「あれ?」
 またしても部活のない昼下がり(これだとまるで青学は部活休みが多いような気もするが、過酷な運動部であろうと基本的に週1回以上は休みにするだろう)、今回それを発見したのは大石だった。
 「んにゃ? どったの大石」
 「いや、あれ・・・・・・」
 大石の指差すほうを、一緒にいた英二も見る。そこにいたのは件の少女。最早説明の必要もなさそうだが、本日は半そでのポロシャツに七分丈のジーパン、そしてミュールといった格好だった。
 「ああ・・・・・・」
 前回の遭遇と不二の解説で、彼女が不二の双子の妹の周であることは知っていた英二が、「うっわ〜。大石、見てわかんだ〜。すっごいね〜」などと続けようとしたところで―――
 「あれ、千石じゃないか?」
 「はい・・・・・・?」











The Secret makes Woman Woman ?

〜3〜









 この日、こちらも部活がなかった(と激しく主張)山吹。こんなラッキーデーを逃してなるものかと、千石は朝の占いどおり、ラッキーな方角たる北西にある商店街へと足を運んでいた。
 「か〜わい〜い子〜はい〜ない〜かな〜♪
  ・・・・・・と」
 歌というよりリズムをつけただけの言葉を切る。前方に見える『可愛い子』を捉え。
 「いたいた、め〜っけ」
 腰まで届くサラサラの綺麗な茶髪。スタイル抜群の体にほっそりと締まった四肢。後ろ向きのため顔はわからないが、後姿だけで満点どころか
120点。自分の中での可愛い子ランキングトップをあっさり塗り替える存在に、千石は握り拳を作った。
 (こりゃもー
GetするっきゃないっっていうかGet決定っしょ!!)
 しかしもちろんそんな燃える雰囲気は一切出さず(出していたら痴漢か強姦魔として警察に突き出されてもおかしくないため)、軽い雰囲気で軽く近付く。軽いノリ、軽い話題はお手のもの。さらには意外に思われがちだが一通りの教養もしっかり身についている。その手の事が趣味の子相手なら美術館巡りもクラシックコンサートも楽にこなせる。これも一重に(幼稚舎のみとはいえ)何事も学校レベルではありえないほど深く学ばさせられる氷帝のおかげだ。
 「ねえねえか〜のじょっ♪」
 最初は体に触れず呼びかけ、
 「え・・・・・・?」
 相手が振り向き、
 「げっ! 周くん!?」
 千石は、思い切り身を引いた。
 「あ、千石君・・・・・・?」
 振り向いた相手こともちろん周は、呼びかけつついきなり後じさりするという変わった行為をする知り合いをきょとんと見やった。
 それには構わず、青い顔で千石が問いを重ねる。
 「な、なんでこんなトコ・・・・・・? てゆーか、なんでそんな格好・・・・・・?」
 「ああ、今日部活休みだし。せっかくなんだからって」
 せっかく―――なんなのか。あえて聞かずとも物凄くよくわかっていた。何より、今すぐここから全力で逃げろと警告する全身が、それを教えてくれていた。
 冷や汗混じりでそれでもえへ〜っと笑みを浮かべ、
 「そ、そっか〜。じゃ、じゃあ俺はこれ以上邪魔しちゃ悪いし〜・・・・・・
  ―――そんじゃ!」
 踵を返し逃げようとした、その先に―――
 既に『それ』はいた。
 「ほおおおお・・・。
  千石、てめぇ周に声かけるだけかけといてそのまま逃げられるとでも思ったのか? アーン?」
 それ・・・滅殺決定のオーラを従え仁王立ちし、ばきぼきと指を鳴らす跡部が。
 「え、いや、あの、その・・・・・・今のは、とんだ手違いっていうかちょっとした誤解っていうかだからそのそんなワケで・・・・・・ダメ?」
 「ダメだな」
 即答。
 「ぎゃあああああああああ!!!!!!」
 どすごげしがすがすばぎしっ!!!





