「―――という訳で今年の体育祭だが、部活対抗リレーは個々人の総合的運動能力を比較した結果、大石・不二・菊丸・乾・河村・海堂・桃城・越前、そして俺の計9人が出場することとなった」
『はあ・・・・・・・・・・・・』
体育祭差し迫る某日の部活終了後、なぜか残された8人の返事が綺麗にハモった。
部活対抗リレー 〜寸前〜
「・・・・・・で?」
まず最初に放心状態から立ち直った不二が尋ねる。
「それは別にいいけど、順番は? もう決まってるの?」
「いや、まだだ。それをこれから決めようと思うのだが・・・・・・」
((((((((なら早くそう言え・・・・・・))))))))
心の中で誰もが呟く。危うく手塚なりの陰険な嫌がらせかと思うところだった。ただそれを伝えるためにわざわざ部活後の一時も早く帰りたい時間を束縛されて嬉しい輩はいない。
「ならどうやって決めるんだい? やっぱり実力順?」
大石も首をかしげて聞いてみる。
リレーは団体種目であるため互いの相性も関わってくる。しかもこのリレーは走順によって走る距離が変わる。それを踏まえればただ単純に実力順にはしにくいが・・・。
「とりあえず実力も考慮するが、最終的には好みの問題だ。その点に関しては竜崎先生の許可も得ている」
「つまり好きに決めていいって事?」
「・・・・・・。そういう事になるな」
なぜか目を輝かせて聞いてくる英二に返事が遅れる。だがそれを気にする事無く英二は右手を振り上げ―――
「―――じゃあ僕は越前君の次ね」
ゴン。
先に不二に台詞を取られて机に突っ伏した。
「何でですか?」
「だって他の人に渡したくないからv 越前君が僕以外の人を追いかけて何かを渡してるところなんて見たくないんだよ」
「・・・・・・馬鹿?」
斜め前45度に視線を落として大げさにため息をつく不二に、リョーマの冷めた突っ込みが入った。つまり彼は自分が先生に宿題を提出しに行くのも嫌がるのだろうか・・・?
(・・・って、この人なら本気で嫌がりそうだし)
―――怖い考えになりそうだったので止める。と、
「不二ー! なんで先言うんだよー!!」
「別にいいじゃない。予約は必要でしょ? それに少し遅れたって英二なら大丈夫だよ」
「む〜!! けどやっぱ一番に言いたいじゃん!!」
「ホラ、そんな事言ってないで。早くしないと決められちゃうかもよ?」
「あー! そーだった!!
―――大石―!! 俺の前走ってーー!!!」
と大石の腕を取りだだっ子の如く甘える英二。彼の甘えには弱いのか大石が「うっ・・・!」と呻きながらも了承した。
「なら俺は海堂の前を走らせてもらおうか」
「な!? なんでそうなるんスか!!」
ノートを持ったまま眼鏡をきらりと輝かせる乾に、顔を赤くした海堂が(適切な)指摘を入れた。
「こうでもしないと決まらないからだよ。結局は走者の自主性に任せるんだろう? だったら全員希望を言っていった方が早い。重なるようなら調整すればいいわけだし」
「な・・・なるほど・・・・・・」
(((((((さすが乾・・・・・・)))))))
彼の論理的な説明に納得する海堂。そして違う意味で納得する一同。つくづく彼は自分のワガママを論理で隠すのが上手い。
「そういう事なら希望を取っていこう」
たとえそれが建前であろうが言っていることに間違いはない。そう判断した手塚はその案を採用することにした。このまま決まらず疲れた体と頭で延々と悩み続けるよりは良い―――そう判断したのだが・・・・・・。
「希望・・・って言われてもねえ・・・・・・」
「俺たちは別にどこでも・・・・・・」
自分を通すことより周りの事を第一に考える河村と大石が順に言う。そう、この方法には致命的欠陥が1つ。そもそもの『希望』がなければ決められないのだ。
