも言い難いね。彼すごい敏感だから。
まあさっきの基準で行けば上手い方じゃない?」
「結局は自画自賛か・・・・・・」
「ふふ。遠慮してちゃ勝ち抜けないからね」
「・・・。まあだから越前もお前を選んだんだろうけどな」
「『強気と本気、やる気に無敵』ってね」
「・・・・・・なんなんだ、それは?」
「さあ? この間テレビでなんかそう言ってたようだから」
「お前が言うと違う意味に聞こえてくるな、それこそ『本気』で。ところで『やる気』のところ、どういう漢字を当てはめたんだ?」
「なんだと思う?」
「・・・・・・・・・・・・回答は拒否しておくよ」
は〜、まあこういう兄貴だって事を知らなかったわけじゃないけどな。
けど今まで(とはいっても俺の知ってる限りだけどな)恋愛にはとことん淡泊だった兄貴がこういった話題を平気でするようになったとはな。それだけ『本気』って事か? 越前にははた迷惑だろうけどな。
「あ、ちなみに固まってる大石と英二の代わりに答えておくよ。
英二はキスが苦手らしいよ。ああ、あくまでするのが、ね。行為自体は大好きみたい」
「つまり菊丸はヘタ、大石は上手い、といったところか?」
「さあね。大石のはよくわからないけど英二も『気持ちいい』って言ってたし、上手いんじゃない?」
「なる程。やはり噂話は本当らしいな」
「―――ってちょっと待て不二!! 何でお前がそんな事知ってる!?」
「この間英二に実地でレクチャー頼まれたからv」
「にゃ〜!! 不二! それは言わないって約束だったじゃん!!」
「そ、それでやったワケ!?」
どっかに行ってた3人も次々と戻ってきて兄貴に詰め寄る。そりゃ本当だったら大問題だよな。いくら兄貴と菊丸さんが親友だからって。
「やるわけないでしょ? いくら英二相手だって浮気はしたくないしね。
だから代わりにさくらんぼの話をしておいたんだけどね。そしたら英二ってば可愛いからさくらんぼどっさり買い込んじゃって。ちなみに5日前の事だけど?」
「にゃ〜〜〜〜〜〜〜/////////!!!!!」
「じゃあ今日持ってたさくらんぼって・・・・・・」
「それをお姉さんが入れてくれたんじゃない?」
「英二・・・・・・」
「だ、だって俺キスは好きだし気持ちいいって思うけど大石はどうなのかな〜って・・・。気持ちいくないんだったらやだけどどうやったらいいのかわからないし、それで・・・・・・」
指を絡めて上目遣いで菊丸さんが大石さんの事を見上げる。菊丸さんは男だけどそれでもその動作はかなり可愛い。はたから見れば初々しいカップルってとこか?
ってわけで初々しいカップル定番のいちゃいちゃ行為に2人が走り出そうとしたところで、
「不二先輩、それじゃ4日前にさくらんぼ持って俺の家に来たのって、俺にもやらせたかったからですか?」
全てをぶち壊す越前の冷めた声が響いた。まあ今の会話の流れじゃそう思うよな。
「けど僕は『そんな話もあるらしいよ?』って言っただけだし、実際にやりだしたのは越前君でしょ?」
・・・確信犯だし。しかも越前もやったのか。その割には2人の事バカにしてたような・・・・・・。
「だ、だって先輩が簡単に結ぶから!! なんか悔しいじゃん!!」
「ムキになって頑張る越前君は可愛かったよv 君にだったらいくらでも実地で教えてあげるよvv」
「いらないっス!!」
「―――ところでおチビ、おチビ達だって人の事言えにゃいじゃん」
菊丸さん立ち直り早いな〜。ってかせっかくいい所だったのに邪魔されて怒ってるって感じだな・・・・・・。
―――かと思ったらにやりと笑ってやっぱ一言。
「今日の部活前、おチビ達だって部室で何か口移しで渡してたっしょ」
うりうりと越前の頭を撫で繰り回していう菊丸さん。越前も顔を赤く・・・・・・しねーなー。
越前の口からため息が洩れる。兄貴はにこにことしっ放しだけど・・・。
「どーせ部室に入ろうとして見えたとか言うつもりなんでしょうけど―――最後まで見てたんスか?」
「最後? うんにゃ。クラスの用事あったの思い出してそっち行ったよ。けどその方が良かったんじゃにゃいの?」
「よくないっスよ。何入れられたと思ってるんスか?」
「え? ん〜っと、イイモノ?」
