「あれ?」
 これまた部活のない今度は休日の昼下がり、最初にそれを発見したのはリョーマだった。
 「どうした? 越前」
 「アレ・・・・・・」
 たまたま街で合流し、なんとなく一緒にいる手塚の問いかけに、ほとんど説明0でそれを指差す。
 それは、目の前でガードレールに腰をかけ、何かを待っている少女だった。
 「・・・・・・・・・・・・普通の少女、に、見えるが」
 手塚の呟き通り、そこにいたのは普通の美少女だった。碧い瞳で茶色の髪を腰まで伸ばし、急に暑くなってきた最近の気候に対応した七分丈のポロシャツにミニスカート。大人びて見えるが、推定中学生〜高校生といったところだろう。
 「で、それがどうした?」
 ひとしきり観察して、やはりリョーマがわざわざ驚いた理由がわからず手塚が聞き返した。それに対するリョーマの答えは―――
 「あれ、不二先輩に似てないっスか?」
 「何・・・・・・?」











The Secret makes Woman Woman ?

〜2〜









 いちおう自然に見えるように、間違っても左手と左足を一緒に出さないように、そんな事を注意しながら2人は謎の(いや普通のだが)少女へと歩み寄っていった。
 通り過ぎようかそれとも止まって声をかけようか悩・・・・・・むまでもなく、
 「あれ?」
 先に声をかけてきたのは少女の方だった。
 「ねえ、君たち・・・・・・」
 「む・・・?」
 「は・・・?」
 不二にしてはいやに他人行儀な呼び方。確かに他人に対してはそう呼ぶだろうが、自分達と彼なら、通常名前を呼んでくるだろうに。
 だが少女(仮定不二)は2人の疑問を綺麗に無視して、ガードレールから立ち上がり歩み寄ってきた。
 2人の前に立つ。印象として背が高い。ヒールを履いた状態で手塚より5・6
cm程下な程度。リョーマに至っては他の先輩に対してと同様、首を傾け見上げるハメとなっている。レギュラーの中でも不二とは最も身長の近いリョーマとしては相当ショックだろう。『そうか、俺もヒール履けばいいんだ・・・!』なんていう何の根本的解決にもなっていない決意をしているのは見た目に明らかだった。
 「君たち、もしかして手塚君と越前君?」
 「何・・・・・・?」
 「はい・・・・・・?」
 2重の驚き。不二なら今更確認することでもなく、しかしながら全くの他人ならば自分達の名前を知っているワケはなくて。
 こちらはこちらで少女の質問に全然答えていない2人。恐ろしいまでにすれ違っていながらも、それでも会話は進んでいった。
 驚きに気付いた少女が、クスクスと笑う。そんな動作も不二によく似ていて・・・・・・。
 「ああ、いきなりでごめんなさい。ボクは周。周助―――不二周助の双子の妹」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 知らされた衝撃的すぎる事実に、2人は何も言う事が出来なかった。
 「君たちの事は周助からよく聞いてるよ。ありきたりだけど、兄がいつもお世話になっています」
 「ああ、こちらこそ・・・・・・」
 「先輩には、お世話になってます・・・・・・」
 丁寧に頭を下げてくる少女に、手塚とリョーマも合わせて頭を下げ―――
 「いも、うと・・・・・・?」
 「しかも、ふたごの・・・・・・?」
 ようやく、少女―――不二周の説明が脳に浸透していく。
 浸透して・・・・・・
 「あの不二に妹がいただと!?」
 「聞いてないっスよンな事!!」
 極めて珍しく、顔の造形を崩して叫ぶ2人に、周がプッと噴出した。
 口を押さえ、顔を赤くして笑いを堪え。
 不二と同じその様に、2人もとりあえず驚きを収めいつものクールな自分に戻る。・・・・・・ちょっぴりこちらも顔が赤いが。
 「で、君は不二の妹だと・・・?」
 「んじゃ俺たちの事ってやっぱ先輩から・・・?」
 問う2人に、なおもひとしきり痙攣してから少女が涙目の顔を上げた。
 「ご、ごめんなさい・・・! 面白くって・・・・・・。
  うん。2人の事は周助に聞いて。2人ともいつも仏頂面で無愛想だって聞いてたからつい・・・・・・あ、ごめん」
 「いや、それはいいのだが・・・・・・」
 「てゆーか不二先輩、どういう説明してんスかね・・・・・・」
 しまった失言だった、とばかりに先ほどまでとは違う意味で口を押さえる周。『仏頂面かつ無愛想』で応える手塚。リョーマはため息をつき―――
 ―――上げた左手を少女の胸元に当てた。
 「え・・・? ちょ、ちょ、っと・・・・・・」
 「え、越前・・・//!?」
 いきなりの動作(それもかなり失礼な部類のというか犯罪行為の)に少女がとまどい、手塚が目を見開いて驚きの声を上げた。
 微妙に赤い手塚に対し、リョーマは冷静そのものでさらに何度か手触りを確かめるように掴み・・・・・・。
 「な〜んだ。また不二先輩のくだらないからかいかと思ったけど、本物だったんだ」
 「だから最初っから言ってるじゃない」
 どうやらパットではないか確認するために触ったらしい。一切悪びれもせずしれっと言うリョーマに周も苦笑するだけで。
 「おい越前―――!!」
 ようやっと我に返った手塚が注意する―――よりも。
 「オイそこ!! 何やってやがる!!」
 前からの注意の方が早かった。
 一言怒鳴り、剣幕を露にし、それでありながら悠然と歩いてくる辺りそれだけでもう本人の紹介は一切なくてよさそうだ。
 「跡部・・・・・・」
 「跡部、さん・・・・・・?」
 一言怒鳴り以下略の跡部に、手塚とリョーマが本日何度目かきょとんとする(見た目ではわかりづらいが)。
 そして―――
 「あ、景。ちょうどよかった。こちら青学の―――」
 「俺が知らねえとでも思ってんのか!!」
 「え? だって今もの凄く他人行儀的な呼びかけ方しなかった? しかもボクにまで」
 「そりゃただ見えなかったからだけだろーが」
 「あれ? 景遠目はいい方でしょ?」
 「ああ? 何だその言い方は」
 「だって近くは見えないでしょ? もうトシなん―――」
 「言っとくが老眼じゃねえからな」
 「ちっ・・・・・・」
 「おい・・・・・・」
 乱入してきた跡部と周の会話に一応決着がついたところで、
 「ところで跡部、そちらは不二の妹だといっていたが・・・・・・」
 「なんでアンタが知ってんのさ」
 「ああ、コイツか?」
 跡部は目線だけで指し、自分にまとわりつく周の頭を押さえ、2人に見えやすいように差し出した。
 「コイツは氷帝[ウチ]の生徒だ。そういう知り合いだ」
 「ってちょっとそれだけ!?」
 「他に何があんだよ?」
 「だから! 恋人同士だとか愛しい人だとか切っても切れない関係とか大切な存在だとかは!?」
 「・・・・・・・・・・・・らしいぞ」
 「そういうまとめ方はしない!!」
 「いーじゃねえか今お前が言ったんだから」
 「ちゃんと景から言わなきゃ意味ないじゃないか!! みんなが思うより遥かに深い関係だとか言葉通りの一心『同体』だとか―――」
 がん!
 「痛っ・・・!」
 「そういう露骨な言い方すんじゃねえ!!」
 「・・・・・・あくまで否定しないんだ」
 (普段フェミニストで通しているらしい)跡部の暴力とボロクソの扱いに最早言葉もない手塚に代わり、リョーマが突っ込みを入れる。
 「で!? なんでコイツらと話してやがる?」
 どこどこ機嫌が下降していく跡部に対し、周は頭を押さえながらも普通に答えてきた。
 「たまたますれ違って。せっかく周助の部活仲間なんだし話してみたいな〜って思って―――」
 ごん!
 「だから痛いって・・・・・・」
 「そういう事考えてんじゃねえ」
 「だってこの間菊丸君たちがボクの事聞いてすっごく驚いてたって言ってたし、裕太と姉さんだけ知り合いってなんかズルくない?」
 「いいじゃねえか別に。ンなに知り合い増やさねえでも」
 「何? 増やされるとムカつく? それってヤキモチ―――」
 ごすっ!!
 3発目の頭への打撃でようやく口を閉じた(というか気を失った)周を引きずり、
 「じゃあ手塚、越前。またな」
 それだけ言い残すと、跡部は来た時同様悠然と立ち去っていった。
 声を掛ける事も出来ず、人込みへと消えていく2人を見送り―――
 「不二の双子の妹が氷帝生でしかも跡部の恋人だと・・・・・・?」
 「狭いっスね、世の中・・・・・・」
 なおも呆然とした後、2人はそう呟いていた。