―――が、その心配は無用だった。何せこのメンバーには自己顕示欲の強い人間が揃いに揃っている。
「なら俺は英二先輩の前後は走りたくないっス」
「にゃんでだよおチビー!!!」
「抱きついてきたりしてウザそう」
ズバっと言ってのける青学ルーキー。そこに天才も同意した。
「そうだね。まあもちろん英二にそんな度胸があれば、の話だけど(にっこり)」
「ゔ〜。大石〜、おチビと不二が苛める〜!!」
「はいはい・・・・・・」
英二の敗退によってリョーマの意見は採用に決定。
「希望っスか〜。俺もどこでもいいっスよ、海堂の前後以外なら」
「あ゙? 何か言ったかてめえ」
「べっつに〜。ただお前の前後はごめんだな〜ってだけで」
「けっ! てめえの前後なんて俺もお断りだ」
桃城・海堂、2人の意見が重なり決定。
「あれ? 手塚は?」
「俺もどこでも構わないが・・・・・・」
「うん。・・・・・・あ、けどトップバッターとラストは遠慮したいかな。責任重大そうだし」
「確かに・・・・・・」
要望の少ない河村・大石の希望という事で即採用。
「・・・・・・で、手塚は?」
笑顔の不二が尋ねた。結局自分から切り出しておいて希望を述べていないのは彼1人である。このままでは決められない。
「俺か?
・・・・・・・・・・・・」
俯いて考え込む手塚に一同ため息が洩れる。
「なら手塚は余ったトコ決定ね」
「え・・・・・・?」
「それならそろそろ全員の希望も出たことだし、案をまとめてみようか」
「いや・・・・・・」
不二の発言のおかげで残りものに確定されてしまったらしい手塚。小さく抗議の声を上げてみるがあっさりと乾に無視された。
「固まった順番として越前→不二、大石→菊丸、そして俺→海堂。
次に越前と菊丸、桃と海堂は順番にしない。
後は大石と河村は2〜8番手。
―――これ以外に何かあるかい?」
「んで、手塚が余りにゃv」
「う・・・・・・」
自分の希望が通って余程嬉しいのか英二がハートマークを飛ばして付け加える。
「そうそう、手塚が余り」
「ぐ・・・・・・」
不二もまた体中から幸せのオーラを垂れ流して頷いた。普段ではまずない彼の喜びに満ち溢れた―――むしろ喜びが内側に納まりきっていない様子に水を差せるわけもなく、かくて手塚の順番は本人の希望を無視して強制的に決められてしまった。
「―――けどコレだけじゃ決まりそうにないっスね」
桃城が首を傾げて呟く。9人が順番を決めるならその並び順は全部で362880通り。さすがにこれだけの条件では一通りに決められない。
「その点に関してだけど、さっきも言った通り部活対抗リレーは走順によって距離が2種類に分かれる。1番・3番・5番・7番・9番の5人はグラウンド1周の200m。2番・4番・6番・8番の4人は半周の100m。人間が全力を出し切れるのはせいぜい10秒、100m程度だ。200mとなると持久力とペース配分が必要になる」
「つまり英二先輩に200mは無理って事っスか?」
「―――ってどーいう意味だよおチビ!!」
「別にそのまんまっスけど」
しれっと答えるリョーマ。対する英二はかなり恐ろしい形相でリョーマを睨みつけてはいるが、自覚があるためだろう、かろうじて言葉にはせずにいた。
「まあ他にも色々と言えるけどね。
とりあえず今年度のスポーツテストの結果があるから、これを参考に誰がどちらを走るか決めよう」
そう言って―――乾が取り出したのはスポーツテストの診断書ではなく例の如くデータノート。まあどうせ体育委員にでも掛け合ってデータの提供を要求したのであろうが。
「へえ、どれ?」
「これだ。まあその後各自の体力は上がっただろうけどとりあえず基準にはなる」