 さてその間何があったのかはともかくとして、2人の去っていった後、倒れたままぴくぴくするだけで一切動かない千石が心配になった大石と英二は彼の元へと駆け寄っていった。
 「おい千石! 大丈夫か!?」
 「うっわ〜。そーとー手酷くやられたね〜。
  まあ・・・・・・あの跡部の彼女に声かけちゃったんだし、この位は当然か・・・・・・」
 揺すっても意識を戻さない千石に焦る大石を他所に、英二がしみじみと呟く。跡部の彼女可愛がりぶりは、乾ですら遭遇初っ端で『ベタ惚れ』と断言したことからも相当のレベルだろう。なおかつあの自分最高俺様万歳な跡部だ。自分の所有物を取られた怒りは計り知れない。
 が、もちろんそんな事は前回一緒にいなかった大石は知るわけもなく。
 「え? 英二、あの女の子知ってるのか?」
 「え? 大石、知ってるから声あげたんじゃないの?」
 訊いてみる。と、なぜか逆に驚かれた。
 「知るわけないだろう? ただ俺はああ千石がいるな。山吹も部活ないのかな? って声あげただけだし」
 「そっちかよ・・・・・・」
 はっきりきっぱりどうでもいい方に関しての驚きに、英二がため息をついて説明した。
 「跡部の彼女だって。しかも不二の双子の妹」
 「はあ!? 不二の妹!?」
 「そ。だから顔とか似てたっしょ?」
 「いや・・・。あんまりよく見てなかったから・・・・・・」
 「あ、そう・・・・・・」
 おとぼけ万歳の大石にさらにため息を深くし、
 「でもやっぱ大石も知らなかったんだ。この間会った時桃と乾もいたんだけどさ、やっぱ誰もそんなの知らなくって」
 「そりゃ知らないさ。知ってたらとっくに話題に出してるだろ? 現に裕太君や由美子さんのことは普通に話題になってるじゃないか」
 「そーなんだよね。だからホントに不二に双子の妹なんているのか、って不思議になってて―――」
 「―――あ、ちょっと待て英二」
 なおも不二の妹虚像疑惑を続けようとする英二を遮り、大石が声を上げた。
 千石を指差し、
 「さっき千石、彼女の顔見てすぐに反応したよな?」
 「あ、なるほど! しかも名前も知ってたし!」
 「そういや・・・・・・その子の名前って・・・・・・?」
 「『周』だって。ホラ、余計ウソくさいっしょ?」
 「確かに・・・。双子でそんな紛らわしい名前つけないだろ。合わせるにしても普通後半の方合わせるだろうし」
 「まあ、『助』で統一するとどうやっても女の子の名前になりそうにないってのもあるかもしんないけど・・・・・・」
 というわけで、2人は貴重な情報源を丁重に―――せいぜい近くの公園まで引っ張り込み頭に水をぶっ掛け目を覚まさせる程度の狼藉しか働かず、扱った。
 「ぶはぁっ!?」
 「お、気がついたようだな」
 「ってゆーかこれは何!? 一難去ってまた一難ってヤツ!?」
 「にゃはは。大変じゃん、千石」
 「しかも否定されないし!!」
 などなどひととおりの通過儀礼をこなした後。
 「で、千石。お前さっきの女の子知ってんの?」
 「さっきの、って・・・・・・
  ―――周くんの事?」
 「やっぱり知ってるのか?」
 「そりゃ知ってるっしょ。中学は分かれちゃったけど、保育園に幼稚舎は一緒だったんだし」
 「で、やっぱあの子って・・・・・・」
 「不二の・・・、妹、なの・・・か・・・・・・?」
 ついに核心に触れる質問。自然と口が重くなり、生唾を飲み込んでみたり。
 が、
 「妹? ああ、そういえばそっか。いつも普通に一緒にいたからどっちがどっちかあんま考えてなかったや」
 千石は極めて軽く―――ナンパする時以上の軽さで答えてくれた。
 さらにパニくる2人に肩を竦め、
 「でも、その辺りのことだったら俺よりサエくんに聞いた方がいんじゃん?」
 「サエくん、って・・・」
 「六角の、佐伯・・・?」
 「そういや不二も幼馴染って言ってたよな・・・・・・」
 「そーそー、そのサエくん。元々跡部くんとサエくんと不二くんと周くんで幼馴染だったから。俺とかは後からの乱入って感じで」
 「佐伯、か・・・・・・」
 「あ、そーいや今度六角と青学[ウチ]とで練習試合ってなかったっけ?」
 「なるほど。その時聞いてみればいいのか」
 意気込む英二を見やり、大石はふと思った。
 (待てよ。今の千石の言い方って・・・・・・)
 ―――『元々跡部くんとサエくんと不二くんと周くんで幼馴染だったから』
 不二含め前3人はわかる。だがなぜ周まで『君』付けで呼ぶのか。別に女の子に『君』を付けてはいけないというわけでもないが、むしろこれだとなおさら紛らわしくないだろうか?
 「なあ千石―――」
 「ん? 何? 大石くん」
 というわけで、疑問に思ったことを尋ねた。
 と―――
 「ああ、それ?」
 なぜか照れくさそうに千石が頭を掻く。
 「実はさ、見たんなら気付いたって思うんだけど、不二くんと周くんってめちゃくちゃよく似てるんだよね。まあ今では違いも出始めたけど、俺が初めて会った頃―――保育園入学の頃なんてもーそっくりでさ。
  で・・・・・・」
 一拍置かれる間。後続けられる恐るべき一言。
 「―――実は俺、不二くんの方が女の子だってずっと思ってたんだ」
 『はい?』
 さすが黄金ペア。揃って聞き返す2人に、さらに笑って続けられる。
 「いっや〜。おかげで不二くんが男だってわかるまでずっと『周くん』って呼んでたし、わかってからも今更変えるのもな〜って思ったもんで。ホラ、他みんな『くん』付けなワケだし1人だけ『ちゃん』っていうのもねえ・・・・・・」
 微妙にオバさんくさい仕草で手をパタパタ振り続けられるイイワケ。むしろ逆に男だとわかるまでの間不二のことをどう呼んでいたのか気になってたまらないが・・・・・・。
 「ま、そんな周くんも今では立派な跡部くんの恋人。ヘタに手出すと何があるかわからないよ〜?」
 つい先ほど声をかけただけで生死の境を彷徨った男が言う。
 「いや、十分わかったけどさ・・・・・・」
 「だよな・・・・・・・・・・・・」