「唐辛子っスよ唐辛子!! しかも半端に噛まれてその上唾液ごと入れられたおかげでメチャクチャに辛かったし!! 今だに舌ビリビリするんスけど!!」
「・・・・・・・・・・・・。にゃんでそんな事したのさ?」
「だって越前君眠そうだったから眠気覚ましには丁度良いかなって思って」
「全っ然よくないっス!! 大体唐辛子噛んでんだったらもうちょっとそれらしい顔してください!! 笑顔でなんかするから普通の物だって思ったじゃないですか!!」
「ちゃんとしたじゃない。『あ、今日のは結構辛めだなv』って」
「笑って言う台詞じゃないでしょ!?」
「けど辛いのに当たるとやっぱり嬉しいし・・・・・・・・・・・・」
越前もされたのか。実は俺も同じ手で騙された経験あり(さすがに口移しじゃねーけど)。そん時入れられたのは菊の葉(生)だった。笑顔で「裕〜太、はいあ〜んv」なんてやられて6歳児に何を気付けっていうんだ? 疑いもせずおいしいモンなんだろうなって思って、こっちも笑顔で口を開けたよ。
―――それ以来俺の中で兄貴の信用度は一気に下がったけどな。
この攻撃で一番怖いのはわざとなのか本気なのかわからないって辺りだよな・・・・・・。
「あ〜なるほどな。だから越前部室で咳き込んでたのか」
俺のすぐそばのフェンスにもたれて桃城が頷く。やっぱりそういう結果になったか・・・・・・。
「つまり不二は眠気覚ましに唐辛子を食べる、と?」
「うん。あと気分転換にとか」
「という事はいつも持ち歩いてるのか?」
「大抵ね。部活の時はいつもかな?」
そんな事もデータに取る乾さん。なごやかなそことは違って、越前と菊丸さんはげっそりとしていた。
「俺前から思ってたんだけどさあ、不二の味覚と性格ってやっぱ家から来たワケ?」
「他に何があるんスか? あの家絶対なんかオカシイっスよ。俺この間上がった時3歩で変な部屋に連れて行かれそうになったし」
「それは俺も賛成。去年の秋3日間泊まりに行ったけど―――それ以来怖くて不二ん家入れないんだけど」
「その割にはよく上がってるっスよね」
「ゔ〜。だって不二に誘われたら断れないし・・・・・・。せめて何にもないようにお守りは持ってってるけど」
「効き目ないでしょ? お守り程度じゃ」
「全然。けどやっぱそうなると裕太が家出てったのって、不二の弟云々は置いとくとしてあの家に耐え切れなかったからじゃないかなあ」
「それ言えそうっスよね。裕太ってホンット普通だし」
「そーそー。ある意味不二家の神秘って裕太だと思うよ。なんであの家で12年も育って普通なワケ?」
「むしろ普通すぎて適応できなかったんスかね? 俺ルドルフ戦のとき不二先輩の弟と当たるって聞いて最初マジで怖かったんスけど。会って安心しましたよ」
「そーかも。前から不二んち行ってたけど、裕太見るたんびにそこだけ空気違ったし」
何か気の毒そうな目で2人に見られてるんだけど。今俺に発言権ってあんのか・・・?
・・・・・・ってか『普通』って・・・・・・喜んで良いのか? 今の2人の会話じゃ喜んで良さそうだけど、普通って言われて喜ぶのも・・・・・・。
そんなわけでフェンスに俺が突っ伏してると、
「不二・乾・菊丸・越前」
手塚さんが目を閉じて4人を呼んだ。
組んでいた手を外し、外を指差す。
「規律を乱すな。グラウンド50周。頭冷やして来い」
『・・・・・・・・・・・・』
越前と菊丸さんは固まって、乾さんは無表情でノートを閉じて、そして兄貴は―――
「大石は?」
「どう見てもお前たちの方に原因があるだろ?」
「喧嘩両成敗の手塚にしては珍しい決断だね。ちなみにこのような場合グラウンド70周は固いと思ってたけど?」
これを言ったのは乾さんだ。兄貴はというと、手塚さんと対戦した後と同じ笑みを浮かべて大石さんを見てた。
「逃げたね、大石?」
「・・・・・・・・・・・・。
―――やっぱ俺も走るよ、手塚・・・・・・」
「・・・・・・。そうか・・・・・・」
コートから外へ出て行く5人。それを見送って、俺は近くにまだいた桃城に尋ねてみた。
「なあ、青学の練習って・・・・・・いつもこんなモンなのか?」
「ま、こんなモンなんじゃねーの?」
ため息をつきつつ桃城が答える。何となくその意味を察して俺もため息をついた。
―――つまるところこんな面々でも全国は制覇できるわけだ。