「・・・・・・その台詞、実は自分の結果の低さを誤魔化すため言ってたりしない?」
「・・・気のせいだろ?」
「まあそう思っておいてあげるよ。返事が少し遅れたようだけどね」
くすりと笑う不二からは視線を逸らし(とはいっても眼鏡に隠れて見えないだろうが)、乾は全員に見えるようにノートを机の上に広げた。
「これだ。詳しいデータは企業秘密だから載せてないけど、上に書いてあるのが順番だ」
1 2 3 4 5 6 7 8 9 瞬発力
(100m)反復横跳び リョーマ 英二 手塚 不二 桃 大石 海堂 河村 乾 50m走 リョーマ 桃 手塚 英二 海堂 不二 大石 乾 河村 持久力
(200m)シャトルラン 海堂 桃 手塚 英二 リョーマ 不二 大石 河村 乾 持久走 手塚 不二 リョーマ 海堂 桃 英二 大石 乾 河村
『・・・・・・・・・・・・』
「な〜んか・・・・・・」
「微妙に、参考になりそうにないっスね・・・・・・・・・・・・」
似たようなものを競い合うはずなのに何故こうも結果にばらつきがあるのか。あくまで順位のみなので細かく見ればそこまでのばらつきはないのかもしれないが、これでは・・・・・・。
「ああ、けど一応決まりそうな人もいるみたいだね。越前君は間違いなく100m。英二も100mじゃないかな。後は海堂が200m担当」
「それなら更に3人決定だね」
「そうなんスか?」
桃城と同様、数学、特にパズル系統が得意な河村の言葉にリョーマが首を傾げた。
「ホラ。希望からすると越前→不二、大石→英二、乾→海堂だろ? で、リレーは交互に100mと200mを走るわけだから、越前と英二が100m、海堂が200mとすると不二・大石は200m、乾は100mになる」
「ならこれで6人が決定。残りは手塚・河村・桃城で100m1人、200m2人だな」
そう言いノートの1ページに書き込んでいた乾の手が―――ぱたりと止まった。
彼の行為に疑問符を浮かべかけ・・・・・・
全員がそれに気付く。
(((((((((決まらない・・・・・・・・・・・・)))))))))
残った3人の結果には大きなばらつきがない。強いて挙げれば手塚は200m担当となるが、決して瞬発力の結果が悪い訳ではない。桃城・河村に至っては完全に同じである。
「あ・・・」
完全に手詰まりかと全員が思ったところで、ふと不二が顎に当てていた手を離し顔を上げた。
「200m5人、100m4人って事は、トップバッターもアンカーも200mになるんだよねえ?」
その言葉を受け乾の持つシャーペンが再び動き出した。
「なるほど。つまり現時点で200m走者は不二・大石・海堂、そして手塚・桃城・河村の内2人。
だが最初に決めた走順からすると不二・海堂がトップバッターになることは不可能だ。同じ理由で大石のアンカーも。
そして河村・大石はどちらも辞退している。
となるとトップバッターは手塚・桃城、アンカーは不二・海堂・手塚・桃城から決めなければならない」
「ト、トップバッターなんてそんな責任重大なこと2年の俺ができるわけありませんよ!!」
「そうっスよ! アンカーなんて一番重要じゃないっスか! ぜひ先輩がやるべきです!!」
普段気の合わない2年2人がぴったり同じことを言ってくる。
一瞬驚いたように目を見開いた不二だったが、軽く肩を竦めて苦笑した。
「―――だってさ。手塚」
「ああ、まあそう言うのなら俺はトップバッターで構わんが・・・・・・」
「なら僕がアンカーね」
「これで手塚も200mに決定。後は桃と河村だな」
と、今まで話の半分も理解出来ず置いてけぼりを食らっていたリョーマが尋ねてみた。
「ところで、そのリレーって、バトンどうするんスか?」
「ああ、そう言えば越前は初めてだから知らないか。各部活を代表するものなら何でも使っていいんだよ」