・     ・     ・     ・     ・








 《という感じで言っといたよ》
 「んで佐伯に振ったのかよ。また厄介な野郎に振りやがって・・・・・・」
 《まあいいじゃん。サエくん人騙すのは得意っしょ?》
 「・・・・・・・・・・・・佐伯もてめぇにだけは言われたくねえだろーな」
 《ええ? どういう事さ!》
 「なんでもねえよ。んじゃ切るぞ」
 《あ、ちょっと跡部く―――》
 ぶつっ。
 跡部はもういらない携帯をベッドに放り、
 半眼で目の前の少女を見やった。
 「おい。騒ぎがむやみに大きくなってるぞ」
 「まあいいじゃない。サエのところで止まるよ」
 しれっと言い切る少女:周に、ため息が深まる。
 「だからそうやってむやみに広げんの止めろっつってんだよ・・・・・・」
 「それこそ別にいいじゃない。それに今回広めたのはボクじゃないよ」
 「だったらこれからは外では『周助』でいろ。どこから広まるかわかったもんじゃねえ」
 「ええ〜!? それで景と手繋いだり腕組んだりしたらそれこそ大問題じゃないか!」
 「すんじゃねえそもそも!」
 「それじゃせっかくのデートの意味がないじゃないか!!」
 「ンなモン我慢しとけ! どうせ後
10ヶ月もねえだろうが!!」
 「ぶ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 まるで見本品のような『ブーイング』。頭を掻き、周の腰を抱き寄せる。
 「それとも―――
  ―――今すぐ戻ってくるか?」
 「む〜・・・・・・」
 唇が触れそうなほど、どころかお互い声を発する度掠れ合うほどの至近距離にて、周が不満顔のまま唇を突き出してきた。
 本格的に触れ合い、存分に舌まで絡め合い。
 離れたところで、周が結論を出した。
 「まあ・・・、せっかく全国大会まで勝ち残ったんだし、このままもう少し青学のみんなと頑張ってみるよ。
  ―――ああ、高校はちゃんと氷帝に戻るからね」
 「悪かったな関東で負けて!!」
 それはそれはものすごく、壮絶なまでに哀れむ目で見られ、ぶち切れた跡部が周をベッドへと押し倒した。
 「え・・・? ちょっ・・・うわわわわっ!?」
 「氷帝の事バカにしやがった罰だ。てめぇはぜってー全国に行かせねえからな」
 「って、だからってこの攻撃・・・うわちょっと本気でくすぐった―――あはははははははは!!!!!!」
 「おらおらここで笑い果てろ腹筋痛めろ!」
 「何さその怪しい呪詛は! っていうか攻撃陰険過ぎ!!」
 「ああ!? 俺様のやることに文句あるってか!? なら容赦しねえで本気でいくからな!!」
 「あちょっと宣言前からバージョンアップしてるしあはははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!
  も〜景のばかああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」



―――












・     ・     ・     ・     ・


 2で微妙な怪しさ―――もとい妖しさをかもし出したような気がしなくもないので、3は完全ギャグ路線でいってみました(こちらは断言)。でありながらそれこそそこはかとなく次〜ラストへ続く伏線が・・・・・・張られていたりしなかったり。
 そんな曖昧さ大爆発にて次へと続けさせていただきます。次来るのはもちろん話中に出てきたアノ人。4で今度こそ裏寸前の怪しさ(だから違うって)を・・・!!!

2004.4.24


 ―――そういえば千石さんの「か〜わい〜い子〜はい〜ない〜かな〜♪」。キスプリコンプリ特典のノリでどうぞv 「―――ああメンゴ。ここにいたっけね」と続けられ悶絶とかする以前に硬直しました。本気でこのゲームは腐女子しか相手にしてないな〜・・・と。