・     ・     ・     ・     ・








 人込みから、さらに物陰へと移動し・・・・・・。
 「う・・・、ん・・・・・・」
 「言え。他に2人にやられた事ぁねえのか?」
 気が付くなり壁に押し付けられた周は、先ほどリョーマにやられたのと同じ事を、それ以上に激しくして跡部にされていた。
 その行為と、さらに2人の前での余裕の態度はどこへやら、嫉妬の炎で鈍く輝く瞳に。
 快感で力の抜けた体を、脚の間に差し入れていた脚で支えられた。
 腿を挟み込み、上半身を前へと進める。首に手を絡め、完全に跡部に体を預け。
 「それってその時点からもう見てたって事?」
 周もまた、眉間に寄りそうにない皺は諦め代わりに唇を尖らせた。
 『だったら何ですぐ来てくれなかったのさ!?』如実にそう物語る瞳。可愛い嫉妬ぶりにようやく跡部の機嫌が上昇する。
 「仕方ねえだろ? 遠かったんだからよ」
 「え? 遠かったの? だってさっき『見えなかった』って・・・」
 「人影で見えなかっただけだ。てめぇは遠視を何だと思ってやがる・・・?」
 「あれ? でもそれじゃあ何されてたかもわからないんじゃ・・・・・・。特に越前小さいし」
 本人が聞いたら激怒する事間違いなしの台詞を平然と吐く周に、跡部は軽くため息をつき、
 「お前が何されてるか位顔見りゃすぐわかる」
 「だから顔は―――」
 「されてる事わかった時点でやってるヤツの顔なんて見る必要ねえだろ?」
 あっさりとそう言い切る。
 そんな跡部に。
 周はいつもどおりクスクスと薄く、しかしながら先ほど手塚とリョーマが見たような可愛らしい笑みではなく、剣呑に、そして本当に嬉しそうに微笑んでみせた。
 腕をさらに絡め、顔を近付け、
 「じゃあ次からは見たらすぐ来ようね。もっと凄い事されるかもしれないよ?」
 「ああ。全くだな」
 深く頷き、跡部もまた周へと顔を近付けていった。



―――












・     ・     ・     ・     ・


 はい、2です。なぜか続きました。今度は手塚とリョーマにて。そしてそろそろ裏に回すべきか悩み始めました。・・・ってこのレベルで裏行きかい。しかしこのまま続くと確実に行くところ行きそうです。そろそろ青学メンバー以外もかなあ・・・?
 以上、そんな事を考える前に続くのかよそもそも・・・とツッコミを入れたいあとがきでした。

2004.4.23