けどそれがどうかしたのかい? と訊いてくる大石ににやりと笑う。
「別に。ただそれなら河村先輩に爆走させたら楽だろうな〜って思っただけっスよ」
『・・・・・・・・・・・・』
沈黙が落ちる。その時ほぼ全員の脳裏に描き出されていたものは・・・・・・
「河村。100m決定」
「タカさん、頑張ってね」
「バーニングでぶっちぎりにゃv」
―――まあこんなものだった。
「じゃあ俺が200mっスね! まかしてください! ちゃんと走りきりますから!!」
「おう! まかしたぞ、桃ちん!」
明るく盛り上がる一方で―――
「なんだか余計に解らなくなってきてないっスか?」
乾の書いていたノートを見下ろしながら海堂が眉をひそめた。先ほどから散々に言い合ったおかげでノートはかなり黒ずんでいる。
「いや、けどこれで整理すれば少なくとも何パターンかに絞れるだろう」
「だといいんスけどね・・・・・・」
そんな海堂の控えめな期待を背負って、乾のやる気が3割ほど増した。やはり覗き込んでいた不二・大石・河村、そして手塚と走順を決めていく。
「まず200m走者が手塚・大石・不二・海堂・桃城。100m走者が河村・菊丸・俺・越前だ」
200m:手塚・大石・不二・海堂・桃城 100m:河村・菊丸・乾・越前
「で、トップバッターは手塚に決まりだね」
「あとアンカーが僕で、8番手が越前君v」
手塚 → → → → → → → 越前 → 不二
「それに大石から英二、乾から海堂、だよね」
「あと海堂と桃城、菊丸と越前は前後にならないようにだったな」
「けどそれは心配ないんじゃない? お互い同じ距離になったし、それなら前後になる事はないでしょ」
手塚 → → → → → → → 越前 → 不二
( 乾 → 海堂 大石 → 菊丸 )
「2番は100mだから俺か河村かか・・・」
「ならその次はこうなって・・・・・・」
手塚 → 乾 → 海堂 → 河村 → 大石 → 菊丸 → 桃城 → 越前 → 不二 河村 → 大石 → 菊丸 → 桃城 → 乾 → 海堂
『・・・・・・・・・・・・』
「どっちにしようか・・・?」
「とりあえず、どちらを選んでも問題はなさそうだが・・・・・・」
「ラスト近辺での逆転を狙うなら上のほうじゃない? 英二に桃に越前君とくればかなり強力なんじゃないかなあ? この3人ならチームワークにもさして問題はなさそうだし」
「じゃあ上のほうで決定、と。反対意見はあるかい?」
新しくページをめくって乾が正式な走順を書き込む。結局反対意見も特になく、無事リレーの走順は決まったのだった。
部活対抗リレー正式走順
手塚 → 乾 → 海堂 → 河村 → 大石 → 菊丸 → 桃城 → 越前 → 不二
これで後は本番を待つだけとなった・・・・・・。
元裏へのクイズ、テニプリverの答えはここに書いてあるとおりなんですが、これ一通りに絞るのは苦労しました。スポーツテストの結果が予想外のもの含んでたり、こじつけに苦労したり。あと出来たと思ったら乾先輩と海堂の色分け間違ったおかげでせっかく1通りにまとまっていたのに2通りになっちゃったり。 とまあ愚痴はこんなものにしておいて、皆さんあのクイズはどう解くのでしょうか? 当てずっぽうでも当たるし、先にこの話読むかもしれないし。む〜。多分どっちかでしょうねえ。けどまあ解いてくださった方、問題読んだのち当てずっぽうで当てた方、とりあえずあの問題の過程にはこのようなことがありました。 はてさて、本番ではどうなるんでしょう? もちろんこのままでは終わりませんよ。ぐふふ(って私は朋ちゃんかい・・・)。 2002.11.4〜5(またも夜書いてたら日付変わっちゃいましたよ・・・・・